• 著者: Cullen MH, Billingham LJ, Woodroffe CM, Chetiyawardana AD, Gower NH, Joshi R, Ferry DR, Rudd RM, Spiro SG, Cook JE, Trask C, Bessell C, Connolly CK, Tobias J, Souhami RL
  • Corresponding author: M.H. Cullen (Queen Elizabeth Centre for the Treatment of Cancer, University Hospital Birmingham, UK)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10506617

背景

1990年代初頭、切除不能非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するシスプラチンベースの化学療法は、その有効性が小規模な臨床試験や1995年のNSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995 (52試験、個人データ) によって示されつつあった。しかし、生存期間の延長は限定的であり (中央値生存期間 (mOS) の差は1〜3ヶ月程度)、治療に伴う毒性がベネフィットを上回るのではないかという懸念から、英国や欧州では化学療法が標準治療として広く採用されるには至っていなかった。特に英国では、局所進行NSCLCに対しては根治的放射線療法 (RT) のみが、進展期NSCLCに対しては緩和ケア (PC) のみが標準治療とされ、化学療法は臨床試験以外ではほとんど用いられていなかった状況である。このため、化学療法の臨床的価値に関するコンセンサスは未確立であり、治療選択肢としての普及には大きなギャップが存在していた。

このような背景の中、1988年の第II相試験において、マイトマイシン (Mitomycin C: MMC)、イホスファミド (Ifosfamide: IFM)、シスプラチン (Cisplatin: CDDP) の3剤併用療法 (MIC) が、高い奏効率と良好な忍容性を示すことが報告された。これら3剤は、当時のNSCLCに対する単剤として最も活性が高い薬剤と考えられていた。しかし、これらの有望な結果にもかかわらず、大規模なランダム化比較試験によって、化学療法の生存期間延長効果と生活の質 (QOL) への影響を定量的に評価し、その臨床的意義を確立する必要があった。特に、化学療法がQOLを損なうという懸念が、その導入を阻む主要な要因の一つであったため、QOL評価は極めて重要であった。これまでの研究では、QOLに関する客観的なデータが不足しており、治療の全体的なベネフィットを正確に評価する上で大きな課題が残されていた。

BirminghamおよびLondon Lung Cancer Groupは、このギャップを埋めるため、局所進行NSCLC (MIC1試験) と進展期NSCLC (MIC2試験) を対象に、同一の試験デザインで2つの並行第III相試験を同時に実施することを計画した。これにより、切除不能NSCLC全体に対する化学療法の効果を包括的に評価し、特にQOLへの影響を詳細に検証することが目的とされた。当時の英国の臨床現場において、化学療法が標準治療として確立されていない状況下で、その有効性と安全性を大規模なデータで示すことは、今後の治療戦略を大きく変える可能性を秘めていた。先行研究では、小規模な試験が多く、統計的検出力が不足していたため、化学療法の真のベネフィットを明確にすることは困難であった。本研究は、この不足を解消し、化学療法の役割を再評価するための重要なステップとして位置づけられた。

目的

本研究の目的は、切除不能非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした2つの並行第III相ランダム化比較試験を通じて、マイトマイシン、イホスファミド、シスプラチン併用化学療法 (MIC) の有効性と安全性を評価することである。

具体的には、以下の2つの主要な目的が設定された。

  1. MIC1試験 (局所進行NSCLC): 局所進行切除不能NSCLC患者において、MIC化学療法に根治的放射線療法 (RT) を追加する治療が、根治的RT単独と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを検証する。
  2. MIC2試験 (進展期NSCLC): 進展期NSCLC患者において、MIC化学療法に緩和ケア (PC) を追加する治療が、緩和ケア単独と比較してOSおよび生活の質 (QOL) を改善するかどうかを検証する。

さらに、これら2つの試験のデータを統合解析することで、切除不能NSCLC全体に対する化学療法の生存期間改善効果を定量的に評価し、病期やその他の予後因子を調整した上でのMIC化学療法の独立した効果を明らかにすることも目的とされた。QOL評価は、化学療法の毒性が生存ベネフィットを上回るという当時の懸念に対し、客観的なデータを提供することを意図していた。

