• 著者: Sherman S, Rotem O, Shochat T, Zer A, Moore A, Dudnik E
  • Corresponding author: Elizabeth Dudnik (Thoracic Cancer Service, Davidoff Cancer Center, Rabin Medical Center, Petah Tikva, Israel)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32203769

背景

大細胞神経内分泌癌 (LCNEC: large cell neuroendocrine carcinoma) は全肺悪性腫瘍の3%未満を占める稀な腫瘍であり、2015年WHO分類では大型細胞かつ神経内分泌分化 (クロモグラニン・シナプトフィジン・CD56陽性) を有し、高い核分裂指数を示すものと定義される (Travis 2015 JThoracOncol)。症例の約20%はSCLC (small cell lung cancer) またはNSCLC (non-small cell lung cancer) 成分との混合型として発生する。LCNECはSCLCと同様に高侵襲性・高再発率・類似した転移パターンを示す一方、診断時の病期分布はNSCLCに近いという特異な臨床的位置付けを持つ。

分子的にはSCLC-likeサブタイプ (TP53+RB1共変異/喪失を特徴) とNSCLC-likeサブタイプ (KRAS・STK11・KEAP1変異を特徴) の2亜群が同定されており (Rekhtman 2016 ClinCancerRes、Derks 2018 ClinCancerRes)、これら分子サブタイプが化学療法の治療効果予測に関与することが示されていた。進行LCNECに対する白金系化学療法のORR (objective response rate) は37-52%、mPFS (median progression-free survival) は4.6-6.1ヶ月、mOS (median overall survival) は10.2-11.1ヶ月にとどまり、予後は依然として不良であった (Rossi 2005 JClinOncol、Naidoo 2016 ClinLungCancer)。

一方、抗PD-1/PD-L1 ICPi (immune checkpoint inhibitor) はNSCLCおよびSCLCで標準治療として確立されており (Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015Rittmeyer et al. Lancet 2017)、ICPi単剤または白金系化学療法との併用でOS延長が示されていた。しかしLCNECにおけるICPiの有効性に関するデータは症例報告 (Wang 2017 JImmunotherCancer、Chauhan 2018 Oncotarget) および学会発表のみの少数例シリーズ (Sabari 2018 JCO、Levra 2017 JThoracOncol) に限定されており、査読済み論文としての体系的な報告が存在せず、LCNECにおけるICPiの有効性は未解明のまま残されていた。特に、ICPiのOS改善効果・分子サブタイプ別のICPi感受性・PD-L1 TPS (tumor proportion score) との相関に関するエビデンスが決定的に不足しており、NSCLCを参照コホートとした定量的な直接比較が実施されていないことが、エビデンスに基づく治療推奨の構築を困難にしていた。

目的

(1) 進行LCNECにおけるICPi単剤/複数ICPi組み合わせのORR・PFS・mOSを評価すること、(2) ICPi投与LCNEC患者のmOSを非LCNEC肺癌のnivolumab投与コホートと比較すること、(3) ICPi投与群vs非投与群でのOS (advanced disease診断から) を比較し、ICPiがOSに与える影響を検討すること。

結果

患者背景とベースライン特性

ICPi投与群A1 (n=23) と非投与群A2 (n=14) のベースライン比較では (Table 1)、年齢中央値がA1で61歳 (範囲44-81歳)、A2で66歳 (範囲55-82歳) と有意にA1が若く (p=0.03)、治療ライン数もA1が有意に多かった (A1: 83%が2-4ライン vs A2: 79%が1ライン、p<0.001)。性別 (A1: 女性48% vs A2: 女性36%、p=0.51)、喫煙歴 (A1: 83% vs A2: 86%、p=1.0)、組織サブタイプ (p=0.52)、Ki-67 (cell proliferation index) 中央値 (A1: 80% [50-95%] vs A2: 50% [30-75%]、p=0.19)、脳転移割合 (A1: 31% vs A2: 14%、p=0.13)、ECOG PS (p=1.0) に有意差はなかった。PD-L1 TPS ≥50%はA1で13%、A2で0%であったが、両群とも多くの症例でPD-L1未検査 (A1 52%、A2 71%、p=0.29)。Group A1のICPi内訳はnivolumab 13例 (62%)、atezolizumab 4例 (19%)、pembrolizumab 2例 (9%)、durvalumab 1例 (5%)、nivolumab+ipilimumab 1例 (5%)。Group A1とGroup Bの比較では (Table 2)、年齢中央値がA1で62歳 (45-77歳)、B群で67歳 (41-99歳) と有意にA1が若く (p=0.004)、ICPi開始時ECOG PS 0/1はA1*で67%、B群で46%と数値的な差を認めたが統計的有意差には達しなかった (p=0.06)。

*ORRおよびPFS (Group A1、ICPi単剤/複数ICPi群)**:

