• 著者: D. Ross Camidge, Dong-Wan Kim, Myung-Ju Ahn, Maximilian J. Hochmair, Andreas Felip, Dong-Wan Kim, James C.-H. Yang, Enriqueta Felip, Ji-Youn Han, Takashi Seto, Manuel Dols, Fabio Lena, Thomas Mellemgaard, Lori Salgia, Satoshi Yun, Todd Riehl, Bruce Bach, Haihua Gao, Sanjay Popat
  • Corresponding author: D. Ross Camidge (University of Colorado Cancer Center, Aurora, CO)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase III randomized controlled trial)
  • PMID: 30280657

背景

未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子転位は、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の約3%から5%に検出される重要なドライバー遺伝子変異である。これまでに、Koivunen et al. ClinCancerRes 2008Wong et al. Cancer 2009などの先行研究により、EML4-ALK融合遺伝子の同定とそれに対するALK阻害薬の有効性が示されてきた。第一世代ALK阻害薬であるcrizotinibは、プラチナ製剤併用化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を大幅に延長し、ALK陽性NSCLCの標準治療として確立された (Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかし、crizotinib治療を受けた患者の多くは、1年から2年以内に耐性を獲得することが知られている。この耐性獲得メカニズムには、ALKキナーゼドメインの二次変異やバイパス経路の活性化が関与していることが、Doebele et al. ClinCancerRes 2012Katayama et al. SciTranslMed 2012によって報告されている。さらに、crizotinibは血液脳関門の透過性が低いため、中枢神経系 (CNS; central nervous system) における病勢進行が極めて頻繁に観察されるという課題があった。

第二世代ALK阻害薬であるbrigatinibは、広範なALK耐性変異およびROS1転位を標的とする新規化合物であり、優れた脳転移抑制効果を有することが前臨床試験およびcrizotinib耐性患者を対象とした第II相試験で示されていた。しかし、ALK阻害薬による治療歴がない患者に対する一次治療としてのbrigatinibの有効性および安全性は十分に検証されておらず、第一世代薬であるcrizotinibと直接比較した第III相臨床試験のデータは存在しなかった。このように、未治療のALK陽性進行NSCLC患者におけるbrigatinibの臨床的有用性や、crizotinibに対する優越性は未解明であり、一次治療における最適な治療戦略を決定するためのエビデンスが不足しているという重大なgapが残されていた。したがって、一次治療におけるbrigatinibの役割を直接比較試験によって明らかにすることは、極めて重要な臨床的課題であった。

目的

本研究 (ALTA-1L試験) の主な目的は、ALK阻害薬による治療歴がない局所進行または転移性のALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、第二世代ALK阻害薬であるbrigatinibの一次治療における有効性および安全性を、第一世代ALK阻害薬であるcrizotinibと直接比較して評価することである。主要評価項目として、盲検独立中央判定 (BIRC; blinded independent central review) による無増悪生存期間 (PFS) を設定し、brigatinibがcrizotinibに対して統計学的に有意なPFS延長効果を示すかを検証した。また、副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR; objective response rate)、頭蓋内客観的奏効率 (intracranial ORR)、頭蓋内無増悪生存期間 (intracranial PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルを両群間で比較検討し、brigatinibの臨床的有用性を多角的に明らかにすることを目的とした。

結果

患者背景および治療継続状況: 本試験では、2016年4月から2017年8月までに計275例の患者が登録され、brigatinib群にn=137、crizotinib群にn=138が無作為に割り付けられた (Fig 1)。両群の患者背景は良好にバランスが保たれており、年齢中央値は59歳、女性が55% (150/275) であった。ベースラインで脳転移を有する患者は全体の29% (81/275) を占め、進行期における化学療法歴を有する患者は27% (73/275) であった (Table 1)。データカットオフ日 (2018年2月19日) 時点で、追跡期間中央値はbrigatinib群で11.0ヶ月、crizotinib群で9.3ヶ月であった。この時点で、brigatinib群の69% (95/137) およびcrizotinib群の43% (59/138) が治療を継続しており、治療継続率においてもbrigatinib群が優れていた。

