- 著者: Ng TL, Narasimhan N, Gupta N, Venkatakrishnan K, Kerstein D, Camidge DR
- Corresponding author: D. Ross Camidge (University of Colorado School of Medicine, Aurora, CO)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 32135189
背景
ブリガチニブはALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) に承認された次世代ALK阻害薬であり、ALTA-1L試験でクリゾチニブとの一次治療比較においてPFS優越性を達成している Camidge et al. NEnglJMed 2018。ブリガチニブは全般的に良好な忍容性を持つが、初期の臨床試験で他のALK阻害薬には見られない投与開始後7日以内の早期発症肺イベント (EOPE) が報告されていた Gettinger et al. LancetOncol 2016。EOPEは呼吸困難・低酸素・胸部CT上のground-glass opacityを特徴とし、その発生機序は未解明なままであった。他のALK阻害薬 (クリゾチニブ2.9%、セリチニブ2.4%、アレクチニブ0.7%、ロルラチニブ1.5%) でも肺炎は報告されているが、ブリガチニブのEOPEのような急速発症と耐性化は特有の現象とされた。開始用量の依存性や急速な耐性化 (tachyphylaxis) の可能性から、90 mg×7日間のステップアップ投与が導入されたが、複数の試験を横断してEOPEの自然経過・発生率・リスク因子を系統的に解析した研究は不足しており、この点が主要な課題として残されていた。特に、ブリガチニブの薬物動態学的特性とEOPE発症リスクの関連性については、さらなる詳細な検討が必要とされていた Kim et al. JClinOncol 2017。
目的
第1/2相試験、ALTA (ALK in Lung Cancer Trial of AP26113) 試験、およびALTA-1L (ALK in Lung Cancer Trial of Brigatinib in first Line) 試験からブリガチニブ関連早期発症肺イベント (EOPE) の全症例を収集・解析し、EOPE定義の確立、発生率・Grade分布・転帰・自然経過の詳細、ステップアップ投与の有効性、およびEOPEの臨床的リスク因子の同定を行うことを目的とした。
結果
第1/2相試験におけるEOPE発生率と用量依存性: 第1/2相試験 (n=137) では、11例 (8%) に少なくとも可能性のあるEOPEが認められた。これらの症例はすべてNSCLC患者であり、ALK陽性7例、EGFR変異4例であった。EOPEの発生率は開始用量に依存する傾向を示し、300 mg群で50% (1/2例)、240 mg群で10% (1/10例)、180 mg群で14% (6/44例)、120 mg群で9% (1/11例)、90 mg群で2% (1/50例) であった。90 mgを7日間投与後180 mgへステップアップした32例では、180 mgへの増量後にEOPEの発症は認められなかった。EOPEの発症時期中央値は2日 (範囲1〜4日) であった。11例中2例がGrade 5 (死亡)、2例がGrade 4、8例がGrade 3、1例がGrade 2であった。ブリガチニブは6例で永続的に中止された。再チャレンジを試みた4例中2例 (高用量例) で再発が認められたが、残りの2例 (180 mg例) では再発はなかった。ブリガチニブのCmax高値がEOPE発生と関連する傾向が示された (OR 1.09/100 ng/mL, p=0.0343) (Table 1)。
ALTA試験におけるEOPE発生率とリスク因子: ALTA試験 (n=219) では、14例 (6%) にEOPEが認められた (確定4例、可能性あり10例)。これらのEOPEは全例がブリガチニブ90 mg投与中に発生し、180 mgへの増量後に発生した症例はゼロであった。発症時期中央値は2日 (範囲1〜9日) であった。Grade 3以上の肺炎は4例で認められ、ブリガチニブは永続的に中止された。Grade 1〜2のEOPE患者6例は、中断後の再チャレンジに成功し、全例で再発はなかった。1例はGrade 5 (死亡) であったが、死因は肺がんと感染症とされたものの、EOPEとの関連は否定できなかった (Figure 1)。ALTA試験の多変量解析では、年齢の10歳増加あたりOR 2.10 (95% CI 1.210-3.645, p=0.0083) およびクリゾチニブウォッシュアウト期間7日未満OR 3.88 (95% CI 1.10-13.68, p=0.0349) が有意なリスク因子として同定された (Table 2)。しかし、Cmax・AUCとクリゾチニブウォッシュアウト期間の間に相関は認められず (Figure 2)、薬物動態学的相互作用は否定された。
ALTA-1L試験におけるEOPE発生率: ALTA-1L試験 (n=136) では、4例 (3%) にEOPEが認められた (発症時期Day 3〜8、全例90 mg投与中)。これらのうち3例 (Grade 3〜4) ではブリガチニブが永続的に中止された。クリゾチニブからのクロスオーバー患者35例 (10日間ウォッシュアウト後) 中1例でGrade 3のEOPEがDay 3に発生し、ブリガチニブは永続的に中止された。この試験では、ブリガチニブの90 mg開始用量でのEOPE発生率は比較的低く、ステップアップ投与レジメンの有効性が示唆された。
