• 著者: Schrock AB, Frampton GM, Suh J, Chalmers ZR, Rosenzweig M, Erlich RL, et al.
  • Corresponding author: Sai-Hong Ignatius Ou, MD, PhD (Chao Family Comprehensive Cancer Center, University of California Irvine School of Medicine, Orange, CA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-07-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27343443

背景

MET exon 14スキッピング (METex14) 変異は、非小細胞肺癌 (NSCLC) における潜在的なドライバー変異として近年注目されつつあった。この変異は、METキナーゼのジャクスタメンブレンドメインに位置するY1003残基がE3ユビキチンリガーゼCBLの結合部位であり、METex14変異によってこの部位が消失しMETの分解が阻害されることで恒常的なMETシグナル活性化が生じることが報告されていた。しかし、2016年時点では、100例を超える大規模かつ多様な組織型を含む系統的なMETex14変異の記述は存在せず、その臨床的・分子学的特徴の全貌は未解明であった。このため、大規模な患者コホートにおけるMETex14変異の包括的なプロファイリングが不足しており、その治療標的としての可能性を裏付ける詳細なデータが求められていた。

Foundation Medicineの包括的ゲノムプロファイリング (CGP) プラットフォームは2012年から診療目的で実施されており、多施設・多組織型にわたる11,000例超のコホートを形成していた。この大規模データベースは、METex14変異の多様な組織型における頻度、ゲノム的背景、腫瘍変異負荷 (TMB) との関連を網羅的に解析するうえで理想的な基盤を提供した。TMBは免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとして注目されており、METex14変異を有するNSCLCにおけるTMBの特性把握は、今後の治療戦略の選択において臨床的に重要であると考えられた。

これまでの大規模ランダム化試験(例えば、チバンチニブとエルロチニブの併用療法など)が、METを選択的に標的としない設計で失敗に終わっていたことから、METex14変異のような特定のMET活性化機序を持つ患者集団を対象とした精密なアプローチの必要性が高まっていた。Kris et al. JAMA 2014は、多重アッセイによるドライバー変異の同定が個別化医療に不可欠であることを示唆しており、METex14変異も同様のアプローチが求められていた。また、Frampton et al. NatBiotechnol 2013は、次世代シークエンシングに基づくCGPテストの開発と検証を報告しており、本研究の方法論的基盤を確立していた。さらに、Cancer et al. Nature 2014は肺腺癌の包括的な分子プロファイリングを実施し、多様なドライバー変異の存在を明らかにしたが、METex14変異に特化した大規模な解析は不足していた。これらの背景から、METex14変異の臨床的・分子学的特徴を詳細に解析し、MET TKIへの治療反応性を評価することは、このドライバー変異を有する患者に対する最適な治療戦略を確立するために不可欠な課題であった。

目的

本研究の目的は、Foundation Medicineの包括的ゲノムプロファイリング (CGP) により同定されたMET exon 14スキッピング (METex14) 変異を有する肺癌患者298例について、その臨床的特徴、組織型分布、およびゲノム的背景を詳細に記述することである。具体的には、共変異(特にMET増幅、MDM2増幅、CDK4増幅)、腫瘍変異負荷 (TMB) と喫煙状況との関連性を網羅的に解析する。さらに、MET TKIであるクリゾチニブによる治療反応性に関する新規症例を報告し、METex14変異が治療標的となりうるドライバー変異であることの臨床的エビデンスを提示する。本研究は、METex14変異を有する肺癌患者の包括的な分子プロファイルを確立し、将来的な治療戦略の最適化に貢献することを目指す。

結果

METex14変異の頻度と組織型分布: 肺癌11,205例のCGP解析の結果、298例 (2.7%) にMETex14変異が検出された。組織型別の頻度は、腺扁平上皮癌で8.2% (8/98例)、肉腫様癌で7.7% (8/104例) と高頻度であった。その他、特定なし (NOS) 3.0% (49/1,659例)、腺癌2.9% (205/7,140例)、扁平上皮癌2.1% (25/1,206例)、大細胞癌0.8% (2/243例)、小細胞肺癌 (SCLC) 0.2% (1/500例以上) であった。この結果は、非腺癌組織型におけるMETex14変異の相対的な濃縮を示唆する。腺癌の組織学的特徴としては、腺房型 (acinar) が24%に存在し、充実型21.4%、微少乳頭型9.7%、乳頭型8.1%、伏在型5.4%が続いた。内部レビューにより、17例で追加の肉腫様特徴が同定された。これらのデータは、METex14変異が多様な組織型にわたって存在し、特に肉腫様癌や腺扁平上皮癌で高頻度であることを明確に示した (Table 1)。

患者の臨床的特徴: METex14変異を有する患者の中央年齢は73歳 (範囲47-95歳) であり、65歳以上が79%を占め、高齢者集団に多いことが示された。性別では女性が60.4% (180/298例) と男性よりも優位であった。喫煙歴が判明した36例のうち、never-smokerが25例 (69%)、喫煙歴ありが11例 (31%) であった。診断時ステージは、IV期が58.7% (175例) と最も多く、進行期での診断が多い傾向が認められた (Table 1)。

