- 著者: Dung T. Le, Jennifer N. Durham, Kellie N. Smith ほか
- Corresponding author: Luis A. Diaz Jr. (Memorial Sloan Kettering Cancer Center / Johns Hopkins)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 28596308
背景
ミスマッチ修復 (MMR) 欠損を有するがんは、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2 のいずれかの遺伝子の不活性化により、マイクロサテライト不安定性高頻度 (MSI-H) を呈し、数百から数千個の体細胞変異を蓄積することが知られている。これらの変異は、多数のネオアンチゲン (mutation-associated neoantigens; MANAs) を生成し、免疫系による認識の標的となりうると考えられてきた。先行研究では、免疫チェックポイント阻害薬、特にプログラム細胞死受容体-1 (PD-1) への抗体による治療が、一部の腫瘍において強力かつ持続的な抗腫瘍効果を示すことが報告されている (Tumeh et al. Nature 2014、Rizvi et al. Science 2015)。
Le らは 2015 年に New England Journal of Medicine にて、MMR 欠損を有する結腸直腸癌 (CRC) 患者 11 例を対象とした抗 PD-1 抗体ペムブロリズマブの有効性を報告した (Le et al. NEnglJMed 2015)。この研究は、MMR 欠損が免疫チェックポイント阻害薬への感受性を予測するバイオマーカーとなりうるという概念実証であった。しかし、その有効性が結腸直腸癌に限定されるのか、あるいは組織型に依存しない「pan-tumor biomarker」として機能するのかについては、さらなる大規模な前向き臨床試験による検証が不足していた。また、リンチ症候群に関連する腫瘍の頻度や、MMR 欠損が普遍的なバイオマーカーとして機能する分子メカニズムについても、依然として未解明な点が残されていた。
PD-L1 発現、RNA 発現シグネチャー、変異負荷、リンパ球浸潤など、いくつかのマーカーが特定の腫瘍型における免疫チェックポイント阻害薬への奏効を予測するのに役立つとされてきたが (Taube et al. ClinCancerRes 2014、Herbst et al. Nature 2014)、これらが pan-tumor biomarker として前向きに評価された例はなかった。MMR 欠損腫瘍は、その起源細胞に関わらず、数百から数千の体細胞変異を持つことが予測され、これが免疫系に認識される多数の MANAs を生み出す可能性が指摘されていた。この仮説を検証し、MMR 欠損が様々な固形腫瘍において PD-1 阻害療法の奏効を予測する普遍的なバイオマーカーとなりうるかを明らかにすることが、本研究の重要な背景であった。
目的
本研究の主要な目的は、ミスマッチ修復欠損 (dMMR) またはマイクロサテライト不安定性高頻度 (MSI-H) を有する進行固形腫瘍患者を対象に、抗 PD-1 抗体ペムブロリズマブの有効性、安全性、および治療抵抗性メカニズムを評価することであった。特に、MMR 欠損が組織型に依存しない「tumour-agnostic biomarker」として機能するかどうかを、前向き第2相臨床試験で検証することを目指した。
副次的な目的として、以下の点を明らかにすることを目指した。
- ペムブロリズマブ治療後の客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を、多様な腫瘍型およびリンチ症候群の有無別に評価すること。
- 治療奏効患者において、ネオアンチゲン特異的な T 細胞クローン (TCRs) の in vivo での拡大を、T細胞受容体シーケンス (TCR-seq) およびインターフェロン-γ (IFN-γ) ELISpot アッセイを用いて実証し、免疫応答の分子メカニズムを解明すること。
- 治療抵抗性を示す腫瘍における獲得抵抗性メカニズム、特に抗原提示経路に関連する遺伝子変異を特定すること。
- 次世代シーケンス (NGS) ベースのアプローチを用いて、様々な癌種における MMR 欠損の頻度を推定し、本研究結果が適用可能な患者集団の規模を評価すること。 これらの目的を達成することで、MMR 欠損が免疫チェックポイント阻害薬の治療選択における重要なバイオマーカーとしての役割を確立し、新たな治療戦略の基盤を築くことを意図した。
結果
安全性プロファイル: ペムブロリズマブの安全性プロファイルは、他の臨床試験で報告されているものと概ね一致した。治療関連有害事象 (AE) の発生率は74%であったが、そのほとんどが低グレードであった。特に、内分泌障害 (主に甲状腺機能低下症) が21%の患者で認められたが、これは甲状腺ホルモン補充療法によって容易に管理可能であった。重篤な有害事象の発生は限定的であり、ペムブロリズマブの標準的な安全性プロファイルと整合することが示された (Table S3)。
