• 著者: David S. Hong, Todd M. Bauer, Jeffrey J. Lee, Afshin Dowlati, Marcia S. Brose, Anna F. Farago, Matthew Taylor, Alice T. Shaw, Suzanne Montez, Funda Meric-Bernstam, Sherry Smith, Benjamin B. Tuch, Kristina Ebata, Sarah Cruickshank, Matthew C. Cox, Howard A. Burris III, Robert C. Doebele
  • Corresponding author: David S. Hong (Department of Investigational Cancer Therapeutics, The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31038663

背景

NTRK1、NTRK2、NTRK3遺伝子融合 (NTRK遺伝子融合) は、乳児型線維肉腫、分泌型乳癌、先天性中胚葉性腎腫、小児乳頭状甲状腺癌などでは高頻度に、非小細胞肺癌 (NSCLC)、大腸癌、軟部肉腫、膠芽腫など広範な成人癌でも低頻度に認められる、組織横断的かつ年齢横断的なoncogenic driverである。NTRK rearrangementによりTRKキナーゼが構成的に活性化され、増殖・生存シグナルを駆動する。Larotrectinibは初の高選択的TRKA/B/C阻害薬 (IC50 5-11 nM) として開発され、NTRK融合を有する様々な癌種での前臨床有効性が確認されていたが、成人患者における第I相試験データは存在しなかった。NTRK遺伝子融合は、がん治療において重要な標的となりうることが示唆されており、その検出と治療薬の開発が期待されていた (Amatu et al. ESMO Open 2016)。しかし、成人固形腫瘍患者におけるlarotrectinibの安全性、忍容性、薬物動態、および抗腫瘍活性を評価した大規模な臨床試験のデータは不足しており、特にNTRK遺伝子融合陽性患者におけるlarotrectinibの有効性に関する詳細な知見は未解明であった。本試験は成人患者における初の第I相用量漸増試験として実施され、このギャップを埋めることを目的とした。LeDung et al. Science 2017Cristescu et al. Science 2018などの先行研究では、特定の遺伝子変異と免疫チェックポイント阻害薬の奏効との関連が示されているが、NTRK遺伝子融合に対する標的治療薬の臨床効果に関する包括的なデータは不足していた。また、Samstein et al. NatGenet 2019の研究は腫瘍変異負荷と免疫療法の奏効予測に関する知見を提供しているが、特定のドライバー遺伝子融合に対する薬剤の有効性についてはさらなる検証が必要とされていた。

目的

成人転移性固形腫瘍患者におけるlarotrectinibの安全性、忍容性、薬物動態、および予備的抗腫瘍活性を評価し、第II相推奨用量を決定すること。本試験ではNTRK遺伝子融合状態は登録要件としなかった。

結果

患者背景とNTRK融合陽性例の特徴: 2014年5月から2017年8月にかけて、70例の患者が登録された。内訳はNTRK遺伝子融合陽性患者が8例、非陽性患者が62例であった。患者の年齢中央値は59.5歳 (範囲19-82歳) であり、44例 (63%) が3ライン以上の前治療を受けていた。NTRK融合の内訳は、ETV6-NTRK3が6例 (主に分泌型乳癌および肉腫起源)、LMNA-NTRK1が1例 (NSCLC)、TPR-NTRK1が1例であった (Table 1)。NTRK遺伝子融合陽性患者の年齢中央値は48歳 (IQR 36-57.5) であり、非融合患者の年齢中央値61歳 (IQR 52-67) と比較して若年傾向が示された。

安全性、用量制限毒性 (DLT) と最大耐量 (MTD): 用量漸増期間中、合計4件のDLTが報告されたが、いずれも治験薬の中止には至らなかった。具体的には、100 mg BIDコホートで1/6例に眩暈、150 mg BIDコホートで1/7例にアラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇、200 mg BIDコホートで1/6例に眩暈が認められた。最大耐量 (MTD) は未到達であった。忍容性とNTRK遺伝子融合陽性患者における奏効の持続性に基づき、100 mg BIDが第II相試験の推奨用量 (RP2D) として設定された。Larotrectinib関連有害事象の大部分はGrade 1-2であり、Grade 4または5の事象は認められなかった。最も頻度の高いGrade 3関連有害事象は貧血で、4例 (6%) に認められた (Table 2)。治療関連有害事象による中止は3例 (4%) であったが、NTRK融合陽性例では中止はなかった。最も一般的な有害事象は疲労、眩暈、貧血であった。

薬物動態プロファイル: Larotrectinibの曝露量 (CmaxおよびAUC) は、6つのコホート (50 mg QDから200 mg BID) にわたって用量に比例して増加することが確認された (Figure S2)。消失半減期は用量に依存せず約3時間であり、反復投与での蓄積はわずかであった。QDおよびBIDいずれの投与スケジュールでも定常状態が速やかに到達された。

