• 著者: Benjamin J Solomon, Geoffrey Liu, Enriqueta Felip, Tony SK Mok, Ross A Soo, Julien Mazieres, Alice T Shaw, Filippo de Marinis, Yasushi Goto, Yi-Long Wu, Dong-Wan Kim, Jean-François Martini, Rossella Messina, Jolanda Paolini, Anna Polli, Despina Thomaidou, Francesca Toffalorio, Todd M Bauer
  • Corresponding author: Benjamin J Solomon (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, Australia)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-05-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38819031

背景

ALK陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (ALK-TKI) の登場により治療成績が劇的に改善した。しかし、これらの薬剤に対する獲得耐性の出現は、長期的な治療効果を制限する主要な課題である。特に、脳転移はALK陽性NSCLC患者において頻繁に発生し、予後不良因子として知られている。第一世代ALK-TKIであるクリゾチニブは、ALK陽性NSCLCの標準一次治療として確立されたが、その中枢神経系 (CNS) 移行性は限定的であり、脳転移に対する効果には限界があった。

第二世代ALK-TKIであるアレクチニブやブリガチニブは、クリゾチニブと比較して優れた全身および頭蓋内効果を示し、未治療ALK陽性NSCLCの一次治療として広く用いられている。しかし、これらの薬剤に対する耐性メカニズムも報告されており、特にALKキナーゼドメイン変異やバイパス経路の活性化が関与することが知られている Planchard et al. AnnOncol 2018

第三世代ALK-TKIであるロルラチニブは、脳移行性に優れ、第二世代ALK阻害薬では克服できない広範なALK耐性変異をカバーするように設計された Shaw et al. LancetOncol 2017。CROWN試験は、未治療の進行ALK陽性NSCLC患者を対象に、ロルラチニブとクリゾチニブの有効性および安全性を比較する国際多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験である。中間解析 (2020年) では、ロルラチニブ群で無増悪生存期間 (PFS) 中央値が未到達 (ハザード比 [HR] 0.28) であり、クリゾチニブに対する有意な優越性が示された Shaw et al. NEnglJMed 2020。3年解析においても、ロルラチニブはPFS中央値未到達を維持し、長期的な有効性が示唆されていた。

EML4::ALK variant 3やTP53変異は、ALK陽性NSCLCにおける予後不良因子として認識されており、特定のALK耐性変異の発生に影響を与える可能性が指摘されている Woo et al. AnnOncol 2017Lin et al. JClinOncol 2018。しかし、ロルラチニブの長期成績におけるこれらのバイオマーカーの影響については、さらなる詳細な検討が不足しており、その臨床的意義は未解明な点が残されていた。また、治療期間が長期化するにつれて、新たな安全性の懸念が生じる可能性も考慮する必要がある。これらの知識ギャップが残されている。

本研究は、CROWN試験の5年フォローアップデータを用いて、ロルラチニブの長期的な全身および頭蓋内有効性、安全性プロファイル、およびバイオマーマー解析結果を詳細に報告することを目的とする。これにより、進行ALK陽性NSCLCにおける治療成績の新たなベンチマークを確立し、患者の長期予後改善に貢献する知見を提供することが期待される。

目的

本研究の目的は、CROWN試験の5年フォローアップデータに基づき、未治療の進行ALK陽性NSCLC患者におけるロルラチニブの長期的な有効性、安全性、およびバイオマーカー解析結果を詳細に評価することである。具体的には、主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) の5年時点での成績、頭蓋内病変に対する長期的な制御効果、客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DoR) を明らかにすることを目指す。また、長期投与における安全性プロファイル、特に高脂血症や中枢神経系 (CNS) 有害事象の管理可能性を評価する。さらに、EML4::ALK融合遺伝子バリアントやTP53変異といったベースラインのバイオマーカーがロルラチニブの有効性に与える影響、および治療終了時における循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析による耐性メカニズムの特定を通じて、ロルラチニブの作用機序と耐性克服戦略に関する知見を深めることを目的とする。これらの結果を通じて、進行ALK陽性NSCLCにおけるロルラチニブの標準一次治療としての位置付けを確固たるものとし、患者の長期予後改善に資する治療戦略の確立に貢献する。

