• 著者: Smesseim I, Perez PN, Chachoua A, Cooper BT, Sterman DH
  • Corresponding author: Illaa Smesseim (i.smesseim@nki.nl), NYU Langone Health / Netherlands Cancer Institute
  • 雑誌: Frontiers in Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-23
  • Article種別: Review
  • PMID: 42110467

背景

アブスコパル効果 (abscopal effect) とは、局所療法を施行した腫瘍とは解剖学的に離れた、直接処置を受けていない遠隔腫瘍病変が縮小する現象であり、1953年に Mole により初めて記載された。語源はラテン語 ab (離れた) + scopus (標的) であり、局所治療が全身免疫を介して遠隔腫瘍に影響を及ぼすという概念を端的に表す。当初は放射線療法後の稀な奇異反応として位置づけられていたが、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の台頭とともにその免疫学的機序への関心が急速に高まり、臨床的に利用可能な「全身免疫活性化の窓口」として再評価されている。

先行研究において、Postow et al. (2012) はメラノーマ患者におけるアブスコパル効果の免疫学的相関を報告し、Hu et al. (2017) は乳がんにおけるアブスコパル効果の利用可能性について考察している。また、非小細胞肺がん (NSCLC) の治療においても、SBRT (定位放射線療法) を含む放射線療法は局所制御のみならず免疫原性細胞死 (immunogenic cell death; ICD) を介した全身免疫活性化を誘導する可能性があり、ICI との相乗効果が期待される。さらに、肺アブレーション (凍結アブレーション、マイクロ波アブレーション (MWA; microwave ablation)、パルス電場 (PEF; pulsed electric field) 療法) は、放射線療法と異なる機序で腫瘍抗原を放出し免疫応答を惹起し得る。

しかし、臨床報告では腫瘍縮小の評価に Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 が用いられることが多く、同基準は非ターゲット病変の縮小を系統的に捉える設計になっておらず、アブスコパル効果が見落とされる可能性が高いという問題が指摘されている。Seymour et al. LancetOncol 2017 により提唱された iRECIST は pseudoprogression (偽進行) など非典型的反応パターンを取り込んでいるが、照射野外遠隔病変の縮小を定義するための専用基準としては策定されていない。Vrankar et al. (2018) は iRECIST 基準と NSCLC 患者における偽進行について報告している。

このように、アブスコパル効果の真の発生率が低いのか、それとも評価基準の不備による過少報告なのかについては明確な答えがなく、未解明な点が残されている。少数の症例報告や後ろ向き研究が散在するにとどまり、前向き無獲得試験で「アブスコパル効果の頻度」を主要エンドポイントとして設定した研究は存在しない。NSCLC に特化した標準化定義の策定は、この現象の真の頻度、予後意義、治療的利用可能性を評価するうえで不可欠な前提条件である。既存の評価基準では、アブスコパル効果の系統的な評価が不足しており、この知識ギャップ (knowledge gap) を埋めることが喫緊の課題である。本レビューはこの空白を埋めるため、病態生理、臨床報告、臨床試験、評価法の現状を体系的に整理し、実用的な定義を提案することを目的とした。

目的

本レビューの目的は、非小細胞肺がん (NSCLC) における放射線療法、肺アブレーション (凍結アブレーション、MWA、PEF 療法)、および免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 後のアブスコパル効果について、以下の点を包括的に整理し、実用的な定義を提案することである。

具体的には、第一に、アブスコパル効果の病態生理学的機序に関する現在の理解を整理する。第二に、既報の臨床事例や症例報告を系統的に収集し、その特徴を分析する。第三に、放射線療法と ICI の組み合わせ療法に関する臨床試験のエビデンスを概観する。第四に、現行の腫瘍評価基準である RECIST v1.1 や iRECIST などの限界を論じ、アブスコパル効果の評価における課題を明確にする。第五に、これらの知見に基づき、NSCLC に特化した、臨床研究および実践において利用可能なアブスコパル効果の実用的定義を初めて提案する。この定義は、今後の研究におけるアブスコパル効果の認識と評価の標準化に貢献し、治療戦略の最適化に資することを目指す。

