• 著者: Shaw AT, Bauer TM, de Marinis F, Felip E, Goto Y, Liu G, Mazieres J, Kim DW, Mok T, Polli A, Thurm H, Calella AM, Peltz G, Solomon BJ
  • Corresponding author: Shaw AT (Massachusetts General Hospital, Boston, MA); Solomon BJ (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, Australia)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33207094

背景

アレクチニブやブリガチニブなどの第II世代ALK阻害薬が、ALK陽性進行非小細胞肺がん (NSCLC) の1次治療において、第I世代のクリゾチニブと比較して優れた無増悪生存期間 (PFS) と中枢神経系 (CNS) 制御を示すことが、Peters et al. (2017) のALEX試験や Camidge et al. (2018) のALTA-1L試験などの先行研究によって報告されてきた。また、Solomon et al. (2014) による研究では、クリゾチニブがプラチナ製剤併用化学療法に対して優越性を示し、1次治療の標準治療として確立された経緯がある。しかし、これらの優れた薬剤を使用しても、多くの患者は最終的にALK遺伝子の二次変異の獲得や、脳転移の出現・増悪によって治療抵抗性を示す。ロルラチニブは、既知のほぼすべてのALK耐性変異を克服し、かつ高い血液脳関門透過性を持つように設計された第III世代の大環状ALK/ROS1阻害薬である。既治療のALK陽性NSCLC患者を対象とした初期の臨床試験である Shaw et al. (2017) の第1相試験および Solomon et al. (2018) の第2相試験では、高い全身奏効率および頭蓋内奏効率が示されていた。しかし、未治療のALK陽性進行NSCLC患者における1次治療としてのロルラチニブの有効性と安全性、特にクリゾチニブに対する優越性や、CNS転移の予防・治療効果の詳細は依然として「未解明」であり、臨床データが「不足」していた。この治療開発上のgapを解消し、1次治療における最適なALK阻害薬の選択基準を確立することが、胸部腫瘍学における重要な「課題」となっていた。

目的

本研究の目的は、未治療のALK陽性進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、1次治療としての第III世代ALK阻害薬ロルラチニブ (100 mg, 1日1回経口投与) の有効性および安全性を、第I世代ALK阻害薬クリゾチニブ (250 mg, 1日2回経口投与) と直接比較して検証することである。主要評価項目として、盲検化独立中央判定 (BICR; blinded independent central review) に基づく無増悪生存期間 (PFS) におけるロルラチニブの優越性を検証する。また、副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR; objective response rate)、頭蓋内奏効率 (intracranial ORR)、頭蓋内無増悪生存期間、全生存期間 (OS)、患者報告アウトカムである生活の質 (QOL; quality of life)、および安全性を包括的に評価・比較し、1次治療におけるロルラチニブの臨床的有用性を確立することを目指す。

結果

主要評価項目である無増悪生存期間の劇的な延長: 主要評価項目であるBICR評価に基づくPFSにおいて、ロルラチニブ群はクリゾチニブ群と比較して統計学的に有意かつ臨床的に極めて顕著な延長を示した。12ヶ月無増悪生存率は、ロルラチニブ群で 78% vs クリゾチニブ群で 39% であり、ロルラチニブ群は病勢進行または死亡のリスクを72%減少させた。具体的には、ハザード比は HR 0.28 (95% CI 0.19-0.41, p<0.001) であった (Figure 2A)。ロルラチニブ群のPFS中央値は未到達であったのに対し、クリゾチニブ群は 9.3ヶ月であった。この圧倒的なPFSの優越性は、事前に設定されたすべてのサブグループにおいて一貫して認められた。特に、ベースラインで脳転移を有していた患者サブグループ (n=78) におけるPFSのハザード比は HR 0.20 (95% CI 0.09-0.43, p<0.001) と、極めて優れた治療効果が示された。また、脳転移のない患者サブグループ (n=218) におけるハザード比は HR 0.32 (95% CI 0.20-0.49, p<0.001) であった。研究者判定による12ヶ月PFS率も、ロルラチニブ群で 80% vs クリゾチニブ群で 35% であり、ハザード比は HR 0.21 (95% CI 0.14-0.31, p<0.001) と、BICR判定と極めて整合性の高い結果であった (Figure S2)。

