- 著者: Subbiah V, Gainor JF, Rahal R, Brubaker JD, Kim JL, Maynard M, Hu W, Cao Q, Sheets MP, Wilson D, Wilson KJ, DiPietro L, Fleming P, Palmer M, Hu MI, Wirth L, Brose MS, Ou SI, Taylor M, Garralda E, Miller S, Wolf B, Lengauer C, Guzi T, Evans EK
- Corresponding author: Erica K. Evans (Blueprint Medicines, Cambridge, MA, USA)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 29657135
背景
RET (Rearranged during transfection) 受容体チロシンキナーゼは、非小細胞肺癌 (NSCLC) の1〜2%、甲状腺乳頭癌の10〜20%、甲状腺髄様癌 (MTC) の約50%(散発性)からほぼ全例(遺伝性)に活性化変異・融合遺伝子として認められるオンコジーンである。RET融合(KIF5B-RET、CCDC6-RETなど)は構成的にRETキナーゼドメインを二量体化・活性化し、RET点変異(C634W、M918T、V804L/Mなど)はリガンド非依存性のキナーゼ活性化を引き起こすことが知られている (Takahashi M, 2001)。これらのRET異常は、腎臓の形態形成や腸管神経系の発生に重要な役割を果たすRETの正常な機能を逸脱し、腫瘍形成を促進する (Mulligan LM, 2014)。
これまで、RET駆動型癌の治療には、マルチキナーゼ阻害薬 (MKI) であるカボザンチニブやバンデタニブが用いられてきた。これらのMKIはRETを標的とするものの、本来はVEGFR2、MET、EGFRといった他のキナーゼを主標的として設計されたものであり、RETに対する効力は不十分であった (Yakes FM et al. 2011, Carlomagno F et al. 2002)。そのため、高血圧、血栓、出血などのVEGFR2阻害に起因するオフターゲット毒性が問題となり、患者の忍容性や投与量に制限が生じていた (Drilon A et al. 2016, Lee SH et al. 2017)。さらに、MKIはRETゲートキーパー変異V804L/M(MTC原発変異にもなりうる)に対して活性を持たず、耐性となるという課題があった (Carlomagno F et al. 2004)。例えば、RXDX-105という別のMKIは、KIF5B-RET NSCLC患者に奏効を示さないことが臨床報告されており (Drilon AE et al. 2017)、RET駆動型癌に対する治療効果は限定的であった。
このような背景から、RET駆動型癌の患者は既存のMKIから十分な恩恵を得られておらず、より強力で選択的なRET阻害薬の開発が喫緊の課題として残されていた。特に、RET融合遺伝子陽性NSCLC患者は、他の既知のドライバー変異を持たないことが多く、免疫療法による恩恵も低い可能性があるため (Borghaei H et al. 2015, Lee et al. JThoracOncol 2017)、RET特異的阻害薬の必要性が強調されていた。本研究は、これらの課題を克服し、RET駆動型癌患者に新たな治療選択肢を提供するための知識ギャップを埋めることを目指した。これまでの治療法では、RETゲートキーパー変異に対する効果が未解明であり、VEGFR2関連毒性による治療継続の困難さも不足していた。
目的
本研究の目的は、10,000種以上の化合物ライブラリーから反復的な薬化学最適化を通じて、RET野生型、変異体、融合体に対して高い効力と選択性(特にVEGFR2に対する選択性)を持ち、さらに既存のマルチキナーゼ阻害薬 (MKI) が無効であったゲートキーパー変異にも有効な次世代RET特異的阻害薬BLU-667(後のプラルセチニブ)を開発することであった。そして、その前臨床および初期臨床における有効性と安全性を包括的に検証し、選択的RET阻害の臨床的有用性を確立することを目指した。具体的には、BLU-667が既存MKIと比較してRETに対する効力と選択性において優位性を示すか、RETゲートキーパー変異V804L/Mに対する活性を維持するか、そしてVEGFR2関連のオフターゲット毒性を回避できるかを評価した。さらに、RET変異・融合陽性の進行NSCLCおよび甲状腺癌患者を対象とした第I相臨床試験において、BLU-667の安全性、薬物動態、および初期の抗腫瘍活性を評価し、選択的RET阻害がRET駆動型癌の治療において臨床的に意味のある効果をもたらすかを検証することを目的とした。
結果
