- 著者: Gonzalo Recondo, Fabrice Mezquita, Anastasios Facchinetti, Laura Planchard, Lizza Hendriks, Edouard Lena, Jordi Remon, Claudio Nicotra, Laura Rizzo, Nathalie Abou-Lovergne, Eric Rouleau, Florent Gougis, Pierre Saintigny, Jean-Charles Soria, Benjamin Besse, Alexandro Falchook, David Planchard, Laura Mezquita, Luc Friboulet
- Corresponding author: Luc Friboulet (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-01-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 31585938
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、肺腺癌の3〜6%に認められる主要なドライバー変異であり、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) はこれらの患者に対して高い治療効果を示す。第1世代ALK-TKIであるクリゾチニブ (crizotinib) の登場以来、アレクチニブ (alectinib)、ブリガチニブ (brigatinib)、セリチニブ (ceritinib) といった第2世代ALK-TKIが開発され、クリゾチニブ耐性後の患者の予後を改善してきた。しかし、これらの第1世代および第2世代ALK-TKIに対する獲得耐性が臨床的に大きな課題として浮上し、新たな治療戦略が求められていた。例えば、Katayama et al. SciTranslMed 2012 や Gainor et al. CancerDiscov 2016 では、クリゾチニブや第2世代ALK-TKIに対する耐性メカニズムが詳細に報告されている。
ロルラチニブ (lorlatinib) は、第3世代のALK-TKIであり、第1世代および第2世代ALK-TKIに耐性を示したALK再構成肺癌患者に対して、特にG1202R変異を含む広範なALK二次変異を克服する強力な活性を持つことが報告されている Zou et al. CancerCell 2015。また、脳転移に対しても顕著な活性を示すことが臨床試験で示されており Shaw et al. LancetOncol 2017、多剤前治療歴のある患者における奏効率は39%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は6.9ヶ月であった Solomon et al. LancetOncol 2018。これらの優れた臨床成績により、ロルラチニブはクリゾチニブおよび第2世代ALK-TKI治療後に進行した患者、あるいはセリチニブまたはアレクチニブによる初回治療後に進行した患者に対する新たな標準治療としてFDAの承認を得ている。
しかし、他のALK-TKIと同様に、ロルラチニブに対する獲得耐性も必然的に発生し、その耐性メカニズムの解明が急務であった。先行研究では、ALKキナーゼドメインにおける複数の変異が同一アレル上に連続して蓄積する「複合変異 (compound ALK mutation)」が、ロルラチニブ耐性の約35%を占めることが報告されている Yoda et al. Cancer Discov 2018。しかし、複合変異以外の耐性メカニズムについては未解明な点が多く、ロルラチニブ耐性の全貌を理解するためには、さらなる分子プロファイリングが必要であった。特に、ALK-TKI治療を重ねるごとに耐性機序が複雑化し、複合ALK変異やバイパスシグナル経路の活性化が蓄積することが示唆されており、これらの多様なメカニズムを包括的に解析し、それぞれに対応する克服戦略を開発することが喫緊の課題として残されていた。これまでの研究では、ロルラチニブ耐性機序の多様性と、それぞれの機序を標的とした克服戦略が十分に確立されておらず、この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な動機付けであった。
本研究は、Gustave Roussy Cancer Campusが実施する前向き耐性解析コホートであるMATCH-R (Molecularly Targeted Therapies in Cancer Patients Presenting Resistance to First-Line Treatment) 試験の枠組みを利用し、ロルラチニブ耐性ALK陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者における多様な耐性メカニズムを同定し、これらの機序を標的とした新たな治療戦略を設計することを目的とした。これまでの研究では、ロルラチニブ耐性機序の多様性と、それぞれの機序を標的とした克服戦略が十分に確立されておらず、この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な動機付けであった。
