- 著者: Jrhau Lung, Ming-Szu Hung, Yu-Ching Lin, Kam-Fai Lee, Yuan Yuan Jiang, Shao-Lan Huang, Yu-Hung Fang, Ming-Shian Lu, Chin-Kuo Lin, Tsung-Ming Yang, Paul Yann Lin, Meng-Jer Hsieh, Ying Huang Tsai
- Corresponding author: Ying Huang Tsai (Department of Pulmonary and Critical Care Medicine, Chang Gung Memorial Hospital, Chiayi/Linkou Branch, Taiwan)
- 雑誌: PLoS ONE
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 31369639
背景
METはhepatocyte growth factor (HGF) を唯一のリガンドとする受容体型チロシンキナーゼで、Ras・PI3K/Akt・STAT3・NF-κB (nuclear factor-kappa B) など複数経路を介して細胞増殖・遊走・生存シグナルを伝達する (Organ et al. TherAdvMedOncol 2011)。MET exon 14スキッピング変異はCBL (Casitas B-lineage lymphoma proto-oncogene、E3 ubiquitin-protein ligase) 結合部位Y1003を含む膜傍 (juxtamembrane) ドメインの欠失をもたらし、METの分解低下によるシグナル持続活性化を引き起こすドライバー変異である。これまでの研究では欧米・東アジアの非小細胞肺癌 (NSCLC) において1-4%の頻度で報告されているが (Schrock et al. JThoracOncol 2016; Awad et al. JClinOncol 2016)、集団・検出法・組織型構成によって変動が大きい。
MET exon 14変異はKRAS・EGFR・ALK・ROS1・RETなど他のドライバー変異と相互排他的で、診断時年齢中央値72歳の比較的高齢の患者に多いとされる。MET遺伝子増幅 (gene amplification) もde novoでは1-11%、EGFR-TKI獲得耐性機序として (Bean et al. ProcNatlAcadSciUSA 2007) 5-22%に認められるが、低コピー数増幅 (MET/CEP7比 (chromosome enumeration probe 7) 2-5) がMETシグナルを実際に活性化しMET阻害薬に応答するかは不明で、crizotinib応答は高コピー数 (MET/CEP7比≥5) のみで明確であった。
MET蛋白過剰発現 (IHC、immunohistochemistry) は肺癌の22-75%と高頻度に観察されるが、これがMET exon 14変異や遺伝子増幅と相関するかは議論が分かれており、ここに先行研究のギャップが存在した。すなわち初期のMET標的療法trial (onartuzumab・tivantinib等) はIHC陽性を選択基準としたが第3相で全て陰性結果に終わり、IHC陽性が真にMET依存性 (oncogene addiction) を反映しないことが示唆されていた。何が足りなかったかというと、(1) 東アジア (特に台湾) の系統的データの欠如、(2) 主要組織型 (腺癌・扁平上皮癌) 以外のまれな組織型 (肉腫様癌・癌肉腫など) における頻度データの欠如、(3) MET遺伝子変化 (exon 14変異・増幅) と蛋白発現 (IHC) の三者を同一コホートで網羅評価した研究が乏しく未解明であった点、の3点である。これらの未解明領域は本研究が標的とする gap であり、precision oncology時代における患者選択戦略の最適化に直結する。
目的
台湾の手術例肺癌集団 (n=196) を対象に、MET exon 14スキッピング変異・MET遺伝子増幅・MET蛋白過剰発現の頻度と臨床病理学的特徴を体系的に解析し、(1) これら3者の相互関係の有無、(2) まれな組織型 (癌肉腫等) における存在の可否、(3) スクリーニングに最適な検出法を明らかにすること。
結果
