• 著者: Naveed Alam, Frances A Shepherd, Timothy Winton, Barbara Graham, David Johnson, Robert Livingston, James Rigas, Marlo Whitehead, Keyue Ding, Lesley Seymour
  • Corresponding author: Frances A Shepherd (Princess Margaret Hospital, Department of Medical Oncology and Hematology, Toronto, Ontario, Canada)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2005
  • Epub日: 2005-08-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15713522

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) は世界的に罹患率および死亡率の高いがんであり、2004年には米国で推定173,800例が新規診断され、160,400人が死亡すると予測された。カナダでは2003年に21,100例が診断され、18,800人が死亡したと報告されている。NSCLCの約80%は非小細胞組織型であるが、外科的切除可能なStage IおよびIIの腫瘍として発見される患者は全体の半数未満である。完全切除された早期NSCLC患者の5年生存率は38-67%と報告されており、再発は遠隔転移によるものが75%を占めることから、NSCLCが診断時に全身性疾患である可能性が高く、外科的切除と全身療法を併用することの潜在的利益が示唆される。

これまで、NSCLC完全切除後の補助化学療法に関する複数の第III相臨床試験が実施されてきたが、その結果は一貫していなかった。一部の試験では生存期間の改善が示されず、その理由として、試験の統計学的検出力不足や、術後化学療法のコンプライアンス不良が挙げられた。大規模なメタアナリシスでは、シスプラチンベースの補助化学療法が5年生存率で5%の絶対的利益をもたらす可能性が示唆され、国際補助肺がん試験 (IALT) Arriagada et al. NEnglJMed 2004によってこの利益が統計学的に有意に確認された。IALT、JBR.10、ANITA、CALGB 9633などの主要な第III相試験により、Stage IB-IIIAの完全切除NSCLCに対する補助化学療法は標準治療の一つとして確立された。Rapp et al. JClinOncol 1988の報告も、進行NSCLCにおける化学療法の有効性を示唆している。

しかし、これらの臨床試験においても、計画された化学療法を完全に遵守した患者の割合は50-69%程度と報告されており、実臨床でのコンプライアンスはさらに低い可能性が指摘されている。特に、用量強度と治療効果の関係、コンプライアンス不良の予測因子、副作用プロファイル、および周術期の患者特性(術式、肺機能、合併症)がコンプライアンスに与える影響については、大規模試験データを用いた詳細な解析が不足していた。JBR.10試験は、補助化学療法のコンプライアンスに関する詳細なデータ収集が行われており、本サブ解析は、補助化学療法の実臨床における最適化のための重要な洞察を提供するものと考えられた。これまでの研究では、コンプライアンスに影響を与える因子に関する包括的な解析が未解明な点が残されており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group (NCIC CTG) とIntergroup Trial JBR.10において、完全切除Stage IB (T2N0) およびStage II (T1-2N1) の非小細胞肺がん (NSCLC) 患者に投与された術後補助化学療法 (vinorelbine + cisplatin) のコンプライアンスを詳細に評価することである。具体的には、治療開始率、計画された全4サイクルの完了率、各薬剤の実際の投与量と用量強度、治療中止の主な理由、およびコンプライアンス不良に関連する患者および治療関連の予測因子を同定することを目的とした。さらに、これらの結果を既存の文献データと比較し、補助化学療法のコンプライアンスを向上させるための戦略的示唆を得ることも目的とした。

結果

治療開始率と完了率: 化学療法群215例中、10例 (5%) は化学療法を全く受けず、36例 (17%) は1サイクルも完了しなかった。全4サイクルを完了したのは108例 (50%) のみであった (Table 2)。1サイクル完了が37例 (17%)、2サイクル完了が14例 (7%)、3サイクル完了が20例 (9%) であった。この低い完了率は、他の主要なシスプラチンベースの補助化学療法試験と比較しても低い傾向を示した。例えば、IALT試験では69%、ANITA試験では50%、CALGB 9633試験 (カルボプラチン+パクリタキセル) では85%の完了率が報告されている (Table 6)。