抗腫瘍活性: 86例中、客観的奏効率 (ORR) は53% (46/86例、95% CI 42–64%) であった。このうち、完全奏効 (CR) を達成した患者は21% (n=18) に上った。病勢コントロール率 (CR+PR+SD) は77% (66/86例、95% CI 66–85%) であった (Fig. 1B, Table 1)。特筆すべきは、結腸直腸癌 (CRC) 患者における奏効率が52% (95% CI 36–68%) であったのに対し、非CRC患者における奏効率も54% (95% CI 39–69%) と、両群間で統計学的に有意な差は認められなかった (Fig. 1C)。また、リンチ症候群関連腫瘍と非リンチ症候群関連腫瘍の間でも、奏効率に有意な差はなかった (46% vs 59%、P=0.27)。奏効の動態は二相性を示し、20週時点で安定病変 (SD) であった12例が後に客観的奏効に移行し、また20週時点で部分奏効 (PR) またはSDであった11例が最終的にCRに進展した。奏効までの平均期間は21週、CRまでの平均期間は42週であった (Fig. 1D)。
生存期間: 中央値12.5ヶ月の追跡期間において、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の中央値はともに未到達であった (Fig. 1E, F)。1年PFS率は64%、2年PFS率は53%と推定された。また、1年OS率は76%、2年OS率は64%と推定され、本コホートの進行期疾患であることを考慮すると、著しく高い生存率であった。リンチ症候群の有無は、PFS (HR=1.2、95% CI 0.582–2.512、P=0.61) およびOS (HR=1.71、95% CI 0.697–4.196、P=0.24) に有意な影響を与えなかった。CRを達成した11例は2年間の治療後に治療を中止したが、平均8.3ヶ月の治療中止期間中に癌の再発は認められなかった。
生検による治療効果の評価: 測定可能な病変を有する20例の患者において、治療開始後1〜5ヶ月に経皮的生検が実施された。このうち12例の生検では腫瘍細胞が消失しており、炎症、線維化、粘液の残存が認められ、持続的な免疫応答を示唆した。残りの8例では腫瘍細胞が残存していた。治療後生検で癌細胞が消失していたことは、PFSの強力な予測因子であり (HR=0.189、95% CI 0.046–0.767、P=0.012)、癌細胞消失群のPFS中央値は25.9ヶ月であったのに対し、残存群では2.9ヶ月であった (Table S6)。
治療抵抗性メカニズム: 原発性抵抗性を示した3例の腫瘍は、奏効患者と同等の変異負荷 (平均1413 vs 1644変異、P=0.67) を有していたが、B2M (β2-ミクログロブリン) 遺伝子変異は確認されず、異なる抵抗性メカニズムが示唆された。一方、獲得抵抗性を示した2例の脳転移腫瘍では、いずれもB2Mのフレームシフト変異を獲得しており、抗原提示機構の喪失が示された (Table S7)。さらに、安定病変後に8ヶ月以内に進行した3例中2例もB2M変異を保有していた。
ネオアンチゲン特異的T細胞応答: 被験者19の末梢血および腫瘍組織を用いた解析では、15個の候補MANAのうち7個がIFN-γ ELISpotアッセイでT細胞反応性を示した (Fig. 2B, C)。TCR-seqにより、これらのうち3個のMANA (MANA1/2/4) に対してクローン性T細胞の拡大が確認された (Fig. 2D)。これら3個のMANAは全てフレームシフト変異に由来し、HLA結合親和性は野生型ペプチドの100倍以上であった (Fig. 2F)。MANA反応性TCRクローン7種は、治療開始後、末梢血中で急速に拡大し、血清CEA値の正常化と並行して、画像上の奏効が確認される数週間前にピークに達した後、収縮する動態を示した (Fig. 2E)。これは急性ウイルス感染に対するT細胞応答に類似していた。
汎癌種におけるdMMR頻度: 12,019個の腫瘍サンプル (32種類のがん種) の解析により、24/32のがん種でMMR欠損例が存在することが確認された (Fig. 3)。子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、子宮頸癌、前立腺癌、胆管癌、肝癌、神経内分泌腫瘍、子宮肉腫、甲状腺癌において、MMR欠損の頻度は2%以上であった。ステージI〜IIIの癌では約10%、ステージIVの癌では約5%がMMR欠損であり、米国では年間約60,000例 (ステージI〜IIIで40,000例、ステージIVで20,000例) の患者がこの治療の対象となりうると推定された。
考察/結論
新規性: 本研究で初めて、ミスマッチ修復欠損 (MMR-D) がんにおけるフレームシフト変異由来のネオアンチゲン (MANAs) が高親和性で主要組織適合性複合体 (HLA) に結合し、T細胞認識を強力に駆動するという分子機構を実証した。これは、腫瘍の変異負荷 (ネオアンチゲン量) が免疫チェックポイント阻害薬への感受性を決定するという仮説を強固に支持する新規な発見である。また、治療奏効患者において、MANA特異的T細胞クローンの末梢血中での急速な拡大と、その後の収縮という動態を詳細に追跡し、急性ウイルス感染に対するT細胞応答に類似するパターンを明らかにした点も新規性が高い。
