- 著者: Shiran I, Heller E, Jessel S, Kamer I, Daniel-Meshulam I, Navon R, Urban D, Onn A, Bar J
- Corresponding author: Jair Bar, MD, PhD (Institute of Oncology, Sheba Medical Center, Tel Hashomer, Ramat Gan, Israel)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-02-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 28237243
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療戦略は、その組織型(扁平上皮癌か腺癌か)によって大きく異なる。特に、ペメトレキセドは非扁平上皮型NSCLCにおいてシスプラチン+ゲムシタビンと比較して優位性を示すことが、第III相国際無作為化比較試験で確立された (Scagliotti et al. JClinOncol 2008)。しかし、これらの主要な臨床試験における組織型診断は、全て形態学的確認のみに基づいており、免疫組織化学 (IHC) を用いた診断は含まれていなかった。この点は、診断方法と治療効果の関連性に関する知識の不足を生み出していた。
近年、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer)/ATS (American Thoracic Society)/ERS (European Respiratory Society) による肺腺癌の国際分類が提唱され、小生検標本や細胞診検体のような限られた組織量の場合には、IHCを組み合わせた診断が推奨されるようになった (Travis et al. JThoracOncol 2011)。この分類では、形態学的に腺癌と断定できないが、TTF1 (thyroid transcription factor 1) 陽性、CK7陽性、p40陰性といったIHC所見から腺癌が強く示唆される場合、「NSCLC favor adenocarcinoma (NFA)」として分類される実態が普及している。NFAの診断は、限られた検体から最大限の情報を引き出すために重要であるが、その予後が形態学的腺癌 (ADC) と同等であるか否かは未解明のまま残されていた。
また、EGFR変異陽性肺腺癌に対するゲフィチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) が化学療法を凌駕する治療成績を示すことが報告されて以来 (Mok et al. NEnglJMed 2009)、組織型診断の精度は治療選択に直結するため、その重要性が一層高まっている。しかし、小生検や細胞診といった限られた検体では、ヘマトキシリン・エオジン染色のみで腺癌と確定診断することが困難なケースが少なくない。このような状況下で、IHCによって腺癌が示唆されるNFAと、形態学的に腺癌と診断された症例 (ADC) の予後が同等であるか否かは、これまで十分に評価されてこなかった。過去の主要な臨床試験ではNFAが明示的に含まれておらず、NFAの独立した予後評価が不足しているという臨床的課題が存在した。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、白金製剤とペメトレキセドによる一次化学療法を受けた進行非扁平上皮NSCLC患者において、形態学的腺癌 (ADC) と免疫組織化学 (IHC) に基づくNSCLC-favor adenocarcinoma (NFA) の全生存期間 (OS) を比較することである。さらに、診断手法(ADC vs NFA)が独立した予後因子となるかを多変量解析を用いて評価することを目的とする。本研究は、NFAという診断亜群がADCと比較して異なる予後を持つ可能性を検証し、診断方法が治療選択や臨床試験の層別化因子として考慮されるべきか否かについて、新たなエビデンスを提供することを目指した。主要評価項目は全生存期間とし、診断方法が患者の予後に与える影響を定量的に評価する。
結果
患者背景の均一性と病期分布の差異: ADC群 (n=111) とNFA群 (n=49) の患者背景を比較した結果、年齢 (平均 64.6 ± 9.8歳 vs 64.6 ± 11.5歳)、性別比 (男性 56% vs 65%)、喫煙状況、および治療レジメンの配分 (シスプラチン+ペメトレキセド vs カルボプラチン+ペメトレキセドの比率) は概ね均等であった (Table 1)。しかし、NFA群ではde novo stage IV診断の割合が有意に高く (93.9% vs 78.4%、P=0.016)、ADC群では過去にstage I-IIIとして治療を受けた既往例の割合が有意に高かった (21.6% vs 6.1%、P=0.016)。診断のための生検手技については、NFAでは経皮的針生検、胸水細胞診、気管支擦過細胞診など形態学的確認が困難な小検体が多く、ADCでは外科切除または十分量の組織生検により形態学的腺癌確認が可能な例が多い傾向が認められた。EGFR変異スクリーニング実施率は両群間で有意差はなく、変異陽性例を除外した感度解析においても診断手法の独立した予後規定効果は有意に維持された。
