• 著者: Felip E, Ardizzoni A, Ciuleanu T, Cobo M, Laktionov K, Szczylik C, Califano R, Carcereny E, Griffiths R, Paz-Ares L, Duchnowska R, Alonso Garcia M, Isla D, Jassem J, Appel W, Milanowski J, Van Meerbeeck JP, Wolf J, Li A, Acevedo A, Popat S
  • Corresponding author: Enriqueta Felip, MD (Vall d’Hebron University Hospital and Vall d’Hebron Institute of Oncology, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-03
  • Article種別: Original Article (Phase II single-arm trial)
  • PMID: 32028209

背景

NSCLCは全肺癌の80%以上を占め、そのうち25-30%が扁平上皮癌に分類される。免疫チェックポイント阻害薬以前、既治療扁平上皮NSCLCの治療選択肢は限られており、OS中央値は4.8-6.4ヶ月に過ぎなかった (Scartozzi 2010; Penrod 2014)。ニボルマブ (抗PD-1 (programmed death-1) 抗体) はCheckMate 017第III相試験において、二次治療でドセタキセルと比較してOS中央値を約3ヶ月改善し (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、PD-L1発現に関わらず有効性を示したため2015年にEU諸国での承認を得た。さらにCheckMate 063第II相試験では二次治療以降における臨床的意義ある活性と管理可能な安全性が確認された (Rizvi et al. LancetOncol 2015)。しかし、これらの検証的試験はECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-1の患者を対象としており、PS 2患者 (全NSCLC患者の20-30%を占める) および高齢者 (65歳以上) が系統的に除外されていた。実臨床ではPS 2・高齢者が多数を占めるにもかかわらず、これらの集団への免疫療法の有効性・安全性データに手薄な領域 (gap in knowledge) が存在した。PS低下・高齢・コモービディティが重複するこれらの患者が試験から除外され続けてきた背景として、喫煙歴に起因する多様なコモービディティ (COPD、心疾患等)、臨床試験適格基準の厳格さ、および毒性リスクへの懸念があった (Gridelli 2004)。具体的には、PS 2患者・高齢者におけるニボルマブの奏効率・OS・免疫関連毒性発現率の前向きデータが系統的に不足しており、特にGrade 3以上の肺臓炎・大腸炎等の重篤な免疫毒性がこれらの集団でどの程度管理可能かが明らかでなかった。この実臨床上の重大なエビデンスギャップを埋め、PS 2・高齢者NSCLCにおける免疫療法の安全な適用を可能にすることが本試験の急務だった。

目的

既治療進行扁平上皮NSCLCにおけるニボルマブの安全性と有効性を、ECOG PS 2患者・70歳以上・75歳以上の高齢患者を意図的に組み込んだ実臨床に近い患者集団で評価すること。特に、これまでの試験から除外されていたPS 2・高齢者という不良予後集団での治療耐容性と生存アウトカムを前向きに確認すること。

結果

全体的有効性:OS中央値10.0ヶ月、1年生存率42.7%:全治療例 (n=811) のOS中央値は10.0ヶ月 (95% CI 9.2-11.2)、1年OS率42.7%、18ヶ月OS率29.1%だった (Fig. 2A)。8/9週に腫瘍奏効評価が可能だった472例での奏効率は11.0% (95% CI 8.3-14.2) であり、このうちCR (complete response) 1例 (0.1%)・PR (partial response) 51例 (7.6%) だった (Table 8)。その後の全身療法を受けた患者は全体の16.8%にとどまり、CheckMate 017 (36%) やCheckMate 063 (24%) と比べて低かった。これは本試験に多くの多ライン既治療患者が含まれること、またPS低下・高齢患者は毒性リスクへの懸念から後治療を受けにくい点が反映されている。データカットオフ時点で74例 (9.1%) が治療継続中だった。患者のベースライン特性 (Table 1) では年齢中央値66歳 (range 31-86)、男性79%、喫煙歴94%、病期IV 84%であり、475例 (58.6%) が2ライン以上の既治療歴を持っていた。

