- 著者: Valerie W. Rusch, John Crowley, Dorothy J. Giroux, Peter Goldstraw, Jung-Gi Im, Masahiro Tsuboi, Ryosuke Tsuchiya, Johan Vansteenkiste (IASLC International Staging Committee)
- Corresponding author: Valerie W. Rusch (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2007
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 17607115
背景
非小細胞肺がん (NSCLC; non-small cell lung cancer) におけるリンパ節転移の正確な評価は、初期治療方針の決定において極めて重要であり、手術適応やその時期、放射線療法、全身化学療法の選択に直接的な影響を与える。1973年に肺がん病期分類が初めて導入されて以来、N記述子はN0、N1、N2、N3の4つのカテゴリーに分類され、予後予測や治療選択の基準として機能してきた。しかし、過去20年間にわたり、特定の解剖学的部位や転移リンパ節の数に基づいてN記述子をさらに細分化すべきか否かについては、多くの議論が存在した。例えば、Cahan et al. (1951) は根治的縦隔リンパ節郭清の重要性を提唱し、Naruke 1978 は詳細なリンパ節マップを用いて各ステーションの予後への影響を報告した。さらに、Mountain 1997 は UICC (Union Internationale Contre le Cancer) および AJCC (American Joint Commission on Cancer) の第5版改訂において、単一施設を中心とする5,319例のデータに基づき病期分類を再構築した。しかし、これらの先行研究は比較的少数のコホートや単一施設のデータに依存しており、国際的な多施設共同データにおける検証は不十分であった。特に、異なるリンパ節マップ (NarukeマップとMD-ATSマップ) の間で生じる分類の不一致や、リンパ節ステーションを統合した「ゾーン」概念の妥当性については未解明な部分が多く、国際的な標準化に向けたエビデンスが不足していた。このように、現行のN記述子が真に国際的な規模で妥当な予後弁別能を有しているか、あるいは予後層別化を向上させるために細分化 (N1a/b、N2a/bなど) を行うべきかという点については、依然として議論が分かれており、大規模な国際データベースを用いた検証が不可欠な課題として残されていた。特に、これまでの報告では異なるリンパ節分類基準が混在しており、国際共同研究におけるデータの統合が困難であるという課題が存在した。また、単一施設での検討では症例数が不足しており、T病期とN記述子の細分化を組み合わせた多変量解析を行うための十分なパワーが足りなかった。このため、国際的な標準化に向けた大規模な検証が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、国際肺癌学会 (IASLC; International Association for the Study of Lung Cancer) が構築した大規模な国際多施設共同データベースを用いて、非小細胞肺がん (NSCLC) における現行のN記述子 (N0、N1、N2、N3) の予後弁別能を臨床的病期分類 (cN) および病理学的病期分類 (pN) の双方において国際規模で検証することである。また、異なるリンパ節マップの差異を克服するためにリンパ節ステーションを統合した「ゾーン」概念を導入し、関与するゾーン数に基づくN記述子の細分化 (N1a、N1b、N2a、N2b) の妥当性を探索的に評価すること、そして次期第7版TNM分類改訂に向けて現行のN記述子を維持すべきか、あるいは改訂すべきかについて科学的根拠に基づいた推奨を提示することを目的とする。さらに、原発巣の解剖学的部位とリンパ節転移の分布との相関を明らかにし、日常の臨床現場における外科的切除や病期診断の精度向上に寄与する知見を提供することも目指す。
結果
臨床的N病期における明確な予後弁別能: 遠隔転移のないcM0症例全例 (n=38,265) を対象とした生存解析において、現行の臨床的N病期 (cN0、cN1、cN2、cN3) は極めて明確な予後弁別能を示した (Figure 3)。各cNカテゴリーにおける1年生存率は、cN0で 71%、cN1で 63%、cN2で 55%、cN3で 40% であり、5年生存率は cN0で 29%、cN1で 16%、cN2で 7%、cN3で 3% と段階的に低下した。cN0を対照とした多変量解析において、cN1のハザード比は HR 1.24 (95% CI 1.18-1.31, p<0.0001) であり、cN1を対照としたcN2のハザード比は HR 1.44 (95% CI 1.34-1.54, p<0.0001) と、いずれも統計学的に極めて有意な生存期間の短縮を示した。また、cN2を対照としたcN3のハザード比は HR 1.49 (95% CI 1.41-1.58, p<0.0001) であった。一方で、外科的切除が行われず非手術的に管理された症例 (n=15,451) において、生存期間中央値は cN0の 13 months vs cN3の 9 months と、病期間の生存差が著しく縮小していた。
