- 著者: Theelen WSME, Peulen HMU, Lalezari F, van der Noort V, de Vries JF, Aerts JGJV, Dumoulin DW, Bahce I, Niemeijer ALN, de Langen AJ, Monkhorst K, Baas P
- Corresponding author: Willemijn S. M. E. Theelen, MD (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 31294749
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) によるPD-1/PD-L1経路遮断は転移性非小細胞肺がん (NSCLC) の治療パラダイムを大きく変革した。しかし、多くの患者が原発性耐性を示し、治療の恩恵を十分に受けられない現状がある。この原発性耐性の主要なメカニズムの一つとして、腫瘍抗原が免疫系に認識されにくい、いわゆる「コールド腫瘍」と呼ばれる腫瘍微小環境が挙げられる。このような腫瘍では、腫瘍内T細胞浸潤が乏しく、効果的な抗腫瘍免疫応答が誘導されにくいことが知られている。
立体的放射線治療 (SBRT) は、単一病変に高線量の放射線を集中して照射する技術であり、その免疫増強効果が注目されている。SBRTは、免疫原性細胞死 (ICD) を誘導し、カルレティキュリン、HMGB1、ATPなどのダメージ関連分子パターン (DAMP) を放出することで、樹状細胞による腫瘍抗原の取り込みと提示を促進し、腫瘍特異的T細胞のプライミングを強化すると考えられている。複数の前臨床試験では、放射線治療とICIの組み合わせが、照射野外の病変をも縮小させる「アブスコパル効果」を示し、単独療法よりも顕著な抗腫瘍効果を発揮することが報告されている Twyman et al. Nature 2015。特に、分割照射 (hypofractionated) が免疫増強効果において単回大線量照射よりも優れるとされ、本研究で採用されたSBRTの3×8 Gyスケジュールはこの観点から設計された。
過去の臨床データでは、Shaverdian et al. LancetOncol 2017によるKEYNOTE-001試験のサブ解析において、過去に放射線治療を受けた患者群でペムブロリズマブの無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が延長する可能性が示唆されており、SBRTとICIの組み合わせによる相乗効果への関心が高まっていた。しかし、この知見は後ろ向き解析に基づくものであり、前向きランダム化比較試験による検証が不足していた。また、PD-L1発現が低い、いわゆる「コールド腫瘍」に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は限定的であり、この集団に対する新たな治療戦略の開発が喫緊の課題として残されていた。PEMBRO-RT試験は、転移性NSCLCにおける放射線とICIの組み合わせ療法を、初めてランダム化比較試験として設計・実施したものであり、この領域におけるエビデンスのギャップを埋めることを目的としている。多くの患者が免疫療法に反応しないという臨床的課題に対し、SBRTがその耐性を克服し、治療効果を増強する可能性を検証することは、極めて重要な臨床的意義を持つ。
目的
本PEMBRO-RT第2相ランダム化臨床試験 (ClinicalTrials.gov identifier: NCT02492568) は、プラチナ製剤による化学療法後に進行した転移性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、ペムブロリズマブ単独療法と比較して、ペムブロリズマブの初回投与前に単一の腫瘍病変に対して定位放射線治療 (SBRT、8 Gy×3分割) を先行させることで、主要評価項目である12週時点での客観的奏効率 (ORR) が増強されるかを評価することを目的とした。具体的には、対照群のORRを20%と仮定した場合に、SBRT先行群でORRが50%に改善するかどうかを検証することを目指した。この ORR の差 30% を検出するために、両側P値が0.10未満で有意差を検出することを目標とした。副次評価項目として、安全性、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および12週時点での疾患コントロール率 (DCR) を評価した。さらに、探索的評価項目として、PD-L1発現レベルが治療効果に与える影響や、過去の放射線治療歴が有効性に与える影響についても検討した。本研究は、SBRTが免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強し、特に非照射病変における抗腫瘍免疫応答を改善する可能性を検証する、初のランダム化比較試験として位置づけられる。
結果