METex14変異の多様性: 298例において合計165種類のMETex14変異バリアントが同定され、その多様性が明らかになった。主な変異タイプは、スプライスドナー塩基置換が149例 (49.1%)、インデルスプライスアクセプターが100例 (32.9%)、インデルスプライスドナーが42例 (13.8%) であった。その他、スプライスアクセプター塩基置換、非コード部位変異、全エクソン欠失などが7例に認められた。5例では2種類以上のMETex14変異が共存していた。また、METのユビキチン化を阻害するとされるY1003変異(Y1003Xを含むCBL結合部位変異)が6例に同定され、これら全例が高齢女性であった (Table 1, Figure 1)。

MET増幅との関連: 同時MET増幅は44例 (14.8%) に認められ、平均コピー数は13 (中央値10、範囲6-59) であった。これはMETex14変異を保有しない肺癌におけるMET増幅率 (約2.5%) と比較して有意に高頻度であった。MET増幅の有無で、METex14変異の種別 (p=0.017) およびTMB分布 (p=0.013) に有意な差が認められた。MET増幅なし群では低TMB (0-5変異/Mb) が多く (59%)、MET増幅あり群では中間低TMB (6-10変異/Mb) が多かった (43%)。TMBの中央値は、MET増幅なし群で4.4変異/Mb、MET増幅あり群で6.8変異/Mbであり、有意な差が認められた (p=0.007) (Table 2)。

MDM2およびCDK4増幅の高頻度共変異: MDM2増幅が103例 (34.6%) に認められ、平均コピー数は16 (中央値15、範囲6-100) であった。CDK4増幅は63例 (21.1%) に認められ、平均コピー数は14 (中央値14、範囲6-54) であった。CDK4増幅はMDM2増幅と有意に相関した。従来の主要ドライバー変異との共変異は稀であり、EGFR増幅が19例 (6.4%)、ERBB2増幅が2例 (0.7%)、KRAS変異が9例 (3%)、EML4-ALK融合が1例に同定されたのみであった (Table 1)。

TMBと喫煙状況: METex14保有症例の平均TMBは6.9変異/Mb (範囲0-197.9) であり、全肺癌の平均TMB (10.7変異/Mb) より低値であった。56.4%の症例が低TMB (0-5変異/Mb) であり、これは組織型を問わず一貫した傾向であった。喫煙歴が判明した36例のうち、非喫煙者25例の平均TMBは4.5変異/Mb (中央値3.3) であったのに対し、喫煙歴のある11例の平均TMBは25.4変異/Mb (中央値10.4) であり、喫煙者で有意に高いTMBが示された (p=0.046)。この結果は、METex14変異を有する多くの患者がnever-smokerであり、TMBが低いために免疫チェックポイント阻害薬の効果が限定的である可能性を示唆する。

クリゾチニブ治療反応性: 8例の未発表クリゾチニブ治療例について評価した。これらの患者は全て前治療歴があり、クリゾチニブ投与後の病勢コントロール率が100%と非常に高かった。内訳は、完全奏効 (CR) 2例、部分奏効 (PR) 4例、安定 (SD) 2例であった。PR症例の1例は24か月間奏効が継続し、CR症例の1例は奏効後7か月経過中、別のCR症例は奏効後3か月経過中であった。特筆すべき症例として、ステージIIIBの切除不能腺癌(never-smoker女性)に対して術前クリゾチニブを2か月投与したところ、症状および画像上の著明な改善が得られ、完全切除(縦隔リンパ節廓清を含む)が可能となった。切除検体の病理組織学的検査では、線維化のみで癌細胞は認められず、無病生存が達成された (Table 3, Figure 2, Figure 3)。クリゾチニブへの奏効は、MET増幅、MDM2増幅、CDK4増幅の有無にかかわらず確認された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、包括的ゲノムプロファイリング (CGP) による大規模スクリーニング (11,205例) を通じて、MET exon 14スキッピング (METex14) 変異が多様な肺癌組織型に認められること、特に肉腫様癌 (7.7%) と腺扁平上皮癌 (8.2%) での相対的高頻度を初めて系統的に実証した先駆的研究である。これは、Liu et al. JClinOncol 2016などの小規模な先行研究で示唆されていた肉腫様癌における高頻度を、より大規模なコホートで確認したものである。また、165種類もの多様なMETex14バリアントが同定されたことで、変異の多様性が明らかとなり、高齢 (中央年齢73歳、65歳以上79%) や非腺癌組織型であることをもってMETex14スクリーニングの除外基準とすべきでないことが強く示された。扁平上皮癌での2.1%という頻度は、これまで報告がなかった組織型への広がりを示す新規の重要な発見であった。

