• 著者: E. Felip, A. T. Shaw, A. Bearz, D. R. Camidge, B. J. Solomon, J. R. Bauman, T. M. Bauer, S. Peters, F. Toffalorio, A. Abbattista, H. Thurm, G. Peltz, R. Wiltshire, B. Besse
  • Corresponding author: Enriqueta Felip (Vall d’Hebron Institute of Oncology, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33639216

背景

ALK 陽性進行非小細胞肺癌 (NSCLC) において、第二世代 ALK チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるアレシチニブ、セリチニブ、ブリガチニブは一次治療の標準療法として確立されている。例えば、Peters et al. NEnglJMed 2017Camidge et al. NEnglJMed 2018、さらに Soria et al. Lancet 2017 などの先行研究において、これらの第二世代 TKI はクリゾチニブや化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが示されている。しかしながら、これらの優れた薬剤による治療を行った後であっても、ほぼすべての患者で最終的に耐性変異の出現や中枢神経系 (CNS) 転移の進行による病勢進行が観察される。

既存の ALK TKI に対する耐性メカニズムとして、ALK キナーゼドメイン内の二次変異、特に G1202R 溶媒領域変異などの出現が関与していることが Gainor et al. CancerDiscov 2016 によって報告されている。このような耐性変異や脳転移の進行に対して、既存の第二世代 ALK TKI では十分な治療効果が得られないという課題が存在する。第三世代 ALK TKI であるロルラチニブは、高い脳透過性を有するマクロサイクリックな阻害薬であり、広範な ALK 耐性変異に対して強力な活性を示すように設計されている。初期の第 I/II 相試験 Shaw et al. LancetOncol 2017 および第 II 相試験の初期解析 Solomon et al. LancetOncol 2018 において、ロルラチニブは既治療の ALK 陽性患者に対して良好な抗腫瘍活性を示した。しかし、第二世代 ALK TKI による治療後に病勢進行した患者集団における、頭蓋内および頭蓋外の長期的な詳細データや、最後に使用された第二世代 TKI の種類別の有効性に関する知見はこれまで不足していた。この治療困難な患者集団におけるロルラチニブの包括的な有効性プロファイル、特に CNS 転移に対する詳細な活性や新規脳転移の予防効果については未解明な点が多く残されており、より長期の追跡データに基づく詳細な解析が求められていた。このように、第二世代薬耐性後の有効な治療シークエンスや、脳転移の制御に関する詳細なエビデンスは依然として不足しており、臨床現場における最適な治療選択を行う上での大きな課題となっていた。

目的

本研究の目的は、少なくとも1種類の第二世代 ALK TKI 治療(化学療法の併用の有無を問わない)の後に病勢進行が確認された、ALK 陽性進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、ロルラチニブの全体的な抗腫瘍活性、頭蓋内有効性、および頭蓋外有効性を長期フォローアップデータを用いて詳細に評価することである。具体的には、独立中央画像診断レビュー (ICR) による modified RECIST v1.1 に基づき、客観的奏効率 (ORR)、頭蓋内奏効率 (IC-ORR)、頭蓋外奏効率 (EC-ORR)、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を算出する。さらに、先行治療ライン数(1種類 vs 2種類以上)、先行化学療法の有無、および最後に投与された第二世代 ALK TKI の種類(アレシチニブ、ブリガチニブ、セリチニブ)によるサブグループ解析を行い、ロルラチニブの治療効果に与える影響を明らかにすることを目的とする。

結果

患者背景と治療状況: EXP3B-5 コホート全体で 139 例の患者が登録され、内訳は EXP3B が 28 例、EXP4-5 が 111 例(EXP4: 65 例、EXP5: 46 例)であった。患者の年齢中央値は 52 歳(範囲 29-83 歳)で、女性が 56.1% (n=78/139) であった。ベースラインで脳転移を有する患者は 68.3% (n=95/139) であり、そのうち 48.2% (n=67/139) が先行脳放射線治療歴を有していた。最後に投与された先行 ALK TKI は、アレシチニブが 44.6% (n=62/139)、セリチニブが 33.8% (n=47/139)、ブリガチニブが 5.8% (n=8/139)、クリゾチニブが 12.9% (n=18/139) であった。データカットオフ時点で 18.7% (n=26/139) が治療を継続しており、治療期間中央値は 10.1 ヶ月(範囲 0.2-43.2 ヶ月)であった (Table 1)。

