- 著者: Heijboer FWJ, Brambilla M, Occhipinti M, Lorenzini D, Buikhuisen WA, Kodach LL, Christopoulos P, Stenzinger A, Hillen LM, Garrido P, Lage Y, Benito A, Lindsay CR, Carter M, Herder J, Britstra R, van der Drift MA, de Jong WK, Schutgens FWG, Damhuis RAM, Speel EJM, von der Thusen JH, Dingemans AMC, Derks JL
- Corresponding author: J.L. Derks (Erasmus MC Cancer Institute, Rotterdam, the Netherlands)
- 雑誌: JCO Precision Oncology
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-11-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 41237361
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) において、EGFR変異、ALK融合、KRAS G12Cなどのアクショナブルゲノム異常 (AGA) の存在は散発的なケースレポートで報告されてきた。しかし、これらのAGA陽性LCNEC患者に対する小分子阻害薬 (SMI) による治療成績を系統的に評価した大規模な研究はこれまで存在しなかった。LCNECの診療において、分子プロファイリングは標準的に推奨されておらず、国際ガイドラインでもAGAスクリーニングは必須とされていないのが現状である。LCNECが非小細胞肺癌 (NSCLC) と類似した分子背景を一部持つことは、Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016やGeorgeら (2018) の研究で示されている。特に、NSCLC-like LCNECと呼ばれるサブタイプでは、RB1遺伝子が野生型であることが特徴である。しかし、これらのAGA陽性LCNECにSMIを投与した際の反応性、生存成績、およびRB1状態との関連については、依然として未解明な点が多かった。Rekhtman et al. ModPathol 2022はLCNECにおける分子プロファイリングの重要性を指摘しているが、SMI治療の有効性に関する大規模な臨床データは不足している。また、Lindsay et al. BrJCancer 2021が示すように、LCNECは希少がんであり、診断の困難さや治療戦略の確立が課題として残されている。このギャップを埋めることが本研究の動機付けとなった。
目的
本研究の主要な目的は、AGA (actionable genomic alteration) を有するLCNEC患者に対するSMI (small molecule inhibitor) 治療の反応性および全生存期間 (OS) 転帰を評価することである。さらに、オランダ国内におけるLCNECの分子検査実施率とAGA検出頻度を、全国がん登録 (NCR) データを用いて解析することも目的とした。
結果
コホートの特徴とAGAプロファイル: 欧州多施設コホートにおいて、合計28例のLCNEC患者が同定された。患者の内訳は女性50%、年齢中央値62.5歳 (IQR 55.5-70.5) であった。非喫煙者が46.4%を占めていた点は、一般的なLCNEC患者の喫煙歴とは異なる傾向を示した。最も頻繁に観察されたAGAは、EGFR変異が10例 (35.7%)、ALK融合が9例 (32.1%) であった。その他、KRAS G12C変異が3例 (10.7%)、BRAF V600E変異が2例 (7.1%)、RET融合が2例 (7.1%)、FGFR3融合が1例 (3.6%)、ROS1融合が1例 (3.6%) であった。Ki-67増殖指数の中央値は45% (IQR 30-77.5) であった (Figure A1)。
RB1状態の評価: RB1変異に関するデータは13例 (46.4%) で得られ、そのうち12例 (92.3%) がRB1野生型であった。pRb蛋白発現データは17例 (60.7%) で利用可能であった。全体として、16例 (57.1%) がRB1機能保持と分類された。RB1機能保持の割合が高いことは、NSCLC-like LCNECがRB1野生型であり、より多くのAGAが存在するというBurnsら (2024) の知見と一致する。
SMI治療反応性と生存期間: 38回のSMI治療ライン全体での客観的奏効率 (ORR) は50% (19/38ライン) であった。全コホートのOS中央値は14.6ヶ月 (95% CI, 11-32) であった (Figure 2A)。EGFR変異群のOS中央値は14.9ヶ月 (95% CI, 11.4-NA)、ALK融合群のOS中央値は18.6ヶ月 (95% CI, 8.5-NA) であった。追跡期間中央値は44.3ヶ月であり、最終追跡時に5例 (17.9%) が生存していた。EGFR変異を有する患者のうち、最長生存期間 (≥33ヶ月) を示した3例はいずれもRB1野生型であった。同様に、ALK融合を有する患者で最長生存期間 (37.1ヶ月) を示した1例もRB1野生型であった。
