• 著者: Valerie W. Rusch, Hisao Asamura, Hirokazu Watanabe, Dorothy J. Giroux, Ramon Rami-Porta, Peter Goldstraw (IASLC Staging Committee)
  • Corresponding author: Valerie W. Rusch (Thoracic Service, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York City, NY)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19357537

背景

肺がんにおけるリンパ節転移の正確な評価は、病期分類と治療方針決定の根幹をなす要素である。過去約40年にわたり、リンパ節マップは胸腔内リンパ節の解剖学的記述子と数値レベルを用いて、リンパ節転移の臨床的および病理学的範囲を表現するツールとして国際的に使用されてきた。正確で普遍的に受け入れられる命名法は、治療成績の評価、施設間の結果比較、臨床試験の設計と解析、そして個々の患者に対する治療選択において極めて重要である。

最初のリンパ節マップは、1960年代にNarukeらによって開発され、当初は北米、欧州、日本で広く普及した。しかし、その後、Narukeマップの解剖学的記述子を洗練しようとする試みから、米国胸部学会 (ATS) マップ、さらにMountain-Dresler修正ATSマップ (MD-ATS) が開発された。MD-ATSマップは、Narukeリンパ節分類とATSによって開発されたスキームの特徴を単一のシステムに統合しようと試み、1996年の米国癌合同委員会 (AJCC) および国際対がん連合 (UICC) の予後因子TNM委員会で採用されたと報告された。その後、MD-ATSマップは北米全体で完全に受け入れられたが、欧州では散発的にしか使用されず、欧州の外科医からはさらなる改訂が提案された。一方、日本の外科医や腫瘍医は、日本肺癌学会の推奨に基づきNarukeマップの使用を継続した。

この二大マップの並立は、同一の腫瘍が異なるマップでは異なるN分類を受ける可能性があるという重大な問題を引き起こした。具体的には、Naruke分類のレベル1はMD-ATSのレベル1と2に、Naruke分類のレベル2、3、4R、4LはMD-ATSのレベル4Rと4Lにそれぞれ対応していた。しかし、最も重要な不一致は、MD-ATS分類のレベル7 (分岐部下リンパ節) がNaruke分類のレベル7と10に対応していた点である。この結果、MD-ATSマップではN2 (stage IIIA) と分類される腫瘍が、NarukeマップではN1 (stage II) と分類されるケースが生じ、治療決定、国際比較、および臨床試験の解析に深刻な問題をもたらした。実際に、Watanabeらが41症例を対象に行った研究では、日本人外科医と欧州人外科医が独立して各リンパ節ステーションを指定した際の総一致率はわずか68.5%であり、34.1%の症例で一方がN1と判定したリンパ節を他方がN2と判定していた。これは、N1とN2の分類が治療方針 (手術単独か集学的治療か) に直結するため、臨床的に重大な影響を及ぼすものであった。

1998年に設立されたIASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) 肺がん病期分類プロジェクトは、国際データベースを構築し、N記述子の解析を試みたが、NarukeとMD-ATS間の解決不能な不一致に直面した。この詳細な経緯は Rusch et al. JThoracOncol 2007 にて報告されている。この経験から、将来の前向き国際データ収集に向けた統一マップの確立が急務であることが明らかになった。既存のマップ間の命名法における不一致は、肺がん治療成績の解析を妨げ、国際的な共同研究や臨床試験の実施を困難にしていた。この知識ギャップを埋め、国際的な統一基準を確立することが、肺がんの病期分類と治療の進歩にとって不可欠であった。これまで、国際的に統一されたリンパ節マップの確立は未確立であり、この点が肺がん研究における大きな課題として残されていた。このように、従来の評価システムには明確な不足が存在し、世界的なデータ統合を阻む要因となっていた。

目的

本研究の目的は、IASLC肺がん病期分類委員会が、日本のNaruke分類と欧米のMD-ATS分類の間に存在する命名法上の不一致を解消し、全リンパ節ステーション (レベル1〜14) に精確な解剖学的定義を提供する新しいIASLC統一国際リンパ節マップを提案することである。さらに、将来の生存解析を目的としたリンパ節ゾーン分類を提案する。これにより、第7版TNM分類以降の国際前向きデータ収集のための標準基盤を構築し、肺がんの病期分類における国際的な一貫性と比較可能性を向上させることを目指す。この統一マップは、放射線科医、病理医、および肺がん患者のケアに関わる全ての臨床医にとって有用な、より正確な胸腔内リンパ節ステーションの解剖学的定義を提供することを意図している。本研究は、国際的な肺がん研究において長らく不足していた統一的なリンパ節評価基準を確立することを目的としている。

