• 著者: Skinner H, Hu C, Tsakiridis T, Santana-Davila R, Lu B, Erasmus JJ, Doemer AJ, Videtic GMM, Coster J, Yang AX, Lee RY, Werner-Wasik M, Schaner PE, McCormack SE, Esparaz BT, McGarry RC, Bazan J, Struve T, Paulus R, Bradley JD
  • Corresponding author: Heath D. Skinner, MD, PhD (UPMC Hillman Cancer Center, Pittsburgh, PA) / Theodoros Tsakiridis, MD, PhD (Juravinski Cancer Centre, Hamilton Health Sciences, ON, Canada)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-29
  • Article種別: Original Investigation (Phase 2 randomized clinical trial)
  • PMID: 34323922

背景

局所進行 (locally advanced; LA) NSCLC の長期生存率は依然として低く、標準的な同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiation therapy; cCRT) では 1 年 PFS が 50% 前後にとどまっていた。代表的な比較試験である RTOG 0617 において標準照射群 (60 Gy) の 1 年 PFS は 46.3% であり、大幅な改善が求められる状況が続いていた (Bradley et al. LancetOncol 2015)。本試験が立案された 2014 年時点では PACIFIC 試験の結果はまだ公表されておらず、cCRT 後の durvalumab 維持療法が PFS HR 0.52・OS HR 0.68 という大幅な生存改善をもたらすことは知られていなかった (Antonia et al. NEnglJMed 2017Antonia et al. NEnglJMed 2018)。

Metformin は biguanide 系の経口 2 型糖尿病治療薬であり、疫学研究では糖尿病患者における癌罹患率の低下との関連が系統的レビュー・メタ解析で繰り返し報告されていた (Decensi 2010 Cancer Prev Res、Gandini 2014 Cancer Prev Res、Noto 2012 PLoS One (Public Library of Science))。NSCLC を対象とした後ろ向き研究でも、metformin 服用中の糖尿病合併患者で生存率が改善する傾向が観察されていた (Chuang 2018 PLoS One、Menamin 2016 Lung Cancer)。前臨床研究では metformin が AMPK (AMP-activated protein kinase) を活性化して mTOR (mammalian target of rapamycin) を抑制するという抗腫瘍機序が報告されており、NSCLC 細胞株における放射線感受性の増強 (Storozhuk 2013 BrJCancer) や cisplatin・carboplatin との相乗効果 (Moro 2018 JThoracOncol、Liu 2017 Oncotarget) も複数のモデルで示されていた。

しかし、これらの根拠はほぼすべてが糖尿病合併患者の観察研究または前臨床モデルに由来するものであり、非糖尿病患者を対象とした LA-NSCLC (locally advanced non-small cell lung cancer; 局所進行 NSCLC) の cCRT 設定での prospective RCT エビデンスは 手薄 であった。観察研究での生存改善が「metformin の直接的抗腫瘍作用」によるものか「糖尿病の代謝コントロール改善に伴う間接効果」にすぎないかを区別する gap in knowledge が存在し、prospective 介入試験による検証が 不足 していた。metformin の安全性プロファイルが確立されており経済的負担が低い点も、臨床試験への組み込みを後押しする理由となっていた。

目的

非糖尿病の切除不能 LA-NSCLC (Stage IIIA/IIIB) 患者を対象に、標準的な cCRT + consolidation 化学療法レジメンに metformin 2,000 mg/日を上乗せすることで、主要 endpoint である 1 年 PFS を 50% から 65% へ改善 (HR 0.622) しうるかを検証した、NRG-LU001 (NRG Oncology Lung trial 001; NCT02186847) の open-label Phase 2 ランダム化臨床試験。副次 endpoint は全生存率 (overall survival; OS)・局所領域再発 (local-regional recurrence; LRR)・遠隔転移 (distant metastasis; DM)・有害事象 (adverse event; AE)。