結果

1988年3月から1996年3月までに、合計820名の患者がランダム化され、MIC1試験で461名、MIC2試験で359名であった。このうち、MIC1試験で15名、MIC2試験で8名が不適格とされ、最終的に797名の適格患者が解析対象となった (MIC1: n=446、MIC2: n=351)。両試験において、治療群間で性別、年齢、PS、組織型などの患者背景因子に有意な偏りは認められなかった (Table 2)。MIC1試験では男性が76-78%、扁平上皮癌が68-71%、PS 0が40-42%を占めた。MIC2試験では男性が69-75%、扁平上皮癌が54-59%、PS 2が26-31%を占めた。中央年齢はMIC1で64歳、MIC2で62-64歳であった。

MIC1試験における全生存期間 (局所進行NSCLC): MIC化学療法とRT併用群 (CT+RT群) のmOSは11.7ヶ月 (95% CI 9.5-14.0) であったのに対し、RT単独群のmOSは9.7ヶ月 (95% CI 8.0-11.4) であった。CT+RT群はRT単独群と比較して生存期間が長い傾向を示したが、統計学的な有意差には達しなかった (ログランク検定 P=.14)。1年生存率はCT+RT群で49% (95% CI 43-56%)、RT単独群で41% (95% CI 35-48%) であった。2年生存率はそれぞれ20%と16%、3年生存率は12%と8%であった (Table 4, Fig 1)。

MIC2試験における全生存期間 (進展期NSCLC): MIC化学療法と緩和ケア併用群 (CT+PC群) のmOSは6.7ヶ月 (95% CI 5.4-8.0) であったのに対し、緩和ケア単独群 (PC単独群) のmOSは4.8ヶ月 (95% CI 4.0-5.7) であった。CT+PC群はPC単独群と比較して有意な生存期間の延長を示した (ログランク検定 P=.03)。1年生存率はCT+PC群で25% (95% CI 18-32%)、PC単独群で17% (95% CI 12-23%) であった。2年生存率はそれぞれ5%と4%、3年生存率は4%と1%であった (Table 4, Fig 1)。

両試験合算のプール解析における全生存期間: 両試験のデータを統合した解析では、化学療法群が標準治療群と比較して有意に生存期間が優位であることが示された (ログランク検定 P=.01)。Cox比例ハザード回帰分析により、試験 (病期)、PS、組織型で調整した後も、MIC化学療法の生存期間に対する正の効果は有意であった (P=.01)。標準治療群の死亡ハザード比は化学療法群に対して1.21 (95% CI 1.04-1.41, P=.01) であり、これはMIC化学療法群の死亡ハザードが標準治療群と比較して約17%低下したことを意味する (Table 6)。独立した予後因子としては、試験 (MIC1 vs MIC2) (HR 1.74, 95% CI 1.48-2.04, P=.0001)、PS (0/1/2段階) (HR 1.20, 95% CI 1.08-1.34, P=.0008)、および組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮) (HR 1.25, 95% CI 1.07-1.47, P=.006) が同定された (Table 5)。

奏効率と治療遵守性: MIC1試験におけるMIC化学療法の客観的奏効率 (完全奏効 (CR) + 部分奏効 (PR)) は54% (105/196, 95% CI 47-61%) で、CRは10%であった。MIC2試験では32% (49/155, 95% CI 24-39%) で、CRは2%であった。MIC1試験のCT+RT群における全治療後の客観的奏効率は53% (98/185, 95% CI 46-60%) であったのに対し、RT単独群では45% (83/185, 95% CI 38-52%) であり、有意差はなかった (P=.12)。 完全4コースの化学療法完遂率は、MIC1試験で62% (138/222)、MIC2試験で50% (88/175) であった。化学療法の中止の主な原因は、MIC1では進行/無効応答が35例、毒性が28例、患者希望が4例であった。MIC2では進行/無効応答が34例、毒性が24例、患者希望が3例であった。MIC1のCT+RT群では68%の患者が計画された根治的RT線量を完了した (RT単独群では85%)。

毒性: MIC1試験のCT+RT群では、治療関連死が3例発生した (いずれも好中球減少性敗血症、うち1例は腎不全を合併)。また、CT+RT後にRT誘発性肺炎が3例発生し、うち1例は感染を合併した。MIC2試験では治療関連死は報告されなかった。化学療法の早期中止に至った毒性は、MIC1で28例、MIC2で24例であった。