新規性: 本研究で初めて、MDM2増幅 (34.6%、平均コピー数16) とCDK4増幅 (21.1%、平均コピー数14) がMETex14変異と高頻度に共変異として認められることを新規に同定した。これは、MDM2によるp53ユビキチン化を介した増殖促進と細胞周期制御の破綻という独自の腫瘍生物学を反映する。MDM2増幅の有無に関わらずMET TKI奏効が確認されたことは、共変異がMET TKI感受性を必ずしも規定しないことを示すが、予後への影響や抵抗性メカニズムとの関連についてはより大規模な前向き試験でのバイオマーカー解析が必要である。また、METex14保有腫瘍の平均TMBが6.9変異/Mb (全肺癌平均10.7変異/Mbより低値) であり、56.4%が低TMB (0-5変異/Mb) であったこと、特に非喫煙者 (平均4.5変異/Mb) で喫煙者 (平均25.4変異/Mb) と比較して有意に低いTMB (p=0.046) を示すことを明らかにした点で、これまでのMETex14変異に関する報告とは異なる知見を提供した。Awad et al. JClinOncol 2016はMETex14変異と高齢、進行期でのMET増幅との関連を報告したが、TMBと喫煙状況の関連については本研究でより詳細に検討された。

臨床応用: クリゾチニブ治療8例全例での病勢コントロール達成 (CR 2例、PR 4例、SD 2例) と、切除不能ステージIIIBからの完全病理学的奏効 (線維化のみ、NED) という劇的な転帰は、METex14変異が真の治療可能ドライバーであることの強力な臨床的証拠を提供した。この知見は、METex14変異を有する患者に対するMET TKIの臨床的有用性を示し、精密医療の推進に大きく貢献する。本研究は、その後のGEOMETRY mono-1試験 (capmatinib) およびVISION試験 (tepotinib) の設計に影響を与え、両薬剤が米国食品医薬品局 (FDA) 承認を受けるための礎となった。ハイブリッドキャプチャーベースCGPが多様なMETex14バリアント (165種類) を一括検出できる唯一の実用的プラットフォームであることを実証した方法論的意義も大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、METex14変異とMDM2/CDK4増幅の共存がMET TKIの長期的な奏効や抵抗性獲得にどのように影響するかを、より大規模なコホートで前向きに評価する必要がある。また、MET増幅の有無によるTMBの差が、MET TKIと免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法における治療効果に与える影響についてもさらなる研究が求められる。本研究のlimitationとしては、クリゾチニブ治療例が8例と少数であったこと、および喫煙歴が不明な患者が多かったことが挙げられる。これらの課題を解決するためには、より大規模な前向き臨床試験でのバイオマーカー解析と治療反応性の詳細な評価が不可欠である。

方法

本研究では、Foundation Medicine, Inc. (Cambridge, MA) の包括的ゲノムプロファイリング (CGP) プラットフォームを用いた後ろ向きコホート研究デザインを採用した。2012年8月から2015年11月の間に、診療目的で連続して実施された肺癌11,205例のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腫瘍組織を対象とした。DNAは40 µm厚のFFPE切片から抽出され、ハイブリッドキャプチャーベースのCGPが実施された。このCGPは、236の癌関連遺伝子の少なくとも3,769エクソンおよびRET、ALKなど19遺伝子の47イントロン領域を対象とし、平均カバレッジ深度820×でシークエンシングされた。検査はCLIA認定およびCAP認定施設で実施された。

METex14変異の同定基準は、MET exon 14のスプライスドナーまたはアクセプター部位に影響する塩基置換、挿入欠失 (インデル)、または全エクソン欠失と定義された。Y1003変異(CBL結合部位)も対象に含め、Y1003に隣接するD1002およびR1004変異も参照された。これらの変異は、既報の通り、METのユビキチン化と分解を阻害し、恒常的なMETシグナル活性化を引き起こすと考えられている。

腫瘍変異負荷 (TMB) は、体細胞性塩基置換およびインデルの数として1メガベース (Mb) 当たりの変異数で定量された。解析対象領域は1.11 Mbであった。既知の体細胞変異および腫瘍抑制遺伝子の短縮変異は、TMBの算出から除外された。TMBは、低値 (0-5変異/Mb)、中間低値 (6-10変異/Mb)、中間高値 (11-20変異/Mb)、高値 (>20変異/Mb) の4段階に分類された。

MET増幅の定義は、腫瘍純度20%超のサンプルにおいて、6コピー以上(二倍体腫瘍基準、三倍体は7以上、四倍体は8以上)とされた。患者の年齢、性別、病期、組織型は、担当医から提出された病理報告書から抽出された。METex14陽性症例については、サブスペシャリティ認定の胸部病理医がヘマトキシリン・エオシン染色スライドを内部レビューした。

治療歴のある症例については、担当医からの情報提供に基づき、クリゾチニブへの治療反応性が後方視的に評価された。統計解析には、順序変数にはMann-Whitney U検定、カテゴリ変数にはPearsonのカイ二乗検定(Yates補正付き)が用いられた。本研究はWestern Institutional Review Board (プロトコルNo. 20152817) の承認を得ており、インフォームドコンセントおよびHealth Insurance Portability and Accountability Act (HIPAA) の承認免除が適用された。