主要評価項目における無増悪生存期間の有意な延長: BIRC判定によるPFSの解析において、brigatinib群はcrizotinib群と比較して統計学的に有意かつ臨床的に極めて顕著なPFSの延長を示した (Fig 2A)。12ヶ月PFS率は、brigatinib群で67% vs crizotinib群で43%であった。主要評価項目におけるハザード比は HR 0.49 (95% CI 0.33-0.74, p<0.001) であり、brigatinib群における病勢進行または死亡のリスクは、crizotinib群と比較して51%低減していた。この優れたPFS延長効果は、ベースラインで脳転移を有するサブグループにおいても一貫して認められ、病勢進行または死亡のハザード比は HR 0.20 (95% CI 0.09-0.46, p<0.001) と、極めて高い有用性が示された (Fig 2B)。また、化学療法歴のない患者におけるハザード比は HR 0.55 (95% CI 0.34-0.88, p=0.013) であり、化学療法歴のある患者におけるハザード比は HR 0.35 (95% CI 0.14-0.85, p=0.021) と、いずれのサブグループでもbrigatinib群が優れていた。

全身における客観的奏効率と奏効持続期間: BIRC判定による確認済みの全身客観的奏効率 (ORR) は、brigatinib群で71% (97/137) vs crizotinib群で60% (83/138) であり、brigatinib群で高い傾向が認められた (Table 2)。完全奏効 (CR; complete response) はbrigatinib群で4% (5/137)、crizotinib群で5% (7/138) に得られた。また、未確認の奏効を含む全体のORRは、brigatinib群で76% vs crizotinib群で73%であった (Fig 2C)。確認された奏効例における12ヶ月時点での奏効維持率は、brigatinib群で75% vs crizotinib群で41%に留まり、brigatinib群で奏効がより長期にわたり持続することが示された。

中枢神経系病変に対する優れた頭蓋内効果: ベースラインで測定可能な脳転移を有していた患者 (brigatinib群18例、crizotinib群21例) におけるBIRC判定の確認済み頭蓋内ORRは、brigatinib群で78% vs crizotinib群で29%にとどまり、brigatinib群が極めて高い頭蓋内効果を示した (Table 2)。さらに、ベースラインで脳転移を有するすべての患者 (brigatinib群43例、crizotinib群47例) における頭蓋内PFSのハザード比は HR 0.27 (95% CI 0.13-0.54, p<0.001) であり、brigatinib群で脳転移の進行または死亡のリスクが73%低減した (Fig 2D)。また、最初の増悪部位がCNSのみ、またはCNSと全身同時であった患者の割合は、brigatinib群で9% (12/137) vs crizotinib群で19% (26/138) であり、新規脳転移の出現抑制効果も示された。

安全性プロファイルと有害事象による治療調整: Grade 3以上の有害事象は、brigatinib群で61% (83/136) vs crizotinib群で55% (76/137) に認められた (Table 3)。brigatinib群で頻度の高かった有害事象は、血中クレアチンキナーゼ上昇 (39% vs 15%)、高血圧 (23% vs 7%)、リパーゼ上昇 (19% vs 12%) などであった。一方、crizotinib群では悪心 (56% vs 26%)、下痢 (55% vs 49%)、便秘 (42% vs 15%)、末梢性浮腫 (39% vs 4%)、視覚障害 (16% vs 0%) が高頻度であった。治療開始14日以内に発現する早期肺事象である EPI (early-onset pulmonary event; 早期肺事象) としての間質性肺疾患 (ILD; interstitial lung disease) または肺臓炎は、brigatinib群の3% (4/136、すべて投与開始3〜8日目に発現) に認められ、プロトコルに従い治療が中止された。有害事象による減量はbrigatinib群で29%、crizotinib群で21%であり、投与中止はそれぞれ12%および9%であった。

考察/結論

本研究 (ALTA-1L試験) は、未治療のALK陽性進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、第二世代ALK阻害薬であるbrigatinibが第一世代のcrizotinibと比較して、全身および頭蓋内のいずれにおいても極めて優れた有効性を示すことを証明した画期的な臨床試験である。

