• 著者: Socinski MA, Okamoto I, Hon JK, Hirsh V, Dakhil SR, Page RD, et al.
  • Corresponding author: Socinski MA (University of Pittsburgh Cancer Institute, Pittsburgh)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23842283

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療選択は、その組織型に大きく依存する。特に非扁平上皮癌 (NSCC) 患者においては、ペメトレキセドやベバシズマブといった薬剤が利用可能である一方、扁平上皮癌 (SCC) 患者ではこれらの薬剤が適応外とされ、プラチナ製剤とゲムシタビンまたはタキサン系の併用療法が主要な治療選択肢となっている (NCCN 2013)。過去20年間で進行NSCLC患者の生存率はわずかな改善を示しているものの、5年生存率は依然として5%未満であり、組織型によってもその割合は異なる Cetin et al. ClinEpidemiol 2011

nab-パクリタキセル (nab-P; Abraxane) は、アルブミン結合型のパクリタキセルであり、平均粒子径が130 nmである。この薬剤は、溶剤ベースパクリタキセル (sb-P) と比較して、血中フリーパクリタキセルの最高血中濃度 (Cmax) が約10倍高く Gardner et al. ClinCancerRes 2008、前臨床モデルでは腫瘍内薬物濃度が33%高く、内皮細胞を介した輸送効率が4倍優れていることが示されている Desai et al. ClinCancerRes 2006。これらの特性により、nab-Pはパクリタキセルの治療指数を改善する目的で開発された。nab-Pはすでに転移性乳癌の治療薬として承認されており、NSCLCの一次治療においてもカルボプラチンとの併用療法が承認されている。

先行する第III相試験 Socinski et al. JClinOncol 2012 では、週1回投与のnab-Pと3週ごとのカルボプラチン (nab-P/C) の併用療法が、標準的な3週ごとのsb-Pとカルボプラチン (sb-P/C) の併用療法と比較して、有意に高い全奏効率 (ORR; 33% vs 25%, P=0.005) を示し、全生存期間 (OS) も1ヶ月延長する傾向 (12.1ヶ月 vs 11.2ヶ月, P=0.271) を示している。しかし、これらの治療法の組織型別の詳細な有効性および安全性プロファイルについては、さらなる検討が不足していた。特に、SCC患者における治療選択肢が限られている現状において、nab-P/Cの組織型別効果を詳細に評価することは臨床的に重要である。本解析は、その組織型別サブグループの詳細な結果を報告するものであるが、各組織型における治療効果の差異や、nab-Pの特異的な作用機序については未解明な点が残されている。

目的

本研究の目的は、未治療の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした第III相試験において、組織型 (扁平上皮癌 [SCC]、腺癌 [ADENO]、大細胞癌 [LC]、特定不能型 [NOS]) 別にnab-パクリタキセル (nab-P) とカルボプラチン (C) 併用療法 (nab-P/C) と溶剤ベースパクリタキセル (sb-P) とC併用療法 (sb-P/C) の有効性および安全性を比較することである。組織型は試験プロトコルで事前に規定された層別化因子であり、本解析では特に各組織型における治療効果の差異を明らかにすることを目指した。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) とし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性、および患者自己申告によるタキサン関連症状 (Functional Assessment of Cancer Therapy-Taxane [FACT-Taxane]) を評価した。

結果

扁平上皮癌におけるnab-P/Cの奏効率の有意な改善: 扁平上皮癌 (SCC) 患者450例において、nab-P/C群の客観的奏効率 (ORR) は41% (n=229) であったのに対し、sb-P/C群では24% (n=221) であり、nab-P/C群が68%の相対的改善を示した (response rate ratio [RRR] 1.680; 95% CI 1.271-2.221; P<0.001)。この41%というORRは、SCCの第III相試験として報告された最高水準の奏効率の一つである。一方、腺癌 (ADENO) 患者518例ではORR 26% vs 27% (RRR 0.966; P=0.814) と群間差は認められなかった。大細胞癌 (LC) 患者22例では33% vs 15% (RRR 2.167; P=0.323)、特定不能型 (NOS) 患者62例では24% vs 15% (RRR 1.593; P=0.372) と数値上の差はあったものの、統計的有意差は認められなかった。ORRに対する組織型と治療効果の有意な交互作用が認められた (P=0.036)。(Supplementary Table S1参照)