シスプラチンおよびビノレルビンの投与状況: シスプラチンの累積投与量の中央値は336 mg/m² (最大計画量の84%) であり、平均投与量は275 mg/m²であった。ビノレルビンの累積投与量の中央値は208 mg/m² (最大計画量の52%) であり、平均投与量は199 mg/m²であった。ビノレルビンの用量強度がシスプラチンよりも低いのは、プロトコルで好中球数および血小板数に基づいて用量減量またはスキップが義務付けられていたためである。シスプラチンは第1日と第8日のみの投与であったため、骨髄抑制による用量減量は稀であった。

治療中止理由: 治療中止の主な理由は、患者拒否が62例 (29%)、毒性が27例 (13%) であった (Table 4)。疾患進行による中止は8例 (4%)、併発疾患による中止は4例 (2%)、死亡による中止は2例 (1%) であった。毒性による中止の内訳では、悪心/嘔吐、好中球減少、疲労、食欲不振、腎機能低下などが主要な要因として挙げられた。

コンプライアンス予測因子: 多変量ロジスティック回帰分析により、治療コンプライアンスに影響を与える統計学的に有意な因子が同定された (Table 3)。

  • 術式: 肺全摘術を受けた患者は、より少ない切除術を受けた患者と比較して、化学療法を完了しない可能性が有意に高かった (OR 0.34, 95% CI 0.17-0.68, p=0.002)。肺全摘術を受けた患者では、毒性による治療中止の割合が27% (14/54) であったのに対し、より少ない切除術を受けた患者では8% (13/161) であった (RR 3.2, 95% CI 1.6-6.4)。
  • 性別: 女性患者は男性患者と比較して、化学療法を完了しない可能性が有意に高かった (OR 0.49, 95% CI 0.26-0.91, p=0.02)。男性の完了率は54% (75/138) であったのに対し、女性は44% (34/77) であった。
  • 年齢: 高齢患者は治療を完了しない可能性が有意に高かった (OR 0.96, 95% CI 0.93-0.99, p=0.007)。これは、年齢が1歳増加するごとに完了率が4%低下することを示唆する。
  • : カナダでランダム化された患者は、米国でランダム化された患者と比較して、治療拒否による中止が有意に多かった (カナダ 41% (42/102) vs 米国 18% (20/113), RR 2.3, 95% CI 1.5-3.6)。また、早期に治療を中止した患者において、カナダの患者では重篤な毒性 (Grade 3/4) を経験した割合が38%であったのに対し、米国の患者では57%であった (p=0.08) (Table 5)。

毒性プロファイル: 早期に治療を中止した患者において、肺全摘術を受けた患者は、より少ない切除術を受けた患者と比較して、Grade 3または4の毒性を経験する可能性が有意に高かった (66% vs 34%, p=0.009)。最も頻繁に経験された重篤な毒性は、倦怠感、食欲不振、悪心、好中球減少であった。

用量強度と予後: 本解析では、実際のシスプラチン用量強度と全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) との直接的な相関は示されなかった。しかし、JBR.10の主要結果では、補助化学療法群が観察群と比較してOSおよびDFSを改善することが示されており、治療を完了した患者群ではこの利益が維持される傾向が示唆された。

考察/結論

JBR.10試験におけるvinorelbine + cisplatin補助化学療法のコンプライアンス解析は、完全切除NSCLC患者に対する術後化学療法の実施における重要な課題を浮き彫りにした。全4サイクルの完了率が50%に留まり、シスプラチンおよびビノレルビンの両薬剤ともに計画された用量強度を達成した患者が少ないことは、臨床試験環境下においても治療完遂が困難であることを示している。主な中止理由が患者拒否と毒性であったことから、副作用管理の最適化と患者教育の重要性が強調される。

先行研究との違い: 本研究は、他の補助化学療法試験では十分に検討されていなかった、術式、性別、年齢、および国籍がコンプライアンスに与える影響を詳細に解析した点で、これまでの報告と異なる。特に、肺全摘術後の患者でコンプライアンスが著しく低い (OR 0.34, 95% CI 0.17-0.68, p=0.002) ことは、術後の回復遅延、呼吸機能低下、および合併症による全身状態の悪化が原因であると考えられ、この集団における補助化学療法のリスク・ベネフィットバランスを慎重に評価する必要があることを示唆する。女性患者や高齢患者でコンプライアンスが低い傾向は、消化器毒性への感受性の違いや、治療に対する患者および医師の認識の違いに関連している可能性がある。Langer et al. JNatlCancerInst 2002も高齢患者における治療の課題を指摘している。

