• 著者: K. Nakagawa, Y. Yoshida, M. Yotsukura, S. Watanabe
  • Corresponding author: K. Nakagawa (Department of Thoracic Surgery, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: European Journal of Cardio-Thoracic Surgery
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-07-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32728713

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small-cell lung cancer) において、縦隔リンパ節転移を伴う病理学的N2 (pN2; pathological N2) Stage III症例の術後予後は極めて不良であり、局所制御と遠隔転移制御の両立が治療上の大きな課題である。2000年代初頭以降、シスプラチンをベースとする術後補助化学療法の有効性が複数の大規模臨床試験によって証明され、完全切除後のリンパ節陽性NSCLCにおける標準治療として確立された。代表的な報告として、LACE Collaborative Groupによるメタアナリシス Pignon et al. JClinOncol 2008 や、ANITA試験 Douillard et al. LancetOncol 2006 が挙げられ、これらは術後補助化学療法が5年生存率を約5%改善することを示した。しかし、この生存ベネフィットは限定的であり、pN2症例の予後は依然として満足のいくものではない。局所再発を抑制するためのアプローチとして術後放射線療法 (PORT; postoperative radiotherapy) が長年にわたり検討されてきたが、過去の臨床試験ではN0やN1の症例も混在していたため、生存率における明確なベネフィットを示すことができず、その有用性については議論が分かれており、controversial な状況が続いていた。さらに、近年の分子標的薬を用いたRADIANT試験 (Randomized Double-blind Placebo-controlled Trial of Adjuvant Erlotinib Versus Placebo in Patients with Stage IB-IIIA Non-small Cell Lung Cancer) Kelly et al. JClinOncol 2015 など、全身療法の進歩が進む一方で、現代の補助化学療法時代におけるpN2症例に特化した詳細な再発パターン、特に系統的リンパ節郭清 (SND; systematic nodal dissection) を施行した領域内での再発頻度やその危険因子に関する詳細な解析は極めて手薄であり、十分なデータが不足しているという課題が存在した。この局所制御に関する詳細な再発形式の解明は、PORTの適応を再考する上で不可欠な knowledge gap であり、詳細な検討が求められていた。

目的

本研究の目的は、術後補助化学療法が標準治療として行われる現代において、完全切除が施行された臨床的N0-1 (cN0-1; clinical N0-1) かつ病理学的N2 (pN2) のNSCLC患者を対象に、その術後再発パターンを詳細かつ後向きに解析することである。特に、局所制御の指標となる領域リンパ節 (LN; lymph node) 再発に焦点を当て、SND施行領域の「内側」と「外側」における再発の分布および頻度を明確に区分して同定する。さらに、SND施行領域内でのリンパ節再発に関与する臨床病理学的な独立危険因子を多変量解析によって明らかにし、どのような患者群においてPORTなどの追加的な局所治療戦略を再考すべきか、その治療選択の最適化に向けた臨床的指標を提示することを目指す。

結果

解析対象患者の臨床病理学的背景: 本研究の解析対象となったcN0-1/pN2 NSCLC患者337例の背景情報を示す (Table 1)。患者の内訳は、男性195例 (58.5%)、女性142例 (41.5%) であり、全体の平均年齢は 63.2 ± 9.39 歳であった。術後補助療法の実施状況については、観察単独群が177例 (52.5%)、術後補助化学療法群が160例 (47.5%) であった。術後補助化学療法群の治療内容としては、プラチナ製剤ダブレットが147例 (91.9%)、UFT (テガフル・ウラシル配合剤; uracil-tegafur) が13例 (8.1%) であった。組織型は腺癌が286例 (84.9%)、扁平上皮癌が35例 (10.4%)、その他が16例 (4.7%) であった。病理学的病期は、Stage IIIAが240例 (71.2%)、Stage IIIBが97例 (28.8%) であった。郭清されたリンパ節の平均個数は 21.1 ± 8.30 個であり、pN2リンパ節の転移領域数は、単一領域浸潤が203例 (53.8%)、複数領域浸潤が134例 (46.2%) であった。補助化学療法群は観察単独群と比較して、平均年齢が有意に低く (60.9 ± 9.34 歳 vs 65.3 ± 8.94 歳, p<0.001)、腺癌の割合が高く (91.9% vs 78.5%, p=0.001)、SNDの施行率が高かった (84.4% vs 69.5%, p=0.001)。

