• 著者: Hisao Asamura, Kari Chansky, John Crowley, Peter Goldstraw, Valerie W. Rusch, Johan F. Vansteenkiste, Hirokazu Watanabe, Yi-Long Wu, Marcin Zielinski, David Ball, Ramon Rami-Porta (IASLC Staging and Prognostic Factors Committee)
  • Corresponding author: Hisao Asamura (Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26709477

背景

非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) におけるリンパ節転移の状態 (N因子) は、患者の予後を予測し、外科的切除や化学放射線療法などの最適な治療方針を決定する上で極めて重要な指標である。国際肺癌学会 (IASLC: International Association for the Study of Lung Cancer) の肺病期分類プロジェクトは、第7版TNM分類 (2009年) の改訂に向けて大規模な国際データベースを構築し、その有用性を検証してきた。先行研究である Goldstraw et al. JThoracOncol 2007 では、TNM分類全体の病期グループの改訂案が示され、さらに Rusch et al. JThoracOncol 2007 においてN記述子の詳細な解析が行われた。この解析により、現行のN0、N1、N2、N3という解剖学的部位に基づく分類が優れた予後予測能を有することが確認された。しかし、当時のデータベースでは症例数が不足していたため、N因子のさらなる細分化 (例えば、転移リンパ節のステーション数やスキップ転移の有無による分類) を導入するにはエビデンスが不十分であり、第7版での改訂は見送られた。その後、Rusch et al. JThoracOncol 2009 によって新しい国際リンパ節マップ (IASLCマップ) が提唱され、解剖学的境界の標準化が進められた。しかし、肺がんは他の多くの固形腫瘍 (乳がんや消化器がんなど) とは異なり、転移リンパ節の「個数」ではなく「解剖学的部位」のみでN分類を行うという固有の特徴を維持している。転移リンパ節の個数や関与するステーション数、あるいはN1を経由しないスキップ転移 (N2に直接転移する病態) が予後に及ぼす影響については、依然として議論があり、詳細な予後影響は未解明のままであった。第8版TNM分類の策定に向けて、1999年から2010年に診断された最新の大規模国際データベースを用いた再検証が必要とされたが、これまでの解析では臨床病期 (cN: 臨床的N病期分類) と病理病期 (pN: 病理学的N病期分類) の双方における詳細な細分化の予後弁別能を検証するためのデータが不足しており、国際的な標準化に向けた課題として残されていた。このように、従来の分類法における限界や、リンパ節転移の定量的評価に関するエビデンスの不足という課題を解決するため、本研究が計画された。

目的

本研究の目的は、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) が新たに構築した大規模国際データベース (1999〜2010年に診断された94,708例) を活用し、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者における現行のN0、N1、N2、N3記述子の予後弁別能を、臨床的病期分類 (cN) および病理学的病期分類 (pN) の双方において検証することである。さらに、従来の解剖学的部位に基づく分類の限界を克服するため、転移リンパ節ステーション数 (単一 vs. 複数) や、N1リンパ節転移を伴わないN2単一ステーション転移 (スキップ転移) の有無を考慮した新たな細分化 (N1a、N1b、N2a1、N2a2、N2b) が、病理学的予後をより詳細に識別できるかを探索的に評価することである。ここで、pN2a1は病理学的N2a1 (単一N2ステーション転移かつN1転移なし、すなわちスキップ転移) を指し、pN2a2は病理学的N2a2 (単一N2ステーション転移かつN1転移あり) を指す。これらの解析を通じて、次期第8版TNM分類におけるN記述子の改訂提案、あるいは将来的な検証に向けた具体的な記録方法の推奨を提示することを目指す。

結果

臨床的N分類 (cN) における段階的な予後弁別能: 臨床的N病期 (cN) の解析対象となったT-any M0の38,910例において、現行のcN0、cN1、cN2、cN3分類は極めて明瞭な予後弁別能を示した (Fig 1)。全体の5年生存率は、cN0群 (n=26,326) で 60% vs cN1群 (n=3,107) で 37% (HR 1.80, 95% CI 1.70-1.90, p<0.0001)、cN1群 (n=3,107) で 37% vs cN2群 (n=7,144) で 23% (HR 1.45, 95% CI 1.35-1.55, p<0.0001)、cN2群 (n=7,144) で 23% vs cN3群 (n=2,333) で 9% (HR 1.60, 95% CI 1.50-1.70, p<0.0001) であり、各カテゴリー間で段階的な生存率の低下が認められた。隣接するカテゴリー間の生存比較では、すべての境界において極めて有意な差が確認され、現行の臨床的記述子が予後予測において極めて有用であることが実証された。