台湾コホートにおけるMET exon 14スキッピング変異の頻度は1.0%で同一スプライスドナー変異:196例中、qPCR評価成功はn=170 (86.7%、ACTB陽性基準)、残りn=26 (13.3%) はACTB qPCR失敗 (FFPEのRNA分解) で評価不能であった (Fig 1)。ACTBのCt値は21.68-43.4と約2000000-fold (≒2^21.7) の幅があり、FFPE保存品質のばらつきを反映していた。170例中、MET野生型転写産物はn=140で検出 (Ct値28.71-37.19、ACTBより晩く低発現を示唆)、残りn=30はMET野生型陰性 (MET転写量低下) であった。MET exon 14スキッピング転写産物陽性は2例 (n=2/196、prevalence rate 1.0%、95% CI 0.1-3.6%) で、Sangerシークエンスで両例とも同一塩基置換 c.3802G>C をスプライスドナー部位に確認した (Fig 2)。n=56 (MET陰性) のSangerシークエンスでは追加変異の同定なし。検出率1.0%は欧米・東アジアの既報1-4%の下限と一致し (Schrock et al. JThoracOncol 2016 = 0.9-3.3%; Awad et al. JClinOncol 2016 = 3%)、台湾人NSCLCにおける本変異の稀少性を確認した。
MET exon 14変異2例の臨床特徴:高齢・非喫煙・他driver mutationとの相互排他性、および癌肉腫での初の同定:症例1は女性80歳・病期IB腺癌・非喫煙、症例2は男性81歳・病期IIB癌肉腫 (carcinosarcoma、肉腫様癌1サブタイプ) ・非喫煙であった (Table 2、Fig 2)。両例とも他のdriver mutation (EGFR・KRAS・ALK・ROS1・RET) 陰性で、80歳・81歳と高齢、相互排他性という既知疫学的特徴 (Awad et al. JClinOncol 2016 の年齢中央値72歳) と完全に一致した。特に症例2の癌肉腫はMET exon 14変異が腺癌・扁平上皮癌以外のまれな組織型にも存在することを示した新知見で、その後のLiu et al. JClinOncol 2016 による肉腫様癌での高頻度 (22%) 報告に先行する所見であった。
MET遺伝子増幅は3例 (1.5%) で低〜中等度増幅、組織型は腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌:FISHは196例全例で評価成功し、3例 (1.5%) でMETコピー数5超を満たす増幅を検出した (Table 2、Fig 3)。MET/CEN7比はいずれも5未満 (low-intermediate amplification) で、組織型は大細胞癌1例 (50歳男性・IIA) ・扁平上皮癌1例 (78歳男性・IB・喫煙) ・腺癌1例 (56歳男性・IIIA) であった。腺癌の1例にはEGFR exon 19欠失の共変異が認められた (METがEGFR-TKI naïveに併存)。頻度1.5%は既報2-4%の下限に位置し、低コピー数増幅 (MET/CEN7<5) が大部分を占めた。
MET蛋白過剰発現は14例 (7.1%) だがMET遺伝子変化との相関なし:196例全例でIHC評価が可能で、14例 (n=14/196=7.1%) にMET IHC陽性 (1+〜2+主体) を検出した (Table 2、Fig 3)。組織型別陽性率は腺癌12例/134例 (9.1%) ・扁平上皮癌1例/32例 (3.0%) ・腺扁平上皮癌1例/7例 (14.2%) であった。重要な所見として、MET exon 14変異の2例および増幅の3例 (合計5例) はいずれもIHC陰性 (n=0/5陽性) で、MET遺伝子変化と蛋白過剰発現の間にゼロ相関 (0/5) が認められた。逆にIHC陽性14例にはEGFR共変異 (exon 19 del 1例・L858R 3例・G719S 1例・exon 20 ins 1例) ・KRAS G12C共変異1例が含まれ、IHC陽性はEGFR/KRAS変異と独立に生じることが示された。
FFPEにおけるRNA品質劣化はRNA-based検出の主要制限:196例中26例 (13.3%) でACTB qPCR失敗 (内部コントロール陰性) があり、さらにACTB陽性170例のうち30例 (17.6%) でMET野生型陰性 (MET転写産物の選択的分解または低発現) が認められた。ACTBのCt値は21.68-43.4 (Δ21.7サイクル≒200万倍の感度差) と極端なばらつきがあり、FFPEのアルカリ性ホルマリン固定によるRNA断片化・架橋がqPCR効率を著しく損なう実態が示された (Fig 1)。これは将来的にPAXgene等の核酸保存液採用、または新鮮凍結検体でのNGS-based包括的パネル検査が標準化されるべきという論拠を提供する。
