Article data
- 著者: Kurt A. Schalper, Jason Brown, Daniel Carvajal-Hausdorf, Joseph McLaughlin, Vamsidhar Velcheti, Konstantinos N. Syrigos, Roy S. Herbst, David L. Rimm
- Corresponding author: Kurt A. Schalper, MD, PhD (Department of Pathology, Yale University School of Medicine, New Haven, CT)
- 雑誌: Journal of the National Cancer Institute
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-03
- Article種別: 後ろ向きコホート研究 (組織マイクロアレイを用いた多重定量免疫蛍光解析)
- PMID: 25650315
背景
腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocytes; TIL) の増加が黒色腫・大腸癌・トリプルネガティブ乳癌など多様な悪性腫瘍において良好な臨床転帰と関連することは、Fridman ら (2012) が整理した免疫文脈 (immune contexture) の概念として体系化されており (Fridman et al. NatRevCancer 2012)、NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺癌) においても TIL 総数の増加が生存延長と関連する報告が蓄積していた。しかし、クロモジェニック免疫組織化学 (immunohistochemistry; IHC) で特定の TIL サブタイプを単独評価した先行研究では矛盾した結果が報告されており、一方は CD8+ TIL 高値が良好な予後と関連すると示す (Zhuang et al. 2010) 一方で、他の報告は CD8+ や CD4+ TIL の予後的意義を否定していた (Mori et al. 2000; Wakabayashi et al. 2003)。Hiraoka ら (2006) は CD8+ と CD4+ の同時高値のみが独立した予後改善をもたらすと 109 例の NSCLC で報告し、単独マーカー評価の限界を示唆した。
特定の TIL サブタイプが腫瘍内と周囲間質で異なる空間的分布をとり独立した生物学的役割を果たすこと、また三次リンパ組織構造 (tertiary lymphoid structures; TLS) の形成が予後と正の関連を示すことが、他の腫瘍型の研究から示唆されていた。免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitors; ICI)、特に抗 PD-1・抗 PD-L1・抗 CTLA-4 抗体が進行 NSCLC で持続的奏効を示し始め (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)、Tumeh ら (2014) は抗 PD-1 奏効患者で CD8+ TIL の腫瘍浸潤増加が関連することを示した (Tumeh et al. Nature 2014)。
しかし、複数の TIL サブタイプを同時かつ客観的に定量した大規模 NSCLC コホート研究は存在しないという知識の gap in knowledge が手薄であった。従来の H&E 染色による病理医スコアリングは半定量的で観察者間変動が大きく、IHC では 1-2 マーカーの同時評価のみ可能であり空間的区画を分離した定量が困難であった。国際 Immunoscore タスクフォース (Galon ら) が提唱した CD3/CD8 の標準化スコアは大腸癌に基づくものであり、NSCLC への適用と複数サブタイプの同時評価能力に限界があった。客観的・定量的な標準化 TIL 評価法の確立が急務であった。
目的
2 つの独立した大規模 NSCLC コホートを対象に、多重 QIF (quantitative immunofluorescence; 定量免疫蛍光法) を用いて CD3・CD8・CD20 陽性 TIL を腫瘍区画・間質区画別に同時客観定量し、各 TIL サブタイプ間の相関・臨床病理変数との関連・全生存に対する単変量および多変量予後的意義を独立コホートで検証することを目的とした。
結果
TIL サブタイプ間の低い相関と腫瘍内不均一性:
正常扁桃 FFPE 組織を陽性対照として各染色バッチに含め、CD3+ T 細胞の扁桃上皮内浸潤・CD20+ B 細胞リッチな胚中心含有濾胞・CD8+ 細胞の濾胞間域優位分布という既知の正常リンパ組織構成を正確に再現し、多重 QIF 染色の品質を確認した (Figure 1A)。NSCLC 検体では CD3+ TIL が腫瘍内・間質に広汎浸潤した症例 (Figure 1B) と、CD20+ B 細胞が TLS 様クラスターを形成した症例 (Figure 1C) が観察され、H&E 染色では両パターンの細胞種別識別が困難であることが視覚的に示された。
3 TIL マーカー間の線形回帰係数は両コホートで低値であった (YTMA79 (n=202): R²=0.19-0.22、P<0.001; YTMA140 (n=350): R²=0.23-0.32、P<0.001) (Figure 2)。マーカー間で最も高い相関は CD3 と CD8 の間であったが、それでも R²<0.32 と低値であった。同一マーカーの腫瘍区画と間質区画の相関も低中程度 (YTMA79: R²=0.30-0.69; YTMA140: R²=0.29-0.63) であり、TMA の異なるコア間の相関も低く、TIL 発現の高い腫瘍内不均一性が示された。3 マーカーが実質的に独立した生物学的情報を提供することが確認され、複数 TIL サブタイプの同時評価の意義が支持された。
