• 著者: T. Moran, J. Wei, M. Cobo, X. Qian, M. Domine, Z. Zou, I. Bover, L. Wang, M. Provencio, L. Yu, I. Chaib, C. You, B. Massuti, Y. Song, A. Vergnenegre, H. Lu, G. Lopez-Vivanco, W. Hu, G. Robinet, J. Yan, A. Insa, X. Xu, M. Majem, X. Chen, R. de las Peñas, N. Karachaliou, R. Rosell, et al.
  • Corresponding author: Rafael Rosell (Cancer Biology & Precision Medicine Program, Catalan Institute of Oncology, Hospital Germans Trias i Pujol, Badalona, Spain)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (国際多施設無作為化フェーズII/III試験)
  • PMID: 25164908

背景

シスプラチンを基盤とした化学療法は1978年以来、進行非小細胞肺がん (NSCLC) 治療の根幹であるが、未選択患者における奏効率は15〜30%、中央値生存期間は10〜12ヵ月にとどまり、大多数の患者が重篤な副作用を経験しながら限られた治療効果しか得られていない。DNA修復能に関わる分子バイオマーカーを利用した化学療法の個別化 (カスタマイゼーション) は、この課題への合理的アプローチとして研究されてきた。

ERCC1 (excision repair cross-complementing group 1) 発現に基づく化学療法カスタマイゼーションは、Coboら (2007) のSLCG (Spanish Lung Cancer Group) 主導フェーズIII試験、およびBeplerら (2013) の国際無作為化試験によって検証されたが、いずれも未選択化学療法と比較して生存ベネフィットを示せなかった。

一方、BRCA1は相同組換えDNA修復の中心的分子であり、前臨床モデルではプラチナ製剤への10〜1000倍の耐性誘導と同時にドセタキセル・パクリタキセル・ビノレルビン等の微小管作用薬への著明な感受性付与が示されており、この耐性・感受性プロファイルはQuinn et al. (2003) およびRottenberg et al. (2007) の前臨床研究で確立された。RAP80 (receptor-associated protein 80) はAbraxasを介してBRCA1と複合体を形成し、DNA二本鎖切断部位へのBRCA1リクルートおよび相同組換え修復を調節する鍵分子であることをWang et al. (2007) が示した。

SLCGが実施したフェーズII生物学的マーカー指標試験 (NCT00883480) では、BRCA1・RAP80両方を低発現する患者においてcisplatin+gemcitabine投与時の生存期間が26ヵ月超となる優れた転帰がRosell et al. (2009) によりPLoS ONE (Public Library of Science ONE) 誌に報告されていた。Bonannoら (2013) は Bonanno et al. AnnOncol 2013 でプラチナ+gemcitabineまたはpemetrexedで治療した後方視的コホートでも同一のBRCA1/RAP80低発現患者の生存中央値が到達しなかったことを確認し、予測能を独立検証した。さらに中国人患者では悪性胸水細胞でのBRCA1発現とcisplatin/docetaxel化学感受性との相関もWang et al. (2008) がBMC (BioMed Central) Cancer誌に報告していた。

しかしながら、BRCA1/RAP80組み合わせ発現に基づくカスタマイゼーションが無作為化比較試験においてPFS (progression-free survival;無増悪生存期間) を真に改善するかは未解明であり、知識のギャップ (gap in knowledge) が存在した。アジア人NSCLCでの同予測能の検証データが不足しており、大規模な無作為化試験によるエビデンスが欠けていた。この2点を検証するため、SLCG・FLCG (French Lung Cancer Group) 共同によるBREC (BRCA1-RAP80 Expression Customization) 欧州フェーズIII試験と中国のNanjing大学附属鼓楼病院を中心としたフェーズII試験 (BREC-CHINA試験) が並行して計画・実施された。

目的

BRCA1/RAP80 mRNA発現に基づく化学療法カスタマイゼーションが、未選択シスプラチン併用化学療法と比較して進行NSCLCのPFSを改善するかを欧州患者で検証すること (SLCG試験)、および同バイオマーカーの予測能が中国人患者においても成立するかを評価すること (BREC-CHINA試験)。

結果

患者登録・ベースライン特性と試験実施状況 (Table 1)