結果

放射線療法後アブスコパル効果の病態生理と臨床報告: 放射線療法は腫瘍細胞に免疫原性細胞死 (ICD) を誘導し、danger-associated molecular patterns (DAMPs) であるカルレティキュリン (eat-me シグナル)、HMGB1、ATP を細胞外へ放出させる。これらの DAMPs は TLR4 や RAGE を介して樹状細胞 (DC) を活性化し、腫瘍抗原ペプチドの cross-presentation を促進する。また、cGAS-STING 経路を通じて I 型インターフェロン (IFN-α/β) が産生され、所属リンパ節での CD8+ 細胞傷害性 T 細胞 (CTL) の活性化・増殖が誘起される。活性化 CTL は血行性に遠隔腫瘍へ遊走し、非照射病変においても腫瘍縮小をもたらす (Fig 1)。免疫記憶成立後は PD-1/PD-L1、CTLA-4 等の免疫チェックポイント分子による T 細胞抑制が増強するため、ICI との組み合わせがこの免疫ブレーキを解除し相乗効果を生む。臨床報告としては、Rees et al. (1983) が食道病変への放射線療法後 20 ヶ月で未治療肺転移の退縮を報告した。Vilinovszki et al. (2021) は、81 歳女性の再発転移性扁平上皮 NSCLC 患者において、縦隔腫瘤への緩和的放射線療法後、照射部位および未照射骨転移の両方で持続的な退縮を観察し、25 ヶ月後も寛解を維持した。Sakaguchi et al. (2022) は、94 歳 EGFR 変異 NSCLC 患者の右腸骨病変への緩和的照射後、椎体転移のアブスコパル退縮を報告した。Hamilton et al. (2018) は、孤立性脳転移への定位放射線手術後 3 ヶ月で胸膜肺腫瘤の完全消失を、Kuroda et al. (2019) は 76 歳 EGFR 変異 NSCLC 患者の肺門リンパ節転移への胸部照射後、肺転移の完全消失を報告した。これらの症例は、ICI 非使用例も含んでおり、放射線療法単独でのアブスコパル効果誘導を示す重要な根拠を提供する。

肺アブレーション後アブスコパル効果の機序と臨床報告: 肺アブレーションは放射線療法とは異なる機序で腫瘍抗原放出と免疫応答を誘導し得る (Fig 1)。凍結アブレーション (cryoablation) は腫瘍細胞を壊死させ、細胞内容物 (抗原、DAMPs、サイトカイン) を比較的インタクトな形で放出するため、in situ ワクチン効果が期待される。これにより、IL-12、IFN-γ、TNF-α などの炎症性サイトカインが放出され、T 細胞および B 細胞応答が活性化される。マイクロ波アブレーション (MWA) は熱凝固壊死を誘発し免疫原性細胞死を促進するが、高温処理によりタンパク変性が生じることで抗原性が低下する懸念もある。Ma et al. (2024) は、MWA が肺がん患者の全身免疫応答を増強することを示し、CD8+ T 細胞の増加と Treg (regulatory T cell) 細胞の減少を報告した。パルス電場 (PEF) 療法は細胞膜に不可逆的電気穿孔 (irreversible electroporation) を生じさせ、熱損傷なく細胞内抗原を放出する非熱的アブレーションモダリティとして注目されており、熱アブレーション法に比べ免疫原性が高い可能性が示唆される。PEF は DAMPs の放出を促進し、樹状細胞や腫瘍特異的 CD8+ T 細胞を刺激する。臨床報告としては、Shao et al. (2021) による凍結アブレーション後のアブスコパル効果症例が収録され、進行性扁平上皮 NSCLC 患者において、原発肺腫瘍への MWA 後、未治療の縦隔リンパ節の縮小が確認された (Table 2)。Xu et al. (2020) は子宮内膜癌の肺転移に対する MWA 後のアブスコパル効果を報告している。アブレーション後の全身免疫反応の規模・持続性は照射野のサイズ、腫瘍量、使用モダリティに依存し、現状では症例レベルのエビデンスに限られる。