目的
本研究の目的は、MATCH-R試験 (NCT02517892) に登録されたロルラチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者の臨床および分子プロファイリングを詳細に実施し、ロルララチニブに対する多様な獲得耐性メカニズムを同定することである。さらに、同定された各耐性メカニズムに対して、患者由来細胞モデルおよびPDX (patient-derived xenograft) モデルを用いて、前臨床的に有効な克服戦略を検証することを目指した。具体的には、EMT (上皮間葉転換) 媒介耐性、新規ALK複合変異、およびNF2機能喪失によるバイパス耐性といった、これまで十分に特徴付けられていなかった耐性経路を解明し、それぞれの経路を標的とする個別化治療戦略の可能性を評価することを目的とした。本研究は、ロルラチニブ耐性における分子レベルでの知識ギャップを埋め、臨床応用可能な新たな治療戦略を開発することを目指した。
結果
ロルラチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者5例 (MR57, MR135, MR144, MR210, MR347) の解析から、以下の3種の独立した耐性メカニズムが同定された。
上皮間葉転換 (EMT) 媒介耐性 (MR57、MR210の2例): MR57患者は、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ロルラチニブと多剤前治療後に進行した。ロルラチニブ耐性時の生検では、Vimentin高発現、E-cadherin低発現というEMTシグネチャーが確認された。ALKキナーゼドメインにはC1156Y/G1269Aの複合変異が検出されたが、この複合変異はBa/F3細胞モデルにおいてロルラチニブ感受性を維持しており (IC50 53 nmol/L)、耐性の主因ではないと考えられた (Figure 2A, B)。RNA-seq解析ではSRC経路の顕著な活性化が確認された。MR57由来の患者由来細胞株 (PDC) であるMR57-R細胞を用いた薬剤感受性試験では、SRC阻害薬サラカチニブ (saracatinib) とロルラチニブの併用により、単剤に比べて著明な増殖抑制効果 (相乗効果、Bliss synergy score >10) が認められた (Figure 2E)。これは、EMTを介した耐性においてSRC阻害が有効な戦略であることを示唆する。 MR210患者は、アレクチニブ、ロルラチニブ後に進行し、生検でEMTシグネチャーが確認された (Figure 2C)。同様にSRC経路の活性化を伴い、サラカチニブとロルラチニブの併用で感受性回復が確認された (Figure 2F)。MR210細胞はロルラチニブに直接耐性を示し、MR57と同様にEMT特徴を呈した。ファロイジン染色によりアクチンストレスファイバーの存在と間葉系表現型が確認された (Figure 2D)。免疫組織化学 (IHC) 解析では、前クリゾチニブ検体と後ロルラチニブ検体でE-cadherinおよびN-cadherinの発現強度は類似していたが、後ロルラチニブ検体でVimentin発現の増加が観察され、腫瘍における部分的なEMTの存在が示唆された (Supplementary Figure S1G)。
NF2機能喪失変異によるバイパス耐性 (MR135の1例): MR135患者は、クリゾチニブ、ロルラチニブ後に進行した (Figure 4A)。ロルラチニブ治療中に採取された2カ所の異なる生検部位 (左鎖骨上リンパ節と椎体転移) から、それぞれ独立した異なるNF2機能喪失変異 (Exon 5 splicing mutation、Exon 8 frameshift mutation) が検出された。これらの変異は相互に排他的であり、ロルラチニブ治療下での独立した収束進化 (convergent evolution) による並行選択を示唆する。NF2はHippo経路の腫瘍抑制因子であり、その機能喪失はmTOR経路の活性化をもたらすことが知られている。 H3122細胞でのCRISPR/Cas9 NF2ノックアウト (KO) 実験では、NF2 KO H3122細胞のロルラチニブIC50は1.3 nMから41.8 nMへと大幅に上昇し (約32倍)、ロルラチニブ耐性を獲得した (Figure 4F)。mTOR阻害薬ビスタセルチブ (vistusertib) 単剤またはロルラチニブ+ビスタセルチブ併用により、IC50は著明に低下し (約5 nMへ回復)、感受性が回復した (Figure 4G)。 PDX (MR135-R2) モデルでのin vivo試験では、ロルラチニブ単剤およびビスタセルチブ単剤では腫瘍縮小効果が不十分であった (腫瘍体積変化 <−20%)。しかし、ロルラチニブ+ビスタセルチブ併用療法では著明な腫瘍縮小 (>−50%) を達成し、相乗的な抗腫瘍効果が確認された (Figure 4D)。この併用療法は、単剤療法と比較して統計学的に有意な腫瘍増殖抑制効果を示し (p < 0.001)、NF2機能喪失によるロルラチニブ耐性に対してmTOR阻害が有効な克服戦略であることを明確に示した。