SLCG試験では1116例が適格性評価を受けたが734例が未登録だった。最多の除外理由は腫瘍検体不十分で504例 (45%) に上り、これはプロトコルで事前想定されていた。382例が無作為化されたが、データカットオフ (2012年10月15日) 時点でper-protocol集団として解析対象となったのは279例 (コントロールアーム n=142、実験アーム n=137) であった (Figure 1b)。残り103例の内訳はカットオフ直前の無作為化87例・組み入れエラー8例・治療未受領8例。ベースライン特性は性別を除いて両群間で均衡しており (性別 p=0.05、他の比較は全てp≥0.23)、年齢中央値62歳 (範囲37〜83歳)、男性81.4%、腺癌50.9%・扁平上皮癌35.5%、ECOGパフォーマンスステータス1が66.7%だった (Table 1)。サイクル数中央値は全体で4 (範囲1〜8)、二次治療実施率はコントロール51.4% vs 実験43.8% (p=0.23)。

BREC-CHINA試験では226例が評価され124例が無作為化 (コントロール n=31、実験 n=93;1:3割付;データカットオフ2013年7月10日)。年齢中央値59歳 (28〜78歳)、男性71.8%、非扁平上皮癌66.1%。全ベースライン特性は両群間で均衡しており (全p値≥0.33)、124例全例がper-protocol集団として解析対象となった (Table 1)。

SLCG試験の主要エンドポイントPFSの有害性 (Figure 2a)

per-protocol集団279例中215例が中間解析時点で増悪または死亡し、計画イベント数372件の58%に相当した。コントロールアームのPFS中央値5.49ヵ月 (95% CI: 5.08–5.91) vs 実験アーム4.38ヵ月 (95% CI: 3.27–5.48) であり、実験アームがコントロールより不良だった (log-rank p=0.07;粗HR=1.28、95% CI: 0.98–1.67、p=0.07;調整HR=1.35、95% CI: 1.02–1.78、p=0.03) (Figure 2a)。全per-protocol集団のPFS中央値は5.3ヵ月 (95% CI: 4.71–5.88) だった。

事前規定の中間解析委員会はこの有害傾向を確認し早期試験終了を勧告した。BRCA1/RAP80指標カスタマイゼーションは未選択化学療法を上回らなかったのみならず、層別化因子調整後のHRが1.35 (p=0.03) と統計学的に有意に不良な結果であり、accrualが早期終了された。これは単なる非有効性ではなく積極的な有害性に基づく試験中止であった。

実験アームGroup 3における著しい有害性 (Figure 2b)

実験アームをバイオマーカープロファイル別に3群で解析すると、Group 1 (RAP80低発現) のPFS中央値が5.43ヵ月、Group 2 (RAP80中/高発現かつBRCA1低/中発現) が5.49ヵ月であったのに対し、Group 3 (RAP80中/高発現かつBRCA1高発現→docetaxel単剤投与、n=43) は2.50ヵ月と著しく短かった (コントロールアームとの3群比較 log-rank p=0.003) (Figure 2b)。

Group 3のコントロールアームに対する調整HRは2.65 (95% CI: 1.66–4.24、p<0.001) と著明な有害性が示された。探索的解析として、同一の遺伝子発現プロファイル (RAP80中/高かつBRCA1高発現) を持つコントロールアーム患者 (n=34) と実験アームGroup 3患者 (n=43) を直接比較したところ、コントロールアーム (docetaxel+cisplatin) が実験アーム (docetaxel単剤) に対して有意に優れていた (PFS 6.38 vs 2.50ヵ月、log-rank p<0.0001、HR=2.62、p=0.001)。Group 1およびGroup 2ではコントロールとの間に有意差は認められなかった。この結果は実験アーム全体の有害性が主としてGroup 3のdocetaxel単剤投与による有害効果に起因していたことを示唆する。

全生存期間 (OS) への影響

SLCG試験のOS中央値はコントロールアーム12.66ヵ月 (95% CI: 10.07–15.26) vs 実験アーム8.52ヵ月 (95% CI: 6.41–10.63) であり、実験アームが有意に不良だった (log-rank p=0.006;粗HR=1.55、95% CI: 1.13–2.12、p=0.006;調整HR=1.85、95% CI: 1.33–2.57、p<0.001)。Group 3においてもOSの著しい有害性が確認された (調整HR=2.54、95% CI: 1.49–4.34、p=0.001)。PFSと一致した所見であり、コントロールアームがあらゆる解析サブセットで一貫して優れていた。全per-protocol集団のOS中央値は10.16ヵ月 (95% CI: 8.32–12.01) だった。