RB1機能状態とOSの関連: RB1機能保持患者 (n=16) のOS中央値は32.9ヶ月 (95% CI, 8.5-NA) であったのに対し、RB1機能消失患者 (n=7) では12.5ヶ月 (95% CI, 11-NA) であった。RB1機能保持患者ではOSが良好な傾向が認められ (HR 0.32, 95% CI 0.12-1.03, P=0.057)、統計的有意傾向を示した (Figure 2B)。RB1消失時にSMI効果が減弱する機序として、RB1欠失によるG1チェックポイント障害が細胞増殖を持続的に促進し、SMIによる膜貫通シグナリング抑制効果を相殺する可能性が示唆された。
オランダNCRによる分子検査実施率: オランダのNCRデータ (2016-2022年) の解析により、Stage IV LCNEC患者927例中498例 (53.7%) で分子検査が実施されていたことが明らかになった。分子検査の実施率は、2016年の47%から2022年の55%へと経年的に微増していた。検査が施行された498例のうち、AGAが検出されたのは111例 (22.3%) であった。最も多く検出されたAGAはKRAS G12Cで16例 (14%) であった (Table 1)。
考察/結論
本研究は、AGA (actionable genomic alteration) 陽性LCNEC患者に対するSMI (small molecule inhibitor) 治療の臨床的アウトカムを評価した最大規模の欧州多施設コホート研究であり、SMI治療により50%の客観的奏効率 (ORR) が達成可能であることを示した。
先行研究との違い: これまでのLCNECに関する研究では、AGAの存在は散発的なケースレポートで報告されるに留まり、SMI治療の有効性を系統的に評価した大規模なコホート研究は存在しなかった。本研究は、Derks et al. EurRespirJ 2016が報告したStage IV LCNEC患者のOS中央値4ヶ月と比較して、AGA陽性LCNEC患者がSMI治療により大幅にOSを延長できる可能性を示しており、これまでの知見と対照的な結果である。例えば、Ramalingam et al. NEnglJMed 2020やShaw et al. NEnglJMed 2020がNSCLCで示したSMIの有効性が、LCNECの一部患者にも適用可能であることを示唆する。
新規性: 本研究で初めて、LCNEC患者におけるRB1機能保持がSMI治療後のOS延長傾向と関連することを示唆した点は新規である。特に、EGFR変異やALK融合を持つLCNEC患者では、対応するSMIによる持続的奏効が得られる可能性があり、RB1野生型のNSCLC-like LCNECサブグループにおいてSMI治療の恩恵が特に大きい可能性が示唆された (OS中央値32.9ヶ月 vs 12.5ヶ月の傾向差)。RB1機能消失がSMI治療効果を減弱させる機序的説明は合理的であり、EGFR変異NSCLCにRB1変異を合併した場合でも同様の現象が報告されている。
臨床応用: オランダのNCRデータから、Stage IV LCNEC患者の分子検査施行率が約54%にとどまることが明らかになった。これは、国際ガイドラインでLCNECにおけるAGAスクリーニングがルーチンに推奨されていないことが一因と考えられる。しかし、本研究の結果は、LCNEC患者の22%にAGAが検出されており、標準的なNGSパネルによる分子プロファイリングをLCNECに実施することで、治療オプションが拡大し、患者の予後改善に繋がる臨床的有用性があることを強く示唆する。特に、非喫煙者やpRb保持のLCNEC、または異型カルチノイドとの境界病変で増殖率が高い症例において、分子スクリーニングの重要性が強調される。
残された課題: 本研究の限界として、後方視的デザインによる選択バイアスや、KRAS G12C治療薬が研究期間中に欧州医薬品庁 (EMA) の承認を受けていなかったこと (ソトラシブは2022年1月、アダグラシブは2024年1月) が挙げられる。そのため、KRAS G12C変異陽性患者のSMI治療経験が限定的であった。また、希少疾患であるためサンプルサイズが依然として modest であり、サブグループ解析の統計的検出力には限界がある。今後の検討課題として、RB1機能状態をバイオマーカーとしてSMI治療効果を評価する前向き研究の実施と、LCNECにおけるより包括的なゲノムプロファイリングの実施率向上、そしてRekhtman et al. CancerDiscov 2025が報告したようなクロモスリプシスなどの複雑なゲノム異常の評価が残されている。
方法
本研究は、欧州5か国 (オランダ、英国、スペイン、ドイツ、イタリア) の9つのアカデミックセンターと1つの大規模市中病院を含む多施設後方視的コホート研究として、2020年から2024年の期間に実施された。対象患者は、AGA陽性でSMI治療を受けた18歳以上のLCNEC患者とした。本研究はNCT番号を持たない後方視的観察研究である。診断はWHO 2021分類に基づき、診断の正確性を確保するため、85.7%の症例で追加の病理医による確認を実施した。RB1変異の有無は次世代シーケンシング (NGS) により、pRb蛋白発現は免疫組織化学 (IHC) により評価し、これらの結果に基づいて「RB1機能保持 (pRb保持かつ/またはRB1野生型)」と「RB1機能消失」に分類した。SMI治療38ラインごとの奏効 (PR/SD/PD) を評価した。OSは、一次全身治療開始日から死亡または最終追跡日までと定義した。統計解析には、OSの推定にKaplan-Meier法を、コホート間の生存確率比較にlog-rank testを、RB1状態と死亡リスクの関連推定にCox proportional hazards modelを用いた。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。また、オランダのNCRデータ (2016-2022年) を用いて、Stage IV LCNEC患者における分子検査の実施頻度とAGAの検出率を解析した。