先行研究との違い: 本試験は、化学療法との比較でcrizotinibの優越性を示した先行研究 (Solomon et al. NEnglJMed 2014) や、crizotinib耐性後の第二世代薬の有効性を示した試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) と異なり、ALK阻害薬未治療の一次治療集団において、第二世代ALK阻害薬とcrizotinibを直接比較した点が特徴である。同様の直接比較を行ったalectinibのALEX試験 (Peters et al. NEnglJMed 2017) やceritinibのASCEND-4試験 (Soria et al. Lancet 2017) と比較しても、本試験では進行期における1レジメン以下の化学療法歴を有する患者の登録を認めており、より実臨床に近い患者背景においてbrigatinibの優越性が示された。

新規性: 本研究で初めて、ALK阻害薬未治療の進行ALK陽性NSCLC患者において、brigatinibがcrizotinibに対して無増悪生存期間 (PFS) を統計学的に有意に延長し、病勢進行または死亡のリスクを51%低減することを新規に実証した。さらに、測定可能な脳転移を有する患者における頭蓋内客観的奏効率が78% vs 29%と圧倒的な差を示し、頭蓋内PFSにおいてもハザード比0.27という極めて強力な中枢神経系病変の制御能を明らかにした点も、本研究の重要な新規知見である。

臨床応用: 本試験の結果は、ALK陽性NSCLCの一次治療における治療アルゴリズムに直接的な臨床応用をもたらした。brigatinibの優れた血液脳関門透過性と頭蓋内病変に対する高い奏効率は、ALK陽性NSCLC患者で高頻度に認められる脳転移の管理において極めて高い臨床的有用性を有する。これにより、brigatinibは一次治療における強力な標準治療オプションとして位置づけられ、臨床現場における患者の予後およびQOL (quality of life) の劇的な改善に寄与している。

残された課題: 一方で、今後の検討課題として、他の第二世代ALK阻害薬 (alectinibなど) や、第三世代ALK阻害薬であるlorlatinib (Shaw et al. LancetOncol 2017) との使い分けや治療シークエンスの最適化が残されている。また、本試験における全生存期間 (OS) のデータは中間解析時点で未成熟であり、crizotinib群からの高率なクロスオーバーがOSの評価に与える影響をどのように補正するかという方法論的なlimitationも存在する。さらに、brigatinibに特異的な有害事象である早期肺事象 (EPI) の予測因子の同定や、長期投与における耐性メカニズムの解明も、今後の課題として挙げられる。

方法

本試験 (ALTA-1L試験、臨床試験登録番号: NCT02737501) は、世界20カ国124施設で実施された、オープンラベル、無作為化、多施設共同、国際共同第III相臨床試験である。対象患者は、18歳以上で、局所進行または転移性のALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) と診断され、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づく測定可能病変を1つ以上有し、ALK阻害薬による治療歴がない患者とした。無症状または治療済みの安定した脳転移を有する患者の登録は許容された。また、進行期に対する化学療法歴は1レジメン以下とした。

適格患者は、ベースラインにおける脳転移の有無および進行期における化学療法歴の有無を層別化因子として、1:1の割合でbrigatinib群またはcrizotinib群に無作為に割り付けられた。brigatinib群では、初期の早期肺事象のリスクを低減するため、最初の7日間は90 mgを1日1回投与するリードイン期間とし、その後180 mgを1日1回経口投与した。crizotinib群では、250 mgを1日2回経口投与した。治療は、病勢進行、忍容できない毒性の発現、またはその他の治療中止基準に達するまで継続された。crizotinib群で病勢進行が確認された患者については、プロトコルに基づく規定のウォッシュアウト期間 (10日間) を経て、brigatinibへのクロスオーバー治療が認められた。

腫瘍評価は、胸部および腹部のコンピューター断層撮影 (CT) または磁気共鳴画像法 (MRI) を用いて、スクリーニング時、その後は第14サイクルまでは8週ごと、それ以降は12週ごとに実施された。主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) は、治療割り付けを知らされていないBIRCによって判定された。副次評価項目である頭蓋内病変の評価は、中枢神経系 (CNS) 専門の独立判定委員会によって行われた。

統計解析では、ITT (intention-to-treat) 集団を対象に有効性評価を行った。PFSの比較には、層別ログランク試験 (log-rank test) を用い、生存時間解析にはカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) を適用して、生存期間中央値および95%信頼区間 (CI) を算出した。ハザード比 (HR) の算出には、層別コックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いた。本解析は、事前に規定された第1回中間解析 (目標イベント数198の約50%にあたる99イベント発生時) のデータに基づくものである。