先行研究との違い: 以前の Le et al. NEnglJMed 2015 の研究は結腸直腸癌に限定されていたが、本研究は12種類もの多様な癌種を対象とすることで、MMR欠損が組織型を超えた普遍的なバイオマーカーであることを前向きに検証した点で、これまでの研究とは一線を画す。また、獲得抵抗性メカニズムとして、脳転移巣においてB2M (β2-ミクログロブリン) 変異による抗原提示機構の喪失を同定した点は、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016 で報告されたJAK1/2やB2M変異による獲得抵抗性経路の知見と整合し、その普遍性を確立した。
臨床応用: 本知見は、MMR欠損検査が結腸直腸癌以外の様々な固形腫瘍においてもルーチン化される転換点となった。これにより、進行期のdMMR/MSI-H固形腫瘍患者に対して、組織型に関わらずペムブロリズマブという新たな治療選択肢を提供することが可能となり、臨床現場における患者ケアに大きな影響を与えた。特に、膵癌のような予後不良な癌種においても奏効が認められたことは、新たな治療戦略の可能性を示唆する。本研究は、現在のMSI-Hや腫瘍変異負荷高値 (TMB-H) に対するtumour-agnostic承認の基礎を築き、個別化医療の進展に大きく貢献した。
残された課題: 今後の検討課題として、一次抵抗性を示す患者におけるB2M以外の抵抗性メカニズムの解明が挙げられる。本研究では、一次抵抗性腫瘍ではB2M変異が確認されなかったため、他の免疫回避メカニズムが存在する可能性が示唆される。また、完全奏効後に治療を中止した患者の長期的な再発リスクや、治療中止の最適なタイミングについても、さらなる追跡調査が必要である。さらに、MMR欠損の検出方法の標準化や、より感度の高いネオアンチゲン予測アルゴリズムの開発も今後の研究方向性として重要である。Limitationとしては、本研究が単一群の第2相試験であり、比較対照群が設定されていない点が挙げられる。また、ネオアンチゲン特異的T細胞応答の解析は限られた患者数 (n=1 patient) で行われたため、より大規模なコホートでの検証が望まれる。
方法
本研究は、NCT01876511 として ClinicalTrials.gov に登録された前向き第2相臨床試験である。2013年9月から2016年9月にかけて、12種類のがん種にわたる進行固形腫瘍患者86例が登録された。対象となったがん種は、結腸直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、胆管癌、膵癌、十二指腸乳頭部癌、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、甲状腺癌、卵巣癌、子宮肉腫など多岐にわたる。全患者は、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) ベースのマイクロサテライト不安定性高頻度 (MSI-H) 検査または免疫組織化学 (IHC) によるMLH1、MSH2、MSH6、PMS2のいずれかのタンパク質発現喪失により、ミスマッチ修復欠損 (dMMR) が確認された。また、全患者は登録前に少なくとも1ライン以上の治療歴があり、病勢進行が確認されていた。
患者には、ペムブロリズマブ 10 mg/kg を2週間ごとに、最長2年間または病勢進行まで投与された。治療効果の評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準に従い、78例が評価可能であった。安全性評価は、有害事象の発生率および重症度に基づいて行われた。
リンチ症候群の診断のため、MSH2、MSH6、PMS2、MLH1の生殖細胞系列シーケンスがほとんどの症例で実施され、32例 (48%) でリンチ症候群と確定された。さらに7例では、生殖細胞系列検査は行われなかったものの、家族歴からリンチ症候群が強く疑われた。
治療抵抗性メカニズムの解析として、原発性抵抗性腫瘍3例と、獲得抵抗性を示した脳転移腫瘍2例において、全エクソームシーケンス (WES) が実施された。これにより、抗原提示経路に関わる遺伝子変異、特にB2M (β2-ミクログロブリン) 変異の有無が調査された。
免疫応答の機能解析として、奏効患者1例 (被験者19) から得られた治療前後の末梢血および腫瘍組織を用いて、T細胞受容体 (TCR) シーケンス (TCR-seq) とインターフェロン-γ (IFN-γ) ELISpot アッセイが実施された。これにより、ネオアンチゲン特異的なT細胞クローンの同定と、その動態および機能が評価された。特に、15個の候補MANA (mutation-associated neoantigen) に対するT細胞反応性が評価され、HLA結合安定性アッセイにより、変異型ペプチドと野生型ペプチドのHLA結合親和性が比較された。
さらに、MMR欠損の汎癌種における頻度を推定するため、12,019個の腫瘍サンプル (32種類のがん種) に対して次世代シーケンス (NGS) ベースのアプローチが用いられた。これにより、各癌種におけるMMR欠損の割合が算出され、本治療戦略が適用可能な患者集団の規模が推定された。統計解析には、Kaplan-Meier法による生存期間解析、ログランク検定、およびCox回帰分析が用いられた。