• 著者: Frances A. Shepherd, John Crowley, Paul Van Houtte, Pieter E. Postmus, Desmond Carney, Kari Chansky, Zeba Shaikh, Peter Goldstraw
  • Corresponding author: Frances A. Shepherd (Princess Margaret Hospital, University of Toronto, Canada)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2007
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18090577

背景

小細胞肺がん(SCLC; small cell lung cancer)は、全肺がんの15〜20%を占める極めて悪性度の高い腫瘍であり、急速な増殖能、早期からのリンパ節転移および遠隔転移、そして化学療法や放射線療法に対する高い感受性を特徴とする。歴史的に、SCLCの病期分類には1950年代に Zelen (1973) らの Veterans’ Administration Lung Study Group (VALSG) によって導入された「限局期 (limited disease; LD) 」と「進展期 (extensive disease; ED) 」の2分類が広く用いられてきた。1989年には、Stahel (1989) らの IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer; 国際肺癌学会) の合意報告により、対側鎖骨上リンパ節転移や胸水貯留例の一部をLDに含めるなど、LDの定義が拡張された。しかし、非小細胞肺がん(NSCLC; non-small cell lung cancer)で標準的に用いられているTNM(腫瘍・リンパ節・転移)分類は、SCLCにおいては主に小規模な外科切除例の報告に限られており、非手術症例を含む大規模コホートでの検証は不十分であった。

近年、放射線治療技術の進歩に伴い、照射野の縮小や高線量照射、あるいは分割照射法の最適化が進められている。例えば、Turrisi et al. NEnglJMed 1999による臨床試験では、1日2回照射の有用性が示されたが、このような高精度な集学的治療を安全かつ効果的に実施するためには、より詳細な解剖学的病期分類が不可欠である。また、世界的な疫学調査において、男性におけるSCLC罹患率は減少傾向にあるものの、女性においては増加傾向が続いていることが報告されている(Devesa et al. IntJCancer 2005)。

このように、治療法の高度化や疫学的変化が生じているにもかかわらず、SCLCにおける詳細なTNM分類の予後的妥当性や、NSCLC向けに提案された新たなTNM改訂案(第7版)をSCLCにそのまま適用できるかについては、大規模データを用いた検証がなされておらず、臨床現場における最適な層別化手法は未確立であった。特に、胸水貯留を伴う症例の扱いについては議論が分かれており、従来のVALSG分類と詳細なTNM分類との整合性をどのように図るべきかという点において、エビデンスが著しく不足していた。

目的

本研究の目的は、IASLCが構築した国際的な大規模データベースに登録されたSCLC症例を用いて、現行の第6版TNM病期分類の予後予測能および弁別能を系統的に検証することである。さらに、NSCLCの解析に基づいて提案された新たな第7版TNM分類の改訂案(Goldstraw et al. JThoracOncol 2007Rusch et al. JThoracOncol 2007)をSCLCコホートに適用し、その妥当性を評価することを目指す。具体的には、Tカテゴリー(原発腫瘍の大きさと進展度)およびNカテゴリー(所属リンパ節転移の広がり)が生存期間とどのように相関するかを明らかにし、特に予後への影響が懸念される胸水貯留症例の臨床的位置づけを明確にすることで、今後のSCLC臨床試験における新たな層別化基準および臨床病期分類の推奨事項を提示することを目的とする。

結果

対象患者の背景とデータソース: 12,620例のSCLC症例のうち、TNM情報ありは8,088例であった(Table 1)。地域別構成はEurope 56%、North America 35%、Asia 3%、Australia 6%であった。データソースとしては、臨床試験由来が52%、人口ベースの登録または単一施設シリーズが43%を占めていた(Table 2)。臨床TNMデータが完全な症例(n=3,215)に限定すると、登録シリーズが60%、臨床試験が32%であった。

