- 著者: Caroline E. McCoach, Collin M. Blakely, Kimberly C. Banks, Benjamin Levy, Victoria M. Raymond, Anh T. Le, Saiama N. Waqar, Dara L. Aisner, Kurtis D. Davies, Richard B. Lanman, Alice T. Shaw, Robert C. Doebele, et al.
- Corresponding author: Robert C. Doebele (University of Colorado Cancer Center)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 29599410
背景
ALK再構成陽性の進行NSCLCは、ALK inhibitor (ALKi) により著明な臨床的恩恵を受けることが複数の第III相試験で確立されている。Shaw et al. NEnglJMed 2013 はクリゾチニブ対化学療法でPFSの有意な改善を示し、Solomon et al. NEnglJMed 2014 の第III相試験もクリゾチニブの1次治療での有効性を確認した。しかし、ALKi治療を受けた患者は最終的に全例が治療抵抗性を獲得し、その後の最適治療の選択には耐性機序の同定が不可欠とされる。
耐性機序評価の標準戦略は進行病巣の組織再生検であるが、これには重大な制限が存在し、gap in knowledge となっていた。まず、腫瘍の最大25%において生検検体が分子解析に不十分・不適切であり、単一部位生検は腫瘍内不均一性を正確に反映できない。Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017 はNSCLCの腫瘍進化追跡研究においてクローン間の高い多様性を実証しており、単一生検の代表性に関する懸念を示していた。さらに再生検は気胸・出血・感染等の合併症リスクを伴う。
こうした背景から、cfDNA (無細胞腫瘍DNA、cell-free DNA) のNGS (次世代シーケンス、next-generation sequencing) が、腫瘍DNAを非侵襲的に取得・評価する方法として注目を集めた。EGFR変異NSCLCでは cfDNA解析の活性化変異検出・耐性機序評価への有用性が先行研究により示されていたが、ALK融合遺伝子への応用は大規模では評価されていなかった。102例コホートで2例、22例の縦断評価でALK融合が86%に検出可能と示した小規模研究はあったものの、ALK陽性NSCLCにおけるcfDNAを用いた薬剤耐性機序の評価は未報告であり、これが本研究における最大のevidence gapであった。
目的
Guardant360 (G360) cfDNA NGSパネルを用いて、ALK融合の血液中での検出とALKi治療後の獲得耐性機序の網羅的評価における臨床的有用性を、当時最大規模のコホートで検証する。
結果
ALK融合パートナー分布と新規診断コホートにおけるcfDNAの補完的有用性:88例から96件のALK融合が検出された。融合パートナーの内訳はEML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4)-ALKが最多で82件 (85.4%)、次いでSTRN-ALK 6件 (6.3%)、以下KLC1 (kinesin light chain 1)-ALK 4件、KIF5B (kinesin family member 5B)-ALK/KCNQ (potassium voltage-gated channel subfamily Q)-ALK/PPM1B (protein phosphatase 1B)-ALK/TFG (TRK-fused gene)-ALK各1件 (Table 2)。コホート1 (n=42) のうち、組織ALK検査結果が判明していた21例では、5例がFISH (蛍光in situハイブリダイゼーション、fluorescence in situ hybridization) 陽性、5例がFISH/NGS陰性、11例がQNS (quantity not sufficient、検体量不十分) であった (Fig. 2)。
組織FISH陰性であった5例のうち、臨床経過を追跡できた3例全員がcfDNA陽性を根拠にALKi (クリゾチニブ) 投与を開始し、臨床的奏効を示した。患者C1-2はEML4-ALK MAF 0.9%でクリゾチニブ開始後に著明な奏効を示し7か月継続、患者C1-3はMAF 0.3%でクリゾチニブへの持続的奏効を確認、患者C1-4はMAF 0.1%でクリゾチニブ後にalectinibへ移行し8か月安定を維持した。組織QNS例11例 (26%) ではcfDNAのみがALK融合を提供し、追加生検なしで治療選択が可能となった。コホート1全体でTP53変異が43% (18/42例) に同時検出されており、これはALK融合陽性NSCLCにおける既報頻度と一致していた (Fig. 2)。
