- 著者: Shaw AT, Kim DW, Mehra R, Tan DS, Felip E, Chow LQ, Camidge DR, Engelman J, Sharma S, De Pas T, Riely GJ, Solomon BJ, Wolf J, Thomas M, Schuler M, Liu G, Santoro A, Lau YY, Goldwasser M, Boral AL, Engelman JA
- Corresponding author: Shaw AT (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-03-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 24670165
背景
ALK陽性非小細胞肺癌(NSCLC)は、NSCLC全体の約5%を占める分子サブタイプであり、EML4-ALKをはじめとするALK融合遺伝子を発癌ドライバーとする。2010年から2011年にかけて実施された臨床試験において、ALK阻害剤であるクリゾチニブがALK陽性NSCLCに対して顕著な有効性を示し、客観的奏効率(ORR)は57〜60%、無増悪生存期間(PFS)中央値は約10ヶ月であった(Camidge et al. LancetOncol 2012、Shaw et al. NEnglJMed 2013)。この画期的な成果により、クリゾチニブは2011年に米国食品医薬品局(FDA)からブレークスルー承認を取得し、ALK陽性NSCLCの標準治療として確立された。しかしながら、ほぼ全ての患者が1〜2年以内に薬剤耐性を獲得し、疾患が進行するという重大な課題が明らかになっていた。このクリゾチニブ耐性により、患者の治療選択肢は著しく限られ、予後不良に繋がるケースが多かった。
クリゾチニブ耐性の機序は多様であり、症例の約3分の1ではALKキナーゼドメインの二次変異(例: L1196M「ゲートキーパー変異」、G1269A、C1156Y、F1174C/V、S1206Y)が同定された(Katayama et al. SciTranslMed 2012、Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。これらの変異は、クリゾチニブがALKに結合するのを妨げ、薬剤効果を減弱させる。残りの3分の2の症例では、ALK融合遺伝子の変化を伴わないバイパスシグナル経路(例: EGFR活性化、KIT増幅)が耐性に関与すると考えられていた。これらのバイパス経路は、ALKを阻害しても腫瘍細胞の増殖を維持するため、クリゾチニブの効果を無効にする。クリゾチニブ耐性後の治療選択肢は極めて限られており、標準的な化学療法が用いられていたが、そのORRは20〜30%程度と不十分であり、患者のアンメットニーズは依然として高かった。この状況は、EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI耐性獲得後の治療選択肢が限られていた状況と類似しているが(Kobayashi et al. NEnglJMed 2005、Pao et al. PLoSMed 2005)、ALK陽性NSCLCにおいてはより強力なALK阻害剤の開発が期待されていた。このクリゾチニブ耐性後の治療法が不足しており、その機序も未解明な部分が多かった。
セリチニブ(LDK378; Novartis)は、新規の経口ATP競合型ALK阻害剤として開発された。前臨床試験では、酵素アッセイにおいてクリゾチニブの約20倍のALK阻害活性(IC50 200 pmol/L)を示すことが報告された。また、セリチニブはインスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)にも作用するが、ALKに対する阻害活性よりも約50倍弱い。重要な点として、前臨床モデルにおいて、セリチニブはクリゾチニブ感受性腫瘍だけでなく、クリゾチニブ耐性腫瘍に対しても顕著な抗腫瘍活性を示した。特に、ゲートキーパー変異であるL1196Mや活性化ループ変異であるG1269Aを有する腫瘍モデルにおいて、その有効性が確認されていた。これらの前臨床データは、セリチニブがクリゾチニブ耐性後のALK陽性NSCLC患者に対する新たな治療選択肢となる可能性を示唆していた。本試験は、セリチニブのヒトにおける初の臨床試験として実施され、その安全性、薬物動態、および抗腫瘍活性を評価することを目的とした。
目的