Group A1* 21例中3例 (14%) はCT/PET-CT評価前に死亡。評価可能18例において、CR (complete response) 2例 (11%)、PR (partial response) 4例 (22%)、SD (stable disease) 1例 (6%)、PD (progressive disease) 11例 (61%) であった (Fig. 1A)。ORRは33%であった。奏効6例のうちPD-L1陰性腫瘍での奏効は2例 (うち1例がCR) であり、PD-L1 ≥50%での奏効は1例 (PR)、残る3例 (CR 1例含む) はPD-L1未検査であった。分子サブタイプが判明した症例では、NSCLC-likeサブタイプ4例中2例でPR (奏効率50%)、SCLC-likeサブタイプ2例では奏効なし。なお、TMB 11mut/MbのKRAS G12C変異腫瘍1例では奏効が得られなかった。Group A1*で疾患進行または死亡した患者は16例 (76%)、mPFSは4.2ヶ月 (95% CI 2.4-8.1) であった (Fig. 1B)。

OS with ICPi:LCNEC vs NSCLC比較

ICPi開始後の追跡期間中央値はGroup A1で6.2ヶ月 (IQR: interquartile range, 2.2-12.1)、Group Bで4.9ヶ月 (IQR 2.3-8.9)。観察期間中の死亡率はGroup A1で52%、Group Bで64%であった。mOS (ICPi開始から) はGroup A1で11.8ヶ月 (95% CI 3.7-NR)、Group Bで6.9ヶ月 (95% CI 5.5-8.1) で、log-rank検定では有意差なし (p=0.23) (Fig. 2A)。ECOG PS 0/1サブグループ (Group A1で14例 [67%]、Group Bで124例 [46%]) のサブセット解析では、mOS ICPiはGroup A1*で16.9ヶ月 (95% CI 6.2-NR)、Group Bで12.0ヶ月 (95% CI 7.3-15.3) であり、両群間に有意差はなかった (p=0.15) (Fig. 2B)。

OS since advanced disease diagnosis (Group A1 vs A2)

advanced disease診断からの追跡期間中央値はGroup A1で12.2ヶ月 (IQR 6.8-17.6)、Group A2で9.5ヶ月 (IQR 2.6-19.0)。Group A1での死亡率56%、Group A2で64%。Group A全体 (n=37) のmOSDxは12.7ヶ月 (95% CI 9.8-23.8) (Fig. 3A)。Group A1とA2の比較では、mOSDxはそれぞれ14.5ヶ月 (95% CI 10.1-38.9) vs 10.3ヶ月 (95% CI 2.6-NR) であり、有意差は認められなかった (p=0.54) (Fig. 3B)。Cox proportional-hazards modelによる単変量解析では、年齢 (p=0.98)、性別 (p=0.06)、喫煙歴 (p=0.74)、PD-L1発現 (p=0.97)、Ki-67 (p=0.21)、ECOG PS (p=0.13)、化学療法歴 (p=0.24)、ICPi投与 (p=0.52)、治療ライン数 (p=0.08) のいずれもOSDxと有意な相関を示さなかった。

*安全性プロファイル (Group A1)**:

Grade 2以上のirAEは2例 (9.5%) に発生。1例目: atezolizumab初回投与12日後にgrade 2腫瘍崩壊症候群とgrade 5免疫関連肝炎が発生し、高用量静脈内コルチコステロイド・補液・allopurinol・血液透析で腫瘍崩壊症候群パラメータは改善したが、トランスアミナーゼ上昇が持続し細菌感染を合併して死亡した。2例目: durvalumab開始2ヶ月後にgrade 2肺炎が発生し、durvalumabを休薬し経口コルチコステロイドで治療後に解消し、durvalumab再開後に肺炎の再発はなかった。

考察/結論

本研究は、進行LCNECにおけるICPi有効性を初めて査読済み論文として報告したものである。これまでの研究 (Sabari 2018、Levra 2017) と異なり、本研究ではNSCLC患者270例を参照コホートとした直接比較を設定し、ICPiのLCNECにおける位置づけをより客観的に評価した点で新規な試みである。ICPi単剤のORR 33%・mPFS 4.2ヶ月・mOS ICPi 11.8ヶ月 (95% CI 3.7-NR) という成績は、実臨床のNSCLC患者270例で得られたnivolumab単剤のmOS 6.9ヶ月 (95% CI 5.5-8.1) と統計的に同等であり (p=0.23)、LCNECがICPiに反応しうることを新規に示唆した。ECOG PS 0/1サブグループでもmOS 16.9ヶ月 (LCNEC) vs 12.0ヶ月 (NSCLC) と数値的なLCNEC優位傾向が示されたが有意差には達しなかった (p=0.15)。

既報との比較:Sabari et al.は進行LCNEC 15例でICPi投与のORR 13-43%・CRR (complete response rate) 13%を報告し、Levra et al.はLCNEC 10例でORR 60%・mPFS 14.2ヶ月と報告した。本研究のORR 33%はSabari et al.の範囲内に収まる。後者のコホートが成績良好だった理由は、患者が若くECOG PSが良好であったためと推定される。DART試験 (SWOG 1609、NCT03190213) ではnivolumab+ipilimumabを稀少腫瘍に投与し、肺LCNEC 3例中2例で奏効が得られており、これらの知見と総合してLCNECにおけるICPiの潜在的有用性が支持される。また atezolizumab投与後に急性腫瘍崩壊症候群が発生した1例は、LCNECにおけるICPiの強力な抗腫瘍活性を示唆する間接的な証拠ともなる。

