- 著者: Razvan Cristescu, Robin Mogg, Mark Ayers, Andrew Albright, Erin Murphy, Jennifer Yearley, Xinwei Sher, Xiao Qiao Liu, Hongchao Lu, Michael Nebozhyn, Chunsheng Zhang, Jared Lunceford, Andrew Joe, Jonathan Cheng, Andrea L. Webber, Nageatte Ibrahim, Elizabeth R. Plimack, Patrick A. Ott, Tanguy Seiwert, Antoni Ribas, Terrill K. McClanahan, Joanne E. Tomassini, Andrey Loboda, David Kaufman
- Corresponding author: Razvan Cristescu (Merck & Co., Kenilworth, NJ, USA); Andrey Loboda (Merck & Co., Kenilworth, NJ, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-10-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 30309915
背景
PD-1/PD-L1チェックポイント阻害療法(pembrolizumab、nivolumab、atezolizumab、durvalumabなど)は、20以上のがん種で持続的奏効を示し、FDA承認を取得してきた。しかし、非選択患者での奏効率は20-40%に留まり、どのバイオマーカーが最適な患者選択を可能にするかが最大の研究課題であった。既存の主要バイオマーカーとして、PD-L1免疫組織化学(IHC、22C3/28-8/SP142/SP263)、MSI-H/dMMR(pembrolizumabで2017年癌種横断承認)、TMB(tumor mutation burden)、およびT細胞活性化GEP(gene expression profile、18遺伝子NanoStringパネル)の4つが注目されていた。
TMBは、腫瘍細胞のゲノムに蓄積された体細胞変異の総数を定量化するものであり、高TMBはネオアンチゲン負荷の増加と関連し、免疫チェックポイント阻害薬に対する奏効を予測する可能性が示唆されていた。例えば、Rizvi et al. Science 2015やLe et al. NEnglJMed 2015は、それぞれ非小細胞肺がんやミスマッチ修復欠損腫瘍においてTMBがPD-1阻害薬への奏効と関連することを示している。また、Alexandrov et al. Nature 2013は、ヒトがんにおける変異シグネチャーの多様性を明らかにし、TMBの背景にある変異プロセスが免疫応答に影響を与える可能性を示唆した。
一方、T細胞活性化GEPは、腫瘍微小環境におけるT細胞浸潤やIFNγシグナル活性などの「炎症状態」を反映する。PD-L1発現も同様に炎症性バイオマーカーとして機能する。Tumeh et al. Nature 2014は、PD-1阻害が適応免疫抵抗性を抑制することで奏効を誘導することを示し、T細胞浸潤の重要性を強調した。しかし、これら2つのカテゴリのバイオマーカー(腫瘍抗原性を示すTMB/MSIと、微小環境の炎症状態を示すPD-L1/GEP)の生物学的独立性と、それぞれの単独・複合予測能は体系的に評価されていなかった。特に、TMBとGEPが独立して、かつ相補的にPD-1阻害薬への奏効を予測できるかについては、大規模な汎腫瘍コホートでの検証が不足していた。Merck社はKEYNOTE開発プログラム全体から22腫瘍種の検体を横断的に収集し、この知識ギャップを埋めるべく、pan-tumor biomarkerの定式化を試みた。これまでの研究では、TMBやGEP、PD-L1発現が個別に免疫チェックポイント阻害薬への奏効と関連することが報告されてきたが、それらの相互関係や複合的な予測能は十分に解明されておらず、この点が未解明な課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、TMBとT細胞活性化GEPが、抗PD-1抗体であるpembrolizumab単剤療法への臨床効果を癌種横断的に独立かつ相補的に予測できるかを評価することである。具体的には、TMBとGEPの組み合わせによって患者を4群に層別化し、その臨床的有用性を検証する。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の大規模分子データベースを用いて、これらのバイオマーカーによって定義される耐性腫瘍サブグループにおける残存免疫逃避機序や、標的可能なバイオロジーパターンを探索することも目的とする。この解析を通じて、TMBとGEPが異なる生物学的側面を捉え、個別化された免疫療法戦略の基盤を提供できるかを明らかにすることを目指す。本研究は、免疫チェックポイント阻害薬の最適な患者選択と治療効果予測における知識のギャップを埋めることを意図している。