全生存期間 (主要結果): 全生存期間は、ADC群 (n=111) の中央値が413日 (IQR 245-651日) であったのに対し、NFA群 (n=49) では303日 (IQR 146-527日) であり、ADC群が有意に良好なOSを示した (log-rank P=0.033) (Figure 1)。両群間の絶対的な生存期間の差は約110日であり、Kaplan-Meier曲線では治療開始後早期から両群の生存曲線の乖離が観察された。Stage IVのde novo症例に限定したサブグループ解析においても同様の生存差が観察され、ADCの生存優位性は維持された。シスプラチン+ペメトレキセドおよびカルボプラチン+ペメトレキセドの投与レジメン別に層別解析を行った場合も、ADCの生存優位性が維持されており、ペメトレキセドベース化学療法においてレジメン選択によらず診断手法が予後を規定することが示された (Figure 1)。ADC群内でのプラチナ骨格別サブグループ解析(シスプラチン+ペメトレキセド対カルボプラチン+ペメトレキセド)においても、両レジメン間でmOSに有意差は認められず、ADCの生存優位性はプラチナ骨格の種類によらず一貫していた。
多変量Cox回帰解析 (独立予後因子): 性別、年齢、喫煙歴、病期、民族、EGFR変異、血液検査値、TTF1発現、および診断手法を共変量として投入したCox比例ハザード多変量解析の結果、NFA診断 (vs ADC): HR 1.76 (95% CI 1.18-2.63, P=0.005)、男性性別: HR 1.99 (95% CI 1.30-3.04, P=0.002)、およびTTF1陰性: HR 3.03 (95% CI 1.59-5.77, P=0.001) の3因子が独立した不良予後因子として同定された (Table 2)。高白血球数、好中球数、NLR、低アルブミンは単変量解析でOS短縮と関連したが、多変量解析では独立性を維持しなかった。
TTF1陽性率と診断手法の独立性: TTF1染色はADC群で陽性率が高く (86%)、NFA群ではTTF1陰性例が相当数含まれていた。TTF1発現状況を追加補正した多変量モデルにおいても、診断手法は独立した予後因子として維持され (NFA: HR 2.14, 95% CI 1.36-3.36, P=0.001)、TTF1陰性とNFA診断はそれぞれ独立した予後規定因子であることが確認された (Figure 2)。この解析は、NFA診断がTTF1陰性腫瘍を含む組織学的多様性を反映しているにもかかわらず、TTF1発現状況を調整した後もなお診断手法そのものが予後に独立した影響を持つことを示しており、診断群間の生存差がTTF1陰性腫瘍の偏りのみでは説明されないことを明らかにしている。
炎症・栄養マーカーの単変量解析結果: NLR高値、血清アルブミン低値、白血球数高値、好中球数高値はそれぞれ単変量解析でOS短縮と有意に関連したが (例: 高NLR: HR 1.10, 95% CI 1.04-1.15, P<0.001; 低アルブミン: HR 0.56, 95% CI 0.35-0.86, P=0.009)、多変量解析では診断手法、性別、TTF1発現に比べ独立性が低く有意水準を維持しなかった。EGFR変異状況は解析に含まれたが、コホート内での変異例数が限られていたため、その影響は限定的であった。ADCとNFA群間で炎症・栄養マーカーの分布に有意な偏りはなく (Table 1)、炎症状態が診断分類の予後効果を交絡しない独立性が確認された。EGFR変異陽性例をコホートから除外した感度解析においても診断手法の予後効果は維持されており、EGFR変異が両群の生存差に与える交絡は限定的であった。炎症・栄養マーカーが多変量解析で独立性を失った所見は、これらの指標が病期や年齢などの交絡因子を介している可能性を示唆するものであり、全身炎症状態よりも診断手法、性別、TTF1発現が腫瘍生物学的予後の主要規定因子であることを支持する。
早期診断既往歴の差異: ADC群では24例 (21.6%) が進行期診断以前に局所病変として診断されていたのに対し、NFA群では3例 (6%) のみであった (P=0.016)。この差異は、ADC患者がNFA患者と比較して、より緩徐な疾患経過を持つ可能性を示唆している。これは、NFAがより進行した疾患として診断される傾向にあること、あるいはより攻撃的な生物学的特性を持つ可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、白金製剤とペメトレキセドで治療された進行NSCLC患者において、形態学的腺癌 (ADC) と診断された患者が、免疫組織化学 (IHC) に基づくNSCLC-favor adenocarcinoma (NFA) と診断された患者よりも有意に良好な全生存期間 (OS) を示すことを初めて実証した後向き単施設研究である。
