- 著者: Rapp E, Pater JL, Willan A, Cormier Y, Murray N, Evans WK, Hodson DI, Clark DA, Feld R, Arnold AM, Ayoub JI, Wilson KS, Latreille J, Wierzbicki RF, Hill DP
- Corresponding author: Edna Rapp, MD (Tom Baker Cancer Centre, 1331 29th St NW, Calgary, Alberta, Canada T2N 4N2)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1988
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 2833577
背景
1980年代初頭、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する組み合わせ化学療法の生存期間延長効果は、医学界において依然として未解明であり、controversialな議論の的であった。多数のパイロット試験では高い奏効率が報告されたものの、これらの結果は大規模なランダム化比較試験ではしばしば再現されず、化学療法の毒性は高く、生存期間の有意な延長を明確に証明することは不足していた。例えば、Cormier et al. (1982) のMACC (methotrexate, Adriamycin, cyclophosphamide, CCNU) 試験では、化学療法群の全生存期間中央値 (mOS) が30.5週であったのに対し、プラセボ群は8.5週と有意な生存延長を示した (p<0.0005) が、この試験は症例数が少なく、その信頼性には限界があった。
一方で、化学療法の有効性に疑問を呈する知見も複数報告されていた。Durrant et al. (1971) の試験では、nitrogen mustardが最善支持療法 (BSC) と比較して有意な生存差を示さず (mOS 8.7ヶ月 vs 8.4ヶ月)、Laing et al. (1975) の試験では、procarbazineがBSCよりも有意に不良な結果を示した (p<0.05)。さらに、Woods et al. (1985) による暫定報告では、vindesineとcisplatin (VP) 併用療法がBSCと比較して生存期間に差がないとされた (mOS 24週 vs 22週)。Ganz et al. (1987) の試験でも、vinblastineがBSCと生存期間に有意差を示さなかった (mOS 19.9週 vs 14.4週、非有意)。このように、1980年代中期まで、「化学療法が進行NSCLC患者に真に有益であるか」という問いは未確立のままであった。
このような背景の中、Gralla et al. (1981) が高用量cisplatin (120 mg/m²) とvindesineの併用療法 (VP) で43%という高い奏効率と、奏効例における21.7ヶ月という顕著な生存中央値を報告し、大きな期待を集めた。この報告を受け、カナダ国立がん研究所 (NCIC) 臨床試験グループは、進行NSCLC患者を対象に、VP療法およびcyclophosphamide+doxorubicin+cisplatin (CAP) 療法をBSCと比較する多施設ランダム化試験を1982年に計画・実施した。本試験は、化学療法の生存ベネフィットに関する長年の論争に終止符を打つことを目指した。
目的
本カナダNCIC多施設ランダム化試験の目的は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、最善支持療法 (BSC) と比較して、vindesine+cisplatin (VP) またはcyclophosphamide+doxorubicin+cisplatin (CAP) の組み合わせ化学療法が、全生存期間 (OS)、奏効率 (ORR)、および無増悪生存期間 (PFS) を改善するかどうかを評価することであった。特に、化学療法が進行NSCLC患者の生存に有意なベネフィットをもたらすという仮説を検証し、当時の医学界で未確立であった化学療法の役割を明確にすることを目指した。また、二つの異なる化学療法レジメン (VPとCAP) の有効性と毒性を比較することも副次的な目的であった。本試験は、化学療法の倫理的正当性を確立し、その後の治療標準を確立するための重要なエビデンスを提供することを意図していた。
結果
