- 著者: Gadgeel SM, Gandhi L, Riely GJ, Chiappori AA, West HL, Azada MC, Morcos PN, Lee RM, Garcia L, Yu L, Boisserie F, Di Laurenzio L, Golding S, Sato J, Yokoyama S, Tanaka T, Ou SI
- Corresponding author: Ou SI (Chao Family Comprehensive Cancer Center, University of California Irvine, Orange, CA, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-08-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 25153538
背景
ALK遺伝子再配列を有するNSCLCに対してクリゾチニブは画期的な治療効果をもたらし、複数の臨床試験でORR (奏効率) 約60%・PFS (無増悪生存期間) 中央値8〜11ヶ月が報告された (Shaw et al. NEnglJMed 2013、Camidge et al. LancetOncol 2012)。しかし、クリゾチニブ治療中のほぼ全例が耐性を獲得し、CNS (中枢神経系) が最も頻度の高い再発部位となることが判明した。ALK陽性NSCLC患者のCNS再発は最大50%に達し、クリゾチニブのCSF (脳脊髄液) 中濃度が血漿濃度の0.26%程度に過ぎないことがCSFサンプリング研究で示されており、BBB (blood-brain barrier) 透過性の低さが根本原因と考えられた。また、ALK二次変異 (L1196M gatekeeper変異、G1269A等) やALK増幅がクリゾチニブ耐性機序の約30%を占めることが示され (Katayama et al. SciTranslMed 2012)、これらをカバーできる次世代ALK阻害薬の開発が急務とされた。さらに、クリゾチニブ耐性後に有効な全身治療とCNS病変を制御できる次世代薬剤が存在するかは未解明であり、次世代ALK阻害薬がCNSへの直接活性を示しうるかに関するエビデンスが不足していた。CNS活性と良好な忍容性を兼ね備えた次世代ALK阻害薬の早期開発が緊急の課題であった。
アレクチニブ (CH5424802) は高選択的次世代ALK阻害薬であり、野生型ALKに対するIC50 1.9 nMおよびクリゾチニブ耐性変異ALKに対しても強力な阻害活性を示す。日本での第I/II相試験AF-001JP (alectinib dose-finding phase I/II study in Japan) ではクリゾチニブ未治療のALK陽性NSCLC患者46例においてORR 94%・良好な安全性が示されていたが、北米患者集団でのデータ、特にクリゾチニブ耐性例における有効性と至適用量はこの時点では明確でなかった。
目的
クリゾチニブ耐性または不耐容のALK陽性NSCLC患者を対象として、アレクチニブの推奨第II相試験用量 (recommended phase 2 dose、RP2D) を確立するとともに、全身奏効率・CNS奏効率・安全性・薬物動態 (PK) を評価すること。
結果
患者背景と登録状況: 2012年5月〜2013年7月に47例が登録された (Table 1)。年齢中央値56歳 (範囲 40〜83歳)、女性43%、ECOG PS 0が49%、非喫煙者77%、全例腺癌。ベースラインにCNS転移を有する患者はn=21 (45%) であった。前治療の化学療法レジメン数は0が13%、1が17%、2が40%、3以上が30%と、治療歴の多い集団であった。クリゾチニブ最終投与からアレクチニブ初回投与までの中央値は18日 (範囲 14〜316日) であった。CNS転移21例のうち12例 (57%) が登録時点で進行性CNS転移を有しており、最終脳照射からアレクチニブ開始まで中央値126日 (範囲 13〜1168日) であった。
安全性・忍容性と推奨用量の決定: 用量漸増コホート (300〜900 mg BID、20 mg/40 mgカプセル) ではいかなる用量でもDLTは認められなかった。900 mg BIDブリッジングコホート (150 mgカプセル) では2例にDLTが発生した (grade 3頭痛1例、grade 3好中球減少1例)。両例とも600 mg BIDへの減量後に治療継続が可能であった。最も頻度の高い有害事象はいずれもgrade 1-2の疲労14例 (30%)、筋肉痛8例 (17%)、末梢性浮腫8例 (15%、うちgrade 3が1例) であった (Table 2)。最も頻度の高いgrade 3-4有害事象はγ-グルタミルトランスペプチダーゼ上昇2例 (4%)、好中球数減少2例 (4%)、低リン血症2例 (4%) であり、いずれも経時的に回復した。クリゾチニブで高頻度に見られる視覚障害はgrade 1が3例のみで、肺臓炎の報告は皆無であった。悪心・嘔吐・下痢はgrade 1-2でそれぞれ患者の15%以下に留まった。治療関連死亡は認められなかった。全体の12例 (26%) で有害事象による用量減量または休薬を要したが、有害事象による治療中止は3例のみであった。安全性・有効性・PKの総合評価から、600 mg BIDをRP2Dとして選定した。