結果

PFSの長期成績: PFSのフォローアップ期間中央値は、ロルラチニブ群で60.2ヶ月 (95% CI, 57.4-61.6ヶ月)、クリゾチニブ群で55.1ヶ月 (95% CI, 36.8-62.5ヶ月) であった。ロルラチニブ群におけるPFS中央値は未到達 (NR [95% CI, 64.3ヶ月-NR]) であり、クリゾチニブ群の9.1ヶ月 (95% CI, 7.4-10.9ヶ月) と比較して顕著な改善を示した (HR 0.19; 95% CI, 0.13-0.27)。5年PFS率は、ロルラチニブ群で60% (95% CI, 51-68%)、クリゾチニブ群で8% (95% CI, 3-14%) であった (Figure 2)。ベースラインで脳転移を有する患者 (ロルラチニブ群n=35、クリゾチニブ群n=38) においても、ロルラチニブ群はHR 0.08 (95% CI, 0.04-0.19) と優位性を示し、5年PFS率は53% (95% CI, 35-68%) であった。脳転移のない患者では、HR 0.24 (95% CI, 0.16-0.36) であり、5年PFS率は63% (95% CI, 52-71%) であった。PFSイベントの76%は最初の2年間に発生し、3年から5年の間に追加されたイベントはわずか6件であった。

頭蓋内制御の優位性: 頭蓋内進行までの期間中央値は、ロルラチニブ群で未到達 (NR [95% CI, NR-NR])、クリゾチニブ群で16.4ヶ月 (95% CI, 12.7-21.9ヶ月) であった (HR 0.06; 95% CI, 0.03-0.12)。5年時点での頭蓋内進行未発症率は、ロルラチニブ群で92% (95% CI, 85-96%)、クリゾチニブ群で21% (95% CI, 10-33%) であった (Figure 3A)。ベースライン脳転移あり患者では、5年頭蓋内進行未発症率がロルラチニブ群で83% (95% CI, 64-93%) (HR 0.03; 95% CI, 0.01-0.13) であった (Figure 3B)。脳転移なし患者では、新規脳転移の非発症率がロルラチニブ群で96% (95% CI, 89-98%) (HR 0.05; 95% CI, 0.02-0.13) であり、114例中わずか4例のみが頭蓋内病変を発症し、いずれも最初の16ヶ月以内であった (Figure 3C)。頭蓋内客観的奏効率 (ORR) はロルラチニブ群で60% (95% CI, 42-76%)、クリゾチニブ群で11% (95% CI, 3-25%) であり、頭蓋内完全奏効 (CR) 率はそれぞれ49%と5%であった (Table 1)。頭蓋内奏効期間中央値はロルラチニブ群で未到達、クリゾチニブ群で12.8ヶ月 (95% CI, 7.5ヶ月-NR) であった。

全身奏効率と奏効期間: 全身ORRはロルラチニブ群で81% (95% CI, 73-87%)、クリゾチニブ群で63% (95% CI, 54-70%) であった。奏効期間 (DoR) 中央値は、ロルラチニブ群で未到達 (NR [95% CI, NR-NR])、クリゾチニブ群で9.2ヶ月 (95% CI, 7.5-11.1ヶ月) であった。ロルラチニブ群では、奏効が2年以上持続した患者の割合が81%であったのに対し、クリゾチニブ群では0%であった。