考察/結論
本研究は、台湾の手術例肺癌集団におけるMET exon 14スキッピング変異 (1.0%) ・MET増幅 (1.5%) ・MET IHC陽性 (7.1%) の頻度を体系的に解析した初の系統的データであり、これまでの欧米・東アジアの既報 (Schrock et al. JThoracOncol 2016; Awad et al. JClinOncol 2016) の下限に一致するMET exon 14変異の稀少性 (1.0%) を確認した。先行研究と異なる新規性として、(1) 癌肉腫 (carcinosarcoma) における初の本変異同定により主要組織型以外への存在を実証し、(2) MET遺伝子変化 (exon 14変異・増幅) とIHC陽性の間にゼロ相関 (0/5) を示すことで、これまでのIHC選択MET標的療法trial (onartuzumab・tivantinib・rilotumumab等) が全て陰性結果に終わった分子レベルの根拠を明示した点が挙げられる。本研究で新規に示されたのは、台湾人NSCLCでも同じ低頻度・同じ相互排他パターン・同じIHC無相関が成立するという「人種を超えた一貫性」である。
新規性のもう一つの軸として、症例2 (癌肉腫81歳男性) はMET exon 14変異が肉腫様癌スペクトラム全体に分布することを示唆する先駆的knowledge contributionである。これまでの先行研究では腺癌主体であったが、Liu et al. JClinOncol 2016 による肉腫様癌での高頻度 (22%) 報告に先行する所見として、本研究は組織型を超えたスクリーニング拡大の必要性を提示した。
臨床応用:本研究の最重要な臨床的含意は、IHCをMET標的療法のバイオマーカーとして使用すべきではないという結論である。MET exon 14変異・増幅の5例全てがIHC陰性 (0/5) であった事実は、IHC陽性がMET依存性 (oncogene addiction) を反映しないことを直接示しており、capmatinib・tepotinib等の現行第IV相承認薬の患者選択は核酸レベル (NGS RNA-seq・DNA-seq・FISH) で行うべきとの臨床指針を支持する。具体的なbench-to-bedsideの展望としては、新鮮凍結検体でのRNA-seqまたは大規模NGSパネル (FoundationOne CDx等) を組織診断時に同時施行することで、稀少なMET exon 14変異 (1-4%) を見落とさず、かつ偽陽性 (IHC陽性によるmisclassification) を排除できる。
残された課題:本研究には複数の限界がある。(1) 単施設・手術例コホートで早期病期 (IA+IB=56.6%) に偏り、進行期 (IIIB+IV=6.6%) が少ないため進行肺癌での真の有病率を反映しない可能性がある。(2) MET exon 14変異症例数がわずか2例で、臨床特徴の統計的検出力が不足する。(3) MET阻害薬治療データがなく、本研究で同定された変異・増幅例の治療応答性を直接評価できない。(4) FFPE RNA品質によるRNA-based検出の偽陰性 (26例評価不能) が真の有病率を過小評価している可能性がある。今後の検討としては、進行期コホートを含む大規模多施設研究、NGS-based包括パネルによる全変異型 (skipping以外のpoint mutation・large fragment deletion含む) の網羅検出、肉腫様癌・癌肉腫等のまれな組織型を意図的に enrich したスクリーニング戦略、capmatinib・tepotinib等のMET阻害薬応答とMET変異/増幅サブタイプとの相関データ蓄積が必要である。
結論として、本研究は台湾人NSCLCにおけるMET exon 14変異・MET増幅の稀少性 (1%レベル) と、MET蛋白過剰発現 (IHC) との非相関を初めて系統的に示した。MET遺伝子変化の検出は核酸レベル (qPCR・NGS・FISH) で行うべきであり、IHCはバイオマーカーとして適切でない。癌肉腫での本変異同定は組織型を超えたスクリーニング拡大の必要性を提示し、現行のMET阻害薬時代における患者選択戦略に重要な分子病理学的根拠を提供する。