全身抗腫瘍効果: データカットオフ (2013年9月12日、追跡期間中央値126日、IQR 84〜217日) 時点でn=44例が効果評価可能であった。全評価可能例でのORRは55% (n=24/44) であり、確定CRが1例 (2%)、確定PRが14例 (32%)、未確定PRが9例 (20%) であった (Table 3)。SDは16例 (36%)、PDは4例 (9%) であった。600 mg BIDコホートの10評価可能例では確定PR 4例 (40%)・未確定PR 3例 (30%) でORR 70%と最も高い奏効割合を示した (Figure 3)。ベースラインにCNS転移を有さない26例では、データカットオフ時点でCNSのみの進行は1例も認められなかった。なお、クリゾチニブ最終投与からアレクチニブ開始まで中央値18日が経過しており、観察された奏効が retreatment効果によるものではないことが示唆された。
CNS奏効と血液脳関門透過性: ベースラインCNS転移21例では追跡期間中央値187日 (IQR 103〜230日) で評価し、独立中央放射線科レビューによるintracranial ORRは52% (n=11/21) であった。内訳はCR 6例 (29%、うち未確定3例)・PR 5例 (24%、うち未確定1例)・SD 8例 (38%)・PD 2例 (10%) であった (Table 4)。測定可能なCNS病変を有した9例ではPRが5例 (うち1例は軟髄膜転移 [leptomeningeal carcinomatosis])・SDが2例であった。PDと判定された2例のうち1例は術後病理から放射線壊死 (pseudoprogression) であることが確認されており、真のCNS PDは1例のみであった (Figure 4)。脳照射未施行の4例ではCR 2例・PR 1例・SD 1例と良好なCNS制御が得られた。
CSF移行性評価ではn=5例全例でCSF中にアレクチニブが検出された。CSF中濃度と未結合型血漿濃度 (血漿タンパク結合率0.3%と仮定) の間にはr²=0.75の線形相関が認められた (Figure 5)。600 mg BIDのCSFトラフ濃度は約2.69 nMと外挿され、in vitroのALK阻害IC50 (1.9 nM) を上回ることが確認された。
薬物動態:用量依存的吸収・t1/2約20時間・Cmax:Cmin比約1.3: アレクチニブは全用量 (300〜900 mg BID) で良好な吸収を示した (Figure 2)。600 mg BID fed条件での単回投与後Tmax中央値は約4時間、平均消失半減期 (t1/2) は約20時間であった。多回投与後のAUC0-10は300〜760 mg BIDの範囲で用量依存的に増加したが、900 mg BIDでは個体間変動が大きかった。peak:trough比はCmax:Cmin平均値 約1.3と低く、投与間隔を通じた持続的な血漿暴露が示された。20 mg/40 mgカプセルと150 mgカプセルとのPKプロファイルは600 mg BIDブリッジングコホート (n=6) で同等であることが確認された。
考察/結論
本試験AF-002JGは、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLCを対象として北米患者集団でアレクチニブの有効性・安全性・PKを系統的に検討した本研究で初めての用量設定試験であり、600 mg BIDをRP2Dとして確立した点に新規な意義がある。全身ORR 55%・CNS奏効率52%という結果は、クリゾチニブ耐性後に当時利用可能であった化学療法や新規ALK阻害薬とは異なり、特にCNSへの直接的な抗腫瘍活性を示したものとして際立っている。
既報のクリゾチニブ単剤第I相試験ではORR 57%が示されているが (Camidge et al. LancetOncol 2012)、本試験の対象はクリゾチニブ後の耐性患者であり、より困難な状況でもORR 55%が維持された点は注目に値する。日本でのAF-001JP試験で未治療患者のORRが94%であったことと対照的に、クリゾチニブ耐性例でもORR 55%が保たれたことは、アレクチニブがALK二次変異以外の多様な耐性機序にも有効であることを示唆している。ALK二次変異は全耐性機序の約30%を占めるにすぎず (Katayama et al. SciTranslMed 2012)、ORR 55%という数字はアレクチニブの幅広い耐性克服能を間接的に裏付ける。