安全性プロファイル: 治療期間中央値はロルラチニブ群で57.0ヶ月 (IQR, 13.9-63.3ヶ月)、クリゾチニブ群で9.6ヶ月 (IQR, 4.7-17.1ヶ月) であった。全因果Grade 3/4の有害事象 (AE) は、ロルラチニブ群で77%、クリゾチニブ群で57%に発現した (Table 2)。この差は主に高トリグリセリド血症 (25% vs 0%)、高コレステロール血症 (21% vs 0%)、体重増加 (23% vs 2%)、および高血圧 (12% vs 1%) に起因した (Appendix Table A1)。心血管系AEは両群で28%とほぼ同等であった (Appendix Table A2)。ベースラインまたは治療中に高脂血症を呈した患者集団において、ロルラチニブ群では心血管系AEの発生率が28% (n=134) であったのに対し、クリゾチニブ群では47% (n=32) であり、ロルラチニブ群のほうが虚血性心疾患 (16% vs 31%) および血栓塞栓イベント (7% vs 19%) が少なかった (Appendix Table A3)。CNS関連AEはロルラチニブ群で42%に発現したが、その86%がGrade 1/2の軽度なものであった (Appendix Table A4)。永続的な治療中止に至った患者の割合は、ロルラチニブ群で11%、クリゾチニブ群で11%と同等であった。用量減量を受けた患者と受けなかった患者の間で、PFSおよび頭蓋内進行までの期間に有意な差は認められなかった (Figure 4A, 4B)。

バイオマーカー解析結果: ベースラインの血漿ctDNAサンプルは、ロルラチニブ群134例、クリゾチニブ群129例で利用可能であった。EML4::ALK variant 3a/bは、ロルラチニブ群の13%、クリゾチニブ群の18%で検出された。EML4::ALK variant 3a/b患者におけるPFS中央値は、ロルラチニブ群で60.0ヶ月 (95% CI, 33.3ヶ月-NR)、クリゾチニブ群で5.6ヶ月 (95% CI, 5.3-7.6ヶ月) であり、ロルラチニブの顕著な優位性が示された (Appendix Table A6)。TP53変異陽性患者では、ロルラチニブ群のPFS中央値が51.6ヶ月 (95% CI, 16.4ヶ月-NR) であったのに対し、クリゾチニブ群では5.7ヶ月 (95% CI, 5.4-7.2ヶ月) であった (Appendix Table A7)。治療終了時のctDNA解析では、クリゾチニブ群で新規のALK耐性変異が検出されたが、ロルラチニブ群では検出されなかった (Appendix Table A8)。ロルラチニブ耐性の主な機序は、バイパス経路の異常であることが示唆された (Appendix Table A9)。

考察/結論

CROWN試験の5年フォローアップ解析において、ロルラチニブ群のPFS中央値は依然として未到達であり、これは進行NSCLCのみならず、全ての転移性固形腫瘍における単剤分子標的薬として過去最長のPFS成績である。この結果は、Mok et al. AnnOncol 2020におけるアレクチニブのPFS中央値34.8ヶ月 (3年PFS 46%) や、Camidge et al. JThoracOncol 2021におけるブリガチニブのPFS中央値30.8ヶ月 (3年PFS 45%) を大幅に上回るものであり、先行研究の結果と異なり、ロルラチニブの優れた有効性を明確に示している。

新規性: 本研究で初めて、ロルラチニブが5年時点でもPFS中央値未到達という画期的な長期無増悪生存期間を維持すること、および脳転移のない患者の96%が5年時点で新規脳転移を発症しないという、極めて強力な脳転移予防効果を示すことが明らかになった。これは、ALK陽性NSCLC治療における新たなベンチマークを確立する新規な知見である。また、治療終了時のctDNA解析において、ロルラチニブ群では新たなALK耐性変異が検出されず、バイパス経路の異常が主な耐性メカニズムであることが示唆された点も、これまでの報告されていない新規な発見である。

臨床応用: 特に、脳転移に対する長期的な予防効果は、ALK陽性NSCLC患者の生活の質 (QOL) 維持および予後改善において臨床的に極めて重要である。ロルラチニブは、ベースラインで脳転移を有する患者においても高い頭蓋内奏効率と長期的な頭蓋内制御を示しており、脳転移の有無にかかわらず、未治療の進行ALK陽性NSCLC患者に対する標準一次治療としての強力な選択肢となる。予後不良因子であるEML4::ALK variant 3やTP53変異陽性患者においても、ロルラチニブは第二世代TKIを大きく上回る成績を示しており、これらの患者集団における臨床的有用性が高い。本知見は、ロルラチニブが進行ALK陽性NSCLCの患者ケアを向上させるための臨床応用を強化するものである。