BREC-CHINA中国フェーズII試験の結果 (Figure 2c, 2d)

124例中112例が増悪または死亡した時点での解析では、コントロールアームのPFS中央値が4.74ヵ月 (95% CI: 1.97–7.5)、実験アームが3.78ヵ月 (95% CI: 2.52–5.04) であり、両群間に有意差は認めなかった (log-rank p=0.82;粗HR=0.95、p=0.82;調整HR=0.95、p=0.82) (Figure 2c)。コホート全体のPFS中央値は3.91ヵ月 (95% CI: 2.8–5.03) だった。3群別解析ではGroup 1のPFS中央値が5.59ヵ月、Group 2が3.78ヵ月、Group 3が2.73ヵ月であり (コントロールとの比較 p=0.55)、欧州試験と同様にGroup 3が最短だったが有意差は認めなかった (Figure 2d)。OS中央値はコントロール10.82ヵ月 (95% CI: 2.32–19.33) vs 実験11.74ヵ月 (95% CI: 8.06–15.43) (log-rank p=0.94;粗HR=0.98、p=0.94;調整HR=0.99、p=0.99) と差はなかった。中国試験ではSLCG試験で観察された著明な有害傾向 (Group 3でHR>2) を再現せず、全体として陰性結果にとどまった。フェーズII設計で想定されたHR=2.80の効果量は観察されなかった。

考察/結論

BREC (BRCA1-RAP80 Expression Customization) 試験は、BRCA1/RAP80 mRNA発現を指標とした化学療法カスタマイゼーションが欧州人・中国人NSCLCのいずれにおいても未選択シスプラチン併用化学療法と比較してPFSを改善しないことを示した。欧州SLCG試験では実験アームが有意に不良であり (調整HR=1.35、p=0.03)、事前規定の中間解析で早期終了となった。

既存研究と異なる知見: 本試験の否定的結果はERCC1指標試験の失敗 (Coboら2007、Beplerら2013) と軌を一にし、DNA修復バイオマーカーに基づく化学療法カスタマイゼーションが前臨床モデルから臨床試験へと translate しにくいという共通の課題を再び浮き彫りにした。SLCGフェーズII試験で観察されたBRCA1/RAP80低発現患者の良好な予後は大規模な無作為化検証では再現されず、これまでの研究における非無作為化コホートでのバイオマーカー定義の限界を示した点で、既報のフェーズII陽性シグナルとは対照的な知見となった。DNA修復能力という生物学的に理にかなった仮説でも、前臨床エビデンスの臨床的な translate には重大な障壁があることを改めて示した。

本試験の新規な知見: 最も重要な新規な観察として、RAP80中/高かつBRCA1高発現患者へのdocetaxel単剤投与 (Group 3) の著しい有害性 (調整HR=2.65、p<0.001) が本研究で初めて大規模な無作為化デザインで確認された。BRCA1高発現がタキサン感受性を誘導するという前臨床知見が臨床的には成立せず、同一プロファイル患者でもdocetaxel単剤よりdocetaxel+cisplatin併用が有意に優れていた (PFS 6.38 vs 2.50ヵ月、p<0.0001) という novel な知見が得られた。またRAP80の予測能が限定的だった背景として、BRCA1機能を制御する53BP1・RNF8・RNF168等の他のDNA損傷応答分子との相互作用が予測精度に影響している可能性が示唆される Rosell et al. Lancet 2013。Group 1・2においてもカスタマイゼーションがベネフィットをもたらさなかったことは、RAP80がBRCA1分子ネットワークの複雑な調節機構の一部に過ぎないことを示している。

臨床応用・臨床的意義: 臨床応用の観点からは、BRCA1/RAP80発現指標カスタマイゼーションを臨床実装すべきでないという明確な根拠が示された。特にGroup 3に対応するdocetaxel単剤治療は害をもたらすリスクがあり、臨床現場への導入は回避すべきである。一方で本試験は製薬企業非依存の国際的バイオマーカー指標型無作為化試験が実施可能であることを実証した proof-of-concept でもある。腫瘍検体不十分だった504例 (45%) は事前計画済みであり、集中化した遺伝子発現解析によって施設間の検体処理差を排除した点も臨床的意義がある。bench-to-bedside の困難さを示す教訓として精密医療試験の設計に活かすべき知見であり、前臨床結果の慎重な臨床的検証の重要性を強調している Bonanno et al. AnnOncol 2013