RT + ICI 組み合わせ臨床試験のエビデンスの現状: Table 1 として本レビューに整理された 16 試験のうち主要なものとして以下が挙げられる。Antonia et al. NEnglJMed 2017 による PACIFIC 試験 (NCT02125461) は切除不能 Stage III NSCLC に対し化学放射線療法後の durvalumab 維持療法を評価した第 III 相試験であり、主要 endpoint である PFS 中央値において 16.8 vs 5.6 months、HR 0.52 (95% CI 0.42-0.65, p<0.001) と有意な改善を示した。I-SABR 試験は転移性 NSCLC において SBRT + nivolumab が ICI 単剤と比べ EFS を改善し、HR 0.56 (95% CI 0.36-0.86, p=0.008) を示した。SWORD 試験は SBRT + sintilimab + GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) の組み合わせを評価した多コホート第 II 相試験であり、主要 endpoint である ORR 36.4% (95% CI 23.8-50.4) を報告した。Theelen et al. JAMAOncol 2019 による Pembro-RT 試験は転移性 NSCLC において SBRT (24 Gy/3 fx) 後の pembrolizumab 投与が pembrolizumab 単剤より ORR を改善 (36% vs 18%, p=0.07) したことを示す探索的試験として位置づけられ、アブスコパル効果と ICI の相乗効果を直接支持するデータを提供した。Welsh et al. (2020) 試験は SBRT と pembrolizumab の併用を評価し、out-of-field lesion response を主要評価項目の一つとした。Formenti et al. NatMed 2018 による試験は RT + ipilimumab の併用を評価し、放射線野外の免疫介在性腫瘍反応 (アブスコパル効果) を主要評価項目とした。各試験を横断して、アブスコパル効果を主要評価項目としている試験は少なく、系統的評価・報告が行われていない点が共通の限界として指摘された。

評価基準の課題と提案定義: 現行の RECIST v1.1 はターゲット病変 (最大 5 病変) の測定可能な縮小を定量的に評価する設計であり、「非ターゲット病変」として扱われることの多い遠隔転移巣の縮小は CR (complete response) / PR (partial response) 判定に組み込まれない場合がある。完全消失でなければ「non-CR/non-PD」として記録されるにとどまり、アブスコパル効果としての認識が失われる可能性がある。iRECIST は免疫療法特有の pseudoprogression を取り込む目的で開発され、unconfirmed progressive disease (iUPD) から confirmed progressive disease (iCPD) の二段階判定を設けているが、非照射野遠隔病変 of-field 縮小を明確に定義する専用条項は存在しない。本レビューが提案する NSCLC 特化の実用的定義は「局所治療 (放射線療法または肺アブレーション) 後 4〜8 週の時点において、iRECIST 判定基準に基づいて CR または PR を満たす非処置遠隔病変が 1 病変以上存在すること」とされた。4〜8 週の評価時点は、免疫応答の誘導・増殖・遊走に要する生物学的時間を考慮した設定であり、既報症例報告の初期評価時期とも整合する。本定義は前向き試験への組み込みを念頭に置いた実用性重視の提案であり、今後の検証・改訂が想定される。

アブスコパル効果の発生率と予測バイオマーカー: 文献全体を通じてアブスコパル効果の報告頻度は低く、多くは症例報告レベルに留まる。しかし標準化定義の不在、評価基準の不備、前向き評価の欠如という方法論的限界が「本当に稀少か」を判定することを困難にしている。予測バイオマーカーとして、腫瘍変異量 (TMB; tumor mutational burden)、PD-L1 発現、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte)、血中 CD8+ T 細胞数、ベースライン IFN-γ シグネチャが候補として挙げられているが、いずれも前向き検証が不十分である。また照射野サイズ、照射線量 (低分割 vs 高分割)、照射部位 (最大腫瘍病変 vs 転移巣の一つ) の最適化もアブスコパル効果発生率に影響する変数として考察されたが、最適プロトコルは確立されていない。「in situ ワクチン」としての局所療法の潜在的役割を最大化するため、腫瘍免疫微小環境、患者免疫状態、治療タイミングを統合した予測モデルの開発が今後の重要課題とされる。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、アブスコパル効果を単なる放射線療法後の稀な偶発的現象として記述してきた従来の報告と異なり、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) および肺アブレーション (凍結、マイクロ波、パルス電場療法) の時代における多モダリティ治療の文脈でアブスコパル効果を再定義している。特に、従来の RECIST v1.1 基準が非ターゲット病変の縮小を系統的に評価できない限界を指摘し、iRECIST 基準をベースにした評価法を導入している点が、これまでのナラティブレビューと対照的である。

