- 著者: Tatsuya Yoshida, Yuko Oya, Kosuke Tanaka, Junichi Shimizu, Yoshitsugu Horio, Hiroaki Kuroda, Yukinori Sakao, Toyoaki Hida, Yasushi Yatabe
- Corresponding author: Tatsuya Yoshida (Department of Thoracic Oncology, Aichi Cancer Center Hospital, Nagoya, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-04-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 27237026
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成陽性NSCLC (non-small cell lung cancer) において、crizotinibは最初に承認されたALK-TKI (ALK tyrosine kinase inhibitor) であり、化学療法と比較してORR (objective response rate) およびPFS (progression-free survival) の有意な改善を示したことが報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、crizotinibはP-glycoproteinを介した排出により血液脳関門 (BBB) 透過性が低く、髄液/血漿比は約0.26%と報告されており Costa et al. JClinOncol 2011、中枢神経系 (CNS) 進行が主要な問題となっている。PROFILE 1005/1007のプール解析では、ベースラインで脳転移 (BM) を有する患者の70%がcrizotinib治療中にCNS進行を経験したことが示された。
第2世代のALK-TKIであるceritinibやalectinibは、crizotinib耐性変異に対しても有効性を示し、CNS病変に対しても良好な効果が報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2014 Gadgeel et al. LancetOncol 2014。しかし、crizotinib投与下でのCNS進行パターンや孤立性CNS進行の実態、およびベースラインBM状態がPFSに与える影響に関する詳細なデータはこれまで不足していた。特に、実臨床におけるcrizotinibのCNS進行に対する影響を包括的に評価した報告は限定的であり、この点に課題が残されている。
目的
本研究の目的は、ALK陽性NSCLC患者におけるcrizotinib治療開始前のベースラインBM状態、crizotinibの臨床成績、進行パターン(孤立性CNS進行対全身性進行)、およびcrizotinibが新規CNS進行を遅延または予防できるかについて、単施設の後ろ向きコホート研究により評価することである。さらに、ベースラインBM状態がPFSおよびCNS進行の累積リスクに与える影響を解明することを目的とした。
結果
患者背景と治療ライン: 59例の患者背景は、中央値年齢55歳(範囲 26-80歳)、男性39%(23例)、女性61%(36例)であった。ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) 0-1の患者が85%(50例)を占めた。59例中48例(81%)が進行期または再発性疾患に対してcrizotinibを1次または2次治療として受け、11例(19%)は3次以降の治療として投与された。ベースラインでBMを有する患者は26例(44%)であり、そのうち13例は未治療BM、13例はWBRT (whole brain radiotherapy) やSRT (stereotactic brain radiotherapy) などの頭蓋内放射線治療または手術を事前に受けていた (Table 1)。
Crizotinib治療効果とPFS: crizotinib投与後の全患者のORRは66%(PR 39例、SD 9例、PD 7例、評価不能 4例)であり、中央値PFSは9.7ヶ月であった (Fig. 1A)。ベースラインで標的脳病変を有する10例における頭蓋内ORRは20%であった。ベースラインBMの有無で層別化すると、BMを有する患者のPFS中央値は6.7ヶ月であり、BMがない患者の10.2ヶ月と比較して有意に短かった (P=0.0347) (Fig. 1B)。さらに、未治療BM、治療済みBM、BMなしの3群で層別化すると、PFS中央値はそれぞれ3.5ヶ月、7.4ヶ月、10.2ヶ月であり、有意な差が認められた (P=0.0168) (Fig. 1C)。多変量解析の結果、poor PS (≥2) (HR 3.322, 95% CI 1.402-7.353, P=0.0078) と未治療BM (HR 2.314, 95% CI 1.153-4.400, P=0.0196) がPFS短縮と独立して関連する因子として同定された (Table 2)。
進行パターンとCNS進行累積発生率: crizotinib治療中にRECIST-PDを経験した48例中、24例(50%)がCNSを初回進行部位としており、そのうち1例は髄膜癌腫症であった。BMを有する患者ではCNS進行の頻度がBMのない患者よりも高い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった (58% vs 31%, P=0.0626)。進行パターンを見ると、孤立性CNS進行が18例(38%)、全身性進行が30例(62%)であった (Fig. 2)。孤立性CNS進行の18例中10例は、crizotinib治療前にBMを有していた。CNS進行の累積発生率は、BMを有する患者で6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月時点でそれぞれ26%、55%、74%であり、BMのない患者では16%、34%、47%であった (Fig. 3)。crizotinib開始からCNS進行発生までの時間は、BMを有する患者で11.1ヶ月、BMのない患者で22.1ヶ月と、BMを有する患者で有意に短かった (P=0.0255)。