病理学的N病期における予後層別化と臨床病期との比較: 外科的切除が施行されたcM0症例 (n=28,371) における病理学的N病期 (pN0、pN1、pN2、pN3) の解析でも、各病期間で極めて明瞭な予後層別化が確認された (Figure 4)。生存期間中央値は、pN0で 40 months、pN1で 23 months、pN2で 14 months、pN3で 9 months であった。5年生存率においては、pN0で 49%、pN1で 38%、pN2で 22%、pN3で 6% と、病期の進行に伴い生存率が著しく低下した。pN0を対照としたpN1のハザード比は HR 1.81 (95% CI 1.72-1.90, p<0.0001) であり、pN1を対照としたpN2のハザード比は HR 1.56 (95% CI 1.49-1.63, p<0.0001) と、病理学的病期分類においても高度な予後予測能が実証された。また、pN2を対照としたpN3のハザード比は HR 1.83 (95% CI 1.59-2.10, p<0.0001) であった。臨床的病期分類 (cN) と病理学的病期分類 (pN) を比較すると、pN0はcN0よりも良好な生存を示し、pN3はcN3よりも不良な生存を示したことから、病理学的評価による正確なステージングが予後予測においてより高い精度を有することが示された。
原発巣部位とリンパ節転移部位の解剖学的相関: 原発巣の解剖学的部位とリンパ節転移 (pN) の分布に関する情報が得られた2,538例の解析において、腫瘍の局在と特定のリンパ節ステーションへの転移頻度との間に強い相関が認められた (Table 1)。全症例のうち、上葉原発腫瘍 (n=1,385, 56%) は下葉原発腫瘍と比較して、N1およびN2リンパ節転移の発生頻度が最も高かった。単一のN2リンパ節ステーションのみに転移を認めた症例における解析では、右肺上葉 (RUL (right upper lobe)) 原発腫瘍においてレベル4R (右下気管周囲) への転移が 68% (191/280) と最多であった。同様に、左肺上葉 (LUL (left upper lobe)) 原発腫瘍ではレベル5または6 (大動脈肺動脈窓) への転移が 78% (195/251) を占め、右中葉、右下葉、および左下葉原発腫瘍においてはレベル7 (分岐部下) への転移が 65% (228/353) と最も高い頻度を示した。この結果は、肺の各葉におけるリンパ流の解剖学的経路を強く反映している。
リンパ節ゾーンに基づく予後解析とSkip転移の影響: 術前導入療法なしでR0切除が施行された2,876例を対象としたリンパ節ゾーンの探索的解析では、リンパ節ステーションを6つのゾーンに統合することの妥当性が検証された (Table 2)。N1病変において、末梢ゾーン (P) のみに転移を有する群と肺門ゾーン (H) のみに転移を有する群との間で生存期間に有意差は認められなかった (右側腫瘍: H only vs P only, p=0.8548; 左側腫瘍: H only vs P only, p=0.8156)。また、N2病変においても、単一ゾーン内での転移ステーションの違いによる生存差は検出されなかった。一方で、N1転移を伴わないN2転移である「skip転移」の解析では、LUL原発腫瘍において、APゾーンのみに転移を認める群 (AP+P-H- (peripheral-negative, hilar-negative)) の生存期間中央値が 44 months であったのに対し、APゾーンに加えてPゾーンおよびHゾーンにも転移を認める複数ゾーン転移群 (AP+P+H+) では 24 months と有意に不良であり、統計学的有意差が認められた (p=0.0427)。
関与ゾーン数によるN1a/bおよびN2a/b細分化の探索: 関与するリンパ節ゾーンの数に基づく予後解析において、患者群は生存期間の観点から統計学的に明確に異なる3つの予後グループに分類された (Figure 5)。具体的には、単一のN1ゾーンのみに転移を有する群 (N1a相当, n=798) の生存期間中央値は 52 months (95% CI 45-62) であった。これに対し、複数のN1ゾーンに転移を有する群 (N1b相当, n=173) の生存期間中央値は 31 months (95% CI 27-46) であり、単一のN2ゾーンのみに転移を有する群 (N2a相当, n=740) の生存期間中央値 35 months (95% CI 31-39) と互いに極めて類似した予後を示した (31 months vs 35 months)。さらに、複数のN2ゾーンに転移を有する群 (N2b相当, n=281) の生存期間中央値は 19 months (95% CI 17-23) と最も不良であった。これらの結果は、N1a (単一N1ゾーン)、N1b (複数N1ゾーン)、N2a (単一N2ゾーン)、N2b (複数N2ゾーン) という細分化の可能性を示唆するものであるが、各T病期カテゴリーと組み合わせたサブセット解析では症例数が著しく不足し、統計学的妥当性を得られなかった。
考察/結論