患者背景の均衡: 3アーム試験 (Group A) における患者背景は、BSC群 n=50、CAP群 n=43、VP群 n=44 で、各群間で良好に均衡がとれていた (Table 1)。年齢中央値は56.6~58.7歳、男性が約75%を占めた。ECOG PS 0または1の患者が56~67%、PS 2の患者が33~44%であった。組織型では腺癌が48~51%、扁平上皮癌が24~39%、大細胞癌が19~24%であった。過去3ヶ月間の体重減少が10 kg未満の患者は81~91%であり、既往の放射線療法歴がある患者は34~42%であった。これらの予後因子は治療群間で統計的に有意な差はなく、良好に均衡していたことが示された。
全生存期間 (OS) の改善: 3アーム試験 (Group A) における全生存期間中央値 (mOS) は、BSC群で119日 (17週)、CAP群で173日 (24.7週)、VP群で228日 (32.6週) であった (Figure 3)。多変量Cox比例ハザードモデルで予後因子を調整した結果、VP群はBSC群と比較して有意な生存期間の延長を示した (HR 0.60, 95% CI 0.40-0.90, p=0.012)。CAP群もBSC群と比較して生存延長の傾向を示したが、統計的有意性は境界域であった (HR 0.67, 95% CI 0.44-1.02, p=0.051)。化学療法両群 (CAP+VP) を合計してBSC群と比較した場合も有意な生存延長が認められた (HR 0.63, 95% CI 0.44-0.91, p=0.024)。VP群とCAP群間には有意差は認められなかった。1年OS率は、BSC群10%、CAP群21%、VP群22%であった。
化学療法群間のOSおよびPFS比較: 全化学療法患者 (Group AとBの合計) におけるmOSは、CAP群で158日 (22.6週)、VP群で241日 (34.4週) であった (Figure 4)。この解析では、VP群はCAP群と比較して有意に優れたOSを示した (HR 0.69, 95% CI 0.52-0.92, p=0.014)。PFS中央値は、VP群で17.7週、CAP群で12.0週であった。多変量Coxモデルによる解析では、VP群はCAP群と比較して有意に優れたPFSを示した (HR 0.64, 95% CI 0.49-0.83, p=0.001)。PFSに影響を与える他の因子としては、ECOG PS 0または1、および症状発現から無作為化までの期間が3ヶ月以上であることが挙げられた。
奏効率 (ORR) の比較: 化学療法を受けた評価可能患者 n=172 例における奏効率 (CR+PR) は、VP群で25.3% (n=87例中22例)、CAP群で15.3% (n=85例中13例) であった (Table 3)。この差は統計的に有意傾向を示した (p=0.06)。CRはVP群で1例のみ報告され、他の奏効はすべてPRであった。多変量解析では、化学療法レジメン (p=0.004) と過去3ヶ月間の体重減少が10 kg未満であること (p=0.01) が奏効率の有意な予測因子であった。組織型、PS、病変進展度、アルカリフォスファターゼ値は奏効率と関連がなかった。
予後因子: 多変量解析により、OSに影響を与える最も強力な予後因子はECOG PS (0/1 vs 2) であった (Group A: p=0.009, 全化学療法患者: p=0.012)。その他、体重減少が5 kg未満であること (Group A: p=0.048)、組織型 (扁平上皮癌がやや不良、Group Aのみ: p=0.022)、限局性病変 (Stage III M0) が良好な傾向 (Group A: p=0.096) を示した。
治療関連毒性: 化学療法を受けた n=180 例の患者で毒性が評価された (Table 6)。Grade 3以上の重篤な毒性の発生率は以下の通りであった。白血球減少はCAP群で37.8%、VP群で40.0%と両群で高頻度に発生したが、有意差はなかった。血小板減少は両群で1.1%と低頻度であった。嘔吐はVP群で23.3%、CAP群で12.2%とVP群で高かったが、有意差はなかった。神経毒性 (Grade ≥3) はVP群で15.6%と有意に高頻度であったのに対し、CAP群では0%であり、この差は統計的に極めて有意であった (p<0.001)。腎毒性 (Grade ≥3) はVP群で3.3%に認められたが、CAP群では0%であった。治療関連死は4例報告された。CAP群で1例 (白血球減少と敗血症)、VP群で1例 (白血球減少と敗血症) が化学療法初回コース後に死亡した。その他、脱水症による死亡が1例、白血球減少による死亡が1例報告された。