ALKi耐性後コホートにおける高頻度多重耐性変異と腫瘍内不均一性の把握:ALKi治療後に進行したコホート2 (n=31, 34サンプル) において、16例 (52%) に1〜3個のALKキナーゼドメイン耐性変異が同定された (Fig. 3)。主要耐性変異はG1202R (8例)、F1174C/V/L (6例)、I1171T/N (5例) であった。特筆すべき知見として、耐性変異陽性16例のうち7例 (43.8%) が複数の同時ALK耐性変異を保有しており、cfDNA法での複数耐性変異保有率43.8% (7/16例) vs 組織生検法12.5% (6/48例) という顕著な差が示された。cfDNAは全身の腫瘍DNA脱落を統合して反映することで、単一病巣生検では捉えきれない組織内・転移間の不均一性を包括的に把握できると考えられる。
治療ライン別の耐性変異パターンも解析した。クリゾチニブを最終治療として受けた9例では2例 (22%) に耐性変異が検出されたのに対し、alectinibを最終治療とした7例では4例 (54%) に耐性変異が認められた。EML4-ALKのバリアント解析では、variant 3 (exon 6-20, n=8) でのG1202R検出率50% (4/8例) vs variant 1 (exon 13-20, n=9) の0% (0/9例) の差異は統計学的に有意であり (p=0.0186, Fisher’s exact test)、バリアント種別によって耐性変異の発生プロファイルが異なることが示された。また、3例 (C2-1、C2-2、C2-3) で縦断的cfDNA評価が実施されたが、いずれも2回目の評価で耐性変異スペクトルが完全に変化しており、特に患者C2-3ではcrizotinib後にF1174CがMAF 4.71%で出現、ceritinib/alectinib後にはF1174Cが消失しG1202RがMAF 0.29%で新たに出現という動的変化が確認された (Fig. 4)。
バイパス経路として、7例でRAS経路変異 (KRAS G12C/V 2例、HRAS Q61L 1例、KRAS G13C 1例) やBRAF V600E・EGFR E330K・METスプライス変異が追加検出された。5例ではALK融合がcfDNA検出域以下 (MAFが検出下限未満) でありつつも、ALKキナーゼドメイン耐性変異が陽性であり、融合の存在を間接的に示した。
EGFR TKI耐性後のSTRN-ALK融合獲得: 新規機序の発見:コホート4 (n=6) はEGFR活性化変異 (exon 19欠失4例、L858R 2例) 陽性NSCLCとして診断され、EGFR TKI治療後に進行した患者群であった (Fig. 6A)。cfDNA解析で全6例にALK融合が同定され、内訳はSTRN-ALK 4例、EML4-ALK+STRN-ALK 1例、EML4-ALK 1例であり、STRN-ALK融合イベントが計6件と圧倒的に多かった。さらに5/6例 (83%) でEGFR T790M耐性変異が同時検出された (4例cfDNA、1例組織)。
MAFの階層解析では、EGFR driver変異が最高MAF (クローナル)、T790M耐性変異が中間MAF (サブクローナル)、ALK融合が最低MAF (最もサブクローナル) という段階的な構造が示された (Fig. 6B)。この結果と、臨床情報が得られた3例 (C4-3、C4-4、C4-5) でいずれも初診時組織でALK FISH陰性であった事実を合わせると、ALK融合はEGFR-TKI選択圧下で新たに出現 (de novo) あるいは小サブクローンが選択的に増殖した可能性が高い。患者C4-3 (43歳男性) では、cfDNA上のSTRN-ALK融合がRNA-based NGS (FusionPlex Solid Tumor panel) およびALK IHC (D5F3抗体) の2種の独立した方法で確認された。同時にMET増幅 (FISH比 MET/CEP7 ratio 5.04) も検出され、osimertinib+crizotinib+放射線治療の複合療法を実施。治療は忍容性良好で8か月間の放射線学的安定維持を達成した。
考察/結論
本研究は、Guardant360 cfDNA解析がALK融合陽性NSCLCの初期診断支援および耐性機序の包括的評価において、臨床的有用性 (clinical utility) を持つことをこれまでの報告で最大規模のコホートで実証した最初の研究である。
これまでのALK耐性機序研究は主に単一病巣の組織生検に依存しており、複合耐性変異の検出率は6/48例 (12.5%) にとどまっていた。本研究のcfDNA解析では同率が7/16例 (43.8%) と顕著に高く、cfDNAが体内の複数腫瘍病巣由来DNAを統合的に反映する特性が、単一病巣生検では見逃されがちな腫瘍内・転移間の不均一性の把握を可能にすることを示した。既報の組織生検ベースの耐性解析 (Gainor et al. ClinCancerRes 2016) と統合すると、cfDNAは耐性クローンの全身分布を包括的に把握できるという新規の知見を本研究は提供した。
