- 著者: Antonia SJ, Villegas A, Daniel D, Vicente D, Murakami S, Hui R, Kurata T, Chiappori A, Lee KH, de Wit M, Cho BC, Bourhaba M, Quantin X, Tokito T, Mekhail T, Planchard D, Kim YC, Karapetis CS, Hiret S, Ostoros G, Kubota K, Gray JE, Paz-Ares L, de Castro Carpeño J, Faivre-Finn C, Reck M, Vansteenkiste J, Spigel DR, Wadsworth C, Melillo G, Taboada M, Dennis PA, Özgüroğlu M
- Corresponding author: Scott J. Antonia, MD, PhD (H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, FL, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-09-25
- Article種別: Original Article
- PMID: 30280658
背景
切除不能なIII期非小細胞肺癌 (NSCLC) は、根治的同時化学放射線療法 (CRT) が標準治療として確立されているにもかかわらず、その長期的な予後は依然として不良である。従来の治療法では、5年全生存期間 (OS) は約15〜30%に留まり、中央値OS (mOS) は28ヶ月以下であった (Yoon et al. 2017, Bradley et al. 2017)。このような状況において、CRT後の病勢非進行例に対する新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、進行NSCLCにおいて有望な治療効果を示しており (Moya-Horno et al. 2018, O’Kane et al. 2017)、CRT後の維持療法としての可能性が注目されていた。
先行研究では、放射線療法が腫瘍細胞におけるPD-L1発現を増加させ、PD-L1遮断との相乗効果をもたらす可能性が示唆されていた (Chakraborty et al. 2004, Deng et al. 2014, Dovedi et al. 2014, Lugade et al. 2005, Reits et al. 2006, Zhang et al. 2008)。この仮説に基づき、CRT後の免疫チェックポイント阻害剤による強化療法が、従来の治療成績を改善し、長期的な生存利益をもたらすかどうかが重要な焦点であった。
PACIFIC試験は、切除不能III期NSCLC患者を対象に、根治的CRT後のデュルバルマブ (抗PD-L1抗体) 維持療法の有効性と安全性を評価する目的で実施された。本試験の初回解析 (2017年報告) では、主要エンドポイントの一つである無増悪生存期間 (PFS) において、デュルバルマブ群がプラセボ群と比較してmPFSを16.8ヶ月 vs 5.6ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.52, 95% CI 0.42-0.65, p<0.001) と著明に改善することが示された Antonia et al. NEnglJMed 2017。このPFSの改善に基づき、米国食品医薬品局 (FDA) はCRT後III期NSCLCに対するデュルバルマブを承認した (AstraZeneca 2018a, AstraZeneca 2018b)。しかし、PFSの改善がOSの延長に繋がるか否かは、当時の時点では未解明であった。従来のCRT後の維持療法では、ゲフィチニブやドセタキセルなどの薬剤が試みられてきたが、OSの有意な改善には至らず、mOSは18〜23ヶ月に留まっていた (Kelly et al. 2008, Hanna et al. 2008)。このため、CRT後の治療選択肢には依然として大きな知識のギャップが残されており、OSを改善する新たな治療法の確立が強く求められていた。本報告は、PACIFIC試験の第二主要エンドポイントであるOSの計画中間解析結果を報告するものである。
目的
PACIFIC試験において、切除不能III期NSCLCの根治的CRT後病勢非進行例に対し、デュルバルマブ 10mg/kgを2週間ごとに最長12ヶ月間投与する維持療法が、プラセボと比較して共主要エンドポイントである全生存期間 (OS) を有意に改善するかを評価すること。また、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS) の更新解析、遠隔転移または死亡までの期間、二次進行までの期間、および安全性プロファイルを評価することを目的とした。本研究は、CRT後のデュルバルマブ維持療法が、PFSの改善をOSの延長に転換させるか否かを検証し、III期NSCLCの標準治療確立に貢献することを目指した。
結果
全生存期間 (OS) の有意な延長: PACIFIC試験の最終解析において、デュルバルマブ維持療法はプラセボと比較して全生存期間 (OS) を有意に延長した。死亡のハザード比 (HR) は0.68 (99.73% CI, 0.47-0.997; P=0.0025) であり、事前に設定された有効性の境界値 (P<0.00274) を超え、統計的有意性が確認された (Figure 2)。12ヶ月OS率はデュルバルマブ群で83.1% (95% CI, 79.4-86.2) であったのに対し、プラセボ群では75.3% (95% CI, 69.2-80.4) であった。さらに、24ヶ月OS率はデュルバルマブ群で66.3% (95% CI, 61.7-70.4) と、プラセボ群の55.6% (95% CI, 48.9-61.8) と比較して顕著な改善を示した (two-sided P=0.005)。データカットオフ時点 (中央値フォローアップ期間25.2ヶ月) で、両群ともにmOSは未到達であった。OSの改善効果は、年齢、性別、喫煙歴、PD-L1発現レベルなど、すべての事前設定サブグループにおいて一貫して観察された (Figure S1)。
