- 著者: Gettinger SN, Bazhenova LA, Langer CJ, Salgia R, Gold KA, Rosell R, Shaw AT, Weiss GJ, Tugnait M, Narasimhan NI, Dorer DJ, Yver A, Camidge DR
- Corresponding author: Scott N. Gettinger (Yale School of Medicine, Yale Cancer Center, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 27836716
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約5%に認められる重要な発がんドライバーであると認識されている Pao et al. LancetOncol 2011。このALK再構成NSCLCに対する治療薬として、第1世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブが開発され、複数の臨床試験で高い客観的奏効率 (ORR) 61-74%と無増悪生存期間 (PFS) 中央値8-11ヶ月を示すことが報告された Camidge et al. LancetOncol 2012 Shaw et al. NEnglJMed 2013 Solomon et al. NEnglJMed 2014。しかし、クリゾチニブによる治療後には耐性発現が不可避であり、そのメカニズムとしてALKキナーゼドメインの二次変異 (例: L1196M、G1269A、G1202R)、ALK遺伝子コピー数増加、およびALK非依存性シグナル経路の活性化などが同定されている Doebele et al. ClinCancerRes 2012 Katayama et al. SciTranslMed 2012。さらに、クリゾチニブは血液脳関門透過性が低いという課題があり、脳転移が初回増悪部位となる患者が25-50%に達することが報告された。
クリゾチニブ耐性克服のため、複数の第2世代ALK-TKIが開発された。セリチニブはクリゾチニブ前治療歴のある患者においてORR 56%・PFS 6.9ヶ月を示したが、消化器毒性が強く、62%の患者で減量を要した Shaw et al. NEnglJMed 2014。アレクチニブはクリゾチニブ前治療後の患者でORR 50%・PFS 8.1-8.9ヶ月を示し、良好な忍容性を示したが、G1202Rなどの特定の二次変異に対する活性は限定的であった Gadgeel et al. LancetOncol 2014。既存のALK-TKIでは脳転移に対する効果が不足しており、この点での改善が期待された。
ブリガチニブ (AP26113) は、前臨床試験においてALKに対してクリゾチニブよりも強力な阻害活性を示し、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブのいずれにも耐性を示すG1202Rを含む主要なALK二次変異を臨床到達濃度でカバーすることが示された。また、ROS1融合遺伝子やEGFR T790M変異に対しても前臨床で活性を有することが報告されたが、その臨床的意義は未解明な部分が残されていた。これらの背景から、クリゾチニブ耐性ALK再構成NSCLC患者における新たな治療選択肢の開発が強く求められており、ブリガチニブの臨床的有効性と安全性を評価することが喫緊の課題として認識されていた。特に、既存のALK-TKIでは脳転移に対する効果が不足しており、この点での改善が期待された。本試験は、ブリガチニブのヒトにおける最初の臨床試験として実施され、その安全性プロファイルと抗腫瘍活性を評価することを目的とした。
目的
本第1/2相試験の目的は、ブリガチニブの最大耐量 (MTD) と推奨Phase 2用量を決定すること (Phase 1)。さらに、ALK陽性NSCLC患者 (主にクリゾチニブ前治療歴のある患者) におけるブリガチニブの有効性 (客観的奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]、頭蓋内ORR [CNS ORR]) と安全性を評価すること (Phase 2) であった。特に、クリゾチニブ耐性メカニズムを克服し、脳転移に対する効果を示す可能性を探ることが重要な目的とされた。また、EGFR T790M変異陽性NSCLCやROS1融合陽性NSCLC、その他のALK再構成を有する悪性腫瘍におけるブリガチニブの活性も探索的に評価された。本研究は、ブリガチニブの薬物動態 (PK) プロファイルを評価し、臨床用量設定の根拠を提供することも目的とした。
結果