用量強度とQoL評価: CAP群では、cyclophosphamide、doxorubicin、cisplatinの投与量が目標の87~88%とほぼプロトコール通りに維持された (Table 4)。一方、VP群では用量減少が多く、vindesineは目標の60% (1.3 mg/m²/週)、cisplatinは73% (17.4 mg/m²/週) にとどまった。これはVPの神経毒性などの副作用によるものと考えられる。プロトコールに組み込まれていたQuality of Life (QoL) 評価は、患者のコンプライアンス不良によりデータ収集が不十分であり、報告は困難であった。ECOG PSの改善や体重増加についても、治療群間で有意な差は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: 本カナダNCIC試験は、進行NSCLCに対する化学療法の有効性に関する長年の論争に終止符を打つ画期的な研究である。本研究は、vindesineとcisplatin (VP) 併用化学療法が、最善支持療法 (BSC) と比較して、統計学的に有意な全生存期間 (OS) の改善をもたらすことを初めて明確に実証した。VP群のmOSは32.6週であったのに対し、BSC群は17週であり、約15週 (約3.5ヶ月) の延長が認められた (HR 0.60, 95% CI 0.40-0.90, p=0.012)。この生存延長は「控えめではあるが意義ある (modest but meaningful)」改善と評価された。1年OS率がVP群で22%、BSC群で10%という差は、当時の治療標準から見て臨床的に極めて重要な知見であった。過去の多くの研究では、進行NSCLCに対する化学療法の生存ベネフィットは未確立であったり、小規模な試験でしか示されていなかったり、あるいは否定的な結果が報告されたりしていた (Durrant et al. 1971, Laing et al. 1975, Woods et al. 1985, Ganz et al. 1987)。本試験は、これらのこれまでの知見と異なり、大規模な多施設ランダム化試験として、プラチナベースの組み合わせ化学療法がBSCを上回る生存延長効果を持つことを明確に示した点で画期的である。特に、Cormier et al. (1982) のMACC試験は生存延長を示したが、症例数が少なく、本試験のような大規模なエビデンスはこれまで報告されていないものであった。
新規性: 本研究で初めて、進行NSCLC患者においてプラチナベースの組み合わせ化学療法がBSCと比較して有意な生存延長をもたらすことを、厳格なランダム化比較試験デザインで確立した。この知見は、進行NSCLCに対する化学療法が「意義がない」という当時の悲観的な見解を覆し、化学療法を標準治療として位置づけるための新規な倫理的正当性を確立した。また、VP療法がCAP療法と比較して、奏効率 (25.3% vs 15.3%, p=0.06) および無増悪生存期間 (17.7週 vs 12.0週, p=0.001) で優れる傾向を示し、全化学療法患者解析ではOS中央値でも有意に優位であったことは、VPレジメンの有効性を裏付けるこれまで報告されていない知見であった。
臨床応用: 本試験の結果は、進行NSCLC患者に対する化学療法の臨床的意義を確立し、その後の治療ガイドラインの基礎を築いた。化学療法が生存ベネフィットをもたらすことが示されたことで、PS良好な患者に対しては化学療法を積極的に検討すべきという臨床現場での認識が形成された。著者らは、本研究が「全患者への化学療法の一律実施」を推奨するものではないとしつつも、PS良好で体重減少が少ない良好予後患者に化学療法を試み、奏効と毒性を評価して継続判断するアプローチを支持した。これは、個別化医療の初期の概念を示唆するものであり、その後の臨床応用における治療選択の指針となった。
残された課題: 本試験は、BSCへのランダム化に倫理的懸念を示した施設が2アーム試験に参加したため、3アーム試験への登録が計画より遅れ、当初予定の275例に到達しなかったというlimitationがある。また、QoLデータの収集が不十分であったため、化学療法の生存ベネフィットが患者のQoL改善と両立するかどうかについては結論が出せなかった。これは今後の検討課題として残されている。VP療法で認められた高頻度の神経毒性 (Grade ≥3 15.6%, p<0.001) は、vindesineと高用量cisplatinの組み合わせの重大な制限因子であり、より有効で毒性の低い薬剤の開発が今後の研究方向性として示唆された。本試験の知見は、その後のプラチナ+新世代薬剤 (タキサン、ゲムシタビン、ビノレルビンなど) 併用療法の開発を加速させ、Schiller et al. 2002などの大規模比較試験の設計根拠となった。
