• 著者: Alexios Matikas, Nikolaos Kentepozidis, Vassilis Georgoulias, Athanasios Kotsakis
  • Corresponding author: Athanasios Kotsakis (Hellenic Oncology Research Group, Athens, Greece)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-02
  • Article種別: Review
  • PMID: 27341790

背景

ALK陽性NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺がん) は全NSCLC例の約4%を占める分子サブタイプで、2007年にSodaらにより同定されたEML4-ALK (echinoderm microtubule-associated protein-like 4-anaplastic lymphoma kinase) 融合癌遺伝子を主要なドライバー変異として持つ。この融合タンパクはMAPK・PI3K/AKT/mTOR・JAK/STAT等の主要細胞内シグナル伝達経路を恒常的に活性化し腫瘍増殖と生存を促進する。患者背景として若年・非喫煙者・腺癌に偏り、EGFR変異とは多くの場合相互排他的だが、KRAS変異との共存によってALK阻害薬への一次耐性が生じることも近年示されている。

第1世代ALK阻害薬crizotinibはALK陽性NSCLCに対し劇的な臨床成績を示した。Phase III PROFILE 1007試験ではプラチナ製剤先行治療後の患者(n=347)でORR (overall response rate; 全奏効率) 65% vs 化学療法20% (p<0.001)、PFS (progression-free survival; 無増悪生存期間) 中央値7.7ヶ月 vs 3.0ヶ月 (HR 0.49; 95% CI 0.37-0.64; p<0.001) を達成し (Shaw et al. NEnglJMed 2013)、Phase III PROFILE 1014試験では未治療例(n=343)でORR 74% vs 化学療法45% (p<0.001)、PFS中央値10.9ヶ月 vs 7.0ヶ月 (HR 0.45; 95% CI 0.35-0.60; p<0.001) を記録して標準1次治療として確立された (Solomon et al. NEnglJMed 2014)。こうしたドライバー変異標的治療の成功は、EGFR変異陽性NSCLCでgefitinibが化学療法に対しPFS優位性を示したIPASS試験以来の潮流であり (Mok et al. NEnglJMed 2009)、分子標的治療の精密医療としての地位を固めた。

しかしcrizotinibはほぼ全例で治療開始後10〜12ヶ月で獲得耐性が生じ、その後の治療選択が臨床現場における最大の課題となった。耐性機序として二次ALK KDM (kinase domain mutation; キナーゼドメイン変異)、ALK融合遺伝子増幅、EGFRやKRAS等バイパスシグナルの活性化が相次いで報告されていたが、複数の第2世代ALK阻害薬が前後して開発される中で各薬剤が有効な耐性変異プロファイルを体系化した実践的な治療選択指針が不足しており、crizotinib耐性後にどの薬剤をどの変異に対して選択すべきかは未解明であった。また、ALK陽性NSCLCは脳転移頻度が高く(ALK阻害薬前治療後は約60%)、crizotinibの血液脳関門 (BBB; blood-brain barrier) 透過不良という問題に対する頭蓋内転移管理戦略もgap in knowledgeとして残っており、これらの知識の不足を解決する複数耐性機序を統合した包括的実践指針の整備が急務であった。

目的

ALK陽性NSCLCにおけるcrizotinib耐性の主要分子機序を分類・解説し、第2世代ALK阻害薬(ceritinib・alectinib・brigatinib等)の各耐性変異に対する活性プロファイルと主要臨床試験データを体系的に整理することで、脳転移管理を含めたcrizotinib耐性後の実践的治療戦略を提示すること。

結果

crizotinibの確立された有効性とその限界: Phase III PROFILE 1007試験(n=347)ではcrizotinibが化学療法に対しORR 65% (95% CI 58%-72%) vs 20% (95% CI 14%-26%) (p<0.001)、PFS中央値7.7ヶ月 vs 3.0ヶ月 (HR 0.49; 95% CI 0.37-0.64) と大幅に優れた成績を示した (Table 1)。奏効までの期間はcrizotinib群6.3週 vs 化学療法群12.6週と有意に短く、奏効持続期間もcrizotinibで長かった (中央値32週 vs 24週)。Phase III PROFILE 1014試験(n=343)でも未治療例に対しORR 74% (95% CI 67%-81%) vs 化学療法45% (95% CI 37%-53%) (p<0.001)、PFS中央値10.9ヶ月 vs 7.0ヶ月 (HR 0.45; 95% CI 0.35-0.60) が実証された (Table 1)。しかし両試験ともクロスオーバーデザインによりOS優位性は示されず、かつ耐性は治療開始後10〜12ヶ月でほぼ全例に生じた。主な有害事象は視覚障害・下痢・浮腫・アミノトランスフェラーゼ上昇・好中球減少であった。