臨床的意義:PD-L1発現とICPi効果の関係:本研究における臨床的意義の一つとして、PD-L1陰性腫瘍でも奏効 (CR含む、2例) が観察されたことが挙げられる。PD-L1 TPS ≥50%は全体の8%に過ぎず、既報の10-20%のPD-L1陽性率と一致する。この観察はLCNECにおけるICPiの効果がPD-L1発現に依存せず、むしろTMBとの相関が強い可能性を示す先行報告 (Wang 2017、Chauhan 2018) と整合性があり、LCNECの中央TBM (15.3 mut/Mb) がNSCLC (5.7 mut/Mb) より高いという既報データとも符合する。ただし、PD-L1検査未実施例が40%以上であり確定的な結論には至らない。

分子サブタイプとICPi感受性:NSCLC-like LCNECでICPiへの奏効傾向 (4例中2例PR、奏効率50%) が示され、SCLC-like (n=2) では奏効なしであった点は、Sabari 2018の既報と一致する。NSCLC-likeにおけるSTK11やKEAP1変異はNSCLCでは抗PD-1治療抵抗性と関連するとされるが (Gandhi et al. NEnglJMed 2018)、本研究ではNSCLC-like LCNECでこれらの変異存在下でも持続的な臨床効果を示した症例が報告されており、LCNECとNSCLCで免疫応答のメカニズムが部分的に異なる可能性が示唆される。一方、MMR欠損 (MMR deficiency) による奏効予測については Le et al. Science 2017 が示すように固形腫瘍全般でpembrolizumab感受性と関連するが、神経内分泌腫瘍におけるMMR欠損は2%未満と稀であり、本コホートでも該当例はなかった。

残された課題と今後の検討:本研究の主な limitation は、後ろ向き単施設研究の性質上、少数例 (ICPi単剤n=21)・群間のベースライン不均衡 (年齢・治療ライン数においてICPi群が有意に若く多ライン)・分子プロファイリングが9例 (39%) のみという点に加え、標準化された追跡方法と中央放射線学的評価の欠如にある。OSDx比較 (14.5 vs 10.3ヶ月、p=0.54) で有意差がなかった点も、これらの選択バイアスを反映している可能性が高い。残された課題としては、(1) LCNECにおけるICPiのOSへの真の影響を明らかにするための前向き無作為化試験の実施、(2) SCLC-like vs NSCLC-like分子サブタイプ別のICPi感受性の確立、(3) STK11/KEAP1変異の予測バイオマーカーとしての価値の検証、(4) ICPiと白金系化学療法の同時vs逐次使用の優劣という重要な問いが未解決のまま残されている。複数の前向き第II相試験 (NCT03352934、NCT03190213、NCT03136055、NCT03290079、NCT02834013) がLCNEC患者も対象に進行中であり、今後の検討によりこれらの知見が確認・拡張されることが期待される。

方法

後ろ向き単施設観察研究 (Davidoff Cancer Center、Rabin Medical Center、イスラエル)。本試験は後ろ向き観察研究であるため前向き登録試験番号 (NCT番号) は設定されていない。対象は2014-2019年に同センターのデータベースから同定された、組織学的に確認された進行LCNEC (混合LCNEC+SCLC成分を含む) の連続37例。LCNEC診断は33例で中央病理専門医による中央確認を実施し、残る4例は他の認定病理検査施設による報告に基づいた。

患者群の設定: Group A1 (ICPi-treated group, n=23)、Group A2 (ICPi-untreated group, n=14) に分類。Group A1* (ICPi-alone subgroup: ICPi monotherapy or multi-ICPi without concurrent chemotherapy, n=21) を別途定義して有効性解析の主要対象とした。比較対照としてGroup B (イスラエル5施設で2015-2016年にnivolumab単剤を投与された非LCNEC進行肺癌患者278例中の非LCNEC histology 270例) を設定した。

評価エンドポイント: ORRおよびPFSはRECIST (Revised Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1で評価 (研究者判定によるCT/PET-CT評価)。PFSはICPi開始から疾患進行・死亡・次治療開始までの期間 (最終追跡時に進行なく生存の場合は打ち切り)。mOS ICPi はICPi開始から死亡まで (同上で打ち切り)。OSDx (overall survival from advanced disease diagnosis) はadvanced disease診断から死亡まで。有害事象はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.03でグレード分類し、Grade 3-5のirAE (immune-related adverse event) を評価した。腫瘍のPD-L1発現は22C3 PharmDx抗体でTPSを測定 (検査実施例のみ)。TMB (tumor mutation burden) およびMSI (microsatellite instability)/MMR (mismatch repair) 検査はルーティンには実施されていない。

統計解析: SAS Software v9.4を使用。カテゴリ変数はFisher’s exact testおよびT-testで比較。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で推定し、群間比較にはlog-rank testを使用。OSDxの単変量・多変量解析にはCox proportional-hazards regression modelを適用。すべてのp値は両側検定に基づく。機関審査委員会 (IRB) の承認を各参加施設で取得した。