本第I相試験の主要な目的は、ALK遺伝子異常を有する進行固形腫瘍患者を対象として、新規ALK阻害剤であるセリチニブの安全性プロファイル、最大耐量(MTD)、および薬物動態(PK)を評価することであった。副次的な目的として、特にALK再構成非小細胞肺癌(NSCLC)患者におけるセリチニブの抗腫瘍活性(客観的奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]、奏効期間 [DOR])を検討することを目指した。
本研究の主要な臨床的目標は、クリゾチニブによる前治療歴がある患者、特にクリゾチニブ耐性により疾患が進行した患者において、セリチニブが奏効を示すかを確認することであった。これは、クリゾチニブ耐性後の治療選択肢が限られていた当時の状況において、非常に重要な臨床的意義を持つものであった。また、クリゾチニブ未治療のALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブの有効性も同時に評価し、その全体的な治療ポテンシャルを明らかにすることも目的とされた。
結果
用量設定と薬物動態: 用量漸増パートでは、セリチニブは50mg/日から750mg/日の7つの用量レベルで投与された。サイクル1において、6例の患者で用量制限毒性(DLT)が発現した。これらのDLTは、400mg/日以上の用量で認められ、下痢、嘔吐、脱水、ALT上昇、低リン血症などであった。持続的なGrade 2の消化器毒性およびGrade 3の肝機能異常が観察されたため、最終的にMTDは750mg/日に設定された。薬物動態解析の結果、セリチニブの血漿中濃度(Cmax)は用量に比例して増加する傾向を示したが、その増加は用量比例性をわずかに上回るものであった(Figure S1A)。セリチニブの半減期(t1/2)は約40時間であり、定常状態(steady state)は投与開始後約15日目に達成されることが示された。750mg/日投与群におけるDay 8の平均AUC0-24は16,500±4,750 ng/mL/時、平均Cmaxは800±205 ng/mLであった。
客観的奏効率(ORR): 主要評価項目であるORRは、400mg/日以上のセリチニブを投与されたALK陽性NSCLC患者114例において、58%(95% CI 48〜67%)であった (Figure 1A)。内訳は、完全奏効(CR)が1例(1%)、部分奏効(PR)が65例(57%)であった。病勢安定(SD)は25例(22%)に認められ、疾患制御率(CR+PR+SD)は80%に達した。サブグループ解析では、クリゾチニブ前治療歴の有無にかかわらず高い奏効率が示された。クリゾチニブ未前治療群(n=34)では、ORRは62%(95% CI 44〜78%)であり、クリゾチニブ前治療群(n=80)では、ORRは56%(95% CI 45〜67%)であった。750mg/日投与のNSCLC患者78例におけるORRは59%(95% CI 47〜70%)であった。この結果は、クリゾチニブ耐性患者においても、クリゾチニブ未治療患者と同等レベルの奏効率を達成したことを示しており、当時の標準化学療法のORR(20〜30%)を大きく上回るものであった。
無増悪生存期間(PFS): 400mg/日以上のセリチニブを投与された114例の患者における追跡期間中央値は9.5ヶ月であり、PFS中央値は7.0ヶ月(95% CI 5.6〜9.5)であった (Figure 2)。データカットオフ時点で38%の患者がセンサリングされた。クリゾチニブ未前治療群(n=34)のPFS中央値は10.4ヶ月(95% CI 4.6〜評価不能)であり、クリゾチニブ前治療群(n=80)のPFS中央値は6.9ヶ月(95% CI 5.3〜8.8)であった。ベースライン時に脳転移を有する患者64例と脳転移のない患者50例の間で、PFS中央値はそれぞれ6.9ヶ月と7.0ヶ月であり、統計学的に有意な差は認められなかった(p=0.37)。クリゾチニブ前治療患者において、未治療のCNS病変の縮小が画像所見および症例報告として確認された (Figure S2)。
奏効期間(DOR): 奏効を達成した66例の患者におけるDOR中央値は8.2ヶ月(95% CI 6.9〜11.4)であった。奏効が6ヶ月以上持続した患者の割合は64%(95% CI 50〜74%)であった。データカットオフ時点で、奏効を継続中の患者は47%(31/66例)であった。
全生存期間(OS): 全生存期間(OS)のデータは、追跡期間が不十分であったため未成熟であった。データカットオフ時点で72%の患者がセンサリングされており、OS中央値は未到達であった。12ヶ月OS率は65%と推定された。
