• 著者: Bradley JD, Paulus R, Komaki R, Masters G, Blumenschein G, Schild S, Bogart J, Hu C, Forster K, Magliocco A, Kavadi V, Garces YI, Narayan S, Iyengar P, Robinson C, Wynn RB, Koprowski C, Meng J, Beitler J, Gaur R, Curran W Jr, Choy H
  • Corresponding author: Jeffrey D. Bradley, MD (Washington University, St. Louis, MO, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25601342

背景

局所進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の根治的治療において、白金製剤ベースの化学放射線療法 (CRT) は標準治療として確立されている。しかし、放射線照射量に関しては、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) 7301試験以来30年以上にわたり、標準線量60 Gy (1.8-2.0 Gyの分割照射) が維持されてきた。この標準線量は、局所制御率の改善と生存期間の延長を目指し、より高線量の放射線療法が検討される背景となっていた。過去の第1相および第2相試験では、74 Gyへの線量増加が、強度変調放射線療法 (IMRT) や3次元原体照射 (3D-CRT) といった先進的な放射線治療技術を用いることで、正常組織への照射量を制限しつつ安全に実施できる可能性が示唆されていた。これらの試験では、高線量CRTを受けた患者の全生存期間 (OS) 中央値が約24ヶ月と報告されており、これは60 Gyを標準線量としたRTOG 9410試験でのOS中央値17.1ヶ月を上回るように見えたため、高線量化による治療成績向上が期待されていた (Bradley et al. 2004; Komaki et al. 2003; Stinchcombe et al. 2008)。

一方、上皮成長因子受容体 (EGFR) を標的とする抗体であるセツキシマブ (cetuximab) は、頭頸部扁平上皮癌において放射線増感効果を示すことがBonner et al. (2006) によって報告されており、NSCLCへの応用可能性が模索されていた。第2相RTOG 0324試験では、セツキシマブとCRTの併用療法が、切除不能なStage III NSCLC患者においてOS中央値22.7ヶ月、24ヶ月OS率49.3%という有望な結果を示した (Bradley et al. 2208)。これらの知見に基づき、高線量放射線療法とセツキシマブの追加という2つの治療戦略が、局所進行NSCLC患者のOSを改善する可能性を秘めていると考えられた。しかし、これらの仮説を大規模な第3相試験で同時に検証し、その有効性と安全性を明確にすることは未解明な点が多く、臨床的意義を確立するためにはさらなるエビデンスが不足していた。RTOG 0617試験は、これらの2つの重要な仮説を、2×2要因設計の第3相試験として検証するために立案された。

目的

本研究の主要な目的は、切除不能なStage IIIAまたはStage IIIBの非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、以下の2つの治療戦略の有効性を評価することであった。(1) 74 Gyの高線量放射線療法が、標準線量60 Gyの放射線療法と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうか。(2) カルボプラチンとパクリタキセルを併用する同時化学放射線療法にセツキシマブを追加することが、OSを改善するかどうか。これらの目的を達成するため、2×2要因設計の第3相無作為化非盲検試験を実施し、各治療群におけるOSを主要評価項目として比較検証した。副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、局所再発率、遠隔転移率、および治療関連有害事象の発生率を評価した。また、EGFR発現レベルとセツキシマブの効果との関連性についても探索的に解析を行った。

結果

本試験には、2007年11月27日から2011年11月22日までに544名の患者が登録された。放射線量比較の解析対象は424名、セツキシマブ比較の解析対象は465名であった。放射線量群の追跡期間中央値は22.9ヶ月 (IQR 27.5-33.3)、セツキシマブ群の追跡期間中央値は21.3ヶ月 (IQR 23.5-29.8) であった。

全生存期間 (OS) - 放射線量比較: 74 Gy高線量群のOS中央値は20.3ヶ月 (95% CI 17.7-25.0) であり、60 Gy標準線量群のOS中央値28.7ヶ月 (95% CI 24.1-36.9) と比較して有意に劣っていた (HR 1.38, 95% CI 1.09-1.76; p=0.004)。この結果は、高線量放射線療法が標準線量よりも劣るという、試験開始前の仮説に反するものであった (Table 2, Fig 2A)。2年OS率は、60 Gy群で57.6% (95% CI 50.6-63.9) であったのに対し、74 Gy群では44.6% (95% CI 37.7-51.3) であった。主要な死因は両群ともに肺癌であり、60 Gy群で76% (127例中96例)、74 Gy群で75% (140例中105例) を占めた。

全生存期間 (OS) - セツキシマブ比較: セツキシマブ追加群のOS中央値は25.0ヶ月 (95% CI 20.2-30.5) であり、非セツキシマブ群のOS中央値24.0ヶ月 (95% CI 19.8-28.6) と比較して有意な改善は認められなかった (HR 1.07, 95% CI 0.84-1.35; p=0.29) (Table 2, Fig 2B)。2年OS率は、セツキシマブ群で52.3% (95% CI 45.6-58.5)、非セツキシマブ群で50.1% (95% CI 43.3-56.6) であった。