全体的な治療効果の解析: EXP3B-5 コホート全体 (n=139) における客観的奏効率 (ORR) は 39.6% (95% CI 31.4-48.2) であり、完全奏効 (CR) が 3 例、部分奏効 (PR) が 52 例であった (Table 2) (Figure 1A)。奏効期間 (DoR) 中央値は 9.6 ヶ月 (95% CI 5.6-16.7) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は 6.6 ヶ月 (95% CI 5.4-7.4) であり、全生存期間 (OS) 中央値は 20.7 ヶ月 (95% CI 16.1-30.3) を示した。先行第二世代 ALK TKI が1種類のみの EXP3B コホート (n=28) では、ORR は 42.9% (95% CI 24.5-62.8) であり、OS 中央値は 38.5 ヶ月 (95% CI 12.3-NE, p値記載なし) と極めて良好な生存期間を示した。一方、2種類以上の先行 ALK TKI 治療歴を有する EXP4-5 コホート (n=111) では、ORR は 38.7% (95% CI 29.6-48.5)、OS 中央値は 19.2 ヶ月 (95% CI 15.4-30.2) であった (Table 2)。

頭蓋内および頭蓋外の有効性比較: ベースラインで測定可能な CNS 転移を有していた 57 例における頭蓋内奏効率 (IC-ORR) は 56.1% (95% CI 42.4-69.3) であり、そのうち 21.1% (n=12/57) が頭蓋内完全奏効 (CR) を達成した (Table 3) (Figure 1B)。これに対し、EXP3B-5 全体における頭蓋外奏効率 (EC-ORR) は 36.7% (95% CI 28.7-45.3) であった (Table 3) (Figure 1C)。頭蓋内 DoR 中央値は 12.4 ヶ月 (95% CI 6.0-37.1) であり、頭蓋外 DoR 中央値の 9.7 ヶ月 (95% CI 6.1-33.3) を上回る持続性を示した。先行脳放射線治療からロルラチニブ開始までの期間が 8 週間未満または 12 週間未満の症例を除外した感度解析においても、頭蓋内奏効率および奏効期間は一貫しており、放射線治療の遅延効果ではなくロルラチニブ自体の頭蓋内活性であることが確認された。

新規脳転移の進行抑制効果: 競合リスク解析において、ベースラインの CNS 転移の有無にかかわらず、最初の進行イベントが CNS 進行である確率は、非 CNS 進行である確率よりも一貫して低かった (Figure 2A) (Figure 2B)。特に、ベースラインで CNS 転移を有しない患者群においては、2年間の経過観察期間を通じて最初の進行イベントが CNS 進行となる確率は極めて低いレベルに維持されており、ロルラチニブが新規の脳転移出現を強力に抑制していることが示唆された。

先行化学療法および最終投与 TKI 別の有効性: 先行化学療法歴のある患者 (n=93) における ORR は 43.0% (95% CI 32.8-53.7) であったのに対し、化学療法歴のない患者 (n=46) では 32.6% (95% CI 19.5-48.0) であった (Table 2)。最後に投与された第二世代 ALK TKI 別の解析では、アレシチニブ群 (n=62) の ORR が 40.3% (95% CI 28.1-53.6)、セリチニブ群 (n=47) が 40.4% (95% CI 26.4-55.7)、ブリガチニブ群 (n=8) が 37.5% (95% CI 8.5-75.5) であり、先行薬の種類を問わず同等の有効性が示された (Table 4)。

安全性プロファイルの評価: 第 I/II 相試験で推奨用量 (100 mg QD) を投与された全 295 例(治療期間中央値 16.33 ヶ月)における安全性解析において、新たな安全性シグナルは検出されなかった。最も頻度の高い治療関連有害事象(全グレード)は、高コレステロール血症 84.4% (n=249/295)、高トリグリセリド血症 67.1% (n=198/295)、浮腫 45.8% (n=135/295)、末梢神経障害 34.2% (n=101/295)、認知機能障害 23.7% (n=70/295) であった (Table 5)。有害事象による用量減量は 25.4% (n=75/295) で発生し、治療中止に至った割合は 3.4% (n=10/295) と低く、毒性は管理可能であった。

考察/結論

本更新解析により、第二世代 ALK TKI 治療後に病勢進行した ALK 陽性進行 NSCLC 患者において、ロルラチニブが強力かつ持続的な頭蓋内および頭蓋外の抗腫瘍活性を示すことが確認された。本研究で示された全体 ORR 39.6% および PFS 中央値 6.6 ヶ月という成績は、アレシチニブ耐性後の治療として報告されているブリガチニブの ORR 17% Lin et al. JThoracOncol 2018 や、セリチニブの ORR 25% Hida et al. CancerSci 2018、さらにはプラチナ製剤/ペメトレキセド併用化学療法の効果 Lin et al. JThoracOncol 2020 と比較して極めて良好であり、本領域における重要な治療選択肢となる。