結果

主要 endpoint: metformin 群で 1 年 PFS の改善なし: 167 例 (control n=81、metformin n=86) を解析した。中央追跡期間は 27.7 ヶ月 (range 0.03-47.21 ヶ月)。1 年 PFS は control 群 60.4% (95% CI 48.5-70.4%) に対し metformin 群 51.3% (95% CI 39.8-61.7%) と、metformin 群の方が数値的に低く HR 1.15 (95% CI 0.77-1.73、P=0.24) で有意差なし (Table 2)。事前推定 50% を 10 ポイント以上上回る control 群の良好成績もあり主要 endpoint を達成できなかった。Imaging co-chair による盲検化中央 review に基づく sensitivity analysis でも HR 1.09 (95% CI 0.69-1.73、P=0.36) と同等であり、施設判定バイアスの影響は否定された (Fig 2A)。多変量 Cox 解析では病期 (IIIB vs IIIA) のみが PFS に独立して有意関連し (HR 1.79、95% CI 1.19-2.69、P=0.005)、治療群 (HR 1.20、95% CI 0.81-1.78、P=0.36)・SCC vs 非 SCC 組織型 (HR 1.24、95% CI 0.83-1.85、P=0.30)・PS (HR 0.70、95% CI 0.47-1.05、P=0.09) はいずれも非有意であった。

副次 endpoint: OS・LRR・DM のすべてで群間差なし: 1 年 OS は control 群 80.2% (95% CI 69.3-87.6%) vs metformin 群 80.8% (95% CI 70.2-87.9%) とほぼ同一で、HR 1.03 (95% CI 0.64-1.68、P=0.89) であった (Table 2、Fig 2B)。2 年時点でも PFS は 40.1% vs 34.5%、OS は 65.4% vs 64.9% と差はなかった。Competing risk 解析では 1 年 LRR が control 14.5% vs metformin 19.2% (HR 0.91、95% CI 0.51-1.62、P=0.75)、1 年 DM が 17.2% vs 20.5% (HR 1.29、95% CI 0.71-2.34、P=0.41) と局所・遠隔再発パターンでも有意差を認めなかった (Fig 2C/2D)。Control 群の 33 例中 30 例 (90.9%) が疾患死であったのに対し metformin 群では 34 例中 24 例 (70.6%) にとどまり、metformin 群で他因死・原因不明死がやや多かった点は注目に値するが、統計的に有意な差ではなかった。

Metformin 服薬コンプライアンス: 規定用量維持は 39% のみ: Metformin 群 86 例のうち 52 例 (63.4%) が concurrent + consolidation 全期間を per protocol で metformin を完遂したが、2,000 mg/日の規定量を減量・中断なく維持できたのは 39% にとどまった。主な中断・減量理由は metformin 関連消化器毒性 (下痢・悪心・嘔吐) であった。Grade 2+ 下痢は control 群 10.7% vs metformin 群 17.7% と metformin 群でわずかに高く (Table 3)、コンプライアンス不足が treatment effect の検出を妨げた可能性は本試験における重要な交絡変数である。血糖モニタリングは metformin 群で週 1 回実施した。

安全性: 両群同等で metformin 上乗せによる重篤な毒性増加なし: 治療関連 Grade 3 以上の AE は control 群 51/75 例 (68.0%) vs metformin 群 52/79 例 (65.8%) と同等であった (Table 3)。Grade 5 治療関連 AE は control 群 4 例・metformin 群 1 例で、いずれも治療との直接的関連なしと判定された。Grade 3+ 肺臓炎は control 2 例 (2.7%) vs metformin 1 例 (1.3%)、Grade 3+ 悪心は 1 例 (1.3%) vs 2 例 (2.5%)、Grade 3+ 嘔吐は各 1 例 (1.3%) と、重篤な消化器・呼吸器毒性は両群ともに低頻度で差を認めなかった。metformin 追加が cCRT の忍容性を著しく低下させないことが確認された。