残された課題: 安全性プロファイルは以前の解析と一貫しており、新たな安全性の懸念は認められなかった。高脂血症などの有害事象は、スタチンなどの適切な管理により対応可能であることが示された。用量減量が全身および頭蓋内有効性に影響を与えないという結果は、毒性管理のための用量調整が治療効果を損なうことなく実施可能であることを示唆しており、臨床現場での柔軟な対応を可能にする。本試験の限界としては、事後解析であること、および盲検下独立中央判定 (BICR) が3年以降実施されていないため、本解析の有効性評価が治験責任医師評価に基づいている点が挙げられる。また、全生存期間 (OS) の結果は依然として未成熟であり、今後の追跡調査が待たれる。

結論として、ロルラチニブは未治療の進行ALK陽性NSCLC患者において、5年時点でもPFS中央値未到達という前例のない長期的な無増悪生存期間と優れた頭蓋内制御効果を示した。これらの結果は、ロルラチニブが進行ALK陽性NSCLCの標準一次治療としての新たなベンチマークを確立するものであり、患者の長期予後を劇的に改善する可能性を秘めている。

方法

CROWN試験 (ClinicalTrials.gov identifier: NCT03052608) は、未治療の進行ALK陽性NSCLC患者を対象とした国際多施設共同オープンラベルランダム化第III相試験である。本研究では、296例の患者がロルラチニブ100 mg 1日1回投与群 (n=149) またはクリゾチニブ250 mg 1日2回投与群 (n=147) に1:1で無作為に割り付けられた。本解析は、2023年10月31日をデータカットオフとした事後解析であり、治験責任医師評価による有効性、安全性、およびバイオマーカー解析結果を報告する。

主要評価項目は盲検下独立中央判定 (BICR) によるPFSであったが、プロトコルに従いBICRによる評価は3年解析で終了しているため、本5年解析では治験責任医師評価によるPFSが用いられた。その他の副次評価項目には、治験責任医師評価による客観的奏効率 (ORR)、頭蓋内客観的奏効率、頭蓋内進行までの期間、奏効期間 (DoR)、頭蓋内奏効期間、安全性、およびバイオマーカー解析が含まれる。腫瘍評価は、脳の磁気共鳴画像法 (MRI) を含め、全患者に対して8週間ごとに実施された。

本研究は事後解析であるため、正式な統計的比較は実施されず、結果は記述的に提示された。統計解析の詳細は以前の報告で公開されている Shaw et al. NEnglJMed 2020。主要な統計手法としては、PFSおよび頭蓋内進行までの期間の推定にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはログランク検定が適用された。ハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) は、Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。客観的奏効率は、95% CIとともに報告された。

分子プロファイリングでは、スクリーニング時に採取された血漿からの循環腫瘍DNA (ctDNA) が、Guardant360パネルバージョン2.11 (Guardant Health, Inc, Redwood City, CA) を用いた次世代シーケンシングアッセイで解析された。この解析により、EML4::ALK融合遺伝子バリアントやTP53変異などのベースライン遺伝子変異が特定された。また、治療終了時のctDNAサンプルも収集され、ALK耐性変異やバイパス経路の異常など、獲得耐性メカニズムの解析に用いられた。

安全性評価は、有害事象 (AE) の種類、重症度 (Common Terminology Criteria for Adverse Events [CTCAE] v4.03に基づく)、発現頻度、および治療中止・減量との関連性に基づいて実施された。特に、ロルラチニブで頻繁に報告される高脂血症やCNS関連AEについて詳細な評価が行われた。用量減量を受けた患者におけるPFSおよび頭蓋内進行までの期間についても、サブグループ解析が実施された。