• 著者: Scagliotti GV, Parikh P, von Pawel J, Biesma B, Vansteenkiste J, Manegold C, Serwatowski P, Gatzemeier U, Digumarti R, Zukin M, Lee JS, Mellemgaard A, Park K, Patil S, Rolski J, Goksel T, de Marinis F, Simms L, Sugarman KP, Gandara D
  • Corresponding author: Giorgio Vittorio Scagliotti, MD (University of Torino, S. Luigi Hospital, Orbassano, Italy)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18506025

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次化学療法において、白金製剤と第三世代抗がん剤の併用療法は長らく標準治療として確立されてきた。これまでに、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビンといった様々な薬剤が白金製剤との併用パートナーとして評価されてきた。複数の大規模第III相臨床試験、例えばECOG 1594試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) やTAX 326試験 (Fossella et al. JClinOncol 2003) などでは、これらのレジメン間で全生存期間 (OS) に大きな差は認められず、主に毒性プロファイルの違いが薬剤選択の指針となっていた。特に、シスプラチンとゲムシタビンの併用療法は、その有効性と比較的良好な忍容性から、NSCLC一次治療の標準レジメンの一つとして広く採用されていた (Scagliotti et al. JClinOncol 2002)。

一方、ペメトレキセドは多標的葉酸代謝拮抗薬であり、チミジル酸合成酵素 (TS)、ジヒドロ葉酸還元酵素、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼといった複数の酵素を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。ペメトレキセドは2004年にNSCLCの二次治療 (Hanna et al. JClinOncol 2004) および悪性胸膜中皮腫の一次治療 (Vogelzang et al. JClinOncol 2003) で承認されていたが、NSCLCの一次治療における有効性は大規模な前向き試験では未検証であった。

先行する第II相試験では、シスプラチンまたはカルボプラチンとペメトレキセドの併用療法が、NSCLCの一次治療において他の白金製剤併用レジメンと同等の有効性を示すことが報告されていた (Manegold et al. Ann Oncol 2000, Shepherd et al. Cancer 2001)。また、前臨床研究では、TSの発現量が扁平上皮癌で高く、腺癌で低いことが示唆されており (Ceppi et al. Cancer 2006)、組織型によってペメトレキセドに対する感受性が異なる可能性が仮説として提唱されていた。しかし、この組織型による薬剤感受性の差異を大規模な臨床試験で前向きに検証した報告はこれまでになく、臨床的意義は未解明であった。この点は、個別化医療の観点から重要な知識ギャップとして残されていた。

近年、ベバシズマブをパクリタキセルとカルボプラチンに併用することでOSの有意な改善が示されたが (Sandler et al. NEnglJMed 2006)、治療関連死のリスク増加も伴った。また、シスプラチンとゲムシタビンにベバシズマブを併用する試験でも無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善が報告された (Manegold et al. J Clin Oncol 2007)。これらのレジメンは有効性を示す一方で、特定の安全性上の懸念から厳格な適格基準が設けられており、より良好な忍容性を持つ新たな標準治療の確立が求められていた。このような背景から、シスプラチンとペメトレキセドの併用療法が、既存の標準治療であるシスプラチンとゲムシタビンに対し、同等の有効性と良好な忍容性を示すかどうかの検証が重要な課題として残されていた。特に、組織型による効果の違いを前向きに評価することは、個別化医療の観点から喫緊の課題であり、この領域には依然としてエビデンスが不足していた。

目的

本第III相非劣性試験 (JMDB試験、NCT00097184) の主要目的は、化学療法未治療の進行NSCLC (Stage IIIBまたはIV) 患者を対象に、シスプラチン+ペメトレキセド (CP) 併用療法が、標準治療であるシスプラチン+ゲムシタビン (CG) 併用療法に対して、全生存期間 (OS) において非劣性であることを実証することであった。非劣性マージンはハザード比 (HR) ≤ 1.176と事前に設定された。副次目的として、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効割合 (ORR)、奏効期間、および安全性を比較評価した。さらに、事前規定の探索的解析として、組織型 (腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、その他) 別に両レジメンの治療効果に差があるかどうかを評価し、特にペメトレキセドの組織型特異的な有効性の仮説を検証することを目的とした。本研究は、NSCLCの一次治療における薬剤選択に新たなエビデンスを提供し、特に組織型を考慮した個別化治療の可能性を探ることを意図した。