安全性面では、悪心・嘔吐・下痢等の消化器毒性の発現がクリゾチニブ (悪心54%、下痢42%) やセリチニブ (悪心・嘔吐・下痢 60〜85%) とは対照的に格段に低頻度であった (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。視覚障害もgrade 1が3例のみで、肺臓炎の報告はゼロであった。治療関連死亡ゼロ・DLTなし (600 mg BIDまで) という安全プロファイルは、アレクチニブの臨床的意義をさらに強化する要素であり、長期投与を前提とした分子標的療法として優れた忍容性を有することを示している。
BBB透過性の薬動力学的証拠として、CSFトラフ濃度の外挿値 (~2.69 nM) がALK阻害IC50 (1.9 nM) を上回ることが示された点は重要である。軟髄膜転移 (leptomeningeal carcinomatosis) 患者での奏効は特筆すべき所見であり、生存期間中央値14週程度と予後不良とされる病態への臨床応用可能性を示すものである。これはCSF中の有効薬物濃度の維持と一致しており、アレクチニブのCNS活性を機序から支持する。
残された課題として、本試験は第I相の少数例 (n=47) であり追跡期間の中央値が126日と短く、長期奏効持続性や生存への影響については評価できていない。クリゾチニブ耐性機序の分子基盤と奏効予測因子の同定は第II相で予定されており、また本試験と並行して進行中であったグローバル第III相試験 (ALEX試験、NCT02075840) でのクリゾチニブとの直接比較による長期PFS・OS・CNS進行抑制効果の検証が今後の検討として重要である。アレクチニブ自体に対する耐性機序の解明や、より高い奏効率を実現するための患者選択バイオマーカーの特定も更なる検討を要する課題として残されている。本試験が確立した600 mg BIDという用量設定は、ALEX試験をはじめとする後続の比較試験の基盤となり、現在のALK陽性NSCLC治療標準確立に直結した歴史的な試験として位置づけられる。
方法
北米6施設で実施した単アーム非盲検第I/II相試験AF-002JG (alectinib dose-finding phase I/II study in North American patients) の第I相 (用量設定) 部分の報告。試験登録はClinicalTrials.gov NCT01588028。対象は年齢18歳以上、FISH (fluorescence in situ hybridization) 法でALK再配列が確認されたNSCLC、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス0〜2、クリゾチニブ耐性または不耐容 (進行、有害事象、その他による中止)、クリゾチニブ以外のALK阻害薬未使用の患者。無症候性CNS転移患者も適格とし、ステロイド非使用であれば軟髄膜転移も含めた。
用量漸増は修正3+3デザインで実施し、アレクチニブを300 mg、460 mg、600 mg、760 mg、900 mg BID (1日2回経口投与) の5用量コホートへ順次割り付けた。21日を1サイクルとして休薬期間なく継続投与した。DLT (dose-limiting toxicity、用量制限毒性) の評価ウィンドウはday -3〜サイクル1 day 21で実施し、NCI-CTCAE version 4.0に基づき定義した。MTD (maximum tolerated dose) は最初の6例中1例以下にDLTが生じた最高用量と定義した。用量漸増コホート終了後に、20 mg/40 mgカプセルから150 mgカプセルへの薬物動態的同等性を確認するためのブリッジングコホート (600 mg BIDおよび900 mg BID各n=6) を設けた。
腫瘍評価はRECIST version 1.1に基づき、ベースライン後6週毎 (最初の18週)・以降9週毎に実施した。CNS病変は独立中央放射線科レビュー (BioClinica, Princeton, NJ [New Jersey]) により評価した。測定可能CNS病変はRECIST v1.1で評価し、測定不能非標的病変は全消失をCR (complete response)・安定をSD (stable disease)・新規出現または明らかな増大をPD (progressive disease) と判定した。統計解析はカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) による奏効期間推定を含む記述統計とウォーターフォールプロットを用い、SAS version 8.2/9.2で実施した。PKパラメータ (Cmax, Tmax, AUC0-10 [area under the plasma concentration-time curve from 0 to 10 hours], t1/2) は標準的な非コンパートメント解析で算出した。CSF移行性は治療安定期に得られたペアドCSF・血漿サンプル (n=5) から液体クロマトグラフィー質量分析法で定量した。