全体における術後再発パターンの解析: 中央値49ヶ月の観察期間において、337例中232例 (68.8%) に術後再発が認められた (Table 2)。再発部位の最初の発生パターンを分類した結果、再発を認めなかった症例は105例 (31.2%) であった。再発を認めた232例の内訳は、手術断端のみの局所再発が2例 (0.6%)、領域リンパ節再発のみが55例 (16.3%)、遠隔再発のみが110例 (32.6%)、領域リンパ節再発と遠隔再発の両方を同時に認めた症例が65例 (19.3%) であった。術後補助化学療法の有無による再発パターンの分布の差について解析を行ったが、統計学的な有意差は認められなかった (p=0.145)。ただし、補助化学療法群では遠隔再発のみの割合が高い傾向 (36.9% vs 28.8%) が見られた一方、領域リンパ節再発と遠隔再発の併発割合は低い傾向 (14.4% vs 23.7%) が観察された。

系統的リンパ節郭清施行領域内における再発頻度: 領域リンパ節再発を経験した患者は、全体で120例 (35.6%) に達した (Table 3)。この120例における詳細な再発部位の解析を行ったところ、SND施行領域内のみでの再発が25例 (7.4%)、SND施行領域外のみでの再発が52例 (15.4%)、SND施行領域の内外両方にまたがる再発が43例 (12.8%) であった。この結果、系統的リンパ節郭清を施行したにもかかわらず、その郭清領域の「内側」で再発を来した症例は、全体337例中68例 (20.2%) に上ることが明らかとなった。なお、リンパ節郭清の術式 (SND vs LND) による領域内再発頻度の違いについては、統計学的な有意差は検出されなかった (p=0.193)。

原発巣 of 部位による領域内再発リンパ節の分布: 原発腫瘍の存在部位とSND施行領域内における再発リンパ節ステーションの分布との関連を解析した (Table 4)。右下葉原発腫瘍 (n=70) においては、肺門部での再発が10例 (14.3%)、上縦隔領域での再発が17例 (24.3%) と高頻度であった。これに対し、左下葉原発腫瘍 (n=46) においては、下縦隔領域での再発が10例 (21.7%) と最も多く、上縦隔領域での再発は6例 (13.0%) にとどまった。右上葉原発腫瘍 (n=102) では、下縦隔領域での再発が10例 (9.8%)、上縦隔領域での再発が8例 (7.8%) であった。このように、原発部位によって縦隔内での再発好発部位が異なる傾向が示された。

SND施行領域内リンパ節再発における独立危険因子の同定: SND施行領域内でのリンパ節再発に関与する臨床病理学的な独立危険因子について、多変数ロジスティック回帰分析を用いて検討した (Table 5)。解析の結果、原発腫瘍の存在部位が「下葉」であることが、SND施行領域内再発の唯一の有意な独立危険因子として同定された。下葉原発腫瘍における領域内再発のオッズ比は OR 2.580 (95% CI 1.470-4.528, p=0.001) であり、上葉または中葉原発腫瘍と比較して有意に高値であった。一方で、左右の側性 (OR 0.822, 95% CI 0.468-1.447, p=0.497)、臨床的N因子 (OR 1.356, 95% CI 0.688-2.674, p=0.379)、組織型 (OR 1.301, 95% CI 0.612-2.764, p=0.494)、リンパ節郭清術式 (OR 1.232, 95% CI 0.640-2.375, p=0.532)、病理学的病期 (OR 0.697, 95% CI 0.360-1.348, p=0.283)、pN2リンパ節の転移領域数 (OR 0.778, 95% CI 0.429-1.412, p=0.409)、および術後補助化学療法の有無 (OR 1.792, 95% CI 0.988-3.250, p=0.055) は、いずれも統計学的に有意な関連を示さなかった。

術後補助化学療法による生存率の改善効果: 全体の生存解析において、術後補助化学療法群は観察単独群と比較して、OSおよびRFSの両面で有意な予後の改善を示した。5年全生存率は、術後補助化学療法群で 73.4% であったのに対し、観察単独群では 57.0% であり、補助化学療法群において有意に良好であった (p=0.005)。また、3年無再発生存率および5年無再発生存率についても、術後補助化学療法群が 45.2% および 34.5% であったのに対し、観察単独群は 34.9% および 27.5% であり、補助化学療法群で有意に優れた結果が得られた (p=0.035)。

考察/結論

先行研究との違い: 過去の多くの術後補助療法に関する臨床試験 Douillard et al. LancetOncol 2006 やメタアナリシス Pignon et al. JClinOncol 2008 では、pN0やpN1の症例が混在しており、pN2症例に特化した再発形式の解析は極めて限定的であった。これら従来の報告と異なり、本研究は対象をcN0-1かつ病理学的にN2が判明した完全切除例のみに厳格に限定し、さらにリンパ節再発をSND施行領域の内側と外側に厳密に区分して評価している点で、先行研究のデザインや解析の緻密さと大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、系統的なリンパ節郭清を徹底して施行したにもかかわらず、領域リンパ節再発を来した患者の約6割にあたる全体の20.2%において、郭清施行領域の「内側」で再発が生じていることを明らかにした。さらに、多変数解析を通じて、原発腫瘍が「下葉」に位置することが、このSND施行領域内再発の有意な独立危険因子であることを新規に同定した。これは下葉癌における上縦隔への直接転移 (skip metastasis) の頻度の高さや、解剖学的な郭清の難易度を反映していると考えられ、これまで報告されていない極めて重要な知見である。