結果

全体集団における全生存期間 (OS) と無増悪生存期間 (PFS): 全1,725例のITT (intent-to-treat) 解析において、CP群のOS中央値は10.3ヶ月、CG群のOS中央値も10.3ヶ月であった。ハザード比 (HR) は0.94 (95% CI 0.84-1.05) であり、この95%信頼区間上限値1.05は、事前に設定された非劣性マージン1.176を明確に下回っており、CP群のCG群に対する非劣性が統計学的に確認された (非劣性の一側P<0.001)。1年OS率はCP群43.5% vs CG群41.9%、2年OS率はCP群18.9% vs CG群14.0%であり、わずかにCP群が高い傾向を示した (Figure 2)。PFS中央値はCP群4.8ヶ月 vs CG群5.1ヶ月であり (HR 1.04; 95% CI 0.94-1.15)、PFSにおいてもCP群のCG群に対する非劣性が示された (Figure 2)。客観的奏効割合 (ORR) はCP群30.6% vs CG群28.2%と両群で同程度であり、奏効期間はCP群4.5ヶ月 vs CG群5.1ヶ月であったが、いずれも統計学的な有意差は認められなかった。

組織型別OSにおける治療効果の差異: 治療と組織型間の交互作用検定でP=0.0011と統計学的に有意な差が認められ、組織型によって両レジメンの治療効果が異なることが示された (Figure 3)。腺癌患者 (n=847) では、CP群のOS中央値は12.6ヶ月 vs CG群10.9ヶ月であり、CP群が統計学的に有意に優れていた (HR 0.84; 95% CI 0.71-0.99; P=.03)。大細胞癌患者 (n=153) でも同様に、CP群のOS中央値は10.4ヶ月 vs CG群6.7ヶ月であり、CP群が有意に優れていた (HR 0.67; 95% CI 0.48-0.96; P=.03)。これらを合わせた非扁平上皮癌患者合計 (腺癌+大細胞癌、n=1,000) では、CP群のOS中央値は11.8ヶ月 vs CG群10.4ヶ月であり、CP群が有意に優れていた (HR 0.81; 95% CI 0.70-0.94; P=.005)。一方、扁平上皮癌患者 (n=473) では、CP群のOS中央値は9.4ヶ月 vs CG群10.8ヶ月であり、CG群がわずかに優れる傾向を示したが、統計学的に境界域であった (HR 1.23; 95% CI 1.00-1.51; P=.05)。

安全性プロファイルと支持療法の必要性: 主要なグレード3または4の薬物関連血液毒性は、CP群で有意に低率であった (Table 4)。具体的には、好中球減少症はCP群15.1% vs CG群26.7% (P<.001)、貧血はCP群5.6% vs CG群9.9% (P=.001)、血小板減少症はCP群4.1% vs CG群12.7% (P<.001) であった。発熱性好中球減少症もCP群で有意に低率であった (CP群1.3% vs CG群3.7%; P=.002)。全グレードの脱毛症もCP群で有意に低率であった (CP群11.9% vs CG群21.4%; P<.001)。一方、グレード3または4の悪心はCP群でわずかに高率であった (CP群7.2% vs CG群3.9%; P=.004)。輸血の必要性もCP群で大幅に低く (CP群16.4% vs CG群28.9%; P<.001)、赤血球輸血 (CP群16.1% vs CG群27.3%; P<.001) および血小板輸血 (CP群1.8% vs CG群4.5%; P=.002) とも同様であった。エリスロポイエチン製剤 (CP群10.4% vs CG群18.1%; P<.001) およびG-CSF使用 (CP群3.1% vs CG群6.1%; P=.004) もCP群で有意に少なかった。

治療実績と後続治療: 治療サイクル数中央値は両群ともに5サイクルであった (Table 2)。Day 1の用量減量頻度はCP群 (シスプラチン64件、ペメトレキセド54件) がCG群 (シスプラチン154件、ゲムシタビン362件) よりも大幅に少なかった。これは主に好中球減少症に起因するものであった。Day 8のゲムシタビン省略は339件 (9.3%) であった。投与された用量強度は、シスプラチンでCP群95.0% vs CG群93.5%、ペメトレキセドで94.8% vs ゲムシタビンで85.8%と、CP群でより高い用量強度が維持された。サイクル遅延もCP群8.6% vs CG群11.3%とCP群で少なかった。後続治療の受療率はCG群56.1% vs CP群52.6%であった。CG群では後続治療でのペメトレキセド使用率が13.4%とCP群の3.5%より有意に高く (P<.001)、CP群ではゲムシタビン使用が16.7%とCG群の8.6%より有意に高かった (P<.001)。ドセタキセルおよびEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の使用率は両群でほぼ同等であった。