生活の質 (QOL): QOL評価は、MIC1試験の67名 (CT+RT群42名、RT単独群25名) とMIC2試験の109名 (CT+PC群67名、PC単独群42名) のサブグループで実施された。ベースラインから6週目までのQOLスコアの変化は、MIC1試験のCT+RT群で-0.22 (95% CI -0.36 to -0.08) であったのに対し、RT単独群では+0.28 (95% CI 0.03-0.53) であった。両群間の差は統計学的に有意であった (P=.0002)。MIC2試験では、CT+PC群で-0.09 (95% CI -0.21 to 0.03) であったのに対し、PC単独群では+0.20 (95% CI 0.01-0.40) であった。両群間の差は統計学的に有意であった (P=.007)。負の値はQOLの改善を、正の値は悪化を示しており、化学療法群ではQOLが改善し、標準治療群では悪化したことが示された。患者特性 (性別、PS、年齢、組織型) で調整した後も、MIC1ではP=.0003、MIC2ではP=.06であり、QOL改善の傾向は維持された。

考察/結論

本研究は、切除不能NSCLC患者を対象としたMIC化学療法の生存期間改善効果を、当時最大規模となる797例のランダム化データで示した画期的な報告である。

先行研究との違い: 進展期NSCLCを対象としたMIC2試験において、mOSがMIC+PC群で6.7ヶ月 (95% CI 5.4-8.0) vs PC単独群で4.8ヶ月 (95% CI 4.0-5.7) と有意に延長した (P=.03)。この絶対差1.9ヶ月は、Rapp et al. JClinOncol 1988によるカナダ多施設試験や同時代の欧州試験の結果と一致しており、シスプラチンベース化学療法の生存ベネフィットを大規模な単一試験で再確認した点に大きな意義がある。局所進行例 (MIC1) では統計的有意差には達しなかった (P=.14) が、これはRT単独群のmOSが9.7ヶ月と想定よりも良好であったこと、および統計的検出力が不足していた可能性が考えられる。この結果は、同時期のフランス試験 (Le Chevalier et al. 1991) やRTOG 88-08と同様の傾向であり、これまでの小規模試験やメタ解析では明確に示されなかった化学療法の役割を、大規模な前向き試験で実証した点で、先行研究とは一線を画す。

新規性: 本試験の最も重要な新規性は、QOL評価を大規模に組み込んだ点にある。当時、「化学療法は毒性がQOLを損なう」という懸念が化学療法忌避の主因とされていたが、本研究で初めて、MIC化学療法が治療開始後6週間でQOLスコアを有意に改善し、無治療 (または放射線単独) 群ではQOLが悪化するという逆説的な結果が示された (MIC1: P=.0002, MIC2: P=.007)。これは、腫瘍縮小に伴う症状緩和 (呼吸困難、疼痛、全身倦怠の軽減) が、急性期の治療毒性を上回ることを定量的に証明したものであり、化学療法の「生存への小さな改善しかない」という批判に対して、「QOLの大きな改善がある」という強力な反論根拠を提示した。この知見は、Silvestri et al. (1998) による患者選好調査で「症状が大きく改善するなら68%が化学療法を選択する」という結果とも整合しており、化学療法の価値を多角的に評価する新たな視点を提供した。

臨床応用: プール解析における死亡ハザード比1.21 (95% CI 1.04-1.41, P=.01) は、MIC化学療法が切除不能NSCLC患者全体の死亡リスクを約17%減少させることを示しており、その臨床的有用性を強く支持する。本試験の時点で、MICレジメンの奏効率 (MIC1で54%、MIC2で32%) は、パクリタキセル/カルボプラチン、ゲムシタビン/シスプラチン、ビノレルビン/シスプラチンなどの新規薬剤併用レジメンと同等以上と評価された。これにより、MIC化学療法は、その後のNSCLC化学療法開発における重要な比較対照となり、1999年のNSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995の裏付けともなった。「最善支持療法 (BSC) との比較試験における化学療法のベネフィット確立」という歴史的ベンチマークとしての役割を果たしたことは、その後のNSCLC治療ガイドラインの変革に大きく貢献した。