臨床応用: 本研究の成果は、pN2 NSCLC患者に対する術後局所制御戦略の最適化という観点から、極めて高い臨床的意義を有する。徹底的な外科的郭清を行ってもなお2割の症例で郭清領域内再発が生じるという事実は、現在の標準的な術後補助化学療法のみでは局所制御が不十分であることを示唆している。この知見は、現代的な3次元原体照射技術を用いたPORTの臨床的有用性を再考する強力な根拠となり得る。特に、領域内再発リスクが極めて高い「下葉原発のpN2症例」は、PORTによる局所制御向上の恩恵を最も受ける可能性が高い集団として、臨床現場における治療選択の個別化に直結する。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在し、これらは今後の検討課題として残されている。第一に、本研究は単施設における後向き観察研究であり、術後補助化学療法群と観察単独群との間に患者背景 (年齢、組織型、郭清術式など) の不均衡が存在し、サンプリングバイアスの影響を完全に排除できない点である。第二に、再発の診断において、すべての症例で病理学的な確定診断が得られているわけではなく、18F-フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影/コンピュータ断層撮影 (FDG-PET/CT; 18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography) 等の画像診断に依存しているため、偽陽性や偽陰性の可能性が残されている。今後の研究の方向性として、現在進行中または最近報告された Lung ART 試験 (NCT00880971) などの前向き無作為化比較試験の結果と照らし合わせ、下葉原発pN2症例におけるPORTの生存ベネフィットを前向きに検証することが求められる。また、EGFR-TKIや免疫チェックポイント阻害薬などの新規術後補助療法と、PORTを組み合わせた集学的治療の最適化も今後の重要な課題である。

方法

本研究は、国立がん研究センター中央病院において実施された単施設後向き観察研究である。本研究プロトコルは同院の倫理審査委員会 (IRB; Institutional Review Board) の承認 (承認番号: 2018-045) を得て実施された。対象は、2005年から2016年の期間に、臨床病期N0-1 (cN0-1) と診断され、肺葉切除およびリンパ節郭清を伴う完全切除 (R0切除) が施行された結果、病理学的にN2 (pN2) と診断されたNSCLC患者337例である。除外基準として、術前導入療法 (化学療法または放射線療法) の施行例、肺全摘術施行例、および肺葉切除未満の縮小手術施行例を設定した。

リンパ節郭清は、腫瘍の原発部位に応じて、SNDまたは葉特異的リンパ節郭清 (LND; lobe-specific nodal dissection) のいずれかが選択された。リンパ節ステーションの分類は、国際肺癌学会 (IASLC; International Association for the Study of Lung Cancer) のリンパ節マップ Rusch et al. JThoracOncol 2009 に基づき、病期分類はTNM分類第8版 Asamura et al. JThoracOncol 2015 に準拠して決定された。

術後のフォローアップは、術後または補助化学療法終了後、最初の2年間は3ヶ月ごとに胸部X線検査、6ヶ月ごとに胸部および上腹部コンピュータ断層撮影 (CT; computed tomography) 検査を実施し、その後3年間はそれぞれ6ヶ月ごと、1年ごとに検査を行った。再発の定義として、手術断端での再発を「局所再発」、同側または対側の肺門・縦隔・鎖骨上窩のリンパ節における再発を「領域リンパ節再発」、それ以外の部位への転移を「遠隔再発」と分類した。領域リンパ節再発については、さらに「SND施行領域内のみ」、「SND施行領域外のみ」、「SND施行領域の内外両方」の3パターンに細分化した。

統計学的解析には SPSS Statistics Version 25.0 を使用した。患者背景の比較には chi-square test (カイ二乗検定) または Fisher’s exact (フィッシャーの直接確率検定) を用い、連続変数には Wilcoxon rank sum test を用いた。SND施行領域内におけるリンパ節再発の独立した危険因子を同定するため、多変数 logistic regression (ロジスティック回帰分析) を実施した。生存解析においては、全生存期間 (OS; overall survival) および無再発生存期間 (RFS; recurrence-free survival) の生存曲線を Kaplan-Meier 法によって推定し、群間比較には log-rank 検定を用いた。すべての統計学的検定において、P値が0.05未満の場合を有意差ありと定義した。なお、本研究のような後向き解析における局所制御の評価は、将来的なPORTの前向き臨床試験 (NCT00880971) などの治療開発における重要な基礎データとなる。