- 著者: Katayama R, Shaw AT, Khan TM, Mino-Kenudson M, Solomon BJ, Halmos B, Jessop NA, Wain JC, Yeo AT, Benes C, Drew L, Saeh JC, Crosby C, Sequist LV, Iafrate AJ, Engelman JA
- Corresponding author: Jeffrey A. Engelman (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-02-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 22277784
背景
ALK遺伝子再配列は非小細胞肺癌(NSCLC)の3〜5%に認められ、EML4-ALK融合遺伝子はこれらの患者において強力な発癌ドライバーとして機能することが知られている。この融合遺伝子を持つ癌細胞は、ALKキナーゼ活性に依存しており、ALK阻害薬に対して高い感受性を示す。実際に、ALKチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるクリゾチニブは、第I相試験において客観的奏効率(ORR)56%、無増悪生存期間(PFS)中央値10か月という顕著な臨床効果を示し、2011年に米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認を取得した(Kwak et al. NEnglJMed 2010)。しかし、クリゾチニブによる治療を受けたほとんどの患者は、通常1年以内に後天性耐性を獲得し、病勢が進行する。この薬剤耐性の出現は、標的治療の長期的な臨床的有用性を制限する主要な課題であった。
当時までに、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLC患者における耐性機序に関する報告はわずか2例に過ぎなかった。具体的には、ALKキナーゼドメイン内の二次変異としてL1196MとC1156Yの複合変異、またはL1152R変異が報告されていた(Choi et al. NEnglJMed 2010)。また、in vitroの細胞株実験では、上皮成長因子受容体(EGFR)の活性化がクリゾチニブ耐性を媒介する可能性が示唆されていたものの、患者検体を用いた体系的な耐性機序の解析は実施されていなかった。EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR TKI耐性では、T790M変異が90%以上の症例で認められる支配的な耐性変異であるのに対し、ALK陽性NSCLCにおける耐性機序の多様性、各機序の頻度、および次世代ALK-TKIに対する感受性への影響は、依然として未解明であった。これらの知識の不足は、クリゾチニブ耐性患者に対する最適な治療戦略を確立する上で大きな課題となっていた。例えば、EGFR TKI耐性ではMET増幅によるバイパス経路の活性化が報告されており(Engelman et al. Science 2007)、ALK阻害薬においても同様のバイパス経路が存在する可能性が示唆されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的として、クリゾチニブ耐性患者の生検シリーズを詳細に解析した。
目的
本研究の目的は、クリゾチニブ後天性耐性を示したALK陽性NSCLC患者18例の連続生検シリーズ(NCT01234567)を解析することにより、以下の点を明らかにすることである。(1) ALKキナーゼドメイン二次変異、ALK遺伝子増幅、およびEGFRやKITなどのバイパスシグナル経路の活性化を含む、多様な耐性機序を体系的に同定すること。(2) 同定されたALK耐性変異体およびALK増幅に対して、NVP-TAE684、CH5424802(後のアレクチニブ)、ASP-3026といった次世代ALK阻害薬、およびHsp90 (heat shock protein 90) 阻害薬である17-AAG (17-allylamino-17-demethoxygeldanamycin) が示す感受性プロファイルを比較し、その治療的意義を評価すること。(3) in vitroモデル(H3122 CR (crizotinib-resistant) 細胞株)を用いて、クリゾチニブ耐性機序の多様性や複数機序の共存を再現し、それらの耐性機序に対する治療戦略の有効性を評価すること。最終的に、これらの知見に基づき、クリゾチニブ耐性患者における個別化治療戦略の根拠を確立することを目指した。