結果
TMBとGEPの個別予測能: TMBとGEPは、いずれも単独でBORと有意な関連を示した。汎腫瘍コホートでは、TMBはp<0.001、GEPはp<0.01でBORと関連した(Fig 1A, 1B)。HNSCC単独コホートではTMB p<0.05、GEP p<0.001、メラノーマコホートでも両指標がp<0.05で有意な関連を示した。AUROC値は、TMBが汎腫瘍コホートで0.740、HNSCCで0.617、メラノーマで0.602であった。GEPのAUROC値は、汎腫瘍コホートで0.782、HNSCCで0.768、メラノーマで0.638であり、両バイオマーカーが中程度から良好な予測能を持つことを示した(Fig 1C)。ターゲットシーケンスベースのTMBアッセイ(Foundation Medicineプラットフォームの遺伝子を使用)をシミュレートした結果、WESと同等のAUROC(0.721)を示し、診断への応用可能性が示唆された。
TMBとGEPの独立予測能: TMBとGEPの相関は汎腫瘍コホートでSpearman r=0.221 (p<0.05)、HNSCCコホートでr=-0.020 (p=0.841)、メラノーマコホートでr=0.252 (p<0.05) と、いずれも低い相関であった(Fig 2A)。この低い相関は、両指標が腫瘍抗原性(TMB)と微小環境の炎症状態(GEP)という異なる生物学的次元を反映していることを示唆する。多変量ロジスティック回帰モデルにおいて、TMBとGEPは汎腫瘍コホート(TMB p=0.0028, GEP p=0.0051)およびHNSCCコホート(TMB p=0.0013, GEP p=0.0004)で独立して奏効を予測した。メラノーマコホートではGEPのみが有意な予測因子として残った(p=0.026)。これらの結果は、両バイオマーカーが冗長ではなく相補的であることを強く示唆する。
TMBとGEPの4群クロス層別化による奏効率とPFS: TMBおよびGEPのカットオフ値で患者を4群に分類した結果、奏効率は以下の通りであった(Fig 2B):
- GEP^hi TMB^hi群: 37-57%(最高奏効率)
- GEP^hi TMB^lo群: 12-35%
- GEP^lo TMB^hi群: 11-42%
- GEP^lo TMB^lo群: 0-9%(最低奏効率) 特にGEP^lo TMB^lo群では、汎腫瘍コホートおよびHNSCCコホートで奏効が全く見られず、メラノーマコホートでも1例のみの奏効であり、抗PD-1単剤療法がほぼ無効であることが示された。PFS解析においても、TMB^hi GEP^hi群が最も良好なPFSを示し(汎腫瘍コホートHR 0.43, 95% CI 0.26-0.71; HNSCCコホートHR 0.51, 95% CI 0.32-0.82; メラノーマコホートHR 0.63, 95% CI 0.36-1.09)、TMB^lo GEP^lo群が最も不良なPFSを示した(Fig 3)。汎腫瘍コホートにおけるTMB^hi vs TMB^loのPFS中央値は115 vs 59日 (HR 0.48, 95% CI 0.30-0.76) であった。
PD-L1発現との関係: TMBとPD-L1発現(CPS)の相関は中程度であった(汎腫瘍コホートr=0.330, p=0.0038)。一方、GEPとPD-L1発現はより強い相関を示した(汎腫瘍r=0.49, HNSCC r=0.51, メラノーマr=0.53; いずれもp<0.001)。これは、PD-L1がT細胞由来のIFNγによって発現誘導されるという既知のメカニズムと一致し、PD-L1がGEPと同様に「炎症バイオマーカー」として機能することを示唆する。TMBとPD-L1を組み合わせた解析でも、TMB^hiかつPD-L1陽性(CPS ≥ 1)の患者で最も高い奏効率が観察された。
TCGA統合解析による耐性バイオロジーの探索: TCGAデータベース(n=6384)の解析により、TMBとGEPの低い相関(r=0.30, p<1×10^-4)が再確認された(Fig 4)。GEP^hi(炎症あり)サブ集団内のTMB-defined subgroupを詳細に解析した結果、GEP^hi TMB^lo群(炎症はあるがTMBが低く、抗PD-1耐性リスクが高い群)で以下の特徴的遺伝子発現上昇が認められた:
- 増殖性シグネチャー: MYC、E2F標的遺伝子、細胞周期関連遺伝子(module 4、Fig 5D)。
- 間質シグネチャー: TGFβ、EMT(上皮間葉転換)、線維芽細胞活性化関連遺伝子(module 5、Fig 5D)。
- 骨髄系シグネチャー: MDSC(骨髄由来抑制細胞)、TAM(腫瘍関連マクロファージ)、M2マクロファージ関連遺伝子。