方法
検体収集:Chang Gung Memorial Hospital嘉義院の組織バンク・バイオバンクから2006-2017年に手術切除した196例のFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 肺癌組織を収集 (IRB approval No. 201600631B0)。各症例から腫瘍部1.5 mmコア2本+隣接正常部1本をサンプリングし、tissue microarray (TMA、組織マイクロアレイ) を7スライド作成。
MET exon 14スキッピング変異検出 (RNA-based qPCR):AllPrep DNA/RNA Mini kit (Qiagen) でFFPEから核酸を精製し、SuperScript III (Invitrogen) でランダムヘキサマー逆転写。TaqManプローブベースのqPCRを2反応系で実施 — 反応1はexon 13-14野生型 (157 bp) +ACTB (β-actin reference gene) 内部コントロール (111 bp)、反応2はexon 13-15ブリッジ (exon 14スキッピング、141 bp) +ACTB。野生型と変異型の競合を避けるため別反応に分けることで感度0.1%を達成 (野生型1000倍過剰存在下で変異型を検出可、authentic plasmid標準で確認)。反応条件:95℃ 5 min初期変性 → 95℃ 5 s + 60℃ 10 sを45サイクル (Qiagen Rotor-gene Q qPCR machine)。Ct値 (threshold cycle) のカットオフは40とし、各反応のACTB増幅成功を品質基準とした (Ct ≤ 40)。
MET変異ゲノム検出 (Sangerシークエンス):qPCR陽性例および評価失敗例について、exon 14全域および隣接イントロン領域 (スプライスドナー・アクセプター部位含む) をPCR増幅 (2プライマーペア、参照配列NM_000245.3) しSangerシークエンスで変異を同定した (S1 Tableにプライマー配列記載)。
MET遺伝子増幅検出 (FISH):MET/CEN-7 SureFISH Probe Mix (Agilent、染色体7番セントロメアCEN-7をコントロール) を用いてTMA切片でFISH (fluorescence in situ hybridization) を実施。Hybridizationは90℃ 5 min→37℃ 14-20時間、その後DAPI対比染色。蛍光顕微鏡 (Zeiss Axio Scope A1) でn=50以上の非重複核をカウントし、METコピー数が5を超える核が15%以上の場合に増幅陽性と判定 (Cappuzzo et al. JClinOncol 2009 の基準)。MET/CEN-7比でlow (<2)、intermediate (2-5)、high (≥5) を分類。
MET蛋白発現検出 (IHC):抗total MET ウサギモノクローナル抗体 (clone SP44、Ventana) を用いVentana BenchMark XT・OptiView検出キットで染色。細胞質・膜の陽性のみカウントし、強度を0 (染色なし) /1+ (弱) /2+ (中) /3+ (強) の4段階で評価 (病理医による盲検判定)。
統計解析 (statistical analysis):頻度の記述統計 (mean ± SD、95% CI、percentage)、群間比較は Fisher’s exact test (カテゴリ変数の関連性検証)、p < 0.05 を有意水準とした。
患者背景:年齢中央値65歳 (33-96歳)、男性n=123 (62.8%) ・女性n=73 (37.2%)、heavy smoker n=80 (40.8%)。組織型は腺癌n=134 (68.4%) ・扁平上皮癌n=32 (16.3%) ・腺扁平上皮癌n=7 (3.6%) ・大細胞癌n=7 (3.6%) ・肉腫様癌n=5 (2.5%) ・その他n=11 (5.6%)。病期はIA n=36 (18.4%) ・IB n=75 (38.2%) ・IIA n=18 (9.2%) ・IIB n=15 (7.7%) ・IIIA n=39 (19.9%) ・IIIB n=4 (2.0%) ・IV n=9 (4.6%) と早期 (I期56.6%) 優位であった (Table 1)。