残された課題: 今後の検討として、本試験の陰性結果はBRCA1/RAP80という特定のバイオマーカーの組み合わせの限界を示すものであり、DNA修復機構全体に基づく化学療法予測という概念の全否定にはならない。BREC試験の二次エンドポイントとして53BP1・RNF8・RNF168等の代替バイオマーカーの探索が進行中であり、合成致死性 (synthetic lethality) を利用した治療アプローチへの応用も future research として期待される。limitation として、治療アームが異なるデザインでは各バイオマーカーの予測的役割と予後的役割を区別することが本質的に困難であること、SLCG試験が計画イベント数の58%時点での中間解析で終了したため最終的な検出力が制限されること、および中国人患者でのBRCA1/RAP80の予測能がエスニシティによって異なる可能性も更なる検討を要する。更なる検討により、BRCA1経路を含めたDNA修復機構の複雑性を反映した新しい予測モデルの開発が期待される。

方法

試験デザインと実施体制: SLCG試験は欧州・中東の72施設 (スペイン・フランス・ベルギー・ルクセンブルク・サウジアラビア) で2008年2月〜2013年3月に実施された国際無作為化フェーズIII試験 (NCT00617656/GECP (Spanish Lung Cancer Group)-BREC)。BREC-CHINA試験は中国14施設で2010年10月〜2013年2月に実施されたフェーズII試験 (ChiCTR [Chinese Clinical Trial Registry] 登録番号 TRC-12001860)。適格基準はステージIIIB〜IVのNSCLC、分子解析に十分な腫瘍検体の確保。無作為化はSLCG試験が1:1、中国試験が1:3で中央集権的な置換ブロック法で実施。層別化因子は組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (PS)、RAP80発現レベル、BRCA1発現レベルの4因子。腫瘍検体の分子解析に初回10日間を確保し、解析成功後に無作為化した。

治療レジメン: コントロールアームは両試験共通でdocetaxel 75 mg/m² + cisplatin 75 mg/m² day1、21日サイクル。実験アームはBRCA1・RAP80発現の組み合わせで3群に分類した: Group 1 (RAP80低発現、いずれかのBRCA1発現レベル) = gemcitabine 1250 mg/m² day1,8 + cisplatin 75 mg/m² day1;Group 2 (RAP80中/高発現かつBRCA1低/中発現) = docetaxel + cisplatin (コントロールと同レジメン);Group 3 (RAP80中/高発現かつBRCA1高発現) = docetaxel単剤。中国試験では用量をdocetaxel 60〜75 mg/m²、gemcitabine 1000 mg/m²に調整した。

分子解析: ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織からRNA抽出後、RT-PCR (reverse transcription-polymerase chain reaction) によりBRCA1・RAP80 mRNAを定量。SLCG施設ではレーザーキャプチャーマイクロダイセクションで腫瘍細胞純度90%以上を確保し、中国施設ではマクロダイセクションで80%以上を確保した。定量にはABI Prism 7900HT Sequence Detection Systemを使用した。

主要・副次エンドポイントと統計解析: 主要エンドポイントはPFS (無作為化から増悪または死亡まで)。副次エンドポイントはOS (全生存期間;overall survival)、奏効率 (RECIST v1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)、毒性 (NCI-CTCAE v3.0;National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events)。PFSとOSはKaplan-Meier法で推定し、両側log-rank検定で比較した。Cox回帰分析により粗HRおよび層別化因子調整HR (95% CI) を算出。奏効率はPearson-Clopper法で計算した。カテゴリ変数の比較には両側Fisherの正確検定またはchi-squared検定、年齢にはt検定を使用。全解析は両側5%有意水準で実施 (SPSS v19、SAS v9.2)。

SLCG試験の症例数設計: 372イベントで検出力90%、HR=1.50 (PFS 5.2ヵ月 vs 7.8ヵ月) を検出 (両側log-rank p=0.01)。15ヵ月にわたる一定登録速度と10%損失を仮定して480例が必要と算出。事前規定の中間解析は186イベント (50%) 到達時とした。中国試験は72イベントで検出力80%、HR=2.80を検出できるよう設計し (5%損失を想定)、124例が必要と算出した。