主要エンドポイント (ORR) の評価: 12週時点での客観的奏効率 (ORR) は、実験群 (SBRT+ペムブロリズマブ) で36% (13/36例、95%CI 21-54%)、対照群 (ペムブロリズマブ単独) で18% (7/40例、95%CI 7-33%) であった (P=0.07) (Table)。ORRは実験群で対照群の約2倍に増加したものの、事前に設定された主要エンドポイントの達成基準 (ORR 50%、または両群間のORR差30ポイント) には達しなかったため、主要エンドポイントは未達成と判断された。完全奏効 (CR) は実験群で3例、対照群で1例に認められた。部分奏効 (PR) は実験群で14例、対照群で8例であった。疾患進行 (PD) は実験群で10例 (28%)、対照群で21例 (53%) であり、対照群で進行性疾患の割合が有意に高かった。
疾患コントロール率 (DCR) の有意な改善: 12週時点での疾患コントロール率 (DCR: CR+PR+安定病変 [SD]) は、実験群で64% (23/36例)、対照群で40% (16/40例) であり、統計学的に有意な改善が認められた (P=0.04) (Table)。安定病変 (SD) の割合は両群で同等 (実験群25% [9/35例] vs 対照群25% [10/40例]) であったため、DCRの差は主にORRの差に起因すると考えられる。この結果は、SBRTの追加が疾患の進行を抑制する効果を持つことを示唆している。
無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の全体解析: 中央無増悪生存期間 (PFS) は、実験群で6.6ヶ月 (95%CI 4.0-14.6ヶ月)、対照群で1.9ヶ月 (95%CI 1.7-6.9ヶ月) であった (ハザード比 [HR] 0.71、95%CI 0.42-1.18、P=0.19) (Figure 2)。中央全生存期間 (OS) は、実験群で15.9ヶ月 (95%CI 7.1ヶ月-未到達)、対照群で7.6ヶ月 (95%CI 6.0-13.9ヶ月) であった (HR 0.66、95%CI 0.37-1.18、P=0.16) (Figure 3)。PFSおよびOSともに、実験群で数値的な改善傾向が認められたが、統計学的な有意差には至らなかった。解析時点までに51名の患者が死亡していた。
PD-L1陰性サブグループにおけるPFSおよびOSの有意な改善: 最も重要な探索的知見として、PD-L1陰性 (腫瘍細胞比率スコア [TPS] 0%) の患者サブグループにおいて、SBRTの追加による有意な治療効果が認められた。このサブグループでは、PFSのハザード比が0.49 (95%CI 0.26-0.94、P=0.03) となり、実験群で有意なPFSの延長が示された (Figure 2)。同様に、OSのハザード比も0.48 (95%CI 0.24-0.99、P=0.046) となり、実験群で有意なOSの延長が認められた (Figure 3)。PD-L1陰性患者におけるORRは、実験群で22% (4/18例)、対照群で4% (1/25例) であり、SBRTの追加により奏効率が4倍以上に増加する傾向が示された (Table)。この結果は、SBRTがPD-L1陰性の「コールド腫瘍」を「ホット腫瘍」に変換し、免疫チェックポイント阻害薬への感受性を高める可能性を強く示唆するものである。
PD-L1陽性サブグループにおける効果: PD-L1陽性 (TPS ≥1%) の患者サブグループでは、SBRTの追加による有意な上乗せ効果は認められなかった。PFSのハザード比は1.14 (95%CI 0.45-2.89、P=0.79)、OSのハザード比は1.4 (95%CI 0.42-4.66、P=0.58) であり、いずれも統計的有意差はなかった (Figure 2, Figure 3)。特にPD-L1高発現 (TPS ≥50%) 患者では、ORRが実験群60% (6/10例) vs 対照群60% (3/5例) と同等であり、ペムブロリズマブ単独でも高い奏効が得られるため、SBRTによる上乗せ効果が相殺された可能性が考えられる。
その他のサブグループ解析: 男性患者では、OSのハザード比が0.42 (95%CI 0.19-0.96、P=0.04) と実験群で有意なOS改善が認められた (Figure 3)。また、喫煙者 (≥10 pack-years) においても、OSのハザード比が0.48 (95%CI 0.25-0.93、P=0.03) と実験群で有意なOS改善が示された (Figure 3)。年齢65歳以上の患者ではPFSのハザード比が2.24と対照群に有利な傾向であったが、これらのサブグループにおける交互作用P値はいずれも統計的に有意ではなかった。多変量解析後、PD-L1ステータスのみが実験群におけるOSの予測因子として残った。
放射線既往の影響: 過去に放射線治療歴のある患者とない患者の間で、SBRTの追加効果に有意な差は認められなかった (オッズ比 3.1 [95%CI 0.5-23.5] vs 2.4 [95%CI 0.5-13.1]、交互作用P=0.81)。この結果は、過去の放射線治療歴が本試験の結果に強く影響しなかったことを示唆している (Supplement 2のeTable 3)。