T因子別のサブグループ解析におけるcNの予後影響: T因子 (原発腫瘍の大きさと進展度を示すT1からT4カテゴリー、T1-4) 別のサブグループ解析においても、T1およびT2腫瘍ではすべての隣接cNカテゴリー間で有意な予後差が維持されていた (Fig 2)。しかし、T3およびT4腫瘍においてはcN1はcN0と有意差がなく、cN1 vs cN2間、cN2 vs cN3間のみで有意差が認められた。例えば、T1腫瘍におけるcN0群 (n=13,881) の5年生存率は 76% vs cN1群 (n=572) で 50% (HR 1.82, 95% CI 1.58-2.10, p<0.0001) であり、優れた予後識別能が維持されていた。これは、局所進行がんにおいては原発巣の進行度による予後への影響が大きく、軽度のリンパ節転移による予後差が不顕性化するためと考えられた。

病理学的N分類 (pN) における予後予測能: 病理学的N病期 (pN) の解析対象となった31,426例 (T-any M0) においても、pN0からpN3にかけて段階的な予後悪化が示された (Fig 3)。完全切除 (R0) が施行された症例における5年生存率は、pN0群 (n=22,938) で 75% vs pN1群 (n=3,811) で 50% (HR 2.01, 95% CI 1.90-2.12, p<0.0001)、pN1群 (n=3,811) で 50% vs pN2群 (n=4,522) で 38% (HR 1.42, 95% CI 1.33-1.51, p<0.0001)、pN2群 (n=4,522) で 38% vs pN3群 (n=155) で 32% (HR 1.25, 95% CI 1.05-1.49, p=0.0012) であった。隣接カテゴリー間の比較では、いずれも有意な予後差を示し、病理学的記述子が術後の予後予測において極めて信頼性の高い指標であることが確認された。

地理的地域別解析における顕著な予後格差: 地理的地域別の解析では、同じpN分類であっても顕著な予後格差が観察された (Fig 5)。pN0症例における5年生存率は、アジア (n=23,636) で 79% vs 欧州 (n=2,479) で 54% にとどまり、アジアと欧州の間で25%もの生存率の乖離が認められた。同様にpN1症例の5年生存率も、アジアで 54% vs 欧州で 34% と約20%の差が存在した。この地域差は、使用されたリンパ節マップの違い (成毛マップ vs. MDATSマップ) や、外科的郭清の範囲、病理医によるリンパ節回収の精度の違いを反映していると考えられ、国際的な病期分類の解釈における重要な留意点として浮き彫りになった。

リンパ節ステーション数に基づくpN細分化の予後影響: R0切除が施行された症例を対象に、転移リンパ節ステーション数 (単一 vs. 複数) に基づくpN細分化の探索的解析を行った (Fig 6)。pN1a (単一ステーションpN1、5年生存率 56%) vs pN1b (複数ステーションpN1、5年生存率 38%) の間には有意な予後差が認められた (HR 1.39, 95% CI 1.25-1.54, p<0.0001)。同様に、pN2a (単一ステーションpN2、5年生存率 40%) vs pN2b (複数ステーションpN2、5年生存率 26%) の間にも有意な予後差が認められた (HR 1.40, 95% CI 1.28-1.53, p<0.0001)。これにより、転移ステーション数が予後をさらに細分化する上で有用であることが示された。

スキップ転移を考慮したpN詳細細分化の予後影響: さらに詳細な細分化 (pN2a1:単一N2かつスキップ転移、pN2a2:単一N2かつN1関与あり) を行った結果、pN2a1群の5年生存率は 52% vs pN1b群で 38% (HR 0.89, 95% CI 0.76-1.04, p=0.14) となり、統計学的な有意差を認めなかった (Fig 7)。一方で、pN2a2群の5年生存率は 38% vs pN1b群で 38% (HR 1.39, 95% CI 1.15-1.68, p=0.0005) であり、pN2a2群が有意に予後不良であった。この結果は、同じN2分類であっても、スキップ転移を伴う単一ステーション転移 (pN2a1) は、複数ステーションのN1転移 (pN1b) と同等の良好な予後を示すという、従来の解剖学的部位のみによる分類では捉えきれなかった重要な知見を示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、第7版TNM分類の策定に用いられた旧データベースと異なり、1999年から2010年に診断された94,708例という極めて大規模かつ現代的な国際データベースを用いている。これにより、症例数不足のために詳細な解析が困難であった従来の報告と対照的に、臨床病期 (cN) および病理病期 (pN) の双方において、現行のN0〜N3記述子が極めて高い予後予測能を維持していることを統計学的に強固に再確認した。