無増悪生存期間 (PFS) の持続的な改善: 更新された解析においても、無増悪生存期間 (PFS) の利益は維持され、さらに強化されていることが確認された。中央値PFSは、デュルバルマブ群で17.2ヶ月 (95% CI, 13.1-23.9) であったのに対し、プラセボ群では5.6ヶ月 (95% CI, 4.6-7.7) であった。病勢進行または死亡のハザード比は0.51 (95% CI, 0.41-0.63) であり、初回報告のHR 0.52とほぼ同等であった (Figure S2)。この結果は、デュルバルマブがCRT後の病勢進行リスクを半減させる効果が長期的に持続することを示唆している。
遠隔転移および脳転移の抑制: 死亡または遠隔転移までの期間も、デュルバルマブ群で有意に延長された。中央値はデュルバルマブ群で28.3ヶ月 (95% CI, 24.0-34.9) であったのに対し、プラセボ群では16.2ヶ月 (95% CI, 12.5-21.1) であった (HR 0.53; 95% CI, 0.41-0.68) (Figure 3)。新規病変の発生率は、デュルバルマブ群で22.5%であったのに対し、プラセボ群では33.8%と有意に低かった (Table 1)。特に、新規脳転移の発生率はデュルバルマブ群で6.3%と、プラセボ群の11.8%と比較して約半減しており、デュルバルマブが全身的な抗腫瘍効果を発揮し、遠隔転移、特に脳転移の抑制に寄与することが示された。肺転移は12.6% vs 18.6%、リンパ節転移は6.5% vs 11.4%と、他の転移部位でも一貫した抑制効果が認められた。
客観的奏効割合 (ORR) と奏効持続期間 (DOR) の改善: 客観的奏効割合 (ORR) は、デュルバルマブ群で30.0% (95% CI, 25.8-34.5) と、プラセボ群の17.8% (95% CI, 13.0-23.6) と比較して有意に高かった (P<0.001)。奏効持続期間 (DOR) の中央値は、デュルバルマブ群ではデータカットオフ時点で未到達 (95% CI, 27.4ヶ月-NR) であったのに対し、プラセボ群では18.4ヶ月 (95% CI, 6.7-24.5) であった。18ヶ月時点での奏効維持率は、デュルバルマブ群で73.5%と、プラセボ群の52.2%と比較して高かった。これは、デュルバルマブによる奏効が長期にわたり持続することを示している。
後続治療と二次進行: 後続の全身療法を受けた患者の割合は、デュルバルマブ群で41.0% (n=195) であったのに対し、プラセボ群では54.0% (n=128) であった。特に、後続の免疫療法を受けた患者の割合は、デュルバルマブ群で8.0% (n=38) と、プラセボ群の22.4% (n=53) と比較して大幅に低かった。このことは、デュルバルマブの先行治療効果が大きく、後続治療への依存度が低いことを示唆している。二次進行または死亡までの期間は、デュルバルマブ群で28.3ヶ月 (95% CI, 25.1-34.7) と、プラセボ群の17.1ヶ月 (95% CI, 14.5-20.7) と比較して有意に延長された (HR 0.58; 95% CI, 0.46-0.73) (Figure S4)。
安全性プロファイル: 新たなデータカットオフ時点においても、デュルバルマブの安全性プロファイルは初回報告と一貫しており、新たな安全性シグナルは特定されなかった (Table S4)。グレード3または4のあらゆる原因による有害事象の発生率は、デュルバルマブ群で30.5%と、プラセボ群の26.1%と比較してわずかに高かった。有害事象による治療中止率は、デュルバルマブ群で15.4%と、プラセボ群の9.8%と比較して高かった。治療中止に至った最も頻度の高い有害事象は、デュルバルマブ群で肺臓炎 (4.8%)、放射線肺臓炎 (1.3%)、肺炎 (1.1%) であった。重篤な有害事象の発生率は、デュルバルマブ群で29.1%と、プラセボ群の23.1%と比較して高かった。有害事象による死亡は、デュルバルマブ群で4.4%、プラセボ群で6.4%であった。
考察/結論
PACIFIC試験のOS中間解析は、切除不能III期NSCLC患者に対する根治的CRT後のデュルバルマブ維持療法が、プラセボと比較して全生存期間 (OS) を有意かつ臨床的に意義のある形で延長することを示した。死亡のハザード比は0.68 (99.73% CI, 0.47-0.997; P=0.0025) であり、24ヶ月OS率はデュルバルマブ群で66.3% vs プラセボ群で55.6%であった。この結果は、先行研究であるPFS解析で示された利益が、確実にOS利益に転換したことを明確に示しており、PFSがOSの代替エンドポイントとして機能しうることを検証した重要な知見である。
先行研究との違い: これまでのCRT後の維持療法では、OSの有意な改善を示すことができなかったが (Kelly et al. 2008, Hanna et al. 2008)、本研究は免疫チェックポイント阻害剤であるデュルバルマブが、このアンメットニーズを満たすことを初めて実証した。従来の治療法と比較して、24ヶ月OS率66.3%という成績は、III期NSCLCの治療成績を大幅に向上させるものであり、この疾患の標準治療に新たなパラダイムを確立するものである。