安全性プロファイル: グレード3-5のペムブロリズマブ関連有害事象は、全体で12例 (17%) に報告され、実験群と対照群の間で有意差は認められなかった。最も頻繁に報告された有害事象は、疲労 (72例中28例、39%)、インフルエンザ様症状 (72例中23例、32%)、および咳嗽 (72例中20例、28%) であった。疲労はSBRT群でやや多い傾向 (51% vs 27%、P=0.05) があったが、肺炎は対照群でやや多い傾向 (26% vs 8%、P=0.06) が見られた。SBRTに関連する免疫関連有害事象として、後腹膜病変へのSBRT後、3回目のペムブロリズマブ投与後に腎炎が1例報告され、ペムブロリズマブの投与中止に至った。全体として、SBRTの追加は許容可能な安全性プロファイルを示し、治療関連毒性を有意に増加させることはなかった (Supplement 2のeTable 5)。
考察/結論
主要エンドポイント未達成の解釈と臨床的意義: PEMBRO-RT試験は、転移性NSCLCにおいてSBRTと免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ療法をランダム化比較試験で初めて評価した画期的な研究である。主要エンドポイントである12週時点のORRは統計学的有意水準に達しなかったものの (P=0.07)、実験群でORRが対照群のほぼ2倍 (36% vs 18%) に増加し、DCRが有意に改善したこと (64% vs 40%, P=0.04)、およびPFS (6.6ヶ月 vs 1.9ヶ月) とOS (15.9ヶ月 vs 7.6ヶ月) の中央値が数値的に延長したことは、SBRTの追加が臨床的に意義のある治療効果の増強傾向を示すと解釈できる。主要エンドポイント未達成の理由としては、(1) 事前に設定されたORRの達成基準 (50%または30ポイント差) が非現実的に高かった可能性、(2) PD-L1陽性患者におけるペムブロリズマブ単独療法の奏効率が予想以上に高かったため、実験群との差が相対的に縮小した可能性、(3) 第2相試験としてのサンプルサイズ (n=76) が検出力不足につながった可能性が考えられる。
新規性: 本研究の最も重要な新規の知見は、PD-L1陰性 (TPS 0%) の患者サブグループにおいて、SBRTの追加がPFS (HR 0.49, 95%CI 0.26-0.94, P=0.03) およびOS (HR 0.48, 95%CI 0.24-0.99, P=0.046) を統計学的に有意に改善した点である。PD-L1陰性NSCLCは、ペムブロリズマブ単独療法から最も恩恵を受けにくい集団であり、この結果はSBRTが腫瘍抗原の露出を促進し、免疫チェックポイント阻害薬に対する一次耐性、特にPD-L1非発現の「コールド腫瘍」における免疫回避を克服しうることを示唆する。SBRTが「コールド」な腫瘍微小環境を「ホット」な炎症性状態に変換することで、ICI感受性を付与するという概念を、ランダム化試験で初めて支持する強力なエビデンスとなった。
先行研究との違いと本試験の位置づけ: 本試験以前、Shaverdian et al. LancetOncol 2017によるKEYNOTE-001の後ろ向き解析では、過去の放射線治療がペムブロリズマブの有効性を高める可能性が示唆されていた。しかし、本研究は、放射線とICIの組み合わせ療法を対照群と比較した点で、先行研究と異なり、より高いエビデンスレベルでその効果を検証した。また、Luke et al.の第1相試験では安全性が確認されたものの、有効性は主要評価項目ではなかった。PEMBRO-RT試験の結果は、その後のKEYLYNK-012 (KEYSTONE-009) やPACIFIC-4 (SBRT+デュルバルマブ) といった大規模な臨床試験の設計に重要な情報を提供した。
臨床応用: 本知見は、PD-L1陰性NSCLC患者に対する新たな治療戦略開発の臨床的意義を持つ。これまで治療選択肢が限られていたこの集団において、SBRTの追加が免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する可能性が示されたことは、臨床現場での治療選択肢を広げる上で極めて重要である。特に、PD-L1陰性腫瘍を「ホット」な状態に変換し、免疫療法への感受性を付与するというメカニズムは、個別化医療の進展に貢献する translational な知見である。