中枢神経系病変に対する優れた頭蓋内効果と新規転移の抑制: ベースラインで測定可能な脳転移を有していた患者 (ロルラチニブ群 n=17, クリゾチニブ群 n=13) において、BICR判定による客観的頭蓋内奏効率は、ロルラチニブ群で 82% vs クリゾチニブ群で 23% であった (Table 2)。さらに、頭蓋内完全奏効 (CR; complete response) 率はロルラチニブ群で 71% (n=12/17) に達したのに対し、クリゾチニブ群では 8% (n=1/13) にすぎず、ロルラチニブの強力な頭蓋内腫瘍縮小効果が実証された。また、12ヶ月時点でCNS病勢進行がなく生存している割合は、ロルラチニブ群で 96% vs クリゾチニブ群で 60% であり、CNS病勢進行のリスクを93%低下させた。この頭蓋内進行に関するハザード比は HR 0.07 (95% CI 0.03-0.17, p<0.001) であった (Figure 2B)。競合リスクを考慮した累積CNS進行率は、12ヶ月時点でロルラチニブ群が 3% vs クリゾチニブ群が 33% であり、新規の脳転移出現を強力に予防することが示された。この累積CNS進行に関するハザード比は HR 0.06 (95% CI 0.02-0.18, p<0.001) であった (Figure 2C)。

全身の客観的奏効率と全生存期間の中間解析結果: 意図治療 (ITT; intention-to-treat) 集団における全身のORRは、ロルラチニブ群で 76% vs クリゾチニブ群で 58% であり、ロルラチニブ群で有意に高かった (Table 2)。完全奏効はロルラチニブ群で 3% (n=4/149) に得られたが、クリゾチニブ群では 0% であった。奏効期間 (DOR) の中央値は、ロルラチニブ群では未到達であったのに対し、クリゾチニブ群では 11.0ヶ月であった。全生存期間 (OS) の中間解析時点において、死亡イベントはロルラチニブ群で 15% (n=23/149) , クリゾチニブ群で 19% (n=28/147) に認められた。OS中央値は両群ともに未到達であり、ハザード比は HR 0.72 (95% CI 0.41-1.25, p=0.24) と、現時点では統計学的な有意差には達していないものの、ロルラチニブ群で良好な生存傾向が示されている (Figure 2D)。患者報告アウトカムであるQOLの評価においては、ロル原チニブ群はクリゾチニブ群と比較して、ベースラインからのQOLスコアの改善が有意に優れており、早期かつ持続的な生活の質の向上が確認された。

脂質異常症を特徴とする安全性プロファイルと治療管理: 安全性評価対象集団 (ロルラチニブ群 n=149, クリゾチニブ群 n=142) において、Grade 3または4の有害事象は、ロルラチニブ群で 72% vs クリゾチニブ群で 56% に認められた (Table 3)。ロルラチニブ群で最も頻度の高かった有害事象は、高コレステロール血症 (70%) および高トリグリセリド血症 (64%) であり、Grade 3または4の脂質異常症はそれぞれ 16% および 20% に達した。これらの脂質異常症は通常無症状であり、スタチンなどの脂質低下薬の投与や休薬・減量によって良好に管理可能であった。ロルラチニブ群における臨床検査値異常のALT (alanine aminotransferase; アラニンアミノトランスフェラーゼ) 上昇は 17% (Grade 3/4は3%)、AST (aspartate aminotransferase; アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) 上昇は 14% (Grade 3/4は2%) であったのに対し、クリゾチニブ群ではALT上昇が 34% (Grade 3/4は5%)、AST上昇が 27% (Grade 3/4は4%) であり、肝機能異常の頻度はクリゾチニブ群でより高い傾向が示された。その他の特徴的な副作用として、浮腫 (55%)、体重増加 (38%)、末梢神経障害 (34%)、認知機能変化 (21%)、気分変化 (16%) が観察された。有害事象による治療中止率は、ロルラチニブ群で 7% vs クリゾチニブ群で 9% と、両群間で同等であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、第I世代ALK阻害薬クリゾチニブを対照群とした第III相試験であり、先行研究であるALEX試験におけるアレクチニブのハザード比 0.50 や、ALTA-1L試験におけるブリガチニブのハザード比 0.49 と異なり、ロルラチニブが示したPFSのハザード比 0.28 は、これまでのALK陽性肺がんにおける臨床試験の中で最も際立って低い値であり、従来の治療成績と異なり極めて強力な病勢コントロールを達成している。