新規ALK複合変異 (MR144、MR347の2例): MR144患者は、クリゾチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブと多剤前治療後に進行した (Figure 3A)。ロルラチニブ耐性時にF1174L/G1202R複合変異を検出した。Ba/F3モデルでのIC50解析では、G1202R単変異はロルラチニブにより克服可能であったが (IC50 約5 nM)、F1174L/G1202R複合変異ではIC50が約62 nMへ中等度上昇し、軽度なロルラチニブ耐性を示した (Figure 3D)。患者はロルラチニブに対して部分的な感受性を維持し、臨床的には「軽度耐性」の経過を辿った。ctDNA解析では、生検では検出されなかった複数のALKキナーゼ変異 (C1156Y, G1269A, S1206F, T1151M) が検出され、腫瘍内不均一性を示唆した。FishPlotモデルによる腫瘍クローン進化解析では、クリゾチニブ耐性時にG1202RおよびE1154K変異クローンが出現し、ブリガチニブ治療後にG1202Rクローンが優勢となり、ロルラチニブ耐性時にG1202RクローンからF1174L変異を獲得したサブクローンが出現する動態が示された (Figure 3B)。
MR347患者は、セリチニブ、ロルラチニブ後に進行した (Figure 3C)。L1196M/D1203N複合変異を検出した。Ba/F3モデルにおいて、L1196M/D1203N複合変異のロルラチニブIC50は>300 nMであり、単変異 (L1196M: 約8 nM、D1203N: 約15 nM) と比較して劇的な上昇を示した (Figure 3E)。この患者はロルラチニブに対して原発性耐性 (進行期間 <3ヶ月) を示し、既存のALK-TKIではこの複合変異を克服することは困難であることが示唆された。
腫瘍内不均一性: MR135患者の2カ所の生検部位で独立したNF2変異が検出されたことは、ロルラチニブ耐性機序が単一腫瘍内でも空間的に多様である可能性を示唆する。また、MR57患者において複合ALK変異とEMTが共存していたことは、複数の耐性機序が同一患者内で並行して機能しうることを示唆する。
考察/結論
本研究は、MATCH-R前向き試験 (NCT02517892) の枠組みで実施された、ロルラチニブ耐性ALK陽性NSCLCの最初の系統的解析の一つである。5例という少数コホートながら、EMT媒介耐性、NF2機能喪失、新規ALK複合変異という3つの独立した耐性メカニズムを明確に区別し、各機序に対する「機序特異的な克服戦略」を前臨床およびPDXモデルで実証した点に最大の意義がある。
先行研究との違い: これまでの研究では、ロルラチニブ耐性機序として主にALK複合変異が注目されてきたが Yoda et al. Cancer Discov 2018、本研究はそれに加えてEMT媒介耐性やNF2機能喪失といった非ALK経路の関与を詳細に解明した点で、これまでの報告と異なる新たな知見を提供する。特に、NF2機能喪失がロルラチニブ耐性を引き起こし、mTOR阻害薬によって克服可能であることを示した点は、これまで報告されていない新規のバイパス耐性メカニズムである。
新規性: 本研究で初めて、ロルラチニブ耐性におけるNF2機能喪失の役割を同定し、mTOR阻害薬が有効な治療戦略となりうることを実証した。MR135患者の2カ所の生検部位で独立したNF2変異が収束進化的に出現したことは、ロルラチニブ存在下でNF2喪失が強い選択圧を受けることを示唆する重要な新規知見である。また、L1196M/D1203N複合変異が単変異と比較してロルラチニブ感受性を20倍以上劇的に低下させるという知見は、複合変異の薬剤感受性が単純な相加的変化ではなく、構造的相互作用によって劇的に変化しうることを示す新規の発見である。これは、TPX-0131やNVL-655などの第4世代ALK-TKI開発の分子的根拠となっている。
臨床応用: 本研究の知見は、ロルラチニブ耐性後の次治療選択において、耐性機序に基づく個別化治療戦略の設計に大きく貢献する。具体的には、EMT媒介耐性 (SRC活性化を伴う) 患者に対してはサラカチニブとロルラチニブの併用、NF2機能喪失患者に対してはロルラチニブとmTOR阻害薬 (ビスタセルチブ) の併用、そして特定のALK複合変異 (L1196M/D1203Nなど) 患者に対しては新規次世代ALK-TKIへの切り替えといった、機序特異的な治療選択肢を臨床現場に提供する可能性を秘めている。MATCH-R試験のような「前向き生検+患者由来モデル樹立」というデザインは、耐性研究の方法論的模範として、今後の精密医療試験に広く採用されるべきである。