先行研究との違い: JMDB試験 (Scagliotti et al. JClinOncol 2008)をはじめとする過去の主要な臨床試験では、腺癌の診断が全て形態学的確認に基づいており、IHCのみによるNFAという診断亜群は明示的に解析されてこなかった点において、本研究はこれまでの報告と異なる。本研究は、診断方法の差異が予後に影響を与える可能性を具体的に示した点で、従来の知見に新たな視点を提供する。
新規性: 本研究の新規な知見は、形態学的に類似した集団であるADCとNFAの間に約110日の生存差が存在すること、またTTF1発現状況を補正してもなおNFA診断自体が独立した不良予後因子 (HR 2.14, 95% CI 1.36-3.36, P=0.001) であることを示した点にある。この差の機序として、NFAに含まれる腫瘍の分子生物学的多様性、より低分化な傾向、あるいはTTF1陰性腫瘍に見られる特定の分子サブタイプの関与が考えられる。本研究で初めて、診断方法自体が独立した予後因子であることを明確に示したことは、臨床的意義が大きい。
臨床応用: 臨床応用の観点からは、NFAをADCと同一カテゴリとして扱った臨床試験では、診断手法による交絡が生じる可能性がある。著者は、ペメトレキセドベース化学療法の臨床試験において、ADCとNFAを層別化因子として組み込む必要性を提言しており、この診断分類の前向き試験への反映が治療成績評価の精度向上に寄与すると考えられる。本知見は、診断方法が患者の予後予測に重要な臨床的意義を持つことを示唆する。特に、限られた組織検体から診断を行う場合、その診断が患者の予後に与える影響を考慮する必要がある。
残された課題: 本研究は単施設の後向き解析であり、対象患者数 (n=160) が限られていること、またイスラエル単施設の人種・民族構成が結果に影響する可能性があることが残された課題である。現代では腺癌のドライバー変異 (EGFR, ALKなど) 検索が標準となり、NFAであってもTKIの適応となりうることから、形態学的分類を超えた包括的な分子プロファイリングの重要性が増している。今後は、前向き多施設研究によりADCとNFAの分子プロファイルを比較し、NFAの不良予後の機序を解明することが課題である。また、免疫チェックポイント阻害薬が標準治療となった現代においても、NFAという診断亜群が免疫療法奏効に与える影響を評価するため、NFAを独立した層別化因子として将来の臨床試験に組み込むことが今後の重要な研究課題と考えられる。
方法
本研究は、イスラエルのSheba Medical Centerにおいて、2007年9月から2014年1月までに白金製剤とペメトレキセドのダブレット療法(シスプラチン+ペメトレキセドまたはカルボプラチン+ペメトレキセド)を一次化学療法として投与された進行期(stage IIIB/IV)非扁平上皮NSCLC患者160例を対象とした後向き単施設コホート解析である。本研究はレトロスペクティブコホート研究として実施され、倫理委員会の承認を得て、患者の同意は免除された。
患者は病理診断方法に基づき2つの群に分類された。ADC群 (n=111) は、形態学的に腺癌と確認された症例であり、IHCの使用の有無は問わない。NFA群 (n=49) は、形態学的確認が困難であったが、IHC(TTF1陽性、CK7陽性、CK20陰性、p40陰性など)によって腺癌が示唆された症例である。NFA (NSCLC favor adenocarcinoma) は、形態学的に腺癌と断定できないが、IHC所見から腺癌が強く示唆される場合に用いられる診断分類である。
主要評価項目は全生存期間 (OS) とし、治療開始日から死亡日または最終確認日までの期間と定義した。解析に含めた説明変数には、性別、年齢、喫煙歴、病期、民族、EGFR変異の有無、白血球数、好中球数、リンパ球数、NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio)、血清アルブミン値、TTF1 IHC結果、および診断手法(ADC vs NFA)が含まれた。EGFR変異およびALK再配列のデータは、利用可能な患者について収集された。
統計解析には、Kaplan-Meier法を用いてOS曲線を推定し、log-rank検定で群間比較を行った。単変量解析でOSと有意な関連が認められた因子(P値 < 0.1)は、Cox比例ハザード多変量解析に投入され、独立した予後因子が同定された。全ての統計検定は両側検定であり、P値 < 0.05を有意水準とした。統計解析にはSPSSソフトウェアバージョン22 (IBM Corp, Armonk, NY) を使用した。本研究は、特定のNCT番号を持つ臨床試験ではないが、後向きコホート研究として実施された。