患者背景と治療期間: 2011年9月20日から2014年7月8日までに、合計137例の患者が登録され、全員がブリガチニブの投与を受けた。このうち79例 (58%) がALK再構成NSCLC患者であった。ALK再構成NSCLC患者のうち、71例 (90%) がクリゾチニブ前治療歴を有し、8例がクリゾチニブ未治療であった。クリゾチニブ前治療歴のある患者の97% (69/71例) はクリゾチニブ治療中に病勢進行を経験しており、2例 (3%) は有害事象によりクリゾチニブを中止していた。クリゾチニブ最終投与からブリガチニブ初回投与までの期間中央値は12.0日 (IQR 4.0-61.5日) であった。全患者の治療期間中央値は7.5ヶ月 (IQR 1.8-18.6ヶ月) であり、ALK再構成NSCLC患者では15.4ヶ月 (IQR 7.1-20.9ヶ月) であった。データカットオフ時 (2015年6月15日) において、全患者の33% (45/137例) およびALK再構成NSCLC患者の49% (39/79例) がブリガチニブの投与を継続していた。追跡期間中央値は全患者で15.7ヶ月 (IQR 6.8-21.0ヶ月)、ALK再構成NSCLC患者で17.0ヶ月 (IQR 11.4-22.1ヶ月) であった (Table 1)。
用量設定と推奨Phase 2用量: Phase 1の用量漸増試験において、240 mg 1日1回投与でGrade 3のALT (alanine aminotransferase) 上昇が1例、300 mg 1日1回投与でGrade 4の呼吸困難が1例、それぞれ用量制限毒性 (DLT) として観察された。MTDは形式的には確立されなかったが、当初180 mg 1日1回が推奨Phase 2用量として選択された。しかし、投与開始後7日以内に発現する早期肺毒性イベント (後述) の蓄積を受け、プロトコルが修正され、最終的に90 mg 1日1回と、90 mg 1日1回を7日間投与後に180 mg 1日1回に増量するリードインレジメンの2用量が推奨Phase 2用量とされた。ブリガチニブの薬物動態解析では、90 mgおよび180 mgの1日1回投与で、前臨床でクリゾチニブ耐性ALK変異体を阻害するのに十分な血漿中濃度が達成されることが示された。定常状態でのCmax,SSおよびAUC0-τ,SSは、60-240 mgの用量範囲で線形に増加した。
客観的奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS):クリゾチニブ前治療歴のあるALK再構成NSCLC患者 クリゾチニブ前治療歴のあるALK再構成NSCLC患者71例 (全コホートプール) におけるORRは72% (95% CI 60-82%) であり、確認ORRは62% (95% CI 50-73%) であった。内訳は、完全奏効 (CR) 6% (4例)、部分奏効 (PR) 56% (40例) であった (Table 5)。コホート2 (Phase 2のクリゾチニブ前治療歴のある患者、n=42) では、ORR 74% (95% CI 58-86%)、確認ORR 67%であった。用量別の解析では、クリゾチニブ前治療歴のある患者において、90 mg 1日1回投与群 (n=13) でORR 77%、90→180 mgリードイン投与群 (n=25) でORR 80% (確認ORR 76%)、180 mg 1日1回投与群 (n=23) でORR 65% (確認ORR 61%) であった。奏効持続期間中央値は、クリゾチニブ前治療歴のある奏効患者51例で11.2ヶ月 (95% CI 7.6-29.7ヶ月) であった。PFS中央値は13.2ヶ月 (95% CI 9.1-18.7ヶ月) であった (Figure 4)。用量別のPFS中央値は、90 mg 1日1回投与群で12.9ヶ月 (95% CI 5.5-18.7ヶ月)、90→180 mgリードイン投与群で13.4ヶ月 (95% CI 9.2ヶ月-未到達)、180 mg 1日1回投与群で10.8ヶ月 (95% CI 4.5ヶ月-未到達) であった。1年OS率は78% (95% CI 67-86%) であった。
クリゾチニブ未治療のALK再構成NSCLC患者におけるORRとPFS: クリゾチニブ未治療のALK再構成NSCLC患者8例 (コホート1に4例、Phase 1に2例、コホート5に2例) では、全例で確認ORR 100% (95% CI 63-100%) を達成した。内訳は、CR 38% (3例)、PR 63% (5例) であった (Table 5)。これらの患者における奏効持続期間中央値は未到達 (95% CI 5.6ヶ月-未到達) であった。PFS中央値は未到達 (95% CI 7.4ヶ月-未到達) であり、1年OS率は100% (95% CI 100-100%) であった。