耐性機序と分子解析: クリゾチニブ耐性NSCLC患者19例でセリチニブ投与前に実施された腫瘍生検の分子解析結果は、セリチニブの有効性と耐性機序との関連を示唆した (Figure 3)。全例でFISH陽性によるALK再構成が確認された。19例中2例でALK遺伝子増幅が、5例でALKチロシンキナーゼドメインの二次耐性変異(例: L1196M、G1269A)が同定された。残りの12例では、元の再構成以外のALK遺伝子異常は検出されなかった。重要な知見として、ALK変異または増幅を有する7例中6例(86%)で腫瘍縮小が確認され、ALK変異や増幅が検出されなかった12例中7例(58%)でも奏効が認められた。この結果は、クリゾチニブ耐性腫瘍の多くが依然としてALK依存性を維持しており、セリチニブが多様な耐性機序を克服できる可能性を示唆している。
安全性プロファイル: 全130例の患者におけるGrade 3/4の治療関連有害事象(TRAE)は全体の49%に発現した (Table 2)。主なGrade 3/4 TRAEは以下の通りであった。ALT上昇: 27例(21%)、AST上昇: 14例(11%)、下痢: 9例(7%)、リパーゼ上昇: 9例(7%)、悪心: 7例(5%)、倦怠感: 6例(5%)、嘔吐: 6例(5%)。任意グレードでの最も頻度の高いTRAEは、悪心82%、下痢75%、嘔吐65%、倦怠感47%、ALT上昇35%であった。間質性肺疾患(ILD)は、セリチニブとの関連が疑われる4例に発現したが、いずれも治療中止後に回復した。QTc延長(Grade 3)が1例に認められた。用量減量は130例中66例(51%)で必要となり、750mg/日投与群では81例中50例(62%)が少なくとも1回の用量減量を要した(うち32例はサイクル3以降に発生)。有害事象による永続的投与中止は8例(6%)であった。治療関連死は報告されなかった。
考察/結論
本試験の意義と先行研究との違い: ASCEND-1試験は、セリチニブがALK陽性NSCLCに対して顕著な抗腫瘍活性を有することを大規模に初めて実証した画期的な試験である。特に、クリゾチニブ前治療歴のある患者群におけるORR 56%という結果は、クリゾチニブ未治療群のORR 62%に匹敵し、当時の標準化学療法のORR 20〜30%を大きく上回るものであった。この知見は、クリゾチニブ耐性後も多くの腫瘍でALK依存性が維持されており、より強力で構造的に異なるALK阻害剤によって耐性を克服できる可能性を示した点で極めて重要である。本研究は、ALK陽性NSCLCの治療戦略において、第2世代ALK阻害剤の導入という新たな時代の幕開けを告げるものであった。EGFR変異陽性NSCLCにおけるEGFR-TKI耐性克服を目指した先行研究では、非可逆的pan-ErbB阻害剤(アファチニブなど)が開発されたが、第一世代EGFR-TKI耐性後のNSCLC患者におけるORRは10%未満と低い成績に留まった(Miller et al)。これに対し、セリチニブはクリゾチニブ耐性患者でORR 56%を達成しており、この対照的な結果は、ALK標的の生物学的特性とクリゾチニブの耐性機序に関する重要な洞察を与えた。セリチニブがクリゾチニブよりも約20倍強力なALK阻害活性を持つことが、臨床的な耐性克服に繋がったと考えられ、ALK依存性がEGFR依存性よりも耐性獲得後も維持されやすい可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、クリゾチニブ耐性後のALK陽性NSCLC患者において、セリチニブが多様なALK耐性変異(L1196M、G1269Aなど)の有無にかかわらず、高い抗腫瘍活性を示すことを新規に明らかにした。特に、ALK二次変異が検出されないクリゾチニブ耐性患者においても奏効が認められたことは、多くのクリゾチニブ耐性腫瘍が依然としてALK依存性を維持していることを示唆する新規の知見である。これは、クリゾチニブの標的阻害が不十分であった可能性、あるいはセリチニブが未知のキナーゼを阻害している可能性を示唆する。
臨床応用: 本試験の結果を受けて、FDAは2014年4月にセリチニブをクリゾチニブ耐性または不耐容のALK陽性NSCLCに対するブレークスルー・セラピーとして指定し、加速承認を付与した。これは、ALK陽性NSCLC治療における第II世代ALK阻害剤の臨床応用を確立する画期的な出来事であった。セリチニブの導入により、クリゾチニブ耐性後の患者に対する有効な治療選択肢が提供され、臨床現場での治療成績向上に大きく貢献した。
