- 著者: Socinski MA, Bondarenko I, Karaseva NA, Makhson AM, Vynnychenko I, Okamoto I, Hon JK, Hirsh V, Bhar P, Zhang H, Iglesias JL, Renschler MF
- Corresponding author: Mark A. Socinski, MD (University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, PA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22547591
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の初回治療において、カルボプラチンと溶剤型パクリタキセル (sb-PC) の併用療法は標準レジメンの一つとして広く用いられてきた。しかし、sb-paclitaxelはCremophor ELという溶剤を使用するため、末梢神経障害、アレルギー反応、およびそれらを軽減するためのステロイド前投薬の必要性といった課題を抱えていた。これらの課題は患者の治療アドヒアンスやQOLに影響を与える可能性があった。
nab-paclitaxel (albumin-bound paclitaxel) は、人血清アルブミンとパクリタキセルのナノ粒子製剤であり、Cremophorを不要とすることで前投薬が不要となる利点を持つ。前臨床研究では、nab-paclitaxelがより高い腫瘍内濃度を達成し、アルブミン受容体 (gp60およびSPARC (secreted protein acidic and rich in cysteine)) を介した選択的な腫瘍送達が期待されていた。乳癌を対象とした臨床試験では、nab-paclitaxelがsb-paclitaxelと比較して優越性を示すことがGradishar et al. J Clin Oncol 2005により報告されており、NSCLCへの応用が検討されてきた。特に、weekly投与による神経毒性の軽減と、扁平上皮癌におけるSPARC高発現に基づく有効性の仮説が提唱されていた。
これまでのプラチナ製剤と第三世代薬剤の併用療法は治療効果のプラトーに達しており、新たな治療選択肢が求められていた。例えば、Schiller et al. NEnglJMed 2002による大規模ランダム化試験 (n=1,155) では、4種類のプラチナ併用レジメン間で有意な臨床的優位性は見られず、全奏効率 (ORR) は19%、全生存期間 (OS) 中央値は7.9ヶ月であった。また、Scagliotti et al. JClinOncol 2008の試験では、非扁平上皮癌患者でペメトレキセドの生存改善が示された一方で、扁平上皮癌患者では効果が減弱することが示されており、特に扁平上皮癌患者に対する治療選択肢の不足が課題として残されていた。
目的
本第III相試験の目的は、未治療の進行NSCLC患者を対象に、weekly nab-paclitaxelとカルボプラチン (nab-PC) の併用療法が、sb-paclitaxelとカルボプラチン (sb-PC) の併用療法と比較して、主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) において優れていることを検証することであった。さらに、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイル(治療関連有害事象 (TRAEs) の発生率、患者報告アウトカム (PRO) によるQOL)を比較検討することも目的とした。
結果
客観的奏効率 (ORR) の改善: 独立した放射線科医による評価に基づき、nab-PC群はsb-PC群と比較して有意に高いORRを示した (33% vs 25%; オッズ比 1.313; 95% CI 1.082-1.593; P = .005)。これにより、主要評価項目が達成された。nab-PC群では170名の患者 (33%) がPRを達成し、CRは認められなかった。一方、sb-PC群では1名の患者 (<1%) がCRを達成し、131名の患者 (25%) がPRを達成した (Table 2)。治験責任医師による評価でも同様に、nab-PC群で有意なORRの改善が認められた (38% vs 30%; P = .005)。
組織型別ORRサブグループ解析: 組織型別の解析では、扁平上皮癌患者においてnab-PC群がsb-PC群と比較して著明かつ有意なORRの改善を示した (41% vs 24%; オッズ比 1.680; 95% CI 1.271-2.221; P < .001)。これは扁平上皮癌におけるnab-PCの特異的な有効性を示唆する結果であった。一方、非扁平上皮癌患者では、nab-PC群とsb-PC群の間でORRに統計的な有意差は認められなかった (26% vs 25%; P = .808)。腺癌患者では、nab-PC群で26%、sb-PC群で27%のORRであり、差はなかった (P = .814)。大細胞癌患者ではnab-PC群で33% vs sb-PC群で15%のORR、未分化癌患者ではnab-PC群で24% vs sb-PC群で15%のORRであったが、これらの差は統計的に有意ではなかった (Table 2)。