新規性: 本研究で初めて、非小細胞肺がん (NSCLC) におけるアブスコパル効果の実用的かつ標準化された定義として「局所治療後 4〜8 週の時点において、iRECIST 判定基準に基づいて CR または PR を満たす非処置遠隔病変が 1 病変以上存在すること」を新規に提案した。この定義は、免疫応答の誘導、増殖、および遠隔病変への遊走に要する生物学的時間を考慮した 4〜8 週という具体的な評価タイムラインを設定しており、これまで報告されていない実用的な評価基準を提供している。

臨床応用: 本知見は、NSCLC 患者における局所療法と全身免疫療法の併用戦略の最適化という臨床応用に直結する。臨床的意義として、SBRT や肺アブレーションを単なる局所制御目的ではなく、全身の抗腫瘍免疫を活性化する「in situ ワクチン」として臨床現場で設計・利用するための道を開く。これにより、ICI 単剤では効果が不十分な「冷たい腫瘍 (cold tumor)」を「温かい腫瘍 (hot tumor)」へと変貌させ、遠隔転移病変の制御率を向上させることが期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、提案された定義を用いた前向き多施設共同コホート研究による検証が残されている。また、アブスコパル効果を誘導するための最適な放射線線量・分割スケジュール (低分割照射 vs 高分割照射) や、アブレーションモダリティ (凍結 vs MWA vs PEF) の直接比較データは依然として不足している。Limitation として、本レビューが主に少数の症例報告や早期相の臨床試験データに基づいているため、バイアスを完全に排除できない点が挙げられ、今後は大規模な前向き臨床試験において副次評価項目として本定義を組み込み、検証していく必要がある。

結論: NSCLC における放射線療法、肺アブレーション、および ICI を組み合わせた治療は、アブスコパル効果を介した遠隔転移制御の可能性を秘めている。本レビューが提案する「局所治療後 4〜8 週で iRECIST CR または PR を満たす非処置遠隔病変が 1 病変以上存在すること」という定義は、今後の前向き研究の標準化に向けた重要な出発点となる。

方法

本研究はナラティブレビューとして実施された。文献検索は PubMed および MEDLINE データベースを用いて行われた。検索キーワードには “abscopal effect”、“NSCLC”、“radiotherapy”、“ablation”、“immunotherapy”、“cryoablation”、“microwave ablation”、“pulsed electric field” が含まれた。検索期間や詳細な除外基準については論文中に限定的に明記されている。

臨床的アブスコパル効果の症例報告および後ろ向きコホート研究は個別に整理され、放射線療法または肺アブレーション後の ICI 非使用例と ICI 併用例を区別して解析された。組み合わせ療法に関する前向き試験については、Antonia et al. NEnglJMed 2017 による PACIFIC 試験 (NCT02125461)、I-SABR (immunotherapy and stereotactic ablative radiotherapy) 試験、Theelen et al. JAMAOncol 2019 による Pembro-RT (pembrolizumab after stereotactic body radiotherapy) 試験、Formenti et al. NatMed 2018 による試験、SWORD (sintilimab, SBRT, and GM-CSF) 試験、Welsh et al. 試験などを含む 16 件が Table 1 としてまとめられた。これらの試験は、それぞれの治療組み合わせ、主要評価項目、および腫瘍反応評価方法の多様性を反映している。

評価基準については、RECIST v1.1、iRECIST、WHO 基準、および免疫療法特異的基準 (irRC、irRECIST) が比較考察された。特に、RECIST v1.1 が非ターゲット病変の縮小を系統的に捉えきれない点や、iRECIST が偽進行に対応するものの、非照射野遠隔病変の縮小を明確に定義していない点が議論された。

提案定義の策定にあたっては、既存の症例報告で用いられた評価時点や奏効定義が参照された。NSCLC 特異性と臨床実用性を重視し、免疫応答の誘導・増殖・遊走に要する生物学的時間を考慮して、局所治療後 4〜8 週の評価時点が設定された。統計手法については、各臨床試験の報告に基づき、生存解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 曲線やコックス回帰 (Cox regression) 分析が用いられていることが示唆されるが、本レビュー自体は統計解析を伴わない。本レビューは、アブスコパル効果の標準化された定義を確立し、今後の研究および臨床実践における認識と評価の改善に貢献することを目指した。