無増悪生存期間 (PFS) および局所制御・遠隔転移: 放射線量比較において、60 Gy群のPFS中央値は11.8ヶ月 (95% CI 10.2-14.3) であり、74 Gy群の9.8ヶ月 (95% CI 8.8-11.6) と比較して数値上は優れていたものの、統計的有意差は認められなかった (HR 1.19, 95% CI 0.95-1.47; p=0.12)。局所再発率も、2年時点で60 Gy群30.7% (95% CI 24.5-36.9) に対し、74 Gy群38.6% (95% CI 31.9-45.3) であり、高線量化による局所制御の改善は認められなかった (HR 1.26, 95% CI 0.93-1.71; p=0.13)。遠隔転移率も両群間で有意差はなかった (HR 1.10, 95% CI 0.84-1.43; p=0.48)。セツキシマブ比較では、PFS中央値はセツキシマブ群で10.8ヶ月 (95% CI 9.8-12.3) vs 非セツキシマブ群で10.7ヶ月 (95% CI 9.3-13.2) であり、有意差はなかった (HR 0.99, 95% CI 0.80-1.22; p=0.89)。

毒性 - 放射線量比較: 高線量群では重篤な有害事象の発生率が高い傾向にあった。特に、Grade 3以上の食道炎は、74 Gy群で21% (207例中43例) と、60 Gy群の7% (217例中16例) と比較して著しく高頻度であった (p<0.0001)。Grade 3以上の肺臓炎の発生率は両群間で統計的有意差はなかった。治療関連死亡は、74 Gy群で8例、60 Gy群で3例報告された。放射線療法プロトコール不適合率は、74 Gy群で26% (207例中54例) と、60 Gy群の17% (217例中37例) と比較して有意に高かった (p=0.02)。これは高線量群で治療計画の実施が困難な症例が多かったことを示唆する (Table 3)。

毒性 - セツキシマブ比較: セツキシマブ追加群では、Grade 3以上の総有害事象発生率が86% (237例中205例) であり、非セツキシマブ群の70% (228例中160例) と比較して著明に増加した (p<0.0001)。特に、Grade 3以上の発疹はセツキシマブ群で8%に対し非セツキシマブ群で1%、Grade 3以上のinfusion reactionはセツキシマブ群で5%に対し非セツキシマブ群で0%であった。治療関連死亡はセツキシマブ群で10例、非セツキシマブ群で5例報告された (Table 3)。

線量計画の比較: 計画標的体積 (PTV) は両群間でほぼ同等であった (60 Gy群平均494.8 cm³ vs 74 Gy群509.9 cm³)。しかし、平均肺線量 (Mean Lung Dose) は74 Gy群で18.9 Gyと、60 Gy群の16.5 Gyと比較して有意に高かった (p<0.0001)。また、肺のV20 (肺容積の20%が20 Gy以上の線量を受ける割合) も74 Gy群で30.9%と、60 Gy群の28.7%より有意に高値であった (p=0.0012)。食道および心臓への線量も74 Gy群で有意に高かった。

多変量解析と探索的解析: 多変量解析では、放射線線量 (60 Gy)、最大食道炎グレード、PTV、心臓V5、心臓V30がOSの独立予測因子として同定された。放射線療法コンプライアンスや治療手技 (3D-CRT vs IMRT) は有意な予測因子ではなかった。放射線療法コンプライアンスが良好な症例に限定したサブセット解析でも、60 Gy群の優位性は維持された。これは、高線量群の成績不良が治療品質の問題に起因するものではないことを示唆する。

EGFR発現とセツキシマブ効果の探索的解析: EGFR H-score ≥200 (高発現) のサブグループ (n=約100) では、セツキシマブ群で有意なOS延長が認められた (p=0.0325)。具体的には、EGFR H-score ≥200の患者において、セツキシマブ群のOS中央値は32.6ヶ月 (95% CI 20.9-46.1) であり、非セツキシマブ群の20.6ヶ月 (95% CI 13.9-29.3) と比較して優位であった (HR 0.65, 95% CI 0.42-1.00)。一方、EGFR H-score <200の患者では、セツキシマブ群のOS中央値は19.5ヶ月 (95% CI 15.6-27.8) であり、非セツキシマブ群の29.6ヶ月 (95% CI 18.0-57.3) と比較して劣る傾向が示された (p=0.056)。この結果は、EGFRタンパク発現量が高い患者においてセツキシマブが有効である可能性を示唆するが、サブグループ解析であるため仮説生成的なものと位置付けられる (Fig 3)。

考察/結論

先行研究との違い: RTOG 0617試験の最も重要な知見は、74 Gyの高線量化学放射線療法が、60 Gyの標準線量と比較して全生存期間 (OS) を有意に悪化させたことである (HR 1.38, 95% CI 1.09-1.76; p=0.004)。これは、高線量化によって局所制御率とOSが改善するという当初の仮説に対照的な結果であった。高線量群では、Grade 3以上の食道炎が著しく増加し (21% vs 7%, p<0.0001)、平均肺線量や心臓線量も有意に高値であった。多変量解析で心臓V5およびV30がOSの独立した悪化因子として同定されたことは、高線量照射に伴う心臓への過剰な線量負荷が生存期間短縮に寄与した可能性を示す。