- 血管系シグネチャー: 血管新生、VEGF、周皮細胞関連遺伝子。 これらのシグネチャーは、「immune excluded」や「immune suppressed」といった表現型に対応し、抗PD-1単剤では克服困難な免疫逃避メカニズムを示唆する。また、TMB^hi腫瘍において、STK11変異(肺腺がん)、KEAP1変異(肺腺がん、肺扁平上皮がん)、APC変異(大腸がん)などの既知のがんドライバー遺伝子変異が、T細胞炎症性GEPと有意な負の相関を示すことが明らかになった(Fig 6)。例えば、STK11変異は肺腺がんにおいてGEPと有意な負の相関を示し、p値は<0.01であった。これは、これらの遺伝子変異がTMBが高いにもかかわらず、T細胞炎症性微小環境の形成を阻害し、免疫回避に寄与する可能性を示唆する。
ネオアンチゲンとの関係: TMBはネオアンチゲン量と強く相関したが(汎腫瘍r=0.87, HNSCC r=0.83, メラノーマr=0.90)、GEPとネオアンチゲン量の間には低い相関しか見られなかった(Fig S5)。これは、ネオアンチゲンの存在だけではT細胞炎症性微小環境が必ずしも形成されないことを示唆する。
考察/結論
本研究は、TMBとT細胞活性化GEPが、PD-1チェックポイント阻害薬であるpembrolizumab単剤療法への臨床効果を癌種横断的に独立かつ相補的に予測できることを大規模コホートで初めて体系的に示した点で、チェックポイント療法バイオマーカー研究における金字塔的論文である。この「二軸バイオマーカー枠組み」は、pan-tumor precision immunooncologyの科学的基盤を構築し、その後の治療アルゴリズム策定に直接影響を与えた。
先行研究との違い: これまでの研究では、TMBやGEP、PD-L1発現が個別に免疫チェックポイント阻害薬への奏効と関連することが報告されてきたが、それらの相互関係や複合的な予測能は十分に解明されていなかった。本研究は、Rizvi et al. Science 2015(NSCLCにおけるTMB)、Snyderら(2014)(メラノーマにおけるTMB)、Ayersら(2017)(GEPの開発)といった先行研究の知見を統合し、22腫瘍種にわたる大規模な汎腫瘍コホートで両バイオマーカーの独立性と相補性を検証した点で、これまでと異なるアプローチをとった。特に、TMBとGEPの相関が低い(Spearman r=0.221)ことは、両者が腫瘍の異なる生物学的側面(腫瘍抗原性 vs 微小環境炎症状態)を捉えていることを明確に示し、従来の単一バイオマーカー評価の限界を克服する新規性を示した。
新規性: 本研究で初めて、TMBとGEPの組み合わせによる4群層別化が、pembrolizumab単剤療法に対する患者の奏効とPFSを明確に区別できることを示した。特に、GEP^lo TMB^lo群では奏効が限定的(0-9%)であり、この群の患者には抗PD-1単剤療法がほとんど無効であることが新規に明らかになった。また、TCGAデータベースを用いた統合解析により、GEP^hi TMB^lo群における増殖性、間質、骨髄系、血管系シグネチャーといった特定の耐性バイオロジーパターンを同定したことは、これまで報告されていない知見であり、抗PD-1単剤療法への抵抗性のメカニズムを分子レベルで解明する上で極めて新規性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、免疫チェックポイント阻害薬の臨床応用において極めて重要な臨床的意義を持つ。TMBとGEPの4群層別化は、患者選択と個別化された併用療法戦略の策定に直接的な指針を与える。例えば、GEP^hi TMB^hi群の患者は抗PD-1単剤療法の第一選択となり得る一方、GEP^lo TMB^lo群の患者には、抗PD-1単剤療法以外の新規併用療法(例:抗VEGF療法、TLRアゴニスト、ワクチン、CAR-T細胞療法など)の検討が推奨される。また、TCGA解析で同定された耐性バイオロジー(増殖性、間質、骨髄系、血管系シグネチャー)は、抗VEGF抗体(bevacizumab、ramucirumab)やTGFβ阻害薬(bintrafusp alfa)、抗CSF1R抗体(cabiralizumab)、抗LAG-3抗体(relatlimab)などとの併用療法試験の理論的根拠を提供し、臨床現場での治療選択肢の拡大に貢献する。実際、2020年にはpembrolizumabがTMB-high(≥10 mut/Mb、FoundationOne CDx測定)の癌種横断的FDA承認を取得し、本研究の成果が臨床実装に繋がった。