PFSおよびOSにおける群間差の限定的傾向: SCC患者の無増悪生存期間 (PFS) 中央値はnab-P/C群で5.6ヶ月、sb-P/C群で5.7ヶ月であり (HR 0.865; 95% CI 0.680-1.101; P=0.245)、有意差は認められなかった。非扁平上皮癌 (NSCC) 患者ではPFS中央値が6.9ヶ月 vs 6.5ヶ月 (HR 0.933; 95% CI 0.750-1.159; P=0.532) であった。全生存期間 (OS) 中央値はSCC患者でnab-P/C群10.7ヶ月 vs sb-P/C群9.5ヶ月 (HR 0.890; 95% CI 0.719-1.101; P=0.284) であった。NSCC患者ではOS中央値が13.1ヶ月 vs 13.0ヶ月 (HR 0.950; 95% CI 0.779-1.158; P=0.611) であった。OSおよびPFSについて、組織型と治療の交互作用は有意でなかった (OS: P=0.928、PFS: P=0.310)。LC患者ではnab-P/C群のOS中央値が12.4ヶ月、sb-P/C群で10.6ヶ月 (HR 1.208; P=0.721) であったが、例数が少なく解釈には限界がある。(Figure 1参照)

nab-P/CによるGrade 3/4感覚神経障害の有意な軽減: SCC患者におけるnab-P/C vs sb-P/CのGrade 3/4血液毒性では、貧血が27% vs 4% (P<0.001)、好中球減少が43% vs 51% (P=NS)、血小板減少が21% vs 7% (P<0.001) であった。非扁平上皮癌 (NSCC) 患者でも同様に、貧血が28% vs 9% (P<0.001)、好中球減少が50% vs 63% (P=0.003)、血小板減少が16% vs 11% (P=NS) であった。非血液毒性では、SCCおよびNSCC双方において、Grade 3/4感覚神経障害がnab-P/C群で有意に少なかった (SCC: 3% vs 11%、P<0.001;NSCC: 3% vs 12%、P<0.001)。また、Grade 3/4関節痛もnab-P/C群で有意に低率であった (NSCC: 0% vs 2%、P<0.05)。Grade 3/4神経障害からGrade 1への回復までの中央時間はnab-P/C群で有意に短い傾向が認められた (SCC: 38日 vs 104日;NSCC: 39日 vs 126日)。(Table 2参照)

患者申告アウトカム (FACT-Taxane) における神経障害症状の軽減: Functional Assessment of Cancer Therapy-Taxane (FACT-Taxane) 質問票の遵守率は高く (ベースライン: SCC 100%、NSCC ≥98%;追跡: >94%)、患者自己申告による神経障害症状の評価が可能であった。SCC患者において、nab-P/C群はsb-P/C群と比較して患者申告神経障害スコア (1.50 vs 3.21、P<0.001)、手足の痛み (0.77 vs 1.45、P<0.001)、難聴 (0.12 vs 0.35、P=0.001) で有意な改善を示した。NSCC患者でも神経障害スコア (1.77 vs 3.24、P<0.001) と手足の痛み (0.75 vs 1.31、P<0.001) で有意に良好な結果であった。FACT-Taxane神経障害サブスケール11項目全てにおいて、nab-P群が有意に良好な結果を示した (P<0.001)。(Figure 2参照)

治療曝露と用量強度: SCC患者における中央値サイクル数は両群で6.0サイクルであった。NSCC患者ではnab-P/C群で5.0サイクル、sb-P/C群で6.0サイクルであった。タキサン累積投与量中央値は、SCC患者でnab-P/C群1475 mg/m²、sb-P/C群1200 mg/m²であり、NSCC患者ではnab-P/C群1213 mg/m²、sb-P/C群1025 mg/m²であった。タキサン用量強度中央値は、SCC患者でnab-P/C群85.2 mg/m²/週、sb-P/C群65.4 mg/m²/週であり、NSCC患者ではnab-P/C群79.6 mg/m²/週、sb-P/C群65.1 mg/m²/週であった。nab-P/C群はsb-P/C群と比較して、より高い累積タキサン用量および用量強度を達成した。

考察/結論

本解析の最も重要な知見は、扁平上皮癌 (SCC) 患者においてnab-パクリタキセル (nab-P) とカルボプラチン (C) 併用療法 (nab-P/C) が溶剤ベースパクリタキセル (sb-P) とC併用療法 (sb-P/C) と比較して有意に高い奏効率 (41% vs 24%、P<0.001)、すなわち68%の相対的改善を示したことである。SCCは扁平上皮癌特異的な分子標的治療や免疫療法が確立される以前の時代には有効な治療選択肢が限られており、ペメトレキセドやベバシズマブがSCCには適応外であることも踏まえると、このような奏効率の改善は臨床的に重要な意義を持つ。客観的奏効率 (ORR) 41% (独立中央放射線評価) はSCCの第III相試験で報告された最高水準の一つであり、治療オプションの拡大に貢献した。

ORRの大きな改善が全生存期間 (OS) 改善に統計的有意差として反映されなかった理由として、本解析がサブグループ解析であり試験全体のサンプルサイズがSCC特有の効果検出に最適化されていないこと、OS追跡期間が18ヶ月に限定されたこと、二次治療の影響があること、SCCサブグループ450例という規模の制約が挙げられる。ORR改善が疾患関連症状 (咳、呼吸困難、胸痛など) の軽減に繋がることが期待される一方、OS差の実証には更大規模の試験が今後の課題である。

nab-P/C群がsb-P/C群より累積タキサン用量および用量強度が高かった (SCC: 1475 vs 1200 mg/m²;非扁平上皮癌 [NSCC]: 1213 vs 1025 mg/m²;用量強度 SCC: 85.2 vs 65.4 mg/m²/週、NSCC: 79.6 vs 65.1 mg/m²/週) という事実は重要であり、より多くの活性薬物が腫瘍に到達したことを示唆する。SCC腫瘍が中枢気管支近傍に位置し主要血管へのアクセスが良いこと、nab-Pの内皮細胞輸送効率 (sb-Pの4倍) や血清フリーパクリタキセルCmaxの10倍高さ、SPARCを介した腫瘍内アルブミン結合型薬物送達などが仮説として挙げられるが、SCC特異的な奏効メカニズムは未解明であり、さらなる研究が残された課題である。