crizotinib耐性機序の分類と相対頻度: 耐性機序はALK依存性とALK非依存性に大別される (Figure 1)。ALK依存性耐性はALK KDM(全既知耐性機序の約30%)およびALK融合遺伝子増幅(<20%)からなる。KDMとして少なくとも9種が同定されており、ゲートキーパー変異L1196M (最多、ATP結合ドメインにバルキーな残基を追加しcrizotinib結合を阻害)、ATP結合ドメイン変異G1202R・G1269A・S1206Y、αCヘリックス付近の変異C1156Y・L1152R・1151Tins、非ATP結合部位変異I1171T・F1174Lが含まれる。なかでもG1202R (solvent front変異) はceritinibとalectinibの双方にも耐性を示す難治性変異として特に重要であり (Table 3)、後述のようにbrigatinibのみが有効性を保持する。ALK非依存性耐性にはEGFR経路活性化(リン酸化亢進・リガンド過剰産生、稀にEGFR/KRAS変異)・PI3K/AKT/mTOR経路活性化(ALK受容体のオートファジー亢進を介する可能性)・KIT増幅(腫瘍微小環境の間質由来幹細胞因子に依存)が含まれ、残余の約20〜25%では特定の機序が同定されない。稀な例として、EGFR変異型NSCLCと同様にALK陽性NSCLCからSCLC (small cell lung cancer; 小細胞肺がん) への組織型転換も報告されている。耐性機序の多様性と腫瘍内不均一性は再生検の重要性を強調する。

ceritinibの臨床成績: ceritinib (旧称LDK378) は経口のATP競合的選択的ALK阻害薬で、分子レベルではcrizotinibの約20倍高い効力を持つ。Phase I ASCEND-1試験(n=246; うちcrizotinib前治療例n=163)では全体ORR 58%、PFS中央値8.2ヶ月が報告され、crizotinib前治療例のORRは55%、crizotinib naive例では66%であった。投与中止は10%に生じ最多有害事象は下痢・悪心・嘔吐・腹痛・倦怠感 (Table 1)。Phase II ASCEND-2試験(n=140、crizotinibおよび化学療法前治療例)ではORR 38.6%・DCR 77.1%・PFS中央値5.7ヶ月、Phase II ASCEND-3試験(n=124、ALK阻害薬naive例)ではORR 63.7%・DCR 89.5%・PFS中央値11.1ヶ月が達成された (Table 1)。Table 3に示すように、ceritinibはL1196M・S1206Y・G1269A等の変異に感受性を示す一方、G1202R・C1156Y・L1152R・1151Tinsには耐性を示す。CNS転移を有するcrizotinib後進行例でも約50%の頭蓋内奏効率が報告されており、crizotinibより優れたBBB透過性が示唆される。

alectinibの臨床成績とCNS優位性: alectinib (旧称CH5424802) はROS1にも活性を持つ強力な第2世代ALK阻害薬で、PGP (P-glycoprotein; P糖タンパク) の基質とならないためBBB透過性が高い。Phase I/II AF-001JP試験(n=46、ALK-TKI naive例、日本)ではORR 93.4%・PFS中央値29ヶ月という傑出した成績が示された。crizotinib耐性後の設定では、Phase II試験(n=138)でORR 50%・DCR 69%・PFS中央値8.9ヶ月、別のPhase II試験(n=87)でORR 48%・PFS中央値8.1ヶ月が得られた (Table 1)。CNS病変に対しては後者のPhase II試験において頭蓋内DCR 83%・頭蓋内奏効持続期間中央値10.3ヶ月が達成され、頭蓋内未照射例の43%で完全頭蓋内奏効が認められた。12ヶ月時点の頭蓋内進行率はCNS外進行率より低く (24.8% vs 33.2%)、alectinibの強固なCNS活性を示す。別のPhase II試験でも頭蓋内DCR 89%・奏効持続期間中央値約11ヶ月が報告された。用量増量によりalectinib標準用量で再燃したCNS病変に対し奏効が再誘導できた症例報告も存在し、CNS耐性克服の可能性を示す。Table 3に示すように、alectinibはL1196M・C1156Y・1151Tins・L1152R・S1206Y・G1296A等に感受性を示す一方でG1202R・I1171T・V1180Lには耐性である。