残された課題: 本研究のlimitationとして、解析対象患者数が5例と少ない点が挙げられる。より大規模なコホートでの検証が必要である。また、ロルラチニブ治療前の腫瘍生検や血漿サンプルが全例で利用可能ではなかったため、ベースラインのゲノム異常がロルラチニブ耐性に与える影響を完全に解析することはできなかった。さらに、患者由来細胞株の樹立過程におけるin vitroでの選択圧や薬剤曝露が、より攻撃的な腫瘍細胞の増殖やEMT特徴の獲得を促進した可能性も否定できない。今後の検討課題として、長期的なロルラチニブ治療効果を示した患者における耐性メカニズムの全貌を解明すること、およびこれらの前臨床的知見を臨床試験で検証することが挙げられる。
方法
本研究では、Gustave Roussy Cancer Campusで実施中のMATCH-R前向き試験 (NCT02517892) に登録されたロルラチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者5例 (MR57, MR135, MR144, MR210, MR347) を対象として解析した。本試験は単施設での前向き試験であり、進行癌患者における分子標的薬耐性メカニズムの同定を目的としている。
腫瘍生検と分子プロファイリング: 各患者のロルラチニブ進行時 (および可能な場合は治療前) の腫瘍生検組織を採取した。これらの生検サンプルに対して、以下の包括的な分子プロファイリングを実施した。
- 次世代シーケンシング (NGS): Foundation One CDx、Caris LifeSciences、または施設内腫瘍ボードNGSパネルを用いて、標的遺伝子の変異を検出した。
- 全エクソームシーケンシング (WES): 平均カバレッジ140xで実施し、広範な遺伝子変異を同定した。
- RNAシーケンシング (RNA-seq): バイパス経路の活性化、EMTシグネチャー、および遺伝子発現プロファイルを評価した。
- 免疫組織化学 (IHC): Vimentin、E-cadherin、ALK、pALK、pSRC、pMAPK、Merlinなどのタンパク質発現を評価し、EMTやシグナル経路の活性化状態を検証した。
- 循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析: 患者の血液サンプルからctDNAを抽出し、Inivata社のamplicon-based NGS (InVisionFirst-Lung) を用いて分子解析を実施し、腫瘍内不均一性やクローン進化を評価した。
患者由来モデルの樹立と薬剤感受性試験:
- 患者由来細胞株 (PDC) の樹立: 採取した腫瘍組織から酵素消化と機械的解離によりPDC (MR57-S, MR57-R, MR135-R1, MR135-R2, MR210) を樹立した。これらの細胞株は、安定した腫瘍細胞の増殖が確認されるまで、特定の培養条件で維持された。
- Ba/F3細胞モデル: EML4-ALK融合遺伝子および様々なALKキナーゼドメイン変異 (単変異および複合変異) を発現するBa/F3細胞を樹立し、各変異のロルラチニブ感受性への影響を評価した。
- 薬剤感受性試験: 各患者の推定される耐性メカニズムに基づき、PDCおよびBa/F3細胞を用いて、ALK阻害薬単剤 (ロルラチニブ、クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、セリチニブ、エンテレクチニブ) およびコンビネーション療法 (saracatinib + lorlatinib、vistusertib + lorlatinib、dasatinib + lorlatinib、erdafitinib + lorlatinib、Debio-1347 + lorlatinib、ponatinib + lorlatinib) の薬剤感受性をCellTiter Glo Luminescent Cell Viability Assayを用いて評価した。アポトーシスはCaspase-Glo 3/7 Assayで測定した。
NF2機能喪失の機能的役割検証:
- CRISPR/Cas9 NF2ノックアウト (KO): ALK再構成H3122細胞においてCRISPR/Cas9システムを用いてNF2遺伝子をノックアウトし、NF2機能喪失がロルラチニブ感受性に与える影響を評価した。NF2 KO H3122細胞におけるmTOR阻害薬 (vistusertib) との組み合わせ感受性を評価した。
- PDXモデルでのin vivo投与実験: MR135-R2 PDXモデルを担癌したヌードマウスを用いて、ロルラチニブ単剤、vistusertib単剤、およびロルラチニブ+vistusertib併用投与の腫瘍縮小効果を比較した。腫瘍体積を測定し、統計解析にはP値<0.001を統計的有意と判断した。
分子モデリングとクローン進化解析:
- ALK計算モデリング: ALKキナーゼドメインの三次元構造モデルを構築し、アミノ酸変異の役割を評価した。分子動力学 (MD) シミュレーションを用いて、再構築されたモデルの幾何学的最適化と安定性を予測した。
- 腫瘍クローン進化モデリング: 連続生検から得られたRNAシーケンシングデータを用いて、R-SciCloneクラスタリング解析およびR-clonevol/R-fishplotを用いて、腫瘍のサブクローン進化系統樹を決定し可視化した。