ECOG PS 2サブグループ:OS中央値5.2ヶ月と全体より不良:PS 2患者 (n=103、全体の12.7%) のOS中央値は5.2ヶ月 (95% CI 3.0-7.6) で、全体 (OS中央値10.0ヶ月, 95% CI 9.2-11.2) と比較して著明に不良だった (PS 2 vs 全体: 5.2 vs 10.0ヶ月)。1年OS率26.7% vs 42.7%、18ヶ月OS率14.5% vs 29.1%と全time-pointで差異を認めた (Fig. 2B)。8/9週評価可能な39例での奏効率は2.6% (95% CI 0.1-13.5) と低かった (Table 8)。治療曝露量もPS 0-1患者と比較して著明に少なく、投与回数中央値は4.0回 (全体は10.0回)、投与期間中央値は1.4ヶ月 (95% CI 1.2-2.5、全体は4.2ヶ月) であり、データカットオフ時点での治療継続率もPS 2で3.9%と全体 (9.1%) を下回った (Table 2)。ベースラインでの前治療への最良効果がCR/PRだった割合はPS 2で16.5%と全体 (24.4%) より低く、PD (progressive disease) が35.9%と多かったことから、PS 2集団では疾患制御が既により困難な状況であったことが示唆される。一方、化学療法でのPS 2患者における歴史的OS中央値 (1.8-3.6ヶ月) および1年生存率 (<20%)、また高いGrade 3-5 TRAE (治療関連AE; treatment-related adverse event) 発現率 (44%) と比較すると、ニボルマブはPS 2においても一定の活性と優れた耐容性を示したといえる。

高齢者サブグループ:全体と同等の有効性を確認:70歳以上 (n=278) のOS中央値は10.0ヶ月 (95% CI 8.3-11.4)、1年OS率41.4%、18ヶ月OS率31.0%と全体とほぼ同等だった (Fig. 2C)。さらに75歳以上 (n=125) ではOS中央値11.2ヶ月 (95% CI 7.9-14.2)、1年OS率46.8%、18ヶ月OS率33.4%と全体を上回る傾向が見られた (Fig. 2D)。奏効率も70歳以上で12.6% (95% CI 7.7-19.0、19/151例)、75歳以上で13.6% (95% CI 6.4-24.3、9/66例) と全体 (11.0%) と同程度であり、年齢自体がニボルマブの有効性を低下させないことが示唆された (Table 8)。治療曝露期間は70歳以上で投与期間中央値4.2ヶ月・75歳以上で4.6ヶ月と全体 (4.2ヶ月) と同等であり、>4回投与を受けた割合も70歳以上66.2%・75歳以上65.6%と全体 (69.9%) と差がなかった (Table 2)。

安全性 (主要エンドポイント):PS 2でもGrade 3-4 select AEは全体と同程度:全治療例でのGrade 3-4治療関連select AEとして最頻だったのは下痢 (1%)、ALT (alanine aminotransferase; アラニンアミノトランスフェラーゼ) 上昇 (1%)、肺臓炎 (pneumonitis; 0.7%)、大腸炎 (colitis; 0.6%)、AST (aspartate aminotransferase; アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) 上昇 (0.5%) であった (Table 3)。PS 2患者ではGrade 3-4 select AEが肝毒性 (肝Grade 3-4: 1.9%) と腎毒性 (1.0%) のみで、皮膚・内分泌・消化管・肺の各系統でのGrade 3-4は認められなかった。肺臓炎はPS 2患者でAny grade 1.9% (全体4.7%)、Grade 3-4は0% (全体0.7%) と少なかった。Grade 3-4 TRAE発現率はPS 2で6.8% vs 全体13.9%と低く、全TRAE頻度もPS 2で47.6% vs 全体57.3%だった。70歳以上では全TRAE 62.9% (Grade 3-4: 15.8%)、75歳以上では68.8% (Grade 3-4: 18.4%) と高齢者で高い傾向を認めた (Table 7)。最頻のTRAEは疲労 (12.2%)・無力症 (asthenia; 10.6%)・下痢 (10.4%)。高齢者ではTRAE発現率が数値上高かったが、多くはGrade 1-2で重篤なシグナルは認めなかった。治療中止に至るTRAEは全体の8.3%、PS 2で7.8%、70歳以上で9.4%、75歳以上で12.0%だった。treatment-related deathは1例のみで、PS 1の患者に発生した腫瘍炎症による気道閉塞が原因であった。

AE発現の時間的特性:治療関連select AEの発現までの中央時間は皮膚障害8.0週・内分泌障害12.1週・消化管障害11.7週・肺障害17.7週・肝障害14.1週であり、集団間で概ね同様だった (Table 5)。消化管障害は高齢者で頻度が高い傾向 (70歳以上Any grade 14.4%、75歳以上18.4% vs 全体10.4%) があったが、Grade 3-4への進展は少なかった。AE治療関連select AEの消失率は、Grade 3-4の消化管障害で100%、肺障害で85.7%と高く、医療的管理によって大部分が解消された (Table 5)。