brigatinib・lorlatinibおよびその他の次世代ALK阻害薬: brigatinib (旧称AP26113) はALK・ROS1・EGFR (T790M gatekeeper変異含む) に活性を持つ多標的TKIで、G1202Rを含む広範なALK変異に有効である点がceritinib・alectinibと異なる。Phase I/II試験(n=72)では、crizotinib前治療例のORR 69%、crizotinib naive例のORR 100%、全体PFS中央値12.8ヶ月が報告された (Table 1)。lorlatinib (旧称PF-06463922) はALKとROS1のデュアル阻害薬で高いBBB透過性を持ち、Phase I試験(n=15、主にALK阻害薬1〜2剤前治療例)でORR 40%が報告された (Table 1)。lorlatinib耐性後にL1198F変異が同定され同変異がcrizotinib感受性を逆説的に回復させた症例は、耐性の動的性質と連続的耐性機序モニタリングの重要性を示す。早期開発段階の薬剤としてASP3026・X-396 (ALK/ROS1 inhibitor; 少数例でORR 83%)・TSR-011・entrectinib等も試験中だが (Table 2)、既存薬との臨床的差別化は不明である。

CNS転移の管理戦略: ALK陽性NSCLCでは診断時約25%に脳転移を認め、ALK阻害薬前治療後は約60%に上昇する。crizotinibはBBB透過不良のため頭蓋内病変のコントロールが不十分である。PROFILE 1005および1007試験の後ろ向き解析(n=275、症状のない脳転移例)では12週時点の頭蓋内DCRが放射線治療歴あり群62%・なし群56%、頭蓋内病変進行までの期間はそれぞれ中央値13ヶ月・7ヶ月にとどまった。crizotinib治療中に全身病変がコントロールされつつ頭蓋内のみ進行した場合、crizotinib継続と局所治療 (SRS; stereotactic radiosurgery または全脳照射) の組み合わせが治療失敗までの期間を延長するという後ろ向きデータが存在する。ALK陽性NSCLCの全身オリゴ進行例に対してcrizotinib継続と局所療法を組み合わせた小規模前向きシリーズではPFS 9.0ヶ月が報告されている。一方、全身性・頭蓋内双方の進行時には第2世代ALK阻害薬への切り替えがNCCN (National Comprehensive Cancer Network) ガイドラインで推奨されている。第2世代TKIはいずれも優れたCNS活性を示し、特にalectinibは上述のような高い頭蓋内DCRと完全奏効率により最も強力なCNS管理薬として位置付けられている。

crizotinib耐性後のその他の治療選択肢: 無症状オリゴ進行例でのcrizotinib継続は後ろ向き解析で中断例と比較した全生存期間の有意な延長と関連していた (16.4ヶ月 vs 3.9ヶ月; p<0.0001)。化学療法ではALK陽性腫瘍がpemetrexedに特に感受性を示す可能性が示唆されており、PROFILE 1007でのpemetrexed vs docetaxelの比較でORR 29% vs 7%・PFS中央値4.2ヶ月 vs 2.6ヶ月と差が認められた(ただし試験設計上の主要比較ではない)。Hsp90 (heat shock protein 90; 熱ショックタンパク90) 阻害薬はEML4-ALKタンパクの安定化に必須のシャペロンを標的とし、ALK KDM・増幅を含む広範な耐性機序に有効な前臨床データがある。ganetespibのPhase II試験(n=99、分子型限定NSCLC)ではALK陽性例でPFS中央値8.1ヶ月と非陽性例を上回る成績が得られ、IPI-504のPhase IIではEML4-ALK再構成3例中2例で部分奏効・1例で長期病勢安定、AUY922のPhase IIではALK陽性NSCLCでORR 29%が報告された。ただし第2世代ALK阻害薬の優れた成績と毒性プロファイルを考慮するとHsp90阻害薬の位置付けは依然として不明確である。

考察/結論

本レビューが2016年時点に提示したcrizotinib耐性機序の分類体系とTable 3の変異別TKI活性対応マップは、これまでの研究が個々の薬剤や耐性機序を個別に報告してきたのと異なり、複数の第2世代TKIと複数のALK KDMの活性プロファイルを一覧化して実践的な治療選択指針を提供した点で既報にはない統合的価値を持つ。特にG1202R変異がceritinib・alectinib双方に耐性を示す「共通のアキレス腱」であることを新規の知見として明確化した点は、その後のbrigatinib ALTA試験(2017年FDA承認)やlorlatinib開発の学術的根拠を先取りするものであった。ALK非依存性耐性を含む腫瘍内不均一性と耐性機序の動的変化が重要であることは、2016年当時すでに指摘されており、その後のctDNA・循環腫瘍細胞を用いた液体生検モニタリング研究の先見性も本論文が持つ。