Crizotinib後の次治療: crizotinib治療失敗後、12例はWBRTやSRTなどの局所療法後にcrizotinibを継続した。次治療として、13例がalectinibへ切り替え、5例がplatinum doublet、7例がdocetaxelやpemetrexedなどの単剤化学療法を受けた。alectinibへ切り替えた13例中9例(69%)がPR (partial response) を達成した。特に、孤立性CNS進行を呈しalectinibへ切り替えた5例全てにおいて、6ヶ月間CNS進行を認めない持続的な奏効が示された (Fig. 4)。
考察/結論
本研究は、ALK陽性NSCLC患者59例を対象とした単施設後ろ向き解析により、crizotinibを初回ALK阻害剤として使用した場合のベースラインBM状態が、PFSおよびCNS進行累積リスクの独立した予後因子であることを示した初めての詳細な報告である。
新規性: 本研究で初めて、未治療BMがPFS短縮の独立した不良因子(HR 2.314, 95% CI 1.153-4.400, P=0.0196)であり、poor PS (≥2) (HR 3.322, 95% CI 1.402-7.353, P=0.0078) と並ぶ重要な予後因子であることを示した。また、RECIST-PD症例の50%がCNSを初回進行部位とし、38%が孤立性CNS進行であったことは、crizotinibの低いCSF (cerebrospinal fluid) 浸透性(0.26%)を裏付けるものであり、ALK陽性NSCLCにおけるCNSが薬理学的なサンクチュアリ部位として重要であることを強調する。
先行研究との違い: EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI治療後の孤立性CNS進行率が13-17%と報告されているのと対照的に、本研究におけるcrizotinib治療下の孤立性CNS進行率38%は有意に高かった。この違いは、crizotinibのCSF浸透率がEGFR-TKI(gefitinib 2.77%、erlotinib 1.13%)と比較して低いことに関連している可能性が示唆される。これまで、crizotinibのCNS進行パターンに関する詳細なデータは不足していたが、本研究は実臨床におけるその影響を包括的に評価した点で、これまでの報告と異なる。
臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLC患者に対するALK-TKI選択戦略の個別化に重要な臨床的含意を持つ。特に、ベースラインでBMを有する患者には、crizotinibを初回選択するよりも、CNS透過性に優れる第2世代ALK-TKI(alectinibやceritinib)を考慮すべき可能性が示唆される。また、crizotinib治療中に孤立性CNS進行を認めた場合、WBRT/SRTなどの局所療法とcrizotinib継続、または第2世代ALK-TKIへの切り替えという2つの選択肢があり、本研究ではalectinibへの切り替えにより高いORR(69%)とCNSでの持続奏効が得られた実績を示した。
残された課題: 本研究の限界としては、後ろ向き単施設研究であること、サンプルサイズが小さいこと、画像評価間隔が標準化されていないこと、治療ラインが多様であること、および実質的な脳内crizotinib濃度を測定できなかったことが挙げられる。これらの限界を克服するためには、今後の前向き研究(例:alectinibのファーストライン使用に関する試験)による検証が残された課題である。
方法
本研究は、2006年1月から2015年9月までに愛知県がんセンターでALK再構成陽性NSCLCと診断され、初回ALK阻害剤としてcrizotinibを投与された59例を対象とした後ろ向きコホート研究として実施された。本研究は愛知県がんセンターの倫理審査委員会の承認を得て実施された。ALK再構成の診断は、Vysis ALK Break Apart FISH (fluorescence in situ hybridization)、RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction)、またはALK IHC (immunohistochemistry) のうち2つ以上が陽性であることと定義した。
患者のベースライン特性、crizotinibに対する初回治療効果、ベースラインBM状態(BMなし、治療済みBM、未治療BM)、初回進行部位、および進行パターン(孤立性CNS進行:初回進行部位が脳のみ、全身性進行:脳以外の部位も含む)を記録した。PFSはcrizotinib開始からRECIST v1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1) に基づくPD (progressive disease) または最終追跡日までと定義した Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。BM進行までの時間は、脳CTまたはMRIで確認された時点とした。
統計解析にはJMP (SAS Institute, NC, USA) for Windows version 11を使用し、Kaplan-Meier法およびlog-rank検定を用いて生存確率を算出した。多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用い、単変量解析でP値が0.10以下の変数をモデルに含めた。