Control 群の予想外の良好成績 (1 年 PFS 60.4%・1 年 OS 80.2%): 本試験で最も注目すべき観察の一つは control 群の卓越した治療成績である。1 年 PFS 60.4% は事前推定 50% を 10 ポイント上回り、PACIFIC 試験の cCRT + 観察群 (1 年 PFS 55.9%) をも上回る数値であった。著者らはその要因として (1) 糖尿病患者の除外による競合リスク排除、(2) IMRT 使用率の大幅向上 (本試験 76% vs RTOG 0617 の 46%)、(3) 全照射プランの中央 QA (quality assurance; 品質管理) review (97.2% per protocol 遵守) を挙げており、現代的な放射線治療技術と品質管理の向上が Stage III NSCLC の治療成績全体を底上げしていることを示した。中央 radiation QA が患者アウトカムに与える影響の大きさは複数の臨床試験で報告されており、本試験もその重要性を裏付けている。

考察/結論

① 先行研究との違い: NRG-LU001 は、糖尿病患者を対象とした retrospective 研究 (Wan 2016 Oncotarget、Menamin 2016 Lung Cancer) が示していた生存改善シグナル と異なり、prospective RCT において 1 年 PFS で対照群との差 -9.1 ポイント (HR 1.15) という否定的結果を示した。これまでの研究 での positive シグナルは本試験の prospective 結果 とは対照的 であり、observational vs prospective の 相違 が明確となった。前臨床根拠 (Storozhuk 2013 BrJCancer、Moro 2018 JThoracOncol) も実臨床で再現されず、観察研究の benefit は「糖尿病の代謝コントロール改善」あるいは「healthy user bias」による交絡であった可能性が高い。並行して実施されたカナダの OCOG-ALMERA 試験 (Tsakiridis 2020 Int J Radiat Oncol Biol Phys) でも metformin 群で毒性増加と worse survival が報告されており、2 つの独立した RCT が一致して metformin no benefit を示した点は重要である。既報 の前臨床データが示す AMPK-mTOR 経路への作用が、臨床的に意味ある腫瘍縮小・生存延長に直接翻訳されなかった典型例として位置付けられる。

② 新規性: 本試験は 本研究で初めて 非糖尿病の LA-NSCLC 患者の cCRT 設定で metformin の上乗せ効果を 167 例の prospective RCT 設計で評価した点が 新規な 学術的貢献である。単なる negative trial にとどまらず、観察研究だけでは正当化できなかった “metformin = 抗腫瘍薬” 仮説を prospective に棄却したことの意義は大きい。これまで報告されていない 知見として、現代的 cCRT における control 群 1 年 OS 80.2% という高い治療水準を前向き RCT で定量化した点も novel である。この数値は今後の Stage III NSCLC 試験における control arm 設定の重要な参照値となる。metformin コンプライアンス (規定用量維持 39%) の定量化も、今後の metabolic agent 試験デザインに有用な実臨床データを提供した。

③ 臨床応用: 本試験の 臨床応用 上の結論は明確であり、非糖尿病 LA-NSCLC 患者への metformin 追加は 臨床的有用性 を示さず推奨されない。臨床現場 では PACIFIC レジメン (cCRT + durvalumab consolidation) を中核とした標準治療が優先されるべきであり、metformin をその修飾薬として位置付ける根拠はない。Bench-to-bedside橋渡し 観点では、AMPK-mTOR 抑制という前臨床シグナルが臨床効果に翻訳されなかった典型例として、metabolic targeting 戦略の難しさを浮き彫りにした。今後の代謝標的薬の臨床開発では、早期 pharmacodynamic バイオマーカー (LKB1/STK11 変異ステータス、AMPK 活性化指標、腫瘍代謝 FDG-PET 応答) による患者選択を組み込むことが不可欠と示唆される。