プール解析におけるEOPE発生率とリスク因子: 90 mg開始コホート (n=440) のプール解析では、20例 (4.5%) に少なくとも可能性のあるEOPEが認められ、発症時期中央値は2.5日 (範囲1〜9日) であった。Grade 3以上のEOPEは12例 (3%) であり、これらの患者ではブリガチニブが中止された。Grade 1〜2のEOPE患者8例中7例 (88%) は、中断後の再開に成功し、2例で確定部分奏効 (PR)、5例で病勢安定 (SD) が認められた。全試験を通じて、EOPEに起因する可能性のある死亡は3例 (527例中) であり、これらはいずれもステップアップ投与なしの高用量投与例であった。プール解析の多変量解析では、ECOG PS 0〜1 vs 2 (OR 0.28, 95% CI 0.09-0.92, p=0.035) および前治療レジメン数の増加 (1レジメン増加あたりOR 1.26, 95% CI 1.03-1.52, p=0.022) がEOPE発生の独立した予測因子として同定された (Table 3)。年齢は単変量解析では有意な関連を示したが (OR 1.43/10年増加, p=0.020)、多変量解析では有意差は認められなかった。これらの結果は、ブリガチニブの投与初期におけるEOPEのリスクを評価し、適切な患者選択と管理戦略を策定するための重要な基盤を提供する。
考察/結論
本研究はブリガチニブ関連早期発症肺イベント (EOPE) の包括的なプール解析であり、90 mg開始のステップアップレジメンによりEOPE発生率が4.5% (Grade 3以上3%) に低減されることを確認した。
先行研究との違い: 他のALK阻害薬で報告されている肺炎と比較して、ブリガチニブのEOPEは急速な発症と耐性化という点で対照的である。この特性は、薬物やその代謝物による炎症刺激に対する生理的反応 (tachyphylaxis) と整合すると考えられる。クリゾチニブウォッシュアウト期間7日未満でのリスク増加は薬物動態学的には説明不能であり、これまで報告されていないメカニズムが関与している可能性が示唆される。
新規性: 本研究で初めて、ブリガチニブ関連EOPEの発生が用量依存性を示すこと (90 mgで2%に対し300 mgで50%)、および全EOPEが90 mg投与中に発症し、180 mgへの増量後に発症が認められなかったことが示された。また、軽症例では急速な耐性化 (tachyphylaxis) により継続投与が可能であるという新規の知見が得られた。さらに、高齢、ECOG PS不良、および前治療レジメン数の増加がEOPEのリスク因子であることが本研究で初めて系統的に同定された。
臨床応用: 本知見は、ブリガチニブ投与におけるEOPEのリスクを軽減し、患者の安全性を向上させるための臨床的有用性を持つ。特に、ステップアップ投与レジメンの有効性と、軽症EOPE患者における継続投与の可能性は、臨床現場での柔軟な対応を支持する。先行の Camidge et al. JThoracOncol 2019 による管理指針を、本研究は系統的データで支持し拡充した。現行の処方情報 (Grade 3以上では永続中止) は保守的であり、今後の実臨床での管理には患者個別の呼吸機能や背景を考慮した柔軟な対応が必要とされる。
残された課題: EOPEの病態は依然として不明であり、その発生機序の解明が残された課題である。今後はNCT03389399での前向き試験によるリスクバイオマーカー (ゲノム、免疫、薬物代謝) の解明が課題である。また、本研究では詳細な喫煙歴や既存の肺疾患に関するデータが不足しており、これらの因子がEOPE発生に与える影響を評価することも今後の検討課題である。
方法
本研究は、ブリガチニブの安全性プロファイルを評価するためのプール解析であり、第1/2相試験、ALTA試験、およびALTA-1L試験という3つの臨床試験のデータセットを統合して解析した。これらの試験は、進行悪性腫瘍患者およびALK陽性NSCLC患者を対象としたオープンラベル、多施設共同試験であり、ブリガチニブの様々な投与量および投与レジメンが検討された。本研究のNCT番号はNCT03389399である。
EOPEの定義は、(1) 投与開始後7日以内 (または7日以上の中断後の再開・増量時) に発症した肺炎様プロセス (低酸素、呼吸困難、胸部CT上のground-glass opacityなどの画像所見) があり、かつ (2) 他の原因が否定的な場合を「確定 (definite)」、(1) および (2) の基準を満たす場合を「可能性あり (possible)」と定義した。
リスク因子解析には、単変量および多変量ロジスティック回帰分析を用いた。ALTA試験における主要なリスク因子解析に加え、90 mg開始コホート (n=440) のプール解析においても多変量解析を実施した。薬物動態学的解析として、第1/2相試験およびALTA試験において、ブリガチニブの最大血漿中濃度 (Cmax) とEOPE発生確率との関連を二項ロジスティック回帰分析により評価した。統計的有意性はp値0.05未満と定義した。これらの解析は、EOPEの発生率と関連する要因を特定し、ブリガチニブの最適な投与戦略を確立するための重要な情報を提供するものとされた。