方法
試験デザイン: 本研究は、NCIC臨床試験グループが実施した多施設無作為化比較試験 (RCT) である。1983年2月から1986年1月にかけて、カナダ国内の23施設が患者登録に参加した。試験は2つのグループに分かれて実施された。Group A (3アーム試験) には18施設が参加し、BSC、CAP、VPの3群間で患者を無作為に割り付けた (登録150例、適格137例)。このグループには、BSCへの無作為化が倫理的に許容されると判断した施設のみが参加した。Group B (2アーム試験) には5施設が参加し、CAPとVPの2群間で患者を無作為に割り付けた (登録101例、適格96例)。BSCアームへの参加を倫理的に受け入れられないと判断した施設がGroup Bに参加した。合計で251例が登録され、18例が不適格と判断された (小細胞肺癌への診断変更7例、測定可能病変なし3例、腎機能障害2例など)。最終的に233例が適格患者として解析対象となった。
適格基準: 組織学的に確認されたNSCLC (扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌) 患者が対象であった。病期は、遠隔転移を有する広範病変 (American Joint Committee [AJC] stage III M1) または手術や根治的放射線療法が不適と判断された大型限局性病変 (AJC stage III M0) であった。測定可能または評価可能病変を有し、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0-2、年齢70歳未満であった。ベースラインの血液検査値も基準を満たす必要があり、白血球数 >3,000/μL、血小板数 >100,000/μL、血清クレアチニン <1.5 mg/dL、血清ビリルビン <2 mg/dLが求められた。除外基準には、小細胞肺癌、前化学療法歴、脳転移、ECOG PS 3-4、活動性心疾患などが含まれた。
層別化因子: 無作為化は、組織型、ECOG PS、および過去3ヶ月間の体重減少 (10 kg以内または10 kg超) を層別化因子として実施された。Group AとGroup Bはそれぞれ独立して層別化された。
治療レジメン:
- VP群: Vindesine 3 mg/m²を週1回、cisplatin 120 mg/m²を6週ごとに投与した。
- CAP群: Cyclophosphamide 400 mg/m²、doxorubicin 40 mg/m²、cisplatin 40 mg/m²を4週ごとに投与した。
- BSC群: 化学療法は行わず、疼痛管理、上大静脈症候群、喀血、骨転移、脳転移、気管支閉塞に対する緩和放射線療法、抗生物質、高カルシウム血症や頭蓋内圧亢進時のコルチコステロイド投与は許可された。化学療法は、病勢進行、許容できない毒性、または患者の拒否があるまで継続された。
評価基準: 奏効はWHO基準に従い評価された。完全奏効 (CR) は全腫瘍病変の完全消失が6週間以上持続すること、部分奏効 (PR) は最大径積和の50%以上の減少が6週間以上持続することと定義された。全生存期間 (OS) は無作為化日から死亡日まで、無増悪生存期間 (PFS) は無作為化日から病勢進行または死亡日までと定義された。毒性はECOG毒性基準 (Oken et al. 1982) に基づいて評価された。
統計解析: 奏効率の比較にはロジスティック回帰が用いられた。生存期間および無増悪生存期間の解析には、Kaplan-Meier法による推定と、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析が用いられた。治療群間の比較にはlog-rank検定が適用された。CAP vs BSCおよびVP vs BSCの比較は片側検定、その他の比較は両側検定で行われた。最終フォローアップは1987年3月14日、解析は1987年3月30日に実施された。
検出力: 本試験は、化学療法群間でmOSが30週から45週に延長する差を検出する80%の検出力 (両側p=0.05) を有するように設計された。また、化学療法群とBSC群の間でmOSが15週から30週に延長する差を検出する85%の検出力 (片側p=0.05) を有するように設計された。当初の目標症例数は275例であった。