新規性: 本研究は、未治療のALK陽性進行NSCLC患者に対する1次治療として、第III世代ALK阻害薬ロルラチニブの優越性を本研究で初めて実証した。特に、脳転移を有する患者における頭蓋内完全奏効率 71% という驚異的な効果や、新規CNS病変の出現を強力に抑制する予防効果を新規に明らかにした。これは、ロルラチニブが血液脳関門を効率的に通過するように設計された大環状化合物であるという薬理学的特徴を臨床的に裏付けるものである。

臨床応用: 本試験の結果に基づき、ロルラチニブはALK陽性進行NSCLCの1次治療における標準治療として臨床現場に導入された。臨床においては、高脂血症や認知機能変化、体重増加といったロルラチニブ特有の副作用に対する適切な管理 (脂質低下薬の早期導入や用量調節など) を行うことで、長期的な治療継続が可能となる。患者報告アウトカムにおけるQOLの改善も、この薬剤の臨床的有用性を強く支持している。

残された課題: 残された課題として、全生存期間 (OS) の最終解析による長期生存ベネフィットの証明が待たれる。また、第II世代ALK阻害薬 (アレクチニブやブリガチニブ) との直接比較試験が存在しないため、どの患者にどのALK阻害薬をファーストラインとして選択すべきかという最適シーケンスの確立が課題である。さらに、ロルラチニブ耐性後に生じる複合変異に対する治療戦略の構築も今後の検討が必要である。

方法

本研究は、世界23ヶ国104施設で実施された、国際共同、無作為化、オープンラベル、第III相臨床試験である (CROWN試験、臨床試験登録番号: NCT03052608)。対象は、組織学的または細胞学的に確認された局所進行または転移性のALK陽性NSCLC患者であり、転移性病変に対する全身化学療法の前治療歴がない症例とした。無症候性の脳転移を有する患者の登録は許容された。適格患者296例は、ロルラチニブ群 (100 mg, 1日1回経口投与, n=149) またはクリゾチニブ群 (250 mg, 1日2回経口投与, n=147) に1:1の割合で無作為に割り付けられた。ランダム化の層別化因子は、ベースラインにおける脳転移の有無 (あり vs なし) および人種 (アジア人 vs 非アジア人) とした。主要評価項目は、固形がんの治療効果判定基準 (RECIST; Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) バージョン1.1に基づき、BICRによって評価されたPFSとした。副次評価項目には、研究者判定によるPFS、ORR、奏効期間 (DOR; duration of response)、頭蓋内奏効率 (intracranial ORR)、頭蓋内奏効期間、全生存期間 (OS)、安全性、および患者報告によるQOLが含まれた。画像評価として、胸部、腹部、骨盤のコンピュータ断層撮影 (CT; computed tomography) または磁気共鳴画像法 (MRI; magnetic resonance imaging) に加え、ベースラインの脳転移の有無に関わらず、すべての患者に対して定期的な脳MRI検査が義務付けられた。統計解析において、PFSおよびOSの治療群間比較には層別 log-rank 検定が用いられ、ハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) の推定には層別 Cox regression (コックス比例ハザードモデル) が適用された。生存曲線の推定には Kaplan-Meier 法が用いられた。中間解析は、予定されたイベント数 (進行または死亡) の約75% (133イベント) が観察された時点で実施されるよう事前に計画されており、今回の解析はその規定に基づくものである。