BLU-667の生化学的効力と選択性: BLU-667は野生型RETに対してIC50 0.4 nmol/Lというサブナノモルの効力を示した (Table 1)。これは既存のマルチキナーゼ阻害薬 (MKI) であるカボザンチニブ (IC50 11 nmol/L)、バンデタニブ (IC50 4 nmol/L)、RXDX-105 (IC50 3 nmol/L) と比較して8〜28倍高い効力であった (Figure 1B)。さらに重要なことに、BLU-667はRET M918T (IC50 0.4 nmol/L) やCCDC6-RET融合遺伝子 (IC50 0.4 nmol/L) といった一般的なオンコジェニックRET変異体に対しても同等のサブナノモル活性を示した。特に、MKIが無効とされていたゲートキーパー変異RET V804L (IC50 0.3 nmol/L) およびRET V804M (IC50 0.4 nmol/L) に対しても、BLU-667は野生型RETと同等の活性を維持した。対照的に、カボザンチニブはRET V804Lに対して野生型比45倍、バンデタニブはRET V804Lに対して野生型比899倍と、大幅に活性が低下した。VEGFR2に対するBLU-667のIC50は35 nmol/Lであり、RETに対して88倍の選択性を示した。これは、VEGFR2を優先的に阻害するカボザンチニブ (IC50 2 nmol/L) とは対照的であった。371キナーゼパネルを用いたスクリーニングでは、BLU-667は試験したキナーゼの96%に対してRETより100倍以上の選択性を示し、極めて高いRET特異性が確認された (Figure 1C, Supplementary Table S1)。
ゲートキーパー変異への対応とENU変異誘発スクリーニング: KIF5B-RET Ba/F3細胞を用いたN-エチル-N-ニトロソ尿素 (ENU) 変異誘発スクリーニングにより、カボザンチニブ、バンデタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブといったMKIに対する最も頻度の高い耐性機序として、V804位のゲートキーパー変異 (V804L、V804M) が同定された。さらに、新規変異V804Eも全てのMKIに対して耐性を付与することが判明した (Supplementary Table S3)。しかし、BLU-667はこれらのV804L、V804M、V804Eのいずれの変異に対しても、野生型RETと同等の増殖抑制活性を示した (Supplementary Table S2)。MKIでは9〜36倍の活性低下が見られたことから、BLU-667がゲートキーパー変異による耐性を克服し、その出現を予防する可能性が示唆された。
細胞・in vivoモデルでの抗腫瘍活性: KIF5B-RET Ba/F3細胞を用いたRETリン酸化抑制アッセイでは、BLU-667の細胞IC50は5 nmol/Lであり、カボザンチニブ (61.9 nmol/L)、バンデタニブ (833 nmol/L)、RXDX-105 (128.6 nmol/L) よりも10倍以上高い効力を示した (Figure 1D)。LC2/ad (CCDC6-RET NSCLC)、MZ-CRC-1 (RET M918T MTC)、TT (RET C634W MTC) のいずれの細胞株においても、10 nmol/L以下のBLU-667濃度でpRET、pSHC、pERK1/2の完全な抑制が達成された (Figure 2A-C)。また、RETシグナル下流のERK1/2標的転写産物であるDUSP6およびSPRY4も用量依存的に抑制された (Figure 2D-F)。 In vivoモデルでは、n=9 miceのKIF5B-RET Ba/F3同系移植モデルにおいて、BLU-667は10 mg/kg BID以上の用量で強力な腫瘍増殖抑制を達成した (Figure 3A)。特に、KIF5B-RET V804L変異モデルではカボザンチニブが無効であったのに対し、BLU-667は有効な抗腫瘍活性を示した (Figure 3B)。RET C634W MTC異種移植モデル (Figure 3C) およびKIF5B-RET NSCLC患者由来異種移植 (PDX) モデル (Figure 4A) でも有意な腫瘍縮小が認められた (P<0.001)。BLU-667処理群では、VEGFR2阻害のバイオマーカーである血中VEGFAおよび可溶性VEGFR2 (sVEGFR2) のレベルに有意な変化は見られず、in vivoでのVEGFR2非阻害が確認された (Figure 4E, Supplementary Figure S4)。これは、カボザンチニブがVEGFAを有意に増加させ (P<0.001)、sVEGFR2を減少させた (P=0.01) のとは対照的であった。