新規性: セツキシマブの追加がOSを改善しなかった結果 (HR 1.07, 95% CI 0.84-1.35; p=0.29) は、頭頸部癌におけるセツキシマブの放射線増感効果がNSCLCには外挿できないことを示唆する。しかし、探索的解析においてEGFR H-score ≥200のサブグループでセツキシマブがOSを改善する傾向が認められたことは注目に値する。この知見はこれまで報告されていないものであり、EGFR高発現NSCLC患者におけるセツキシマブの臨床応用の可能性を示唆する。

臨床応用: 本研究は、局所進行NSCLCの根治的化学放射線療法において、60 Gyの標準線量維持の重要性を確立した。この結果は、その後の治療開発に大きな影響を与え、特にPACIFIC試験で示されたデュルバルマブ維持療法の有効性 (OS中央値47.5ヶ月) は、RTOG 0617で確立された60 GyベースのCRT後の治療として、2019年以降の国際標準治療となっている。本試験から得られた「心臓線量の最小化」という知見は、現代の放射線治療計画において重要な設計原則として組み込まれており、臨床現場での治療最適化に貢献している。

残された課題: 今後の検討課題としては、高線量放射線療法が特定の患者サブグループ、例えば腫瘍体積が小さい患者や、より高度な放射線治療技術 (例: 陽子線治療) を用いた場合に、依然として有効である可能性を検討することなどが挙げられる。また、EGFR高発現患者におけるセツキシマブの有効性は仮説生成的な結果であり、前向きな検証が今後の課題として残されている。

方法

本研究は、米国およびカナダの185施設で実施された第3相無作為化非盲検2×2要因設計試験 (RTOG 0617、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00533949) である。2007年11月27日から2011年11月22日までの期間に患者登録が行われた。

対象患者: 18歳以上の切除不能なStage IIIAまたはStage IIIB NSCLC患者が対象とされた。主要な適格基準には、Zubrodパフォーマンスステータス0-1、良好な肺機能 (FEV1 ≥1.2 L/s)、および過去3年以内の他の浸潤癌の既往がないことが含まれた。上縦隔を超えるリンパ節転移、鎖骨上リンパ節転移、またはパンコースト腫瘍の患者は、肺または腕神経叢への毒性のリスクを考慮し除外された。

無作為化と治療: 患者は、60 Gy標準線量群、74 Gy高線量群、60 Gy+セツキシマブ群、74 Gy+セツキシマブ群の4群に1:1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は置換ブロック法を用いて行われ、放射線療法手技 (3D-CRT vs IMRT)、Zubrodパフォーマンスステータス (0 vs 1)、PETスタジングの使用 (あり vs なし)、および組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮) を層別因子とした。治療群の割り当ては非盲検で行われた。

放射線療法: 放射線療法は、1日2 Gy、週5回の分割照射で実施された。3D-CRTまたはIMRTのいずれも許容され、画像誘導放射線療法 (IGRT) の使用が推奨された。計画標的体積 (PTV) は、総腫瘍体積 (GTV) に呼吸性移動とマージンを加えることで定義された。GTVは、原発腫瘍とCTまたはPETスキャンで確認された所属リンパ節転移 (>1 cm短径または標準化摂取値 (SUV) >3) を含んだ。

化学療法: 全ての患者は、放射線療法と同時に週1回、パクリタキセル (45 mg/m²) とカルボプラチン (AUC 2) を投与された。化学放射線療法終了の2週間後には、2サイクルのconsolidation化学療法が3週間間隔で実施され、パクリタキセル (200 mg/m²) とカルボプラチン (AUC 6) が投与された。

セツキシマブ投与: セツキシマブ群の患者には、同時化学放射線療法期間中およびconsolidation化学療法期間中にセツキシマブが投与された。初回投与は400 mg/m² (Day 1)、その後は週1回250 mg/m²が投与された。

評価項目: 主要評価項目はOSであった。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、局所再発率、遠隔転移率、および有害事象が含まれた。有害事象はCTCAE version 3.0基準で評価され、奏効はRECIST基準で評価された。

統計解析: 解析は修正intention-to-treat (ITT) の原則に基づき実施された。OSおよびPFSはカプラン・マイヤー法で推定され、ログランク検定で比較された。ハザード比 (HR) はコックス比例ハザードモデルを用いて算出された。局所再発および遠隔転移率は累積発生率法で推定され、Grayの検定で比較された。多重比較を考慮し、各要因のログランク検定には片側α=0.0125が用いられた。中間解析は3回計画され、HaybittleおよびPetoの境界基準による有効性、FreidlinおよびKornの方法による無益性停止基準が設定された。