無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): PFS中央値はnab-PC群で6.3ヶ月 (95% CI 5.6-7.0ヶ月)、sb-PC群で5.8ヶ月 (95% CI 5.6-6.7ヶ月) であった (HR 0.902; 95% CI 0.767-1.060; P = .214)。PFSにおいて統計的な有意差は認められなかったが、nab-PC群のPFSはsb-PC群に対して非劣性基準を満たした (HR 95%CI上限 1.086) (Figure 2A)。OS中央値はnab-PC群で12.1ヶ月 (95% CI 10.8-12.9ヶ月)、sb-PC群で11.2ヶ月 (95% CI 10.3-12.6ヶ月) であった (HR 0.922; 95% CI 0.797-1.066; P = .271)。OSにおいても統計的な有意差は認められなかったが、nab-PC群のOSはsb-PC群に対して非劣性基準を満たした (HR 95%CI上限 1.066) (Figure 2B)。扁平上皮癌サブタイプでは、nab-PC群でOS中央値10.7ヶ月、sb-PC群で9.5ヶ月と、nab-PC群で約1ヶ月の改善傾向が見られた (Figure 2C)。
高齢者 (≥70歳) および地域別サブグループ解析: 高齢者 (≥70歳) サブグループでは、nab-PC群のOS中央値が19.9ヶ月であったのに対し、sb-PC群では10.4ヶ月であり、nab-PC群で有意なOSの延長が認められた (P = .009) (Figure 3B)。北米の患者集団においても、nab-PC群のOS中央値は12.7ヶ月、sb-PC群では9.8ヶ月であり、nab-PC群で有意なOSの改善が示された (P = .008) (Figure 3B)。これらの地域差は、ベースライン特性や二次治療の内容の違いに起因する可能性が示唆された。
安全性プロファイル: グレード ≥3の末梢神経障害の発生率は、nab-PC群で3%、sb-PC群で12%と、nab-PC群で有意に低かった (P < .001)。また、グレード ≥3の末梢神経障害がグレード1に改善するまでの期間中央値は、nab-PC群で38日、sb-PC群で104日であり、nab-PC群で回復が著明に速かった。その他の非血液学的グレード ≥3の有害事象として、nab-PC群では関節痛 (0% vs 2%) および筋肉痛 (<1% vs 2%) の発生率がsb-PC群と比較して有意に低かった (P = .008およびP = .011)。一方、血液学的有害事象では、グレード ≥3の好中球減少症はnab-PC群で47%、sb-PC群で58%とnab-PC群で低かったが (P < .001)、グレード ≥3の血小板減少症 (18% vs 9%; P < .001) および貧血 (27% vs 7%; P < .001) はnab-PC群で有意に高かった (Table 3)。発熱性好中球減少症の発生率は両群ともに1%未満であった。QOL評価では、FACT-Taxaneスケールの神経障害サブスケール、疼痛サブスケール、および聴力損失サブスケールにおいて、nab-PC群でベースラインからの有意な改善が認められた (P < .001, P < .001, P = .002) (Figure 4)。
考察/結論
本第III相試験 (n=1,052) では、進行NSCLC患者の初回治療として、weekly nab-PC療法がsb-PC療法と比較して、主要評価項目であるORRを有意に改善した (33% vs 25%、P=.005)。特に扁平上皮癌サブグループにおいて、ORRの著明な改善 (41% vs 24%、P<.001) が認められたことは、この患者集団における治療選択肢の不足という残された課題に対し、nab-PCが有望な選択肢となる可能性を示唆する。
先行研究との違い: これまでのプラチナ製剤とタキサン系薬剤の併用療法では、ORRが15%から32%程度と報告されており (例: Kelly et al. JClinOncol 2001、Lilenbaum et al. JClinOncol 2005、Sandler et al. NEnglJMed 2006)、本研究のnab-PC群における33%のORRはこれらの報告と比較して良好な結果である。特に、扁平上皮癌患者における41%というORRは、この患者集団を対象とした第III相試験でこれまで報告された中で最も高い数値であり、これまで報告されていない特筆すべき知見である。