結果

IASLCが提案する新しいリンパ節マップと各リンパ節ステーションの解剖学的定義はFigure 3とTable 1に示されている。NarukeマップおよびMD-ATSマップと比較して、いくつかの顕著な変更点がある。すべてのリンパ節ステーション、特に定義の重複を避けることが重要となるレベル1から10の上縁および下縁について、簡潔かつ解剖学的に明確な記述が提供された。これにより、胸膜反転はもはやリンパ節ステーション4と10の間の境界としては機能せず、画像診断、内視鏡検査、および手術でより確実に識別できる解剖学的ランドマークによって定義されるようになった。

レベル1の新規定義とレベル2・4境界の解剖学的再設定: 従来、胸腔内リンパ節とは別に明確なリンパ節ステーションとして識別されていなかった低頸部、鎖骨上、および胸骨切痕リンパ節が、レベル1として明確に定義された。その上縁は輪状軟骨下縁、下縁は両側の鎖骨および胸骨柄上縁と規定された。気管中央線を境として右側を1R、左側を1Lと区別する。NarukeとMD-ATSの最大の不一致の一つであった上・下傍気管リンパ節 (レベル2および4) の左右境界についても根本的に再定義された。従来のATSによって作成された「気管中央線」という人工的な境界は廃止され、代わりに「気管の左側壁」が右側 (2R/4R) と左側 (2L/4L) のリンパ節の境界として設定された (Figure 4A, B)。この変更は、上縦隔におけるリンパ流が主に右傍気管領域へ流れ、気管中央線を超えるという解剖学的知見を反映したものである。具体的な境界定義として、2Rの上縁は右肺尖・胸膜腔頂部および胸骨柄上縁、下縁は腕頭静脈尾縁の気管交差点とされた。4Rの上縁は腕頭静脈尾縁の気管交差点、下縁は奇静脈下縁と定義された。4Lの上縁は大動脈弓上縁、下縁は左肺動脈主幹上縁とされた。これらの変更により、従来のマップにおける曖昧さが解消され、より正確なリンパ節評価が可能となった。

レベル7の統一によるN1/N2分類の国際的一致: Naruke分類ではレベル7とレベル10に分かれていた分岐部下リンパ節が、IASLCマップではすべてレベル7 (気管分岐下) に統合された (Table 1)。この新しいレベル7の上縁は気管分岐部、下縁は左側では下葉気管支起始部上縁、右側では気管支中間幹下縁と定義された。この変更は、従来のNarukeマップでレベル10としてN1 (stage II) と分類されていたリンパ節が、IASLCマップではレベル7、すなわちN2に統一されるという最も重要な臨床的インパクトを持つ。Watanabeらの研究では、日本人外科医と欧州人外科医の間でリンパ節ステーションの指定に関する総一致率が68.5%に留まり、34.1%の症例でN1とN2の分類が異なっていたことが報告されている。この命名法の不一致が、N2=stage IIIAかN1=stage IIかという治療方針に直結する判定に影響を与えていたため、今回の統一によりこの問題は解消される。また、右側のレベル4と10の境界、左側のレベル5と10の境界、および両側のレベル10と11の境界についても、精確な解剖学的定義が提供された。Narukeマップで「気管中央線上のリンパ節」として恣意的に定義されていたレベル3リンパ節は廃止され、3a (前縦隔) と3p (後気管傍) として境界が明確化された。

6ゾーン体系の提案とIASLC国際データベース探索解析: 将来の生存解析を目的として、リンパ節ステーション1〜14をグループ化する6ゾーン体系が提案された (Figure 3)。このゾーン概念は、現在の標準命名法ではなく、将来の予後解析のために考案されたものである。具体的には、(1) 上縦隔ゾーン (レベル1-4)、(2) 大動脈肺動脈窓ゾーン (レベル5-6)、(3) 分岐部下ゾーン (レベル7)、(4) 下縦隔ゾーン (レベル8-9)、(5) 肺門/葉間ゾーン (レベル10-11)、(6) 末梢ゾーン (レベル12-14) の6区分である。IASLC国際データベースの回顧的解析では、ゾーン概念を用いることで生存差が示唆されていた。例えば、左上葉腫瘍におけるレベル5-6 (大動脈肺動脈窓ゾーン) へのスキップ転移は、他のN2サブセットと比較して予後が良好である可能性が示唆された。N2病変を有する患者のOS (overall survival: 全生存期間) 中央値は、単一ゾーンN1病変患者と比較して有意に短く、ハザード比は HR 0.60 (95% CI 0.47-0.77, p<0.001) であった。また、N1単一ゾーン vs N1複数ゾーンの比較、およびN2単一ゾーン vs N2複数ゾーンの比較において、関与するリンパ節ゾーンの数が予後に影響を及ぼすことが示唆された。特に、N1単一ゾーン病変を有する患者の生存率は、N1複数ゾーンまたはN2単一ゾーン病変を有する患者の生存率 44% vs 32% (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) と比較して有意に良好であった。しかし、N記述子の変更を確定的に推奨するには、より大規模な前向きデータが必要とされた。