④ 残された課題: 残された課題 として、(1) compliance の問題への対応 (徐放性 metformin 製剤・低用量 1,000 mg/日レジメンの検討) と、(2) LKB1/STK11 変異陽性・高 AMPK 活性等の代謝感受性 subset を対象とした biomarker 駆動型試験の必要性が挙げられる。今後の検討 として注目されるのは、ICI (immune checkpoint inhibitor; 免疫チェックポイント阻害薬) 時代の cCRT + durvalumab 標準治療下で metformin が免疫療法効果を増強しうるかという問いであり、前臨床では metformin による腫瘍低酸素改善が PD-1 blockade 効果を増強する報告がある (Scharping 2017 Cancer Immunol Res)。Limitation は (a) placebo 非対照で施設判定バイアスを完全には排除できない点 (中央 review により軽減)、(b) metformin 服薬コンプライアンスが 39% と低い点、(c) Phase 2 規模 (n=167) の検出力限界、(d) ICI 時代以前の試験デザインで PACIFIC レジメンとの直接比較不能な点。Future research の方向性として、cCRT + ICI (durvalumab) + metformin の three-drug combination 試験、あるいはゲノム層別化による biomarker-driven Phase 2 試験が今後の展望として挙げられる。control 群の高い治療成績の要因解析 (IMRT 利用率・中央 QA の寄与) も Stage III NSCLC 試験設計の最適化に向けた更なる検討を要する事項である。

方法

試験デザイン: 米国・カナダ・イスラエルの 79 施設で実施された open-label Phase 2 randomized clinical trial (NCT02186847)。登録期間 2014 年 8 月 24 日〜 2016 年 12 月 15 日。CONSORT (Consolidated Standards of Reporting Trials) 準拠、intent-to-treat 解析。データ解析期間 2019 年 2 月 25 日〜 2020 年 3 月 6 日。

適格基準: 切除不能 Stage IIIA/IIIB NSCLC (AJCC: American Joint Committee on Cancer 第 7 版分類)、Zubrod performance status (PS) 0-1、過去 3 年以内の活動性癌なし (非黒色腫皮膚癌を除く)、糖尿病の既往なし。PET-CT と脳 MRI によるステージング必須。組織型は腺癌・扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma; SCC)・大細胞癌・腺扁平上皮癌・NSCLC NOS を含む。

ランダム化と治療: PS・組織型 (SCC vs 非 SCC)・病期 (IIIA vs IIIB) で層別化した Zelen permuted block 法により 1:1 で対照群 (metformin なし) と metformin 群に割付した。両群とも 60 Gy/30 分割の根治的放射線治療 (IMRT (intensity-modulated radiation therapy; 強度変調放射線治療) または 3D-CRT (3-dimensional conformal radiation therapy; 三次元原体照射)) を実施し、全照射プランを中央審査した。concurrent 化学療法は weekly carboplatin AUC 2 + paclitaxel 50 mg/m² とし、cCRT 終了後 28-42 日で consolidation carboplatin AUC 6 + paclitaxel 200 mg/m² × 2 サイクル (q3w) を追加した。Metformin 群は目標 2,000 mg/日 (朝 500 mg + 昼 1,000 mg + 夕 500 mg) を 2 週間で漸増後、week 3 から cCRT と同時開始し consolidation 期まで継続した。消化器毒性 Grade 2-3 で 500 mg ずつ減量し、回復後 re-escalation を少なくとも 2 回試みることを推奨した。

評価と統計: 疾患評価は 1-2 年目は 3 ヶ月ごとの造影 CT または MRI で実施した。Progression は RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1 で施設報告し、imaging co-chair による盲検化中央 review で確認した。AE は CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.03 で評価した。統計手法は Kaplan-Meier 法で PFS・OS を推定し、stratified log-rank test で群間比較、Cox 比例ハザード回帰で多変量解析を実施した。LRR・DM は competing risk として cumulative incidence method + Fine-Gray model で解析し Gray test で比較した。検出力設定は 1-sided α=0.1・85% power・最低 102 PFS events、目標 sample size 168 例 (不適格 10% 想定)。