先行研究との違い: Cremophor EL (溶剤) を含むsb-Pと比較してnab-Pが示す神経障害の軽減および回復の迅速化は、長期投与を含む維持療法や高齢者・神経障害リスク患者における選択において特に重要な利点となる。これまでの医師評価のみに依存した安全性評価と異なり、患者自己申告 (Functional Assessment of Cancer Therapy-Taxane [FACT-Taxane]) でもこれが確認されており、客観的評価と主観的評価の一致が示された点は新規の知見である。これは患者中心の医療における重要な進歩を示す。

新規性: 本研究で初めて、nab-P/Cが全組織型にわたって良好なリスク・ベネフィットプロファイルを示し、特に扁平上皮癌においてsb-P/Cと比較して有意に高い奏効率を達成すること、および全組織型でGrade 3/4感覚神経障害を有意に軽減することを明確に示した。これはこれまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: これらの知見は、進行NSCLCの一次治療選択肢としてnab-P/Cを推奨し、特に扁平上皮癌患者において優先的に考慮すべき選択肢となるという臨床的意義を持つ。神経障害の軽減は、患者のQOL向上に大きく貢献し、長期的な治療継続を可能にするため、臨床現場での有用性は高い。

残された課題: 今後の検討課題として、SCCにおけるnab-Pの特異的な作用機序の解明、およびORRの改善がOSの延長に繋がるかを検証するための大規模な前向き研究が必要である。また、他の治療法との併用におけるnab-P/Cの役割についても今後の研究方向性として挙げられる。

方法

本研究は、既報の第III相試験 Socinski et al. JClinOncol 2012 の事前規定サブグループ解析である。本試験は、組織学的または細胞学的に確認された測定可能なStage IIIB (胸水あり/なし) またはIVの切除不能NSCLC患者で、ECOGパフォーマンスステータスが0-1の成人を対象としたランダム化比較試験 (RCT) デザインを採用した。合計1052例の患者が登録され、そのうち450例が扁平上皮癌 (SCC)、602例が非扁平上皮癌 (NSCC) であった。NSCCの内訳は、腺癌 (ADENO) 518例、特定不能型 (NOS) 62例、大細胞癌 (LC) 22例であった。

患者は1:1の比率で以下のいずれかの治療群に無作為に割り付けられた。

  1. nab-P/C群 (521例): nab-パクリタキセル (nab-P) 100 mg/m² を週1回 (day 1, 8, 15) 30分間点滴静注し、カルボプラチン (C) AUC 6 mg/min/mlを3週ごとにday 1に投与した。
  2. sb-P/C群 (531例): 溶剤ベースパクリタキセル (sb-P) 200 mg/m² を3週ごとにday 1に3時間点滴静注し、カルボプラチンAUC 6 mg/min/mlを3週ごとにday 1に投与した。

治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。層別化因子は組織型 (SCC vs ADENO vs その他 [LCおよびNOS])、年齢 (<70歳 vs ≥70歳)、病期 (IIIB vs IV)、性別、および地理的地域 (カナダ/米国 vs ロシア/ウクライナ vs 日本 vs オーストラリア) であった。本試験の登録は2008年1月から2009年9月まで行われ、試験登録番号はNCT00705535である。

主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) であり、RECIST v1.0に基づき、盲検化された中央独立放射線学的レビューによる確認奏効によって評価された。腫瘍評価は6週ごとにスパイラルCTスキャンを用いて病勢進行まで実施された。副次評価項目には無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が含まれ、OSは治療終了後18ヶ月間追跡された。

統計解析には、全無作為化患者 (ITT集団) が有効性評価の対象とされた。ORRの割合 (95%信頼区間 [CI]) は組織型別に要約された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて評価され、Cox比例ハザードモデルによる回帰分析でベースライン特性の影響が調整された。治療効果と組織型の交互作用は、交互作用項を含むロジスティック回帰モデルを用いて評価された。安全性評価は、治験薬を1回以上投与された全ての患者を対象とし、治療関連有害事象 (AE) はNCI CTCAE v3.0に基づき、Fisherの正確確率検定およびCochran-Mantel-Haenszel検定を用いて評価された。患者自己申告によるタキサン関連症状は、FACT-Taxane v4.0追加懸念尺度を用いて各サイクルday 1および治療終了後に評価され、記述統計学的手法で要約された。