Tカテゴリーと生存期間の直接的相関: 遠隔転移のない(M0)症例において、T分類の進行に伴い生存期間が段階的に低下した(Figure 1A)。1年生存率はT1で73% vs T2で62% vs T3で55% vs T4で49%であり、5年生存率はT1で29% vs T2で15% vs T3で11% vs T4で10%であった(Table 3)。隣接するTカテゴリー間の比較において、T2 vs T1では HR 1.48 (95% CI 1.28-1.71, p<0.0001) と有意な予後悪化を示し、T3 vs T2では HR 1.14 (95% CI 1.02-1.27, p=0.0185) 、T4 vs T3では HR 1.17 (95% CI 1.05-1.31, p=0.0055) であり、いずれも有意な予後悪化と相関していた(順序ログランク検定 p<0.0001)。このT分類による予後分離は、縦隔や鎖骨上リンパ節転移のない症例、すなわち、リンパ節転移のないN0や、同側気管支周囲・肺門リンパ節転移を有するN1など、Nカテゴリー(N0-N1)においてより顕著であった(Figure 2)。

Nカテゴリーにおける予後分離と主要な境界点: N分類の進行に伴い、生存期間は段階的に低下した(Figure 1B)。1年生存率はN0で68% vs N1で68% vs N2で56% vs N3で50%であり、5年生存率はN0で24% vs N1で20% vs N2で12% vs N3で9%であった(Table 4)。N1 vs N0の比較では HR 1.02 (95% CI 0.89-1.18, p=0.7552) と有意差を認めなかったが、N2 vs N1では HR 1.40 (95% CI 1.23-1.60, p<0.0001) と最大の予後分離を示した。N3 vs N2の比較は HR 1.18 (95% CI 1.07-1.30, p=0.0006) であった。N1とN2の間(生存期間中央値 19 vs 14 months)が臨床的に最も重要な予後境界点であることが示された。

第6版TNM病期分類による生存率の推移: 臨床病期(第6版)の進行に伴い、生存率は段階的に低下した(Figure 1C)。1年生存率はstage IAで77% vs IBで67% vs IIAで85% vs IIBで70% vs IIIAで59% vs IIIBで50% vs IVで22%であり、5年生存率はstage IAで38% vs IBで21% vs IIAで38% vs IIBで18% vs IIIAで13% vs IIIBで9% vs IVで1%であった(Table 5)。隣接病期間の比較では、IB vs IAで HR 1.48 (95% CI 1.20-1.83, p=0.0003) 、IIA vs IBで HR 0.62 (95% CI 0.44-0.88, p=0.0075) (T1症例の偏りによる逆転現象)、IIB vs IIAで HR 1.57 (95% CI 1.11-2.22, p=0.0118) 、IIIA vs IIBで HR 1.32 (95% CI 1.13-1.53, p=0.0003) 、IIIB vs IIIAで HR 1.21 (95% CI 1.11-1.32, p<0.0001) 、IV vs IIIBで HR 2.16 (95% CI 2.01-2.31, p<0.0001) であった。

胸水貯留症例の中間的予後: 胸水を有するLD患者(n=145)の生存期間は、胸水のないLD患者(n=1,113)とED患者(n=4,500)の中間に位置していた(Figure 3A、順序ログランク検定 p<0.0001)。胸水細胞診の結果が判明している68例の解析において、細胞診陽性(cytology-positive)および細胞診陰性(cytology-negative)のいずれであっても、生存期間は胸水のないLDとEDの中間であり、細胞診陽性例の予後はED例よりも良好であった(Figure 3B、順序ログランク検定 p<0.0001)。

提案された第7版TNM分類の適用と外部検証: 詳細なTデスクリプタが利用可能な2,464例において、第6版(Figure 4A)と比較して、提案された第7版TNM分類(Figure 4B)を適用したところ、病期の進行に伴い生存期間が段階的に低下することが確認された。また、SEERデータベースを用いた外部検証(1998〜2000年診断のSCLC症例)においても、提案された第7版TNM分類の適用により、病期の上仙に伴う生存期間の低下が極めて明瞭に再現された(Figure 4C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来のSCLC臨床実務において長年使用されてきたVALSGによる「LD/ED」の2分類、ならびに外科切除例のみを対象とした小規模な先行研究と異なり、非手術症例や化学放射線療法を施行された広範な臨床病期症例を含む大規模コホート(12,620例)において、TNM分類が極めて高い予後弁別能を有することを実証した。特に、T分類およびN分類の進行が、M0症例における生存期間の段階的な短縮と直接的に相関することを示した点は、従来の「SCLCにはTNM分類が適用できない、あるいは不要である」という認識を覆すものである。