NTRK融合陽性例の有効性 (主要所見): 登録された70例中、67例が客観的奏効評価可能であった。治験責任医師評価による全評価可能患者でのORRは12% (8/67例) であった。しかし、NTRK遺伝子融合陽性患者8例全例で奏効が確認された (治験責任医師評価で7/8例、独立中央評価で8/8例)。独立中央評価によるNTRK遺伝子融合陽性患者のORRは100% (95% CI 63-100) であり、完全奏効 (CR) が2例、部分奏効 (PR) が6例であった (Table 3)。奏効持続期間中央値は未到達 (範囲8.2-33.1+ヶ月) であった。NTRK遺伝子融合陽性患者8例のうち6例は、データカットオフ時点でもlarotrectinibの投与を継続しており、治療期間中央値は28.4ヶ月 (IQR 20.2-29.9) に及んだ。一方、非融合患者の治療期間中央値は1.8ヶ月と大幅な差が認められた (Figure 1B)。NTRK遺伝子融合陽性患者における奏効までの期間中央値は1.9ヶ月 (範囲1.0-14.5ヶ月) であった。非融合患者における奏効は限定的であり、NTRK1遺伝子増幅を有する1例で部分奏効が認められたが、奏効期間は3.7ヶ月と短かった。NTRK点変異のみを有する腫瘍では客観的奏効は認められなかった。

取得耐性機序: NTRK遺伝子融合陽性NSCLC患者の1例で、治療進行後に腫瘍生検が実施され、溶媒前縁変異 (TRKA G595R) とxDFG変異 (TRKA G667S) の2種類のTRKA二次変異が同定された。これは、EGFR T790MやALK L1196Mと同様の取得耐性の分子機序を示唆するものであった。また、胃腸間質腫瘍 (GIST) 患者の1例ではゲートキーパー変異 (TRKC F617L) が同定された。これらの二次変異は、larotrectinibに対する耐性獲得の重要なメカニズムであることが示唆される。

考察/結論

本試験は成人固形腫瘍患者におけるlarotrectinibの初の第I相試験であり、NTRK遺伝子融合陽性腫瘍 (8例中8例) に対するORR 100%という顕著な成績を達成した。最大耐量 (MTD) に到達せず、Grade 4/5の治療関連有害事象も認められなかったことから、良好な安全性プロファイルが確立された。100 mg BIDが最終的に推奨Phase II用量として設定され、その後の統合解析 (Drilon et al. N Engl J Med 2018) でも同様の有効性が確認されている。

先行研究との違い: 本研究は、これまでのNTRK遺伝子融合に関する報告が主に小児患者や特定の希少癌種に限定されていたのに対し、広範な成人固形腫瘍患者を対象とし、NTRK遺伝子融合陽性患者におけるlarotrectinibの有効性と安全性を初めて包括的に評価した点で、先行研究と異なる。特に、全例で客観的奏効を達成した点は、これまでの治療法では見られなかった顕著な結果である。また、larotrectinibが血液脳関門を通過する可能性を示唆する脳転移患者での奏効も、これまでの知見と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、larotrectinibが成人NTRK遺伝子融合陽性固形腫瘍患者において、組織型を問わず100%の奏効率と持続的な奏効を示すことを新規に実証した。また、取得耐性機序としてTRKA二次変異 (G595R, G667S) やTRKCゲートキーパー変異 (F617L) を同定したことは、これまで報告されていない重要な知見である。これにより、将来的な耐性克服戦略の開発に貢献する。

臨床応用: 本知見は、NTRK遺伝子融合陽性癌患者に対するlarotrectinibの臨床応用に直結する。larotrectinibは、後にFDAの初の腫瘍横断的 (tumor-agnostic) 承認を受けており、これは本研究のようなドライバー変異陽性癌の治療開発に影響を与えた画期的な試験として位置づけられる。臨床現場において、NTRK遺伝子融合のスクリーニングをルーチン化することの重要性を示唆する。特に、NTRK遺伝子融合が他の既知のドライバー変異と重複する可能性が低いという結果は、スクリーニング戦略を単純化する上で臨床的意義が大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、larotrectinibに対する取得耐性機序を克服するための次世代TRK阻害薬 (例: selitrectinib、repotrectinib) の開発と臨床的評価が残されている。また、NTRK遺伝子融合の検出方法の標準化と、より広範な患者集団における長期的な安全性と有効性の検証も今後の研究方向性である。本研究のlimitationとしては、NTRK遺伝子融合陽性患者のサンプルサイズが8例と限定的であった点が挙げられるが、その後の統合解析で同様の有効性が確認されている。

方法

本研究は、米国8施設で実施された多施設共同・非盲検・第I相用量漸増試験 (NCT02122913) である。対象患者は18歳以上の局所進行または転移性固形腫瘍患者で、標準治療に不応であり、ECOG PS 0-2、および十分な臓器機能を有することを要件とした。標準的3+3デザインを用いて、6つの用量コホート (50 mg QD、100 mg QD、100 mg BID、200 mg QD、150 mg BID、200 mg BID) に分けて用量漸増を行った。主要評価項目は安全性 (用量制限毒性 [DLT] を含む) であった。副次評価項目は薬物動態、奏効率 (ORR)、および奏効持続期間 (DoR) であった。NTRK遺伝子融合は、CLIA認定施設で次世代シーケンシング (NGS) により局所評価された。データカットオフは2018年2月19日であった。統計解析にはSAS (version 9.4) を用い、記述統計学的手法で安全性および抗腫瘍活性データを要約した。奏効率はRECIST v1.1に基づき評価可能患者における完全奏効または部分奏効の割合として算出された。最大耐量 (MTD) の決定には、サイクル1におけるDLTの発生が用いられた。