CNS (頭蓋内) 活性: ベースライン時に脳転移を有するALK再構成NSCLC患者50例のうち、46例 (92%) が頭蓋内奏効評価可能であった。測定可能脳病変を有する15例における頭蓋内ORRは53% (8/15例, 95% CI 27-79%) であった (Figure 5)。非測定可能脳病変のみを有する31例では、35% (11/31例, 95% CI 19-55%) で病変の完全消失が認められた (Table 6)。特に、脳放射線治療歴のない21例では、測定可能病変群 (n=9) で56% (5/9例) が奏効し、非測定可能病変群 (n=12) で58% (7/12例) が奏効した。頭蓋内PFS中央値は、評価可能患者46例全体で15.6ヶ月 (95% CI 13.0ヶ月-未到達) であり、脳放射線治療歴のない21例では22.3ヶ月 (95% CI 8.0-22.3ヶ月) であった。頭蓋内奏効持続期間中央値は18.9ヶ月 (95% CI 5.5ヶ月-未到達、n=19) であった。
安全性プロファイル: 全患者137例において、最も頻度の高い治療関連有害事象 (TEAE) は、悪心53%、疲労43%、下痢41%であり、ほとんどがGrade 1-2であった (Table 3)。Grade 3-4のTEAEで最も多かったのは、リパーゼ上昇9%、呼吸困難6%、高血圧5%であった。重篤なTEAE (腫瘍進行を除く) で5%以上に報告されたのは、呼吸困難7%、肺炎7%、低酸素5%であった。用量減量を要した患者は、Phase 2用量を受けた98例中15例 (15%) であった (Table 4)。治療中止に至った患者は13例 (9%) であった。治療中または最終投与後31日以内の死亡は16例で、うち8例は腫瘍進行によるものであった。治療関連と判断された死亡は3例 (突然死、低酸素、原因不明) であった。
早期肺毒性イベント: ブリガチニブ投与開始後7日以内 (または用量中断後の再開後) に発現する早期肺毒性イベント (呼吸困難、低酸素、咳、肺炎、間質性肺炎様の画像所見) が、全患者の8% (11/137例) に認められた。これらのイベントは投与開始用量に依存する傾向があり、180 mg 1日1回投与群では14% (6/44例) で発現した。早期肺毒性イベントを発現した11例中8例 (73%) がGrade 3-4であり、2例 (18%) が死亡した (低酸素、肺炎)。重要なことに、90 mgリードインを伴う180 mg 1日1回投与レジメンを受けた32例では、180 mgへの増量後に早期肺毒性の新規発現は認められなかった (0/32例)。これは、リードインレジメンが早期肺毒性イベントの発生を抑制する可能性を示唆する。
他の腫瘍型への活性: EGFR変異NSCLC患者42例では、ORR 5% (2例のみ) と限定的な活性であった。このうち、T790M変異陽性患者では、120 mg 1日2回投与を受けた1例で部分奏効が認められた。ROS1融合NSCLC患者3例のうち、クリゾチニブ未治療の1例がPR (21.6ヶ月以上継続) を示し、残りの2例はSDまたはPDであった。ALK陽性の他の腫瘍 (炎症性筋線維芽細胞腫など) 18例では、ORR 17% (3/18例) であった。
考察/結論
本試験は、新規ALK阻害薬ブリガチニブが、クリゾチニブ前治療歴のあるALK再構成NSCLC患者において、ORR 72% (95% CI 60-82%)、PFS中央値13.2ヶ月 (95% CI 9.1-18.7ヶ月) という、当時の他の第2世代ALK阻害薬を上回る高い抗腫瘍活性を示すことを明らかにした最初のヒト臨床試験である。先行研究と異なり、セリチニブ (ORR 56%・PFS 6.9ヶ月) やアレクチニブ (ORR 50%・PFS 8.1-8.9ヶ月) と比較して良好な結果が得られたが、これらはクロス試験比較であるため、結果の解釈には慎重を要する。しかし、ブリガチニブがG1202Rを含む幅広いALK二次変異をカバーする広いスペクトラムを持つという前臨床データが、本臨床試験の結果によっても支持された。
新規性として、ブリガチニブはクリゾチニブ耐性患者だけでなく、クリゾチニブ未治療のALK再構成NSCLC患者8例においても100%の確認ORRを達成し、高い初期活性を示した。また、脳転移に対する頭蓋内ORR 53% (測定可能病変のある患者15例中) および脳放射線治療歴のない患者における頭蓋内PFS中央値22.3ヶ月は、クリゾチニブのCNS透過性の不十分さという残された課題を克服する潜在的な可能性を示唆する。ただし、脳転移評価可能患者数が46例と比較的少なく、放射線治療歴による交絡因子が存在すること、およびベースラインで脳転移のない患者では試験中に脳MRIが実施されなかったため、このグループでの頭蓋内PFSを評価できなかった点が本研究のlimitationとして挙げられる。
ブリガチニブに特有の有害事象である早期肺毒性イベント (投与7日以内に発現する呼吸困難、低酸素、肺炎など) は、全患者の8% (11/137例) に認められ、用量依存的な傾向があった。しかし、90 mgリードインを伴う180 mg 1日1回投与レジメンでは、180 mgへの増量後に早期肺毒性の新規発現がゼロであったことから、このリードインスケジュールが安全対策として確立された。この知見は、ブリガチニブの臨床応用における投与レジメン設計に直接反映され、その後のFDA承認用量の基礎となった。このリードイン戦略は、用量漸増によって初期の肺毒性を軽減しつつ、より高用量での治療効果を維持する可能性を示唆する。