新規性: 本研究は、NSCLCの改訂案として提案された第7版TNM分類(Goldstraw et al. JThoracOncol 2007)が、SCLCにおいても完全に整合性をもって適用可能であることを本研究で初めて明らかにした。また、胸水貯留を有する症例(細胞診の陽性・陰性を問わず)が、胸水のない制限期と遠隔転移を伴う進展期の中間の予後を示すことを大規模データに基づき新規に同定した。

臨床応用: これらの知見は、SCLCの日常診療および臨床試験のデザインにおける臨床的意義が極めて大きい。特に、早期SCLC(stage I〜III)を対象とした臨床試験においては、従来のLD/ED分類による大まかな層別化ではなく、TNM分類に基づく厳格な層別化を導入すべきである。これにより、治療アーム間の不均衡を防ぎ、新規治療法の治療効果をより正確に評価することが可能となる。さらに、放射線治療計画において、照射野の縮小や高線量照射を安全に行うための患者選択基準としても、詳細なN分類(特にN1とN2の識別)の活用が期待される。

残された課題: 一方で、今後の検討課題として、対側鎖骨上リンパ節転移と対側縦隔リンパ節転移(いずれもN3)の間における詳細な予後差の検証や、心嚢水貯留例の予後的影響の解明が挙げられる。これらは本データベースの後ろ向きな性質上、詳細な情報が不足していたため、今後の前向きな臨床試験やレジストリ研究において、より詳細な臨床データを収集し、多変数解析を用いて検証を継続する必要がある(これが本研究の主要な limitation である)。

方法

本研究は、IASLC国際病期分類プロジェクトが収集した、1990年から2000年の間に新たに診断された肺がん患者100,869例のデータベースから、SCLC症例を抽出して解析した retrospective cohort study (後ろ向きコホート研究)である。初期スクリーニングにより、生存期間の追跡データおよびベースラインの病期情報が不十分な症例を除外し、さらに混合組織型や病期分類に矛盾がある670例を除外した結果、最終的に12,620例の小細胞組織型症例を解析対象とした。

主要評価項目( primary endpoint )は、診断日または登録日から死亡日までの期間として定義される生存期間(overall survival; OS)とした。TNM病期分類データが利用可能であった8,088例を主解析対象とし、内訳は臨床TNM(cTNM)データが完全な症例3,215例、病理TNM(pTNM)データがある症例128例、臨床および病理データの双方を有する症例215例、遠隔転移を有するcM1症例4,530例であった。残りの4,532例はVALSG分類(LDまたはED)のみが利用可能であった。

生存期間の推定には Kaplan-Meier 法を用い、各予後グループ間の比較には Cox proportional hazards (コックス比例ハザード)回帰モデルを適用してハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。生存曲線の順序関係の検定には、順序ログランク検定(ordered log-rank test )を用いた。

さらに、詳細なTデスクリプタ(腫瘍径、同側他葉内結節の有無など)が利用可能であった2,464例のサブセットに対して、提案された第7版TNM分類を適用し、その予後弁別能を評価した。この新システムの外部検証を行うため、米国国立がん研究所(NCI)の SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースから、1998年から2000年の間に診断されたSCLC症例を抽出し、同様の生存解析を実施した。本研究全体の解析において、特定の臨床試験登録番号( NCT00000000 のような単一試験ID)は存在しないが、複数の臨床試験(登録データ全体の52%を占める)および人口ベースのレジストリデータが統合されている。胸水貯留の予後的影響については、他部位に遠隔転移のない限局期症例1,258例(胸水なし1,113例、胸水あり145例)と、進展期症例4,500例との間で生存期間を比較した。