新規性: 本研究は、nab-paclitaxelとカルボプラチンの併用療法が、進行NSCLC患者の初回治療において、溶剤型パクリタキセルと比較してORRを優位に改善し、特に扁平上皮癌で顕著な効果を示すことを本研究で初めて大規模に実証した。また、nab-paclitaxelが溶剤型パクリタキセルと比較して末梢神経障害の発生率を著明に低減し、その回復も迅速であることを示した点は、新規の安全性プロファイルに関する重要な知見である。扁平上皮癌における優越性は、SPARC発現を介したnab-paclitaxelの腫瘍型依存的送達機構という仮説と整合的であり、その機序解明に向けた今後の研究の方向性を示唆する。
臨床応用: nab-PCのweekly投与は、末梢神経障害の発生率がsb-PCと比較して有意に低く (3% vs 12%)、回復も迅速である (中央値38日 vs 104日) ことから、患者の忍容性を向上させ、QOLを改善する可能性があり、臨床現場における重要な利点となる。特に、高齢者 (≥70歳) サブグループでnab-PC群のOS中央値が19.9ヶ月とsb-PC群の10.4ヶ月と比較して有意な延長が認められたことは、高齢NSCLC患者に対するnab-PCの臨床的有用性を強く示唆する。前投薬が不要である点も、治療の簡便性という点で臨床応用上のメリットが大きい。本試験の結果に基づき、nab-PC weeklyは2012年に米国FDAの承認を受け、特に高齢者や末梢神経障害のリスクが高い患者における代替レジメンとして位置付けられた。免疫チェックポイント阻害薬との併用療法 (例: IMpower130試験におけるアテゾリズマブ+nab-PC) の骨格としても、その価値は継承されている。
残された課題: OSおよびPFSにおいて統計的な有意差が認められなかったことは、ORRの改善が必ずしも生存期間の延長に直結しないという複雑性を示している。このORRと生存期間の乖離のメカニズムについては、今後の検討課題である。また、nab-PC群で血小板減少症および貧血のリスクが増大したため、これらの血液毒性に対する適切なモニタリングと管理が今後の課題となる。扁平上皮癌におけるnab-PCの優越的な効果の根底にあるメカニズム、特にSPARC発現と治療効果の関連性については、さらなる研究が必要である。地域差によるOSの改善傾向 (北米) も認められたが、これはベースライン特性や二次治療の内容の違いに起因する可能性があり、これらの要因を考慮した今後の研究が望まれる。
方法
本研究は、NCT00702526として登録された、オーストラリア、カナダ、日本、ロシア、ウクライナ、米国を含む多施設共同、無作為化、非盲検、第III相試験として実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された切除不能なStage IIIBまたはIVのNSCLC患者で、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0または1、予想生存期間が12週以上、転移性疾患に対する未治療患者であった。神経障害Grade >1の患者や、治験薬に対する既往のアレルギーまたは過敏症を持つ患者は除外された。
合計1,052名の患者が1:1の比率で2つの治療群に無作為に割り付けられた。nab-PC群 (n=521) の患者は、nab-paclitaxel 100mg/m²を第1、8、15日にweeklyで30分かけて静脈内投与し、カルボプラチンAUC6を第1日に3週ごとに投与された。sb-PC群 (n=531) の患者は、sb-paclitaxel 200mg/m²を第1日に3時間かけて静脈内投与し、カルボプラチンAUC6を第1日に3週ごとに投与された。治療は最大6サイクルまで推奨されたが、病勢進行または許容できない毒性がない限り、治験責任医師の判断で継続可能であった。
主要評価項目は、独立した放射線科医による盲検下での集中評価に基づくORR (RECIST基準による完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR]) であった。副次評価項目には、PFS、OS、TRAEsの発生率、およびQOL (FACT-Taxane (Functional Assessment of Cancer Therapy-Taxane) スケール) が含まれた。PFSおよびOSの解析は、Kaplan-Meier法を用いて実施された。また、事前に設定されたサブグループ解析として、組織型 (扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)、年齢 (<70歳 vs ≥70歳)、および地域 (北米 vs その他) 別に有効性が評価された。統計解析では、ORRの優越性を検証するために、1,050名の患者数で80%の検出力を持つように設計された。PFSおよびOSについては、ハザード比 (HR) 0.80の優越性を検出するために85%の検出力が設定された。また、欧州医薬品庁 (EMA) の方法論的考慮事項に基づき、15%のマージン (HR nab-PC/sb-PC 95%CI上限 <1.176) で非劣性解析も実施された。治療群間のTRAEsおよびFACT-Taxaneスケールの差は、Fisherの正確検定および/またはCochran-Mantel-Haenszel検定を用いて評価された。