単変量生存解析: CD3 と CD8 の両コホートでの再現性と H&E の限界:
Kaplan-Meier 分析により、CD3 高シグナルは両コホートで全生存延長と有意に関連した (YTMA79: log-rank P=0.009; YTMA140: log-rank P=0.041) (Figure 3A, E)。CD8 高シグナルも両コホートでより強い有意性で生存延長と関連した (YTMA79: log-rank P=0.004; YTMA140: log-rank P=0.002) (Figure 3B, F)。CD20 高シグナルは YTMA79 のみで有意な生存延長と関連し (log-rank P=0.004)、YTMA140 では有意差なし (log-rank P=0.293) であった (Figure 3C, G)。この不一致は CD20+ B 細胞が TLS を形成するクラスター状分布をとるため 0.6 mm TMA コアへの捕捉率が変動したためと考察された。一方、H&E 染色切片に対する病理医スコアリング (TIL 3+ = 高 TIL) は両コホートで生存との統計的有意な関連を認めなかった (YTMA79: log-rank P=0.117; YTMA140: log-rank P=0.091) (Figure 3D, H)。QIF が H&E を上回る予後情報を提供したことは、定量的客観評価の優位性を直接実証した。
多変量 Cox 解析: CD8 のみが両コホートで独立した予後因子:
年齢・腫瘍サイズ・喫煙歴・病期・組織型を補正した多変量 Cox 比例ハザードモデルにおいて、CD8 高シグナル群 vs 低シグナル群の比較で CD8 高値のみが両コホートで独立した予後因子として確認された [YTMA79: HR 0.533 (95% CI 0.280-0.968), P=0.03; YTMA140: HR 0.576 (95% CI 0.385-0.842), P=0.004] (Table 3)。病期 (III-IV 期 vs I-II 期) が全モデルで最強の独立予後因子であった (YTMA79 Model 2: HR=5.520、95% CI 2.627-11.483、P<0.0001; YTMA140: HR=2.089、P=0.0005)。CD3 高シグナルは YTMA79 のみで独立した予後因子 (HR=0.411、95% CI 0.192-0.821、P=0.011) であり、YTMA140 では有意差なし (P=0.173) であった。CD20 高シグナルも YTMA79 のみで独立した予後改善と関連し (HR=0.418、95% CI 0.222-0.754、P=0.003)、YTMA140 では有意差なし (P=0.33) であった (Table 3)。
臨床病理変数との関連と孤立した知見:
TIL サブタイプレベルと年齢・性別・腫瘍サイズ・病期との間に両コホートを通じて一貫した統計的有意な関連は認められなかった (Tables 1, 2)。孤立した有意な関連として、YTMA79 のみで高 CD8 と喫煙歴の関連 (P=0.03、YTMA140 では P=0.40)、YTMA140 のみで高 CD8 と腺癌 (adenocarcinoma; ADC) 組織型の関連 (P=0.01)、YTMA79 のみで高 CD20 と ADC 組織型の境界域関連 (P=0.05) が認められたが、いずれも対側コホートでは再現されず偶発的所見の可能性が高い。本後ろ向きコホートでは EGFR・KRAS・ALK・ROS1 等の分子プロファイル情報が欠如しており、TIL サブタイプと分子標的との関連は評価できなかった。
考察/結論
本研究は NSCLC において CD3・CD8・CD20 陽性 TIL を多重 QIF で同時客観定量した最大規模の 2 独立コホート検証研究であり、このような複数 TIL サブタイプの同時定量による両コホートでの独立した予後的再現性はこれまで報告されていない新規な知見である。既報のクロモジェニック IHC を用いた単一マーカー評価の先行研究と異なり、本法は腫瘍区画と間質区画を空間的に分離した定量が可能であり、標準化 QIF スコアにより客観性・再現性が大幅に向上した。H&E 主観スコアが生存予測で有意差に達しなかったのに対して QIF が明確な予後情報を提供した対照的な結果は、定量的客観評価プラットフォームの優位性と本研究の新規性を直接実証するものである。
CD8 が CD3・CD20 と対照的に両コホートで一貫して独立した予後因子であった背景には、CD3 が CD4+ 細胞・NKT (natural killer T) 細胞・γδT 細胞も含む異種集団を反映するのに対し、CD8+ 細胞傷害性 T 細胞 (cytotoxic T lymphocytes; CTL) は直接的な腫瘍細胞傷害能を持ち、抗原特異的腫瘍免疫編集の中心的エフェクターとしての機能を反映している可能性がある。CD20 の予後的意義が 1 コホートでのみ確認された点については、TLS を形成する CD20+ B 細胞クラスターの空間的分布不均一性が TMA コアへの捕捉率を左右した可能性が高く、TLS 評価には全組織切片評価が適切である。同様の知見として Al-Shibli ら (2008、n=335 NSCLC) でも高間質 CD4+/CD8+ 密度が多変量解析で独立した予後因子であったことは、CD8+ 細胞傷害性 T 細胞の中心的な役割を支持する。