残された課題と今後の方向性: セリチニブの主な忍容性上の課題は消化器毒性(悪心、下痢、嘔吐)であり、Grade 3/4の消化器毒性が7〜21%に発現した。この問題への対応として、今後の検討課題として、後続試験では食事と一緒の低用量投与(450mg with food)が検討され、ASCEND-8試験(NCT02299505)において同等の暴露量を示す可能性が検討された。肝機能異常(ALT上昇Grade 3/4: 21%)も管理上の課題であったが、治療中断で回復可能であった。また、セリチニブが克服できない耐性変異の代表としてG1202R変異(ソルベント・フロント変異)があり、これはセリチニブおよびアレクチニブへの耐性を付与する。この変異への対応は、今後の研究課題として第III世代ALK阻害剤であるロルラチニブに委ねられた。本試験ではCNS病変に対する系統的な評価が実施されておらず、今後の研究方向性として、ASCEND-2〜7試験での詳細な検討が必要であった。本試験のデータは、ALK陽性NSCLCにおける「より強力な同標的阻害が耐性克服に有効」というコンセプトを確立した点で、今日的意義を持ち続けている。
方法
試験デザイン: 本試験は、ASCEND-1試験として実施された、多施設共同の非盲検第I相臨床試験である(ClinicalTrials.gov number, NCT01283516)。試験は、セリチニブの用量漸増パートと、その後に続く拡大コホートパートの2段階で構成された。用量漸増パートでは、セリチニブを50mgから750mg/日の範囲で空腹時経口投与し、最大耐量(MTD)を決定した。用量漸増は、ベイジアンロジスティック回帰モデル(BLRM)に基づいて実施された。MTDは、サイクル1における用量制限毒性(DLT)の発現率が16%以上33%未満の用量として定義された。拡大コホートパートでは、MTDで追加の患者が登録され、セリチニブの安全性と有効性がさらに評価された。
対象患者: ALK遺伝子異常を有する局所進行性または転移性の固形癌患者が対象とされた。特にNSCLC患者においては、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法により、腫瘍細胞の15%以上でALK再構成が確認されることが必須条件であった。その他の主要な適格基準として、ECOGパフォーマンスステータスが0〜2であること、および無症候性の脳転移を有する患者も登録可能であった。クリゾチニブを含む先行ALK阻害剤の投与歴の有無は問われなかったため、クリゾチニブ耐性患者も積極的に組み入れられた。
患者背景 (Table 1): 全体で130例の患者が登録され、解析対象となった。内訳はNSCLC患者122例(94%)と、乳癌、肺胞型横紋筋肉腫、炎症性筋線維芽細胞腫瘍、未分化大細胞リンパ腫、直腸腺癌などの他の癌種患者8例であった。患者の年齢中央値は53歳(範囲22〜80歳)で、女性が60%、白人が75%、非喫煙者が62%を占めた。NSCLC患者122例のうち、クリゾチニブ前治療歴がある患者は83例(68%)であり、クリゾチニブ未治療の患者は39例(32%)であった。転移部位としては、肺78%、胸部リンパ節56%、脳49%、肝39%、骨38%が主なものであった。
有効性解析集団: セリチニブの有効性解析は、少なくとも400mg/日以上の用量でセリチニブを投与されたALK陽性NSCLC患者114例を対象として実施された。主要評価項目はRECIST v1.0に基づいた客観的奏効率(ORR)であり、副次評価項目には無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)、安全性、および薬物動態が含まれた。データカットオフ日は2013年8月2日であった。
分子解析: クリゾチニブ耐性により疾患が進行したNSCLC患者19例において、セリチニブ投与前に腫瘍生検が実施された。これらの生検サンプルは、FISH法によりALK再構成の有無、ALK遺伝子増幅の有無、およびALKチロシンキナーゼドメインにおける二次耐性変異の有無について解析された。この分子解析は、セリチニブの有効性と耐性機序との関連を評価するために行われた。
統計解析: 用量漸増パートでは、ベイジアンロジスティック回帰モデルを用いて、各用量レベルにおけるDLT発生確率の事後分布が推定された。MTDは、DLT発生確率が16%以上33%未満となる用量として定義された。有効性および安全性評価のためには、用量漸増パートおよび拡大コホートパートでMTDを投与された患者のデータが統合された。安全性データは、セリチニブを少なくとも1回投与された全患者について要約された。有効性データは、少なくとも1回セリチニブを投与されたNSCLC患者全員について要約された。薬物動態解析は、用量漸増パートの患者データに基づいて実施された。PFSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較にはログランク検定が適用された。