第I相試験の初期臨床成績: RET変異・融合陽性の進行NSCLCおよびMTC患者n=4の初期臨床データが報告された。 MTC患者1 (27歳、複数RET変異、TKI未治療) は、BLU-667 60 mg/日から300 mg/日に漸増され、28日後に血清カルシトニンが90%以上減少し、8週後には腫瘍が19%縮小した。最終的に、10ヶ月時点で部分奏効 (PR) を達成し (最大47%縮小)、11ヶ月以上継続投与中である (Figure 5A, B)。有害事象はGrade 1の白血球減少のみで、重篤なものは認められなかった。 MTC患者2 (56歳、RET M918T、バンデタニブ耐性後) は、BLU-667 300 mg/日投与開始後28日でカルシトニンが90%以上、CEAが75%減少し、RET M918T ctDNAは56日後には検出限界以下となった。8週後にはPR (-35%) を達成し、8ヶ月以上継続奏効中である (Figure 5C, D)。有害事象はGrade 1の悪心と高リン血症のみであった。 NSCLC患者1 (37歳、KIF5B-RET NSCLC、化学療法後) は、BLU-667 200 mg/日投与後8週で腫瘍が25%縮小し、ctDNA中のKIF5B-RETおよびTP53変異も減少した (Figure 6A)。16週後にはPRを達成し、10ヶ月以上継続奏効中である (Figure 6B)。有害事象はGrade 1の便秘、皮膚乾燥、発疹、白血球減少であった。 NSCLC患者2 (72歳、KIF5B-RET NSCLC、複数の治療失敗後、バンデタニブ+エベロリムス耐性後) は、BLU-667 300 mg/日投与後16週でPR (-34%) を達成し、呼吸困難やパフォーマンスステータスも改善した (Figure 6C, D)。18週以上継続投与中であり、薬物関連の有害事象は認められなかった。 これらの初期臨床データは、BLU-667がTKI未治療例およびTKI耐性例の両方において、VEGFR2関連毒性を伴わずに持続的な臨床反応を誘導することを示した。
考察/結論
本研究は、BLU-667(プラルセチニブ)がRET駆動型癌(NSCLC、甲状腺癌)に対して、既存のマルチキナーゼ阻害薬 (MKI) を大幅に凌駕する効力と選択性を持つ次世代RET阻害薬であることを、前臨床および初期臨床データで包括的に証明した重要な報告である。
先行研究との違い: これまでのMKIは、RETに対する効力が不十分であり、特にゲートキーパー変異V804L/Mに対してはほとんど活性を示さなかった (Carlomagno F et al. 2004)。また、VEGFR2阻害に起因するオフターゲット毒性が問題となっていた。本研究で示されたBLU-667は、これらのMKIが抱える課題と異なり、V804L/M変異に対しても野生型RETと同等のサブナノモル活性を維持し、VEGFR2に対する選択性は88倍高かった。これにより、MKI関連のオフターゲット毒性(高血圧、出血、創傷治癒障害など)を回避できる可能性が示された。さらに、先行研究ではRXDX-105がKIF5B-RET NSCLCに奏効せず、「KIF5B-RETはRETキナーゼ非依存的」という仮説も提唱されていた (Drilon AE et al. 2017)。しかし、本研究でBLU-667がKIF5B-RETに有効であったことは、この仮説を否定し、KIF5B-RETもRET阻害薬の選択性・効力次第で応答し得ることを示した。これは、RXDX-105の効力がKIF5B-RETに対して不十分であったためと解釈され、LOXO-292(セルペルカチニブ)の初期報告とも整合する。
新規性: 本研究で初めて、BLU-667がRET野生型、M918T、CCDC6-RET、V804L/Mといった多様なRET変異・融合体に対して均一なサブナノモル活性を示すことがin vitroおよびin vivoで実証された。特に、V804Eという新規のゲートキーパー変異がMKI耐性を付与することが同定され、BLU-667がこの変異に対しても有効であることが示された点は新規である。また、臨床試験において、BLU-667がVEGFR2関連毒性を伴わずに、TKI未治療例とTKI耐性例の両方で持続的な臨床反応(RECIST 1.1で部分奏効)を誘導したことは、選択的RET阻害の臨床的有用性を初めて明確に検証したものである。DUSP6およびSPRY4のmRNA発現がRET阻害の薬力学的バイオマーカーとして機能することも本研究で初めて臨床的に確認された。
臨床応用: 本知見は、RET駆動型癌患者に対する精密医療の臨床応用に直結する。BLU-667の高い選択性と有効性は、既存MKIの限界を克服し、RET変異・融合陽性NSCLCやMTC患者に新たな治療選択肢を提供する。特に、KIF5B-RET NSCLCのようにMKIで奏効が得られなかった患者群や、MKIのオフターゲット毒性により治療が困難であった患者にとって、BLU-667は大きな臨床的意義を持つ。本研究で示された初期臨床データは、BLU-667がTKI未治療例だけでなく、バンデタニブ耐性MTCや複数の治療に失敗したKIF5B-RET NSCLC患者にも有効であることを示しており、幅広い患者層への適用可能性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、BLU-667(プラルセチニブ)に対する耐性機序のさらなる解明が挙げられる。特に、ソルバント・フロント変異G810C/S/Rやスリーピング変異などの出現が報告されており、これらの耐性変異を標的とする次世代阻害薬の開発が必要となる。また、後期ラインでの脳転移に対する効果や血液脳関門透過性の確認、RETキナーゼ非依存的耐性(MET増幅など)への対処戦略も今後の研究で明らかにする必要がある。本研究は初期の臨床データであり、より大規模な患者コホートでの長期的な有効性と安全性の評価が求められる。