残された課題: 今後の検討課題として、MIC1における局所進行例での有意差不達成の要因 (症例数不足、RT線量均一化の課題など) の詳細な分析が挙げられる。また、QOL評価が一部施設の非ランダムサブグループに限定された点もlimitationとして認識される。さらに、本試験はPD-L1発現やドライバー遺伝子変異解析が一般的でなかった時代に実施されており、現代の精密医療の観点から見ると、患者選択の精緻化の余地が残されている。これらの課題は、将来のNSCLC治療研究の方向性を示すものである。

方法

本研究は、英国の多施設共同前向きランダム化比較試験 (RCT) として、1988年3月から1996年3月にかけて患者登録が行われた。MIC1試験とMIC2試験は、同一の試験デザインで同時並行的に実施された第III相試験である。

対象患者: 75歳以下の歩行可能なNSCLC患者で、組織学的または細胞学的にNSCLC (扁平上皮癌、腺癌、大細胞未分化癌) と診断され、未治療かつ測定可能または評価可能な病変を有することが条件とされた。WHOパフォーマンスステータス (PS) は0、1、または2であった。MIC1試験の対象は、遠隔転移がなく、胸膜滲出液もなく、根治的RTの照射野に収まる腫瘍を有する局所進行NSCLC患者であった。MIC2試験の対象は、MIC1試験の基準を満たさない進展期または転移性NSCLC患者であった。上大静脈症候群、脳転移、既往悪性腫瘍、脊髄圧迫、腎機能障害 (GFR < 70 mL/minまたは血清クレアチニン > 115 µmol/L) の患者は除外された。病期診断は主に臨床的に行われ、胸部X線、血液検査、生化学検査などに基づいた。

治療プロトコル:

  • 化学療法 (MIC): マイトマイシン (Mitomycin C: MMC) 6 mg/m² (Day 1、静脈内 (IV) ボルス)、イホスファミド (Ifosfamide: IFM) 3 g/m² + メスナ1 g/m² (Day 1、IV 3時間)、シスプラチン (Cisplatin: CDDP) 50 mg/m² (Day 1、IV 1時間) を21日ごとに最大4サイクル投与した。制吐剤として、試験初期は高用量メトクロプラミドとデキサメタゾンが、後に5-HT3 (5-hydroxytryptamine-3) 受容体拮抗薬 (グラニセトロンまたはオンダンセトロン) に変更された。進行病変、2サイクル後の病変不変、局所症状の改善なし、または許容できない毒性の場合には化学療法を中止した。
  • MIC1試験 (局所進行): 患者は、MIC化学療法最大4サイクル後に根治的RT (CT+RT群) を受ける群、またはRT単独群にランダム化された。RTは、最低40 Gy/15分割相当の総線量を必須とした。CT+RT群では、MIC完了3週間後にRTを開始したが、CTが奏効しない場合は早期にRTを開始することも可能であった。
  • MIC2試験 (進展期): 患者は、MIC化学療法最大4サイクルに緩和ケア (CT+PC群) を追加する群、または緩和ケア単独群 (PC群) にランダム化された。緩和ケアには、RT、抗菌薬、鎮咳薬、鎮痛薬などが含まれた。

QOL評価: QOLデータは、QOL研究看護師が配置された3施設からの患者サブグループ (n=176) で収集された。欧州癌研究治療機構 (EORTC) QLQ-LC13に基づく12項目の肺癌症状スケールを使用し、ベースラインから6週目までのQOLスコアの変化を評価した。スコアは0 (なし) から3 (非常に多い) の4段階で評価され、負の値はQOLの改善、正の値は悪化を示した。

主要評価項目: 全生存期間 (OS) は、ランダム化日から死亡日または最終確認日までと定義された。

統計解析: 生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、治療群間の差はログランク検定で評価された。2つの試験のプール解析では、試験 (病期)、PS、組織型を層別因子として調整した層別ログランク検定およびCox比例ハザード回帰モデルが用いられた。検出力は、MIC1試験で5年OS率が5%から10%へ、MIC2試験で1年OS率が10%から20%へ改善することを、検出力80%、有意水準5%で検出するために、それぞれn=500およびn=300の患者数を計画した。QOLスコアの変化は、t検定および多重回帰分析を用いて比較された。