先行研究との違い: 既存の第二世代 ALK TKI 治療においては、病勢進行時の主要な部位として脳転移が問題となることが多い。これに対し、ロルラチニブは頭蓋外奏効率 (EC-ORR 36.7%) と比較して、頭蓋内奏効率 (IC-ORR 56.1%) が顕著に高いという、他の ALK TKI とは対照的な特徴を示した。これはロルラチニブの優れた血液脳関門透過性を裏付けるものである。また、競合リスク解析により、最初の進行部位として CNS 進行が占める割合が極めて低いことが示された点は、これまでの報告では十分に強調されていなかったロルラチニブの強力な脳転移抑制能を示す重要な知見である。

新規性: 本研究において、最後に使用された第二世代 ALK TKI(アレシチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ)の種類にかかわらず、ロルラチニブが約 40% という同等の客観的奏効率を示したことが本研究で初めて明らかになった。これは、先行する第二世代薬の選択に関わらず、耐性後のレスキュー治療としてロルラチニブが新規かつ一貫した治療効果を提供できることを実証するデータである。

臨床応用: これらの結果は、第二世代 ALK TKI 既治療の ALK 陽性 NSCLC 患者に対するロルラチニブの臨床的有用性を強固にするものである。特に、ベースラインで脳転移を有する高リスク患者や、CNS 進行のリスクを最小限に抑えたい臨床現場において、ロルラチニブは優先されるべき標準治療戦略として位置づけられる。

残された課題: 本研究は単群の非盲検試験であり、直接的な比較対照群を欠いている点が limitation である。また、各サブグループの症例数が比較的少数であるため、結果の解釈には慎重を要する。今後の検討課題として、ロルラチニブ治療後にさらに進行した症例における分子学的耐性メカニズム(複合変異など)の解明や、一次治療におけるロルラチニブの最適な使用シーケンスの確立が挙げられる。特に、一次治療でのロルラチニブの有用性を示した CROWN 試験 Shaw et al. NEnglJMed 2020 の結果を踏まえ、治療ライン全体の最適化と、認知機能障害や脂質異常症などの特徴的な有害事象の長期管理法の確立が望まれる。

方法

本研究は、進行中の多施設共同非盲検第 I/II 相試験 (ClinicalTrials.gov 登録番号: NCT01970865) の第 II 相部分の更新解析である。対象患者は、18歳以上、ECOG Performance Status 0-2、組織学的または細胞学的に確認された転移性 NSCLC で ALK 再構成陽性(FDA 承認の FISH アッセイまたは IHC 法により確認)であり、RECIST v1.1 に基づく少なくとも1つの測定可能な頭蓋外病変を有する症例とした。無症候性の治療済みまたは未治療の CNS 転移を有する患者の登録も許容された。先行する脳放射線治療については、定位放射線治療または小視野脳照射が試験開始前2週間以上、全脳照射 (WBRT; whole brain radiotherapy) が試験開始前4週間以上前に完了していることを条件とした。

患者は、ALK 状態および治療歴に基づき、複数の拡大コホート (EXP; expansion cohort) に登録された。本解析では、少なくとも1種類の第二世代 ALK TKI 治療歴を有する ALK 陽性患者(EXP3B-5 コホート、n=139)を対象とした。具体的には、EXP3B は1種類の先行第二世代 ALK TKI 治療後に進行した患者 (n=28)、EXP4 は2種類の先行 ALK TKI 治療後に進行した患者 (n=65)、EXP5 は3種類の先行 ALK TKI 治療後に進行した患者 (n=46) である。ロルラチニブは 100 mg を1日1回経口投与され、21日を1サイクルとして、病勢進行、許容できない毒性、または同意撤回まで継続された。

腫瘍画像評価(胸部・腹部・骨盤の CT および脳の MRI)は、最初の30ヶ月間は6週間ごと、その後は12週間ごとに実施された。主要評価項目は、ICR による modified RECIST v1.1 に基づく客観的奏効(CR または PR)および頭蓋内腫瘍奏効であり、いずれも初回奏効から少なくとも4週間後の確認を要した。副次評価項目には、奏効期間 (DoR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性が含まれた。統計解析は、ロルラチニブを1回以上投与されたすべての患者を対象とする安全性解析セットに基づき実施された。ベースラインで測定可能な CNS 転移を有する患者を頭蓋内活性の解析対象とし、頭蓋外病変を有する患者を頭蓋外活性の解析対象とした。EXP4 と EXP5 は、治療選択肢が限られた進行ラインであるため、プールして解析された。生存時間(PFS、OS、DoR)の推定には Kaplan-Meier 法を用い、95%信頼区間 (CI) を算出した。また、最初のイベントが CNS 進行、非 CNS 進行、または死亡である確率を推定するため、競合リスクアプローチを用いた累積発生率を算出した。データカットオフ日は2019年5月14日であった。