今後の検討課題として、ブリガチニブの90 mg 1日1回投与と90 mgリードインを伴う180 mg 1日1回投与の2つの推奨Phase 2用量の安全性と有効性を前向きに比較するランダム化Phase 2試験 (ALTA試験、NCT02094573) が開始された。さらに、ALK阻害薬未治療の進行ALK再構成NSCLC患者を対象としたブリガチニブとクリゾチニブを比較するPhase 3試験 (NCT02737501) も進行中である。本試験の結果は、ブリガチニブがALK再構成NSCLC患者における新たな治療選択肢として、クリゾチニブ耐性および未治療の状況で有望な臨床活性と許容可能な安全性プロファイルを有することを示し、その後の臨床開発の礎となる重要な知見を提供した。
方法
本試験は、米国およびスペインの9施設で実施された単アーム非盲検Phase 1/2試験である。
Phase 1 (用量漸増): 3+3デザインを採用し、ブリガチニブを30 mgから300 mgまで1日1回経口投与で用量漸増した。一部の患者では1日2回投与レジメンも検討された。主要エンドポイントはMTDの確定と推奨Phase 2用量の決定であった。用量制限毒性 (DLT) は、治療開始後28日以内に発生するGrade 3以上の非血液学的毒性(自己限定性または医学的に管理可能な毒性を除く)、特定の血液学的毒性、または計画投与量の25%以上を欠損させる治療関連有害事象と定義された。
Phase 2 (拡大コホート): 以下の5つのコホートで患者を登録した。
- コホート1: ALK阻害薬未治療のALK再構成NSCLC
- コホート2: クリゾチニブ前治療歴のあるALK再構成NSCLC
- コホート3: EGFR T790M変異陽性NSCLC (EGFR-TKI前治療歴あり)
- コホート4: ブリガチニブ標的遺伝子異常 (ALKまたはROS1) を有するその他の腫瘍
- コホート5: 活動性かつ測定可能な頭蓋内CNS転移を有するALK再構成NSCLC (クリゾチニブ前治療歴の有無は問わない)
Phase 2では、90 mg 1日1回、180 mg 1日1回、および90 mg 1日1回を7日間投与後に180 mg 1日1回に増量するリードインレジメンの3種類の投与スケジュールを評価した。Phase 2の主要エンドポイントは、客観的奏効率 (ORR) であった。
患者選択基準: 18歳以上の進行悪性腫瘍患者で、RECIST version 1.1に基づき測定可能病変を有し、ECOG PS 0-2、十分な臓器機能を有することが求められた Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。当初は活動性CNS転移を有する患者は除外されたが、後に脳転移に対する活性の兆候が見られたため、神経学的に安定したCNS転移患者も組み入れ可能となるようプロトコルが改訂された (2012年9月17日)。また、早期肺毒性イベントの観察を受け、ECOG PS 2の患者や間質性肺疾患の既往がある患者は除外されるよう基準が厳格化された (2012年11月30日)。ALK再構成NSCLCの診断は、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法により局所的に評価された Kwak et al. NEnglJMed 2010。
評価項目: 有害事象はNCI CTCAE version 4.0に基づき評価された。腫瘍評価は、ベースライン時および治療中は8週間ごとにCT (胸腹部) およびMRI (脳転移患者のみ) を用いて実施された。奏効はRECIST version 1.1に基づき判定され、確認奏効は4週間後の再評価で確認された。薬物動態 (PK) 解析も実施され、定常状態での血漿中濃度 (Cmax,SS) および濃度-時間曲線下面積 (AUC0-τ,SS) が評価された。AUC0-τ,SSは、定常状態での投与間隔における血漿中濃度-時間曲線下面積を指す。
統計解析: 全ての患者 (n=137) を対象に、少なくとも1回ブリガチニブを投与された患者の安全性および有効性データを解析した。ORRはClopper-Pearson法を用いて95%信頼区間 (CI) とともに報告された。PFSおよび全生存期間 (OS) はKaplan-Meier法を用いて推定された。CNS活性については、ベースライン時に脳転移を有する患者のMRI画像を独立中央評価委員会が盲検下で評価し、RECIST version 1.1に基づく頭蓋内ORRおよび頭蓋内PFSを算出した。本試験はClinicalTrials.govにNCT01449461として登録されている。