すべてのリンパ節定義は、CT軸位断、冠状断、矢状断で適用可能な解剖学的ランドマークを用いて規定され、胸部放射線科医Watanabeによって適用可能性が確認され、Figure 4A-Fとして図示された。境界として採用された主要なランドマークには、腕頭静脈 (2R/4R境界)、大動脈弓上縁/下縁 (4L、5、6の境界)、奇静脈下縁 (4R下縁)、左肺動脈主幹上縁 (4L下縁)、気管支中間幹下縁 (レベル7右側下縁)、下葉気管支起始部上縁 (レベル7左側下縁)、下肺静脈 (レベル9上縁)、横隔膜 (レベル8、9下縁) など、14のCTで同定可能な構造物が含まれる。リンパ節のスキップ転移は、実験的リンパ節注入の最大25%で観察され、臨床的にも切切除肺がんの7%から26%で報告されており、上葉腫瘍と肺腺がんにおいて最も頻繁に発生するとされている。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、約40年にわたり並立使用されてきた日本のNaruke分類と欧米のMD-ATS分類の命名法上の不一致を解消した点で、これまでの部分的なマップ改訂案と大きく異なる。従来のマップでは、同一のリンパ節転移が使用するマップによってN1 (stage II) にもN2 (stage IIIA) にも分類され得るという深刻な問題があったが、本研究はこれらを完全に統合した国際標準マップを提示した。

新規性: 本研究で初めて、解剖学的ランドマーク (腕頭静脈、大動脈弓、奇静脈など) を用いて、CT画像、内視鏡、および手術時に一貫して同定可能な厳密な境界定義を新規に確立した。特に、従来の人工的な「気管中央線」を廃止し、実際のリンパ流パターンに即した「気管左側壁」を左右の境界として採用したことは、解剖学的合理性に基づく極めて新規性の高いアプローチである。

臨床応用: 本マップの臨床的意義は極めて大きい。特に分岐部下リンパ節をすべてレベル7 (N2) に統一したことは、治療方針決定 (手術単独か集学的治療か) の標準化に直結する。また、縦隔鏡検査、EBUS-TBNA (endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration: 超音波気管支鏡ガイド下経気管支針生検)、EUS-FNA (endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration: 超音波内視鏡下細針吸引生検) などの臨床病期診断において、世界中の臨床現場で同一の基準を用いた正確なリンパ節評価が可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、提案された「リンパ節ゾーン」概念の予後的有用性について、より大規模で均一に病期分類された患者群における前向き解析を通じて検証することが残されている。また、微小転移や分子生物学的特徴を将来のN分類にどのように統合していくかも、今後の重要な研究方向性である。本マップは第7版TNM分類に採用され、その後の Goldstraw et al. JThoracOncol 2007 などの病期分類改訂プロセスにおける強固な基盤となった。

方法

プロセスと参加者: IASLC病期分類委員会は、胸部外科医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、呼吸器内科医、疫学者、放射線科医、病理医、データ管理者からなる多職種国際チームで構成された。本研究では、委員会のメンバーであるRuschとAsamuraが中心となり、NarukeとMD-ATS両マップの不一致点を詳細に検討し、各リンパ節ステーションの解剖学的境界の新しい定義を策定する作業を主導した。胸部放射線科医であるWatanabeは、提案された定義がCT (軸位断、冠状断、矢状断) での適用可能性を検証し、CT断面図に対応する説明図を作成した。提案されたリンパ節ステーションの定義とIASLCマップの図解に関する推奨事項は、IASLC病期分類委員会全体でレビューされた。

定義策定の原則: 新しいリンパ節マップの定義策定においては、以下の原則が厳守された。

  1. 解剖学的ランドマークによる規定: 各リンパ節ステーションの上縁、下縁、前縁、後縁のすべてを、CT、内視鏡、および手術で識別可能な解剖学的ランドマークを用いて精確に規定した。
  2. 境界の重複排除: リンパ節ステーション間で境界が重複しないよう、厳密かつ精確に定義した。
  3. 人工的境界の排除とリンパ流の反映: 「気管中央線」のような人工的・恣意的な境界を排除し、実際のリンパ流パターンをより正確に反映する解剖学的境界に置き換えた。
  4. 臨床適用性: 放射線科医、病理医、外科医が日常診療で容易に適用できるよう、CT画像、内視鏡検査、および手術時の視認性を考慮した定義とした。

統計解析とデータベース: 本研究の提案は、IASLCが収集した国際データベースの後向きコホート (retrospective cohort) 解析結果に基づいており、生存解析には Kaplan-Meier 法および Cox regression (コックス比例ハザード回帰モデル、Cox proportional hazards model) が用いられた。生存期間の比較には log-rank test が使用された。本研究は、将来的な前向きデータ収集の標準化を目的としており、PubMed などの主要データベースで公開されている過去の文献データも統合して検討された。なお、本研究は特定の臨床試験ID (NCT番号など) を持つ単一の無作為化比較試験 (RCT) ではなく、国際多施設共同レジストリデータを用いた解析である。