先行研究との違い: 本論文公刊時点まで、Katayama et al.らの研究やDoebele et al.らの耐性機序解析はALK KDMの重要性を示していたが、これまでの研究では個々の耐性変異と各薬剤との対応付けは断片的であり、複数の第2世代TKIを並べた変異別感受性プロファイルの対比は行われていなかった。本論文はbrigatinibの新規データを組み込んでTable 3を構成した点でこれらの先行研究と相違し、よりaction-orientedな治療選択アルゴリズムの礎を提供した。lorlatinib症例においてL1198F変異がcrizotinib感受性を回復させるという耐性の可逆的ダイナミクスも、単純な線形的耐性進化モデルとは異なる新たな知見として提示されている。

臨床応用: 本レビューの最大の臨床的意義は、crizotinib耐性後の再生検に基づく変異特異的TKI選択という個別化医療の枠組みを臨床現場で実行可能な指針として整理した点にある。ALK KDMが同定された場合にはTable 3に基づく第2世代TKI選択、バイパスシグナルが確認された場合には対応した経路の阻害薬併用を探索すること、また液体生検を用いた連続的耐性モニタリングの可能性が論じられた。さらにalectinibが高いCNS活性を持つことが示されたことは、CNS転移高頻度なALK陽性NSCLCにおいてより高いBBB透過性を持つ薬剤を早期に使用する戦略の臨床応用に向けた重要なエビデンスを提供した。

残された課題: 本レビューが指摘した今後の課題は多岐にわたる。第一に複数の第2世代ALK阻害薬間のhead-to-head比較試験がなく最適治療シーケンスが未解決であった(その後ALECTA (alectinib vs crizotinib Phase III trial)など一部が実施されたが)。第二に腫瘍内不均一性のため再生検が単一病変の情報しか提供できず、複数転移巣が異なる耐性機序を持つ可能性への対応が今後の検討課題として挙げられた。第三に、ALK非依存性耐性(EGFR・KIT増幅等)に対する有効な治療戦略は前臨床データが先行しており臨床的検証が急務であった。さらに、PD-1/PD-L1阻害薬とALK-TKIの併用については、ALK陽性NSCLCが低腫瘍変異負荷を持ちEGFR変異陽性NSCLCと同様に免疫療法の効果が限定的と予想されるものの明確なエビデンスが不在でありfuture researchとして位置付けられた。最後に、EML4-ALK検査とcrizotinib治療の費用対効果はカナダのマルコフモデル解析で費用効果的でないと結論されており、医療経済的なlimitationも残された課題であった。

方法

本論文はナラティブレビューとして設計された。PubMed・MEDLINE・Embaseデータベースを用いて2015年末までに発表された「crizotinib resistance」「ALK-positive NSCLC」「EML4-ALK」「ceritinib」「alectinib」「brigatinib」「ALK mutations」「CNS metastasis」「lorlatinib」等をキーワードとする関連文献を網羅的に検索した。収載対象はPhase I〜III臨床試験、前臨床試験、後ろ向きコホート解析、症例シリーズを含む。American Society of Clinical Oncology (ASCO) 2015年次大会の主要発表も参照した。各次世代ALK-TKI (tyrosine kinase inhibitor; チロシンキナーゼ阻害薬) の変異特異的活性はBa/F3細胞系過剰発現アッセイおよびヒト肺腺癌細胞株を用いたin vitro実験データ、ならびに臨床生検データから評価した。ALK再構成の診断ではFISH (fluorescence in situ hybridization; 蛍光in situハイブリダイゼーション) を参照標準(陽性基準: 50細胞中>15%のシグナル分離)とし、免疫組織化学 (immunohistochemistry; IHC) やRT-PCRとの比較も論じた。脳転移に対する薬剤活性評価は頭蓋内ORR・頭蓋内DCR (disease control rate; 病勢制御率)・頭蓋内進行までの期間を指標とした。各引用元試験のアウトカム解析にはlog-rank検定およびCox比例ハザードモデルによるHR (hazard ratio; ハザード比) 算出が主要手法として用いられた。