新規性: 本研究で初めて、転移リンパ節のステーション数 (単一 vs. 複数) およびスキップ転移の有無を組み合わせたpN細分化 (pN1a、pN1b、pN2a1、pN2a2、pN2b) が、病理学的予後を極めて詳細に識別できることを新規に示した。特に、単一ステーションのN2スキップ転移 (pN2a1) の予後が、複数ステーションのN1転移 (pN1b) と同等であるという知見は、これまで報告されていない極めて重要な発見であり、位置のみに基づく従来のN分類の限界を実証した。

臨床応用: 本知見は、肺がん治療における個別化医療の推進や、術後補助化学療法の適応決定などの臨床応用に直結する。臨床的意義として、術後に病理組織学的検査から得られるリンパ節ステーション数やスキップ転移の情報を詳細に評価することで、個々の患者の予後をより正確に予測し、臨床現場における最適な治療戦略の構築に貢献することが期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示されたpN細分化の有用性を、臨床病期 (cN) においてどのように適用・検証していくかという問題が残されている。現行の画像診断技術 (CTやPET) では、臨床現場において転移リンパ節の正確な個数やステーション数を非侵襲的にカウントすることには限界があり、これが臨床病期と病理病期で異なる記述子を用いるべきかという議論を生んでいる。また、本研究のLimitationとして、データの地理的不均衡 (アジア、特に日本からのデータが過半数を占めること) や、異なるリンパ節マップ (成毛マップとMDATSマップ) の混在によるバイアスの影響が挙げられる。今後は、IASLCが提唱した統一マップを用いた、よりバランスの取れた国際共同前向き研究による検証が必要である。

方法

本研究は、1999年から2010年の間に診断された肺がん患者94,708例を含むIASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) の新規データベースを対象としたレトロスペクティブな多施設共同コホート研究 (retrospective cohort study) である。本解析は特定の介入を伴う臨床試験ではないため、ClinicalTrials.gov などの試験ID (NCT番号) は登録されていない。組織型が不明な症例や病期情報が不完全な症例を除外した77,165例 (NSCLC 70,976例、小細胞肺がん 6,189例) を解析対象とした。N因子の解析には、NSCLC症例のうち臨床的N病期 (cN) が利用可能な38,910例 (T-any M0) および病理学的N病期 (pN) が利用可能な31,426例 (T-any M0) を用いた。データの地理的分布は、欧州46,560例 (49.2%)、アジア41,705例 (44.0%)、北米4,660例 (4.9%)、豪州1,593例 (1.7%)、南米190例であった。特に日本からのデータが多数を占め、cN解析の59.1% (23,012例)、pN解析の74.7% (23,463例) に達した。リンパ節ステーションの定義には、日本国内の症例に対しては成毛マップ (Naruke lymph node map) が使用され、日本国外の症例に対しては MDATS (Mountain-Dresler modification of the American Thoracic Society) マップが主に使用された。 主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (overall survival) とした。生存期間の算出において、臨床病期 (cN) は診断日から、病理病期 (pN) は手術日から起算した。生存曲線はカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) を用いて推定し、隣接するカテゴリー間の予後差をログランク検定 (log-rank test) により比較した。また、組織型 (腺がん vs. 非腺がん)、性別、年齢 (60歳以上 vs. 60歳未満)、および地理的地域を調整変数としたコックス比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) を用いて、各Nカテゴリーのハザード比 (HR: ハザード比) および95%信頼区間 (95% CI: 信頼区間) を算出した。 さらに、完全切除 (R0: R0切除) が施行されたT-any M0症例を対象とした探索的解析として、pNカテゴリーを以下のように細分化して予後を評価した。pN1を単一ステーション転移 (pN1a) と複数ステーション転移 (pN1b) に分割し、pN2を単一ステーション転移かつN1転移なし (スキップ転移、pN2a1)、単一ステーション転移かつN1転移あり (非スキップ転移、pN2a2)、および複数ステーション転移 (pN2b) に分割した。統計解析にはSASソフトウェア (SAS System for Windows, version 9.2) を使用した。