喫煙状況とOS: 喫煙状況を調整したCox解析では、現喫煙者/元喫煙者は非喫煙者と比較して有意に高い死亡リスクを有した (HR 1.74; P<.001)。非喫煙者のOS中央値はCP群15.9ヶ月、CG群15.3ヶ月であり、喫煙者のOS中央値 (両群とも約10ヶ月) を大きく上回った (Table 3)。

考察/結論

先行研究との違い: 本JMDB試験は、進行NSCLCの一次治療を対象とした史上最大規模のランダム化試験 (n=1,725) であり、シスプラチン+ペメトレキセド (CP) がシスプラチン+ゲムシタビン (CG) と全体OSで非劣性であることを確立した (mOS 10.3ヶ月 vs 10.3ヶ月、HR 0.94; 95% CI 0.84-1.05)。これは、従来の第III相試験であるECOG 1594 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) やTAX 326 (Fossella et al. JClinOncol 2003) などで報告されたOS中央値 (7.4〜10.1ヶ月) と比較して、両群ともにわずかに長いOS中央値を示している。このOSの延長は、本研究におけるStage IIIB患者の組み込み比率の高さ、ECOG PS 2患者の除外、および腺癌患者の比率増加といった患者背景の違いが影響している可能性が考えられる。本研究は、これらの先行研究とは異なり、組織型別の治療効果差を大規模かつ前向きに実証した点で画期的な知見を提供した。

新規性: 本研究の最も重要な科学的知見は、NSCLCの組織型によって治療効果に有意な差があることを初めて大規模前向き試験で実証した点である。特に、腺癌 (HR 0.84; 95% CI 0.71-0.99; P=.03) および大細胞癌 (HR 0.67; 95% CI 0.48-0.96; P=.03) 患者においてCP群がCG群よりも有意に優れたOSを示した一方で、扁平上皮癌患者ではCG群が優れる傾向が認められた (HR 1.23; 95% CI 1.00-1.51; P=.05)。この結果は、ペメトレキセドの標的であるチミジル酸合成酵素 (TS) の発現量が扁平上皮癌で高く、腺癌で低いという前臨床データ (Ceppi et al. Cancer 2006) と整合しており、TS発現量とペメトレキセド感受性の関連性に関するメカニズム仮説を大規模臨床データで支持する新規なエビデンスとなった。この組織型による治療効果の逆転現象 (histology-drug interaction) は、NSCLCの治療戦略に新たな視点をもたらすものであり、本研究で初めて明確に示された。

臨床応用への影響: 本研究の結果は、NSCLC治療における「組織型を考慮した薬剤選択」という概念を臨床現場に導入した歴史的意義を持つ。JMDB試験以降、ペメトレキセドは非扁平上皮癌 (主に腺癌) の一次治療および維持療法にのみ推奨され、扁平上皮癌への使用は避けるべきであるという国際ガイドラインの変更につながった。現在でも、ペメトレキセドはdriver遺伝子変異陰性の非扁平上皮NSCLCの一次化学療法の骨格として、またゲムシタビンは扁平上皮癌の選択肢として位置付けられており、本試験の知見は15年以上が経過した現在も臨床実践の基盤となっている。さらに、毒性プロファイルにおいても、CP群はCG群と比較して、グレード3/4の骨髄抑制 (好中球減少症15% vs 27%、貧血6% vs 10%、血小板減少症4% vs 13%) や発熱性好中球減少症 (1% vs 4%)、脱毛症 (12% vs 21%) の発生率が有意に低く、輸血や支持療法 (エリスロポイエチン製剤、G-CSF) の必要性も大幅に少なかった。これは、患者のQOL (生活の質) の観点からも、非扁平上皮癌に対するペメトレキセドの優位性を裏付けるものであり、臨床的有用性が高いことを示唆する。