新規性: 本研究で初めて、CRT後のデュルバルマブ維持療法が、切除不能III期NSCLC患者のOSを統計学的に有意かつ臨床的に意義のある形で延長することを示した。この結果は、放射線療法による免疫原性細胞死の誘導とPD-L1発現の増加が、その後のPD-L1阻害剤による抗腫瘍免疫応答の増強に繋がるという仮説を裏付けるものである。また、遠隔転移、特に脳転移の抑制効果は、デュルバルマブの全身的な抗腫瘍活性と、長期的なOS改善のメカニズムを新規に説明するものである。
臨床応用: 本知見は、切除不能III期NSCLCの治療戦略に革命をもたらし、CRT後のデュルバルマブ維持療法を新たな標準治療として確立するものである。この治療法は、患者の長期生存を改善し、遠隔転移のリスクを低減することで、臨床現場における患者の予後を大きく変える可能性を秘めている。後続の免疫療法を受けた患者がデュルバルマブ群で少なかった (8.0% vs 22.4%) にもかかわらずOS優位を達成したことは、デュルバルマブ自体の効果が強調され、その臨床的有用性を強く支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1発現レベルによる治療効果の差異や、特定のサブグループにおけるデュルバルマブの最適な投与期間の検討が残されている。また、CRTとデュルバルマブの併用タイミングや、他の免疫チェックポイント阻害剤との比較研究も今後の研究方向性として重要である。安全性面では新たなシグナルは認められなかったものの、長期的な免疫関連有害事象の発生率や管理に関するさらなるデータ蓄積も必要である。本試験の結果を受け、現在PACIFIC-R (実臨床コホート) や同時vs逐次CRT設計の探索など、後続研究が進行中である。
方法
本研究は、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の第III相臨床試験 (PACIFIC試験、ClinicalTrials.gov識別子: NCT02125461) として実施された。世界26カ国の235施設が参加した。
患者選択: 組織学的または細胞学的にIII期切除不能NSCLC (国際肺癌学会 [IASLC] 病期分類第7版に基づく) と診断された患者が対象とされた (Goldstraw 2010)。主要な適格基準は、白金製剤ベースの根治的同時化学放射線療法を少なくとも2サイクル以上受け、治療後1〜42日以内に病勢進行が認められないこと、およびWHOパフォーマンスステータスが0または1であることであった。患者はPD-L1発現状態に関わらず登録された。腫瘍組織サンプルは、Ventana SP263免疫組織化学 (IHC) アッセイを用いたPD-L1発現検査のために提供された。
治療介入: 適格患者は、デュルバルマブ群とプラセボ群に2:1の割合で無作為に割り付けられた。デュルバルマブ群の患者には、デュルバルマブ10mg/kgが2週間ごとに静脈内投与され、プラセボ群の患者には対応するプラセボが投与された。治療期間は最長12ヶ月間、または病勢進行、許容できない毒性、代替のがん治療の開始、同意撤回までとされた。無作為化は、年齢 (<65歳 vs ≥65歳)、性別、および喫煙歴 (現在または過去の喫煙者 vs 非喫煙者) に基づいて層別化された。治療中止または完了後も、患者は生存のために追跡調査された。
エンドポイント: 主要エンドポイントは、盲検下独立中央判定 (BICR) による無増悪生存期間 (PFS) と全生存期間 (OS) であった。OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。PFSは無作為化から客観的な病勢進行または病勢進行がない場合のあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次エンドポイントには、24ヶ月OS率、客観的奏効割合 (ORR)、奏効期間 (DOR)、死亡または遠隔転移までの期間、二次進行までの期間、および安全性プロファイルが含まれた。遠隔転移は、RECIST v1.1に基づき放射線照射野外の新規病変として定義された。二次進行までの期間は、PFS解析に使用された進行イベントに続く、最も早い進行イベントまたは死亡までの期間と定義された。
安全性評価: 有害事象、重篤な有害事象、バイタルサイン、身体診察、および臨床検査値が評価された。有害事象および重篤な有害事象は、MedDRA v19.1の器官別大分類および基本語によって分類され、CTCAE v4.03に従ってグレード分類された。免疫関連有害事象も特別に関心のある有害事象として評価された。
統計解析: OSの最終解析は、無作為化された713例中約491例の死亡が発生した時点 (69%のイベント発生率) で実施される計画であった。しかし、本中間解析のデータカットオフ日である2018年3月22日時点で、299例の死亡 (予測イベント数の61%) が発生し、事前に設定された有効性の境界値 (P<0.00274) を超えたため、独立データ安全性モニタリング委員会の勧告に基づき、本中間解析がOSの最終解析として報告された。有効性エンドポイントの解析には、intention-to-treat (ITT) 原則に従い、無作為化されたすべての患者が含まれた。OSおよびPFSなどの時間依存性エンドポイントについては、層別ログランク検定を用いて群間比較が行われ、ハザード比 (HR) とその99.73%信頼区間 (CI) が算出された。メディアン値とその95%CIはカプラン・マイヤー法を用いて推定された。サブグループ解析には非層別Cox回帰モデルが使用された。