結果
ALK変異および増幅の同定(患者シリーズ): クリゾチニブ耐性を示した患者18例中、4例(22%)でALKキナーゼドメインの二次変異が同定された。これらの変異は、既報のゲートキーパー変異であるL1196M(1例)、溶媒前面変異であるG1202R(1例)、同じく溶媒前面変異であるS1206Y(1例)、および新規のスレオニン挿入変異である1151Tins(1例)であった。さらに、15例で実施されたALK FISH解析により、1例で高レベルのALK遺伝子増幅(野生型ALK)が確認された。合計で5例(18例中28%)において、ALK遺伝子の変化が耐性機序として特定された。クリゾチニブ治療前の対応検体3例の解析では、これらの変異は治療前には検出されず、クリゾチニブ治療中にde novoで出現したことが確認された。PyMOLによる3D構造マッピングでは、L1196M、G1202R、S1206Y、1151Tinsの全ての変異がATP結合ポケット近傍に集簇していることが示された (Fig. 1B)。
次世代ALK阻害薬への感受性プロファイル(Ba/F3およびH3122 CRモデル): 各ALK耐性変異体を発現するBa/F3細胞を用いた薬剤感受性試験では、変異の種類によって次世代ALK阻害薬に対する感受性が異なることが明らかになった (Fig. 1E)。L1196Mゲートキーパー変異はクリゾチニブに高度耐性を示したが、NVP-TAE684およびHsp90阻害薬17-AAGには感受性を示した(NVP-TAE684のIC50は野生型EML4-ALKと比較して約4倍の増加)。G1202R溶媒前面変異はNVP-TAE684およびCH5424802に高度耐性を示したが、ASP-3026に対しては比較的軽度な耐性(IC50シフト約4倍)であり、17-AAGには感受性を示した。S1206Y溶媒前面変異は4つの変異の中で最もクリゾチニブ耐性が低く、NVP-TAE684およびCH5424802に対しても部分的に感受性を維持した。1151Tins変異は4つの変異の中で最も高度なクリゾチニブ耐性を示し、検討した全てのALK阻害薬(NVP-TAE684、CH5424802、ASP-3026)に対しても著明な耐性を示した。この変異体に対しては、17-AAGのみが有効であった。H3122 CR2細胞(1151Tins変異保有)でも同様に、全てのALK-TKIに高度耐性を示し、17-AAGに感受性を示すことが確認された。CH5424802はS1206Y変異型および野生型EML4-ALKに対して高い活性を示したが、L1196M、G1202R、1151Tins変異型に対しては活性が低下した。Hsp90阻害薬17-AAGは、野生型および4種類の変異型EML4-ALKの全てに対して、野生型と同等の高い活性を示した(IC50値は野生型EML4-ALKで約100 nM)。
EGFRバイパス耐性(患者および細胞株): ALK変異を持たないH3122 CR3細胞株では、phospho-RTKアレイおよびウェスタンブロット解析により、EGFRおよびERBB3の高リン酸化が確認された (Fig. 3A, B)。クリゾチニブ存在下でもAKTおよびERK経路の活性が維持されており、これはALK非依存的なシグナル伝達を示唆する。H3122 CR3細胞では、EGFR mRNA、EGFRリガンドであるアンフィレギュリン、およびERBB3リガンドであるNRG1の遺伝子発現上昇が認められたが、EGFR変異や増幅は検出されなかった。クリゾチニブ単剤またはゲフィチニブ単剤ではH3122 CR3細胞の増殖は抑制されなかったが、クリゾチニブとゲフィチニブ(またはエルロチニブ)の併用によりAKT/ERKの抑制と増殖抑制が確認された (Fig. 3C)。しかし、アポトーシス誘導は親株のクリゾチニブ単剤治療と比較して著明に低下しており、これはBIM mRNAおよびタンパク質発現の低下が原因である可能性が示唆された。患者検体では、9例のクリゾチニブ治療前後のペア検体のうち4例で、耐性検体においてphospho-EGFRの増強がIHCで確認された (Fig. 3F)。このうち1例(MGH021)はALK二次変異(1151Tins)も同時に保有しており、複数耐性機序の共存が示唆された。耐性検体全体では、ほぼ全例でphospho-EGFR陽性(1+〜2+)であった。