残された課題と今後の方向性: 放射線の免疫増強効果は、線量、分割回数、照射部位、ICI投与タイミングなど、多くの要因に依存する。本試験ではSBRTをペムブロリズマブ投与の7日前までに逐次的に実施したが、マウスモデルではICI投与後24時間以内の最終照射が最適とされる報告 (Dovedi et al.) もあり、本試験の投与スケジュールが最適であったかは未解明である。3×8 Gyという分割照射が免疫原性において適切であったか、また照射部位 (肺病変 vs 転移リンパ節) の選択が有効性に影響したかどうかも今後の検討課題として残されている。さらに、本試験の探索的結果は、PD-L1非発現NSCLCにおけるSBRT+ICI組み合わせ療法を検証する大規模な第3相試験の実施根拠を提供する。より現実的なエンドポイント設定、十分なサンプルサイズ、そしてPD-L1陰性患者への絞り込みが次のステップとして推奨される。本試験で収集された血液および腫瘍サンプルの並行解析により、SBRTによるアブスコパル効果の免疫学的メカニズム (TCR多様性変化、腫瘍浸潤リンパ球増加、末梢T細胞クローン拡大など) の解明が期待され、これは臨床応用へのさらなる進展に貢献するだろう。
方法
試験デザインと参加者: 本研究は、オランダ国内の3つの医療機関で実施された多施設共同、ランダム化、第2相臨床試験である。対象患者は、18歳以上の組織学的または細胞学的に確認された転移性NSCLC患者で、少なくとも1レジメンのプラチナ製剤ベースの化学療法後に進行し、免疫療法未治療であった。Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) パフォーマンスステータスは1以下とされた。登録には、測定可能病変が少なくとも2つ必要であり、そのうち1つはRECIST 1.1基準で測定可能かつ生検に適した病変、もう1つはSBRTに適した照射可能部位である必要があった。PD-L1発現状態は問わずに登録された。除外基準には、無症候性であっても活動性の脳転移や癌性髄膜炎、未治療のEGFRまたはALKドライバー遺伝子変異、活動性の自己免疫疾患または間質性肺疾患などが含まれた。試験プロトコルおよび全ての修正は、オランダ癌研究所-アントニ・ファン・レーウェンフック病院の治験審査委員会または独立倫理委員会によって承認された。本試験はヘルシンキ宣言および欧州医薬品庁 (EMA) および米国食品医薬品局 (FDA) のGood Clinical Practiceガイドラインに従って実施され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが取得された。
無作為化と治療: 2015年7月1日から2018年3月31日までに92名の患者がスクリーニングされ、適格基準を満たした76名の患者が無作為化された。患者は1:1の比率で、喫煙歴 (<10 pack-years vs ≥10 pack-years) で層別化され、実験群 (SBRT+ペムブロリズマブ、n=36) または対照群 (ペムブロリズマブ単独、n=40) に割り付けられた。両群ともにペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに最大24ヶ月間、または疾患進行、許容できない毒性、治験責任医師の判断、患者の同意撤回まで静脈内投与された。実験群では、最初のペムブロリズマブ投与の7日前までに、単一の腫瘍病変に対してSBRT (8 Gy×3分割、隔日照射) が実施された。SBRTの照射部位は、生検部位と重複しないように選択され、患者にとって最も安全かつ/または都合の良い部位が選ばれた。SBRTの照射部位は主に肺病変またはリンパ節転移であった (Supplement 2のeTable 2)。
エンドポイント: 主要評価項目は、無作為化から12週時点での客観的奏効率 (ORR) であり、完全奏効 (CR) と部分奏効 (PR) の合計としてRECIST 1.1基準に基づき評価された。統計解析では、対照群のORRを20%と仮定し、実験群でORRが50%に改善した場合に、両側有意水準P<0.10で有意差を検出することを目標とした。副次評価項目には、安全性、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および12週時点での疾患コントロール率 (DCR) が含まれた。有害事象はCommon Toxicity Criteria, version 4.0に従って評価され、インフォームドコンセント取得日から治験治療中止日まで記録された。探索的評価項目として、PD-L1発現レベル (腫瘍細胞におけるPD-L1発現の割合を示す腫瘍細胞比率スコア [TPS]) 別および過去の放射線治療歴が有効性に与える影響が検討された。
統計解析: 有効性はintention-to-treat (ITT) 集団で評価され、安全性はas-treated集団で評価された。ITT集団には、無作為化された全ての患者が含まれたが、実験群の2名の患者は同意を撤回したため解析から除外された (Figure 1)。サンプルサイズは、各群37名の合計74名の患者で、対照群の奏効率20%に対し、実験群で奏効率50%の差を検出するために、オッズ比4、両側有意水準P<0.10で82%の検出力を持つと算出された。PFSおよびOSの解析には、カプラン・マイヤー法が用いられ、ハザード比 (HR) はコックス比例ハザードモデルを用いて算出された。サブグループ解析では、交互作用P値が評価された。