方法
本研究では、まず10,000種以上の化合物ライブラリーを野生型RET、RET M918T、RET V804L/M、およびVEGFR2に対してスクリーニングし、反復的薬化学最適化を経てBLU-667を創出した。
In vitro評価: 生化学アッセイにより、BLU-667および比較MKI(カボザンチニブ、バンデタニブ、RXDX-105)のIC50値を測定し、RET野生型、RET M918T、RET V804L、RET V804M、CCDC6-RET、VEGFR2に対する効力と選択性を評価した。 細胞ベースのアッセイでは、KIF5B-RETを発現するBa/F3細胞、CCDC6-RET NSCLC細胞株LC2/ad、RET M918T 甲状腺髄様癌 (MTC) 細胞株MZ-CRC-1、RET C634W MTC細胞株TTを用いて、BLU-667によるRETリン酸化、SHCリン酸化、ERK1/2リン酸化の抑制効果を評価した。また、RETシグナル下流のERK1/2標的転写産物であるDUSP6 (dual specificity phosphatase 6) およびSPRY4 (sprouty RTK signaling antagonist 4) の発現抑制も用量依存的に測定した。 BLU-667のキナーゼ選択性を評価するため、371種類のヒトキナーゼパネルを用いて300 nmol/LのBLU-667による阻害率をスクリーニングし、阻害率が50%を超えたキナーゼについてはIC50値を詳細に測定した。 耐性変異の予測には、KIF5B-RET Ba/F3細胞を用いたENU (N-エチル-N-ニトロソ尿素) 変異誘発スクリーニングを実施し、MKI(カボザンチニブ、バンデタニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ)に対する耐性変異を同定した。BLU-667がこれらのゲートキーパー変異(V804L、V804M、V804E)に対して活性を維持するかを細胞増殖アッセイで評価した。
In vivo評価: KIF5B-RET Ba/F3同系移植モデル、KIF5B-RET V804L Ba/F3同系移植モデル、RET C634W TT異種移植モデル、KIF5B-RET NSCLC患者由来異種移植 (PDX) モデル、およびCCDC6-RET結腸直腸癌PDXモデルを用いて、BLU-667の抗腫瘍活性を評価した。腫瘍体積の変化を測定し、BLU-667の用量依存的な効果を検証した。 PDXモデルでは、BLU-667投与後の腫瘍組織におけるRETリン酸化、SHCリン酸化、DUSP6およびSPRY4の発現変化を免疫ブロットおよびqPCRで評価し、RET経路阻害と抗腫瘍活性の相関を調べた。また、VEGFR2阻害のバイオマーカーとして、血中VEGFAおよび可溶性VEGFR2 (sVEGFR2) の血漿レベルを測定し、in vivoでのVEGFR2非阻害を確認した。
第I相臨床試験: RET変異・融合陽性の進行NSCLC、甲状腺癌、またはその他の固形腫瘍患者を対象とした第I相、ファーストインヒューマン、用量漸増試験 (NCT03037385) を実施した。本試験は2017年3月に開始され、倫理原則に基づき、各臨床施設の治験審査委員会によって承認された。患者は、TKI未治療またはTKI治療歴のある進行性、切除不能な固形腫瘍を有し、ECOGパフォーマンスステータスが0〜2、かつ適切な骨髄、肝臓、腎臓、心臓機能を持つ成人患者 (n=4) が登録された。BLU-667は経口で1日1回、4週間サイクルで投与され、ベイズ最適区間デザインを用いて用量漸増が行われた。120 mg以上の用量レベルでは、RET異常の文書化が必須とされた。有害事象はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) に基づいて評価され、腫瘍縮小効果はRECIST v1.1に従って評価された。血漿中の循環腫瘍DNA (ctDNA) はPlasmaSELECT-R64 NGSパネルで解析され、MTC患者の血清カルシトニンレベルはELISAで測定された。腫瘍組織中のDUSP6/SPRY4レベルはqRT-PCRで解析された。
統計解析: 腫瘍体積、VEGFAおよびsVEGFR2血漿レベルの統計比較には、一元配置ANOVA(Games-HowellまたはDunnettの多重比較検定)または反復測定二元配置ANOVAが用いられた。DUSP6およびSPRY4レベルの統計比較には、両側Student t検定が用いられた。すべての比較において、p<0.05が統計的に有意とされた。