KIT増幅によるバイパス耐性(患者および細胞株): 患者MGH0NZのクリゾチニブ耐性検体(20か月後)では、固形成長パターンを示す腫瘍成分においてKIT遺伝子増幅(FISH)およびKITタンパク質発現増強が確認された (Fig. 4B, C)。また、この成分の腫瘍間質細胞ではKITリガンドであるSCFの発現増強が認められ、Ki67陽性率も高かった。同一検体のBAC(細気管支肺胞上皮癌)成分ではKIT増幅は認められず、代わりにEGFR活性化が確認された。これは、同一患者の腫瘍内で空間的に異なる2つの耐性機序が共存していることを示唆する。H3122細胞にKITを過剰発現させた実験では、SCF非存在下ではクリゾチニブ感受性が維持されたが、SCF添加によりクリゾチニブ耐性(AKTおよびERK経路の活性維持)が誘導された。この耐性は、KIT阻害薬であるイマチニブの追加により完全に回復した (Fig. 4D, E)。さらに、別の患者MGH018では、KITの焦点増幅とALK二次変異(G1202R)が同時に認められた。これらの結果は、クリゾチニブ治療後のPFS中央値が10.5か月であり、耐性機序の多様性がその短命な効果の一因であることを示唆する。
同一患者・同一細胞株内での複数耐性機序の共存: H3122細胞株から3種類の独立した耐性細胞株(L1196M、1151Tins、EGFR活性化)が樹立されたことは、単一の細胞株が複数の異なる耐性機序を生じうることを実証した。患者検体においても、MGH0NZ、MGH018、MGH021の各症例で複数耐性機序の共存が確認された。例えばMGH0NZ患者では、固形成分でKIT増幅、BAC成分でEGFR活性化が認められた。
考察/結論
本研究は、クリゾチニブ後天性耐性ALK陽性NSCLC患者における最初の体系的な多例解析であり、ALK陽性NSCLCの耐性機序が極めて多様であることを初めて明確に示した。EGFR変異NSCLCにおいてT790Mが圧倒的に支配的な耐性変異であるのとは対照的に、本研究ではALKキナーゼドメイン変異が認められたのは18例中4例(22%)に過ぎず、かつ変異の種類もL1196M、G1202R、S1206Y、1151Tinsと多様であった。この多様性は、BCR-ABL/イマチニブ耐性における二次変異の多様性と類似している。On-target耐性(ALK変異または増幅)が検出されなかった多数の症例(72%)では、off-target耐性機序(EGFR、KIT、その他)の重要性が示唆され、各患者で耐性生検を実施して個別化治療選択を行うことの必要性が強調された。
新規性: 本研究で初めて、1151Tinsという新規のALK挿入変異を同定し、この変異が全ての次世代ALK阻害薬に対して高度な耐性を付与することを示した。また、G1202R変異もNVP-TAE684およびCH5424802に対し高度耐性を示すことが新規に明らかにされた。Hsp90阻害薬17-AAGが、変異の種類を問わず全ての変異型ALKに対して野生型と同等の高い活性を示した点は新規性があり、特に1151Tinsのように第二・三世代ALK-TKIに対しても高度耐性を示す患者への代替戦略として有望であることを示唆した。
臨床応用: 本研究で示された次世代ALK阻害薬の変異特異的な感受性差は、実臨床への重要な含意を持つ。例えば、CH5424802(アレクチニブ)はS1206Y変異型および野生型ALKに対して高活性を示すが、1151Tins、G1202R、L1196M変異型に対しては相対的に活性が低下する。特にG1202R変異は、検討した全ての第二世代ALK-TKIに高度耐性を示し、これは後の臨床でロルラチニブのみが克服可能と判明する逐次的ALK-TKI耐性の課題として現実化した。同一患者内および同一細胞株内での複数耐性機序の共存という発見は、耐性克服には単剤による次世代ALK-TKIではなく、耐性機序に応じた組み合わせ療法が必要であるという重要な概念的教訓を提示した。この知見は、これまでの単一標的治療の限界を浮き彫りにし、より複雑な治療戦略の臨床応用を促すものである。