コホート4でのSTRN-ALK融合のEGFR TKI耐性後への集積は本研究で初めて示された知見であり、EGFR-TKI選択圧がSTRN-ALK融合を有するサブクローンを選択的に増幅させる可能性を提唱した。STRN-ALK融合は甲状腺がんでは報告されていたが、EGFR TKI耐性後のNSCLCにおける系統的出現は新規な発見である。また、EML4-ALK variantとG1202R変異の関連 (variant 3で50% vs variant 1で0%、p=0.0186) は、バリアント情報が次治療薬選択 (特に lorlatinib/brigatinib感受性が高いG1202R) に直結する可能性を示し、cfDNAによる高精度バリアント解析の臨床応用 (臨床的意義) を支持する。さらに、組織FISH陰性例3例が全員crizotinibへの奏効を示したことは、cfDNAをrule-in検査として補完的に使用することで不要な非ALKi治療 (免疫療法を含む) を回避できる臨床現場での具体的意義を示す。
一方、本研究にはいくつかのlimitation (残された課題) がある。第一に、後向き研究であり、患者の完全な治療歴・臨床転帰・組織検査モダリティが全例で検証できない。第二に、G360はALK融合の”rule-in”としての活用が適切であり、G360でALK融合が検出されない場合にALK陰性と結論づけることはできない (false negative rateが推定不能)。融合タンパクは検出が技術的に困難であり、cfDNAの断片化によって偽陰性が生じうる。第三に、STRN-ALK融合のALKi感受性・最適治療戦略については今後の検討が必要であり、EGFR TKI+ALKi併用療法のランダム化試験による前向き検証も未実施である。コホート4の6例でSTRN-ALKがEGFR TKI耐性の機序かどうか、あるいは並行して存在するサブクローンが治療圧で選択されたかを証明するために、初診時からの系列的な大規模縦断研究が求められる。
方法
後向きコホート研究。Guardant Health社のG360非特定化データベース (2015年2月〜2016年11月) から、NSCLCの診断を有しcfDNAにALK融合またはALKキナーゼドメイン変異が検出された連続症例を特定した。8,744例のNSCLC患者がG360検査を受け、そのうち91例がALK陽性として同定された。患者は提出時の臨床情報に基づき4コホートに分類した: コホート1 (新規診断またはALKi未投与, n=42)、コホート2 (ALKi治療後進行, n=31, 34サンプル)、コホート3 (臨床情報不明, n=13)、コホート4 (EGFR TKI治療後進行, n=6)。本研究はQuorum IRB (Institutional Review Board) の承認を得た。
G360パネルは、CLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments) 認定・CAP (College of American Pathologists) 認定・NYSDOH (New York State Department of Health) 承認の臨床検査。70遺伝子の点変異・18遺伝子のコピー数変化 (CNA, copy number alteration)・6遺伝子の融合遺伝子・3遺伝子の挿入欠失を検出し、146,000 bp (base pair) をカバーする。5〜30 ngのcfDNAをオリゴヌクレオチドバーコードでデジタルシーケンシングライブラリ化し、ビオチン化バイトで対象遺伝子を濃縮後、Illumina HiSeq 2500でpaired-end sequencingを実施、平均カバレッジ深度は10,000×を達成した。検出感度はSNV (single nucleotide variant)/fusion ≥0.04%、indel (insertion/deletion) ≥0.02%、CNA ≥2.12コピー。MAF (変異アレル頻度、mutant allele frequency) はその変異を有するcfDNA分子数÷総cfDNA分子数として算出した。
組織ALK評価 (FISH, NGS, IHCを含む) は担当医の判断で実施された。患者C4-3 (Cohort 4 Case 3) ではArcherDx社のFusionPlex Solid Tumorパネルを用いたRNA-based NGSによるSTRN (striatin)-ALK融合確認と、Ventana ALK D5F3抗体によるIHC (immunohistochemistry) 評価をUniversity of Colorado分子相関研究室で実施した。統計解析はFisher’s exact testおよび記述統計を用いた。