新規性: 本研究で初めて、カナダの患者が米国の患者と比較して、毒性の程度が低いにもかかわらず治療拒否による中止が有意に多い (41% vs 18%, RR 2.3, 95% CI 1.5-3.6) ことを新規に明らかにした。これは、医療制度や補助化学療法の利益に対する患者および医師の認識における国ごとの違いが、治療コンプライアンスに影響を与える可能性を示唆する。

臨床応用: これらの知見は、実臨床における補助化学療法のコンプライアンス向上戦略に直結する。具体的には、悪心・嘔吐に対する積極的な制吐療法(5-HT3拮抗薬、NK1拮抗薬、デキサメタゾン併用)、骨髄抑制に対するG-CSFの予防的投与、周術期における栄養管理やリハビリテーション、および肺全摘術後の患者に対する補助化学療法の適応の慎重な検討が挙げられる。また、患者教育とShared Decision-Making (共同意思決定) を強化し、治療の潜在的利益とリスクを十分に理解してもらうことが重要である。毒性プロファイルが良好なレジメン(例: CALGB 9633のカルボプラチン+パクリタキセル)の選択も、コンプライアンス向上に寄与する可能性がある。

残された課題: 本研究の限界として、①二次解析であるため因果関係の厳密な推論が困難であること、②cisplatin + vinorelbineレジメンに特化した結果であり、他のレジメンへの外挿には制限があること、③患者のQOL (Quality of Life) データとの統合解析が実施されていないこと、④周術期の併存症 (COPD、糖尿病など) の詳細な影響が評価されていないこと、が挙げられる。今後の検討課題として、これらの因子を前向きに評価し、補助化学療法のデリバリー最適化や、免疫チェックポイント阻害薬などの新規補助療法のコンプライアンスに関する研究を進める必要がある。

方法

NCIC CTG JBR.10試験 (NCT00002583) は、1994年2月から2001年4月にかけて実施された、完全切除Stage IB (T2N0) またはStage II (T1-2N1) NSCLC患者を対象とした多施設共同ランダム化比較試験 (RCT) である。本試験では、患者をvinorelbine + cisplatinによる補助化学療法群 (n=242) と観察群 (n=240) に1:1でランダム化した。本解析では、化学療法群のうち、vinorelbineの初期高用量 (30 mg/m²) で治療を受けた患者を除外し、vinorelbineの用量減量 (25 mg/m²) 後に化学療法群にランダム化された215例を対象とした。

計画された化学療法レジメンは、シスプラチン (cisplatin) 50 mg/m²を第1日と第8日に、ビノレルビン (vinorelbine) 25 mg/m²を第1、8、15、22日に投与する28日サイクルを4回繰り返すものであった。ビノレルビンの用量は、初期コホートで許容できない毒性が観察されたため、1995年8月のプロトコル改訂により30 mg/m²から25 mg/m²に減量された。化学療法は手術後42日以内に開始されることとされた。

本解析の主要評価項目は、①全4サイクルの化学療法完了率、②各薬剤 (シスプラチン、ビノレルビン) の累積投与量および用量強度、③用量減量または治療遅延の頻度、④治療中止の主な理由、⑤コンプライアンスに影響を与える患者および治療関連因子 (年齢、性別、ECOGパフォーマンスステータス、術式、ランダム化された国など) の同定であった。毒性評価はNCIC Expanded Common Toxicity Criteria [16] に基づいて行われた。

統計解析には、ベースラインの予後因子が治療コンプライアンスに与える影響を評価するために多重ロジスティック回帰分析を用いた。カテゴリカル変数の比較にはカイ二乗検定を使用し、p値が0.05未満を統計的有意と判断した。また、治療中止のハザード比を算出するためにCox回帰分析も適用された。さらに、IALT、ANITA、CALGB 9633などの他の主要な補助化学療法試験におけるコンプライアンスデータとの比較も実施し、JBR.10試験の結果を広範な文献的文脈の中で評価した。