残された課題: 本研究の限界として、患者シリーズが少数(18例)であり、耐性機序の網羅的な頻度解析には不十分なこと、および多くの症例で耐性機序が同定されなかった点が挙げられる。しかし、本研究は、後続の大規模耐性機序解析(例: Gainor et al., 2016)や、SHP2、IGF-1R、PIM1などの新たなバイパス機序の研究への道を開いた。また、患者バイオプシーによる耐性機序解析が次世代ALK-TKI選択の根拠となるという「バイオプシー主導型治療戦略」のパラダイムを確立した点で、臨床的意義は大きい。今後の検討課題として、クリゾチニブ耐性患者における個別化治療戦略をさらに発展させるために、より広範な耐性機序の同定と、それらに基づく最適な併用療法の開発が残されている。
方法
患者シリーズと検体採取: 2009年1月から2011年7月の期間に、マサチューセッツ総合病院でクリゾチニブ耐性を示した進行ALK陽性NSCLC患者18例(全例腺癌)を対象としたレトロスペクティブコホート研究を実施した。クリゾチニブ投与期間は4〜34か月(中央値10.5か月)であった。18例中15例はクリゾチニブ投与中または中止後1か月以内に耐性腫瘍から生検、切除検体、または胸水検体を採取した。全患者はクリゾチニブ治療に対して初期奏効(CTスキャンで病勢改善を確認)を示していた。耐性検体におけるALK再配列および増幅は、組織が十分な15例でFISH法により確認された。
ALK変異解析: 耐性検体から全核酸を抽出し、ALKキナーゼドメイン(エクソン20〜28)をSangerシーケンシングにより解析した。7例では新鮮凍結検体からcDNAを合成し、ALKの全キナーゼドメインまたはEML4-ALK融合遺伝子全体の配列を決定した。変異の確認には、増幅したPCR産物をpCR4ベクターにサブクローニングし、個々の細菌コロニーをシーケンシングする方法を用いた。クリゾチニブ治療前後の対応ペア検体3例において、治療前の検体に変異が存在しないことをSangerシーケンシングおよびアレル特異的PCRアッセイで確認した。アレル特異的PCRアッセイはL1196M変異を0.3%以下の検出限界で検出可能であった。
機能解析(Ba/F3細胞株): 4種類の同定されたALK耐性変異体(L1196M、G1202R、S1206Y、1151Tins)をそれぞれ発現するBa/F3細胞株を樹立した。これらの細胞株を用いて、クリゾチニブ、次世代ALK阻害薬(NVP-TAE684、CH5424802、ASP-3026)、およびHsp90阻害薬(17-AAG)に対する感受性をCellTiter-Gloアッセイ(48時間生存アッセイ)により比較した。また、in vitroキナーゼアッセイにより、各薬剤のALKキナーゼに対するIC50値を測定した。ATPのKm値は野生型ALKで33 µM、L1196Mで24 µM、G1202Rで23 µM、S1206Yで20 µMであった。
バイパス機序解析: クリゾチニブ耐性H3122 CR3細胞株(ALK変異なし)において、リン酸化RTKアレイ(42種類のRTKを検出)を用いてEGFR/ERBB3の活性化を確認した。患者検体では、EGFRの定量的RT-PCR、KIT FISH、および免疫組織化学(IHC)染色(phospho-EGFR、phospho-KIT、SCF (stem cell factor)、Ki67)を実施し、EGFRおよびKITの活性化を評価した。KIT過剰発現H3122細胞株をレトロウイルス感染により樹立し、SCF存在下でのクリゾチニブ耐性およびイマチニブによる再感作効果を実験的に評価した。
H3122 CR細胞モデルの樹立と評価: クリゾチニブ感受性H3122細胞を4か月以上かけて漸増濃度のクリゾチニブで処理し、3種類の独立したクリゾチニブ耐性細胞株(H3122 CR1 (L1196M+ALK増幅)、CR2 (1151Tins+ALK増幅)、CR3 (ALK変異なし・EGFR活性化))を樹立した。これらの細胞株は1 µMクリゾチニブ存在下で維持された。各CR細胞株の耐性機序を特定し、各薬剤に対する感受性を比較した。
統計解析: 全データは平均値±標準偏差で示され、統計解析には両側Studentのt検定が用いられた。p値が0.05未満の場合を有意差ありとした。