考察/結論

CheckMate 171は、これまでのPhase III試験から系統的に除外されていたPS 2患者・高齢者 (70歳以上・75歳以上) を意図的に組み込んだ最大規模のニボルマブ試験として、実臨床条件に近いエビデンスを提供する新規な研究である。全体のOS中央値10.0ヶ月はCheckMate 017 (ニボルマブ群OS中央値9.2ヶ月) と概ね整合的であり、本試験の多ライン既治療集団においても同様の活性が確認された点はこれまでの研究と対照的に興味深い。高齢者 (70歳以上、75歳以上) でのOS中央値10.0-11.2ヶ月は全体と同等であり、年齢それ自体がニボルマブのベネフィットを減弱させないことを示す。これはCheckMate 153の高齢者サブグループ解析 (Spigel 2019) やイタリア拡大アクセスプログラムのデータ (Grossi 2018) と合致する一方、CheckMate 017では75歳以上でニボルマブがドセタキセルに対してHR非優位 (高齢者数が少なく解釈要注意) との報告もあり、既報との相違点も存在する。

本研究の新規な知見として、PS 2患者・高齢者ともに全体と類似した安全性プロファイルが観察され、新規の安全性シグナルが認められなかった点が挙げられる。PS 2患者のGrade 3-4 TRAE発現率 (6.8%) が全体 (13.9%) より低かったことは、これまで報告されていない知見ではないが、試験から除外されることが多かった集団で大規模に前向きに確認された点に新規性がある。PePS 2試験 (ペムブロリズマブ、PS 2 NSCLC; Middleton 2018) やその他の試験でも同様の傾向が報告されており、本研究はこれらを補完する重要な実臨床的エビデンスを提供する。

臨床応用の含意として、本研究のデータはPS 2・高齢者NSCLCへの免疫療法適用を支持する。化学療法でのPS 2患者のOS中央値 (1.8-3.6ヶ月) と比較したニボルマブでのOS中央値5.2ヶ月・1年OS率26.7%という結果は、治療選択に際して免疫療法の臨床的意義を示す。ただし、単腕試験のため直接比較はできず、臨床現場での意思決定では個別リスクベネフィット評価が必須である。ESMOガイドラインなどでは既治療扁平上皮NSCLCへのニボルマブ投与が推奨されており、本データはその根拠を補強する。

残された課題として以下が挙げられる。第一に、PS 2集団は均一ではなく、Passaro 2019らが指摘するようにPS低下の原因 (腫瘍負荷 vs コモービディティ) により免疫療法の効果が大きく異なる可能性があり、今後の検討が必要である。第二に、腫瘍評価が8/9週と52週の2時点のみで最良奏効を捉えられていない制限があり、実際の奏効率は本試験よりも高い可能性がある (奏効までの時間が2-3ヶ月であることから、8/9週の段階では多くの奏効例が未到達)。第三に、PD-L1発現が測定されず、PS 2・高齢者の中でより大きなベネフィットを得るバイオマーカー選択可能な部分集団が同定できていない。無作為化比較試験によるPS 2集団でのニボルマブの臨床的ベネフィット評価が今後の展望として求められる (CheckMate 817ではPS 2を含む特殊集団でのニボルマブ+イピリムマブ一次治療が探索された)。Future researchとして、バイオマーカー (PD-L1、腫瘍変異量) によるPS 2患者の層別化と、PS低下原因の分類に基づく患者選択戦略の確立が今後の課題である。

方法

デザイン:非盲検多施設Phase II単腕試験 (CheckMate 171; NCT02409368)。欧州医薬品庁 (EMA; European Medicines Agency) への市販後コミットメントの一環として実施。参加:欧州13ヶ国65施設、2015年4月から2016年7月まで登録。患者適格基準:組織学的または細胞学的に確認された扁平上皮NSCLC (一部非扁平上皮が混入)、病期IIIBまたはIV・根治的治療後再発/進行、プラチナ系ダブレット化学療法を含む1ライン以上の全身療法後に進行、ECOG PS 0-2。CNS転移は既治療または神経学的無症候性の未治療例も適格 (コルチコステロイド10 mg/日未満の安定用量であること)。除外基準:未治療の症候性CNS転移、癌性髄膜炎、既存の自己免疫疾患、既往の免疫療法歴、14日以内のコルチコステロイドまたは免疫抑制薬投与。介入:ニボルマブ3 mg/kg 2週ごと60分静脈内投与、病勢進行・許容できない毒性・同意撤回まで継続。RECIST v1.1での進行後も担当医が判断した場合は継続可。主要エンドポイント:CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0に基づくGrade 3-4の治療関連select AE (AE; adverse event、免疫学的原因の可能性があるもの) の発現率。副次エンドポイント:全Gradeのselect AE発現率・発現までの時間・消失までの時間、OS、腫瘍奏効率。腫瘍評価はRECIST v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき8/9週・52週に実施。OS・Time-to-event解析にKaplan-Meier法を使用し、中央値および95% CIはBrookmeyer-Crowley法で算出。OS率はKaplan-Meier推定値から算出し、95% CIはGreenwood式で計算。腫瘍奏効率はClopper-Pearson法による正確二項分布95% CIで評価。データカットオフ:2018年3月14日。最小追跡期間:約18ヶ月。解析ソフトウェア:SAS version 9.3以上。