臨床的意義として、CD8+ TIL の QIF 定量は NSCLC の予後層別化に応用できるバイオマーカー候補である。特に重要なのは Velcheti et al. LabInvest 2014 が同じ Yale の QIF プラットフォームで NSCLC における PD-L1 発現と TIL 増加の関連を示したこと、および Tumeh ら (2014) が抗 PD-1 奏効患者で CD8+ TIL の腫瘍浸潤増加を確認したことと組み合わせると、本研究の QIF 測定系が免疫チェックポイント阻害薬の治療応答予測に臨床応用できる基盤を提供する点である。腫瘍内 TIL の客観的 QIF 定量と PD-L1・IDO-1 (indoleamine 2,3-dioxygenase 1) 等の免疫抑制シグナルを多重評価した前向きコホートが今後の橋渡し研究として期待される。
残された課題と limitation として以下が挙げられる。第一に、後ろ向きコレクションであるため EGFR・KRAS・ALK・ROS1 等の分子プロファイル情報が欠如しており、分子サブグループ別の TIL 動態は不明である。第二に、TMA 使用に伴う腫瘍内不均一性の過大・過小評価リスクがあり、TLS のような大型リンパ球クラスターは 0.6 mm コアに捕捉されにくい。第三に、蛍光チャンネル数の制約から CD4+ T 細胞が評価対象外であり、制御性 T 細胞 (regulatory T cell; Treg) や CD4+/CD8+ 比の役割は今後の検討として残されている。第四に、本コホートは ICI 使用前の症例であり、QIF 定量 TIL の ICI 治療応答予測能の検証は、ICI 治療を受けた前向きコホートでの future research の課題として残されている。更なる検討として、QIF プラットフォームを全組織切片に適用した場合の TLS 評価も重要な方向性である。
結論として、NSCLC において多重 QIF で客観的に定量した CD8+ TIL のみが、年齢・病期・組織型を補正した多変量解析で 2 つの独立コホートにわたり一貫した独立予後因子であることが確認された (YTMA79: HR=0.533、95% CI 0.280-0.968; YTMA140: HR=0.576、95% CI 0.385-0.842)。H&E 主観スコアは有意な予後情報を提供できず、QIF による定量的客観評価の優位性が実証された。本 QIF プラットフォームは NSCLC の腫瘍免疫監視の客観的評価と ICI 応答予測のための標準化ツールとしての臨床的有用性を示す。
方法
患者・コホート・組織マイクロアレイ (tissue microarray; TMA): 2 つの後ろ向き NSCLC コレクションを使用した。YTMA79 (Yale Tissue Microarray 79) は Yale 大学病理科 (1988-2003 年) の NSCLC 202 例を含み、YTMA140 (Yale Tissue Microarray 140) はギリシャの 2 施設 (Sotiria 総合病院・Patras 大学総合病院、1991-2001 年) の NSCLC 350 例を含む (合計 n=552 例)。Yale Human Investigation Committee (protocol #9505008219) の倫理承認のもと実施した。TMA は各症例の腫瘍の異なる領域から 0.6 mm コアを最低 2 コア (最大 4 コア) 採取して作製した。YTMA79 では 13 例 (6.4%)、YTMA140 では 22 例 (6.3%) が第 1 ブロックで欠損・除外であった。
多重 QIF プロトコル: ホルマリン固定パラフィン包埋 (formalin-fixed paraffin-embedded; FFPE) 切片を脱パラフィン後、EDTA バッファー (pH 8.0、97°C、20 分) で抗原賦活化し、以下の逐次多重蛍光染色を実施した: サイトケラチン (clone M3515、1:100)・CD3 (IgG clone E272、1:100)・CD8 (IgG1 clone C8/144B、1:250)・CD20 (clone L26 (anti-human CD20 IgG2a antibody)、1:150)、核染色に DAPI (4’,6-Diamidino-2-Phenylindole) を使用した。各抗体に対し蛍光二次抗体とチラミド増幅 (tyramide amplification) 試薬を組み合わせ、インキュベーション間のペルオキシダーゼ活性はベンゾイル過酸化水素で消去した。AQUA (Automated Quantitative Analysis) システム (Genoptix 社) を用いて、サイトケラチン陽性域 (腫瘍区画)・陰性域 (間質区画)・DAPI 陽性域 (全組織) の 3 区画別に蛍光シグナル強度を定量し、露光時間・ビット深度で正規化した QIF スコアを算出した。正常扁桃 FFPE 切片を各バッチの陽性対照として含め再現性を確認した。
カットポイントと統計解析: TIL スコアを三分位 (tertile) で分割し、上位三分位を高値群・下位二分位を低値群と定義した。マーカー間の相関は線形回帰 (linear regression) で評価し R² 係数を算出した。臨床病理変数との関連は連続変数に Student’s t 検定・カテゴリ変数にカイ二乗検定を用いた。全生存は Kaplan-Meier 法・log-rank 検定で評価し、年齢・腫瘍サイズ・喫煙歴・病期・組織型を共変量とする Cox 比例ハザードモデルで多変量解析を行った。TIL マーカー間相関の補正のために 3 独立モデルを構築した。比例ハザードの仮定は Kaplan-Meier 曲線の非交差により確認した。全検定は両側検定 (P<0.05 を有意)。JMP Pro (statistical analysis software, SAS Institute) v9.0 と GraphPad Prism v6.0 を使用した。