残された課題と今後の方向性: 大細胞癌におけるCP群の優位性 (HR 0.67) は注目すべき知見であるが、患者数が153例と比較的少数であるため、これは探索的知見として解釈されるべきである。今後の検討課題として、TS発現量がNSCLC治療選択のバイオマーカーとなりうるかについて、さらなる前向き検証が提唱された。しかし、その後の研究では、TS発現量単独では十分な予測バイオマーカーとならないとする知見も蓄積されている。本試験が実施された時点 (2004〜2005年) は、EGFR変異やALK再構成などの分子標的の日常的な検査が普及する前であった。したがって、現在の分子標的治療が確立された時代における本レジメンの位置付けは、「driver遺伝子変異陰性の非扁平上皮NSCLC」に対する標準一次化学療法の骨格として明確化されている。今後の研究では、分子標的薬との併用や、免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせなど、新たな治療戦略におけるペメトレキセドの役割をさらに検討する必要がある。本研究は、組織型に基づく治療選択という重要な概念を確立したが、さらなる個別化医療の進展に向けて、より詳細なバイオマーカーの探索と検証が残された課題である。

方法

本研究は、国際多施設共同前向きランダム化第III相非劣性試験 (試験登録番号: NCT00097184) として実施された。試験期間は2004年7月から2005年12月までであり、合計1,725例の患者が無作為に割り付けられた。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB (根治治療不能) またはIVのNSCLC患者で、化学療法未施行、ECOG Performance Status (PS) 0〜1、少なくとも1つの測定可能病変 (RECIST基準) を有し、年齢18歳以上、十分な骨髄・臓器機能 (Cockcroft-Gault式に基づくクレアチニンクリアランス ≥ 45 mL/min) を満たす患者が対象とされた。主な除外基準は、NCI Common Toxicity Criteria (CTC) version 2.0でグレード1以上の末梢神経障害、進行性の脳転移、コントロール不能な第三腔液貯留であった。また、アスピリンやその他の非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) の服用を中断できない患者、葉酸、ビタミンB12、またはコルチコステロイドを服用できない患者も除外された。全ての患者は、ヘルシンキ宣言およびGCPガイドラインに従って、書面によるインフォームドコンセントに署名した。

治療レジメン: 患者は以下の2群のいずれかに無作為に割り付けられた。

  1. CG群 (n=863): シスプラチン 75 mg/m² (Day 1) + ゲムシタビン 1,250 mg/m² (Day 1, 8)。3週毎に最大6サイクル投与。
  2. CP群 (n=862): シスプラチン 75 mg/m² (Day 1) + ペメトレキセド 500 mg/m² (Day 1)。3週毎に最大6サイクル投与。 CP群の患者には、ペメトレキセド投与に伴う毒性軽減のため、葉酸、ビタミンB12、およびデキサメタゾンによる前処置が必須とされた。両群の患者は、Day 1の治療前日、当日、翌日にデキサメタゾン4 mgを1日2回経口投与された。葉酸 (350〜1,000 µg) は毎日経口投与され、ビタミンB12 (1,000 µg) は9週毎に注射で投与された。これらは初回投与の1〜2週間前から開始され、最終投与後3週間まで継続された。

無作為化と層別化: Pocock-Simonの最小化法を用いて無作為化が行われ、病期 (IIIB vs IV)、ECOG PS (0 vs 1)、脳転移既往 (あり vs なし)、性別 (男性 vs 女性)、病理診断様式 (組織学的 vs 細胞学的)、および実施施設で層別化された。

評価項目: 主要評価項目はOSであり、非劣性マージンはハザード比 (HR) ≤ 1.176 (シスプラチン/ゲムシタビンと比較してシスプラチン/ペメトレキセドの死亡リスクが15%以内増加) と設定された。1,190件以上の死亡イベントが発生した場合に80%の検出力が得られるよう設計された。副次評価項目は、PFS、time to progressive disease、time to treatment failure、客観的奏効割合 (ORR)、奏効期間、および安全性であった。安全性評価はNCI CTC version 2.0に基づき、少なくとも1回投与を受けた全患者を対象に実施された。事前規定の探索的解析として、組織型 (腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、その他) 別のOSが評価された。

統計解析: OSの比較には、性別、診断根拠 (組織学的 vs 細胞学的)、病期、PSで調整されたCox比例ハザードモデルが用いられた。非劣性検定は片側α=0.025水準で、優越性検定は両側α=0.05水準で実施された。Kaplan-Meier法を用いて時間依存性イベントのメディアンが推定された。治療と組織型間の交互作用はCox比例ハザードモデルを用いて検定された (p=0.0011)。ORRの比較には正規近似検定が用いられ、毒性、入院、支持療法の発生率はFisherの正確検定および分散分析が用いられた。多重比較に対するP値の調整は行われなかった。