本研究は、NarukeマップとMD-ATSマップという異なるリンパ節地図を使用する国際データを統合したIASLCデータベースを用いて、現行のN0-N3記述子の予後弁別能が臨床的および病理学的病期分類の双方において極めて良好に維持されることを実証した最初の国際検証研究である。
先行研究との違い: Mountain 1997 による第5版および第6版TNM分類の改訂が、主に単一施設 (MDアンダーソンがんセンター) の5,319例という限定的なデータに基づいていたのとは対照的に、本研究は世界各国の多施設から収集された大規模な国際データベースを用いて現行N記述子の妥当性を検証しており、これまでの単一施設研究と大きく異なる。また、Andre 2000 などの先行研究がN2症例の細分化を提唱していたのに対し、本研究はより広範な国際コホートにおいてその再現性を検証した。
新規性: 本研究は、異なるリンパ節マップ間の不一致を解消するために、個々のリンパ節ステーションを6つの解剖学的「ゾーン」に統合するアプローチを本研究で初めて導入した。そして、関与するゾーン数に基づく予後解析により、単一ゾーンN1、複数ゾーンN1または単一N2、複数ゾーンN2という3つの予後グループを新規に同定することに成功した。
臨床応用: 本研究の知見は、日常の臨床現場における治療戦略の決定に重要な臨床的含意をもたらす。例えば、右上葉腫瘍におけるレベル4R、左上葉腫瘍におけるAPゾーン (レベル5/6) へのリンパ流経路を意識した正確なステージングは、外科的切除の適応判断や術後補助療法の計画において極めて有用である。また、複数ゾーンに転移を認める多ゾーンN2症例 (N2b相当) は予後が極めて不良であるため、手術先行治療ではなく、化学放射線療法や術前導入療法を優先するといった個別化治療への臨床応用が期待される。
残された課題: しかしながら、本研究にはいくつかのlimitationが存在する。レトロスペクティブなデータ収集に依存しているため、詳細なリンパ節サンプリングの実施状況が施設間で不均一であり、N1a/bやN2a/bといった細分化をT病期と組み合わせて統計学的に検証するにはデータが不足していた。また、解析対象となった1990年代のデータでは、現在広く用いられているPET (positron emission tomography) やCT (computed tomography) などの高精度な画像診断が普及していなかったため、臨床的病期分類の精度に限界があった。したがって、リンパ節ゾーン概念の妥当性やN記述子の細分化を正式にTNM分類に導入するためには、前向きに収集されたより詳細なデータベースを用いた検証が今後の重要な検討課題として残されている。
方法
本研究は、1990年から2000年の間に診断された100,869例の肺がん症例を含むIASLC国際データベースを対象としたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。本研究は特定の臨床試験登録番号 (NCT番号) を持つ前向き臨床試験ではなく、既存の47のデータベースから収集されたレトロスペクティブなデータを統合したものであるため、事前のサンプルサイズ設計 (sample size calculation) は行われておらず、基準を満たす全症例を解析対象とした。 抽出されたNSCLC症例67,725例のうち、遠隔転移のない症例 (cM0) で臨床的N病期情報が存在する38,265例を臨床的N病期 (cN) 分析の対象とし、外科的切除が施行された28,371例を病理学的N病期 (pN) 分析の対象とした。さらに、術前導入療法なしで完全切除 (R0 (microscopically complete) 切除) が施行され、pN病期のロジックチェックを通過した2,876例を対象として、リンパ節ゾーンに関する詳細な探索的解析を実施した。 主要評価項目 (primary endpoint) は生存期間 (overall survival) とした。生存期間の算出は、臨床的病期分類では診断日または登録日から、病理学的病期分類では手術日から起算した。 リンパ節マップの差異を調整するため、日本国内の症例は日本肺癌学会のNarukeマップ、日本国外の症例はMountain-DreslerによるATS改訂マップ (MD-ATS (Mountain-Dresler modification of the American Thoracic Society) マップ) を用いて病期分類を行った。両マップ間の最大の相違点である分岐部下リンパ節 (Narukeマップでは駅番号10のN1、MD-ATSマップではレベル7のN2) などの不一致を克服するため、14のリンパ節ステーションを以下の6つの「ゾーン」に統合した:上縦隔ゾーン (レベル1-4)、大動脈肺動脈 (AP (aortopulmonary)) ゾーン (レベル5-6)、分岐部下ゾーン (レベル7)、下縦隔ゾーン (レベル8-9)、肺門ゾーン (レベル10-11)、末梢ゾーン (レベル12-14)。 生存率の推定には Kaplan-Meier 法を用い、病期間の生存差の比較には log-rank test を用いた。また、各予後因子のハザード比 (HR) および多変量解析には Cox proportional hazards 回帰モデル (SAS System version 9.0 PHREG (proportional hazards regression) プロシージャ) を使用して統計学的有意差を検証した。