残された課題: 今後の検討課題として、TMBカットオフ値の癌種別標準化、FFPE検体品質依存性の克服、血中TMB (bTMB) と組織TMBとの関係性、GEPの臨床実装(現状は研究用途が主)が挙げられる。また、TMBとGEPの4群層別化の前向き検証、TMB、GEP、PD-L1、MSIを統合した複合バイオマーカースコアの開発、治療中のバイオマーカー動態(on-treatment biopsy)の評価、腫瘍内不均一性(intra-tumor heterogeneity)の影響解析も残された課題である。本研究はimmunooncologyのバイオマーカー革命の中核となるマイルストーンであり、その後のKEYNOTE-826/811/859、CheckMate-227/816/9LA、IMpower150などの併用療法試験デザインに直接影響を与えた。
方法
患者コホート: 4つのKEYNOTE試験(KEYNOTE-012, NCT01848834; KEYNOTE-028, NCT02054806; KEYNOTE-001, NCT01295827; KEYNOTE-006, NCT01866319)から合計300例超の進行固形腫瘍およびメラノーマ患者が組み入れられた。KEYNOTE-012は頭頸部扁平上皮がん (HNSCC) 患者、KEYNOTE-028は20腫瘍種を含むバスケット試験、KEYNOTE-001およびKEYNOTE-006はメラノーマ患者を対象とした。全ての患者から治療前のFFPE腫瘍生検検体が採取された。
コホート分類:
- 発見コホート (discovery): HNSCC患者34例(KEYNOTE-012 B1コホート)。
- 汎腫瘍検証コホート: 20腫瘍種119例(KEYNOTE-028およびKEYNOTE-012のA, C, Dコホート)。
- HNSCC単一腫瘍種コホート: 107例(KEYNOTE-012 B1およびB2コホート)。
- メラノーマ単一腫瘍種コホート: 89例(KEYNOTE-001およびKEYNOTE-006のpembrolizumab群)。
TMB測定: 全エクソームシーケンス (WES) を用いて、生殖細胞系DNAと腫瘍DNAから体細胞非同義変異を同定し、その総数をTMBとしてカウントした。WESデータのアラインメントにはLi et al. Bioinformatics 2009のbwa memが使用され、体細胞SNVコールにはCibulskis et al. NatBiotechnol 2013のMuTectが用いられた。TMBは、全てのフィルターを通過した体細胞非同義SNVの合計として定義された。
GEP測定: NanoString nCounterプラットフォームを用いて、Ayersら(2017)が開発した18遺伝子T細胞活性化パネル(IFNG、STAT1、CCR5、CXCL9、CXCL10、CXCL11、HLA-DRA、HLA-E、NKG7、PSMB10、CD8A、CD27、CMKLR1、LAG3、PD-L1、IDO1、TIGIT、GZMK)の遺伝子発現を測定した。GEPスコアは、正規化された発現値の加重和として算出された。NKG7 (natural killer cell granule protein 7)、CMKLR1 (chemokine-like receptor 1)。
PD-L1発現測定: PD-L1 IHC 22C3 pharmDxキットを用いて、CPS (Combined Positive Score) またはMELスコアとして評価された。
解析:
- 臨床効果評価: RECIST 1.1基準に基づき、BOR (best overall response) およびPFS (progression-free survival) を評価した。奏効はPR (partial response) またはCR (complete response) と定義された。
- 統計解析: TMBおよびGEPの個別予測能はロジスティック回帰(BOR)およびCox比例ハザードモデル(PFS)を用いて評価された。AUROC (Area Under the Receiver Operating Characteristic curve) を用いて予測能を比較した。TMBとGEPの相関はSpearman相関係数を用いて評価された。多変量ロジスティック回帰およびCoxモデルにより、両バイオマーカーの独立予測能を検証した。統計解析はMatlab R2010またはR3.4.1を用いて実施された。
- 4群層別化: TMBおよびGEPのカットオフ値(TMBはYouden Index、GEPは-0.318)に基づいて、患者をGEP^lo TMB^lo、GEP^lo TMB^hi、GEP^hi TMB^lo、GEP^hi TMB^hiの4群に分類し、各群の奏効率およびPFSを比較した。
- TCGA統合解析: TCGAデータベース(n=6384腫瘍)を用いて、TMB、GEP、および関連するゲノム・トランスクリプトーム特徴の関係を探索した。GEP^hi腫瘍内のTMB定義サブグループにおける増殖性、間質、骨髄系、血管系シグネチャーなどの特徴的遺伝子発現パターンを、遺伝子セット濃縮解析(GSEA)により同定した。また、Yoshihara et al. NatCommun 2013の手法を用いて腫瘍純度、間質細胞、免疫細胞の混入を推定し、解析に組み入れた。