• 著者: Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group
  • Corresponding author: L A Stewart (MRC Cancer Trials Office, Cambridge, UK); J P Pignon (Institut Gustave Roussy, Villejuif, France)
  • 雑誌: BMJ (British Medical Journal)
  • 発行年: 1995
  • Epub日: 1995-10-07
  • Article種別: Meta-Analysis
  • PMID: 7580546

背景

1990年代前半まで、NSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) に対する細胞傷害性化学療法の役割は30年以上の研究を経てもなお未解決であった。世界で年間50万件以上の新規肺癌が診断され、約80%がNSCLCであり、腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌を含む。全病期の5年生存率は約12%であり、手術適応は全体の約20%に過ぎない。小細胞肺癌では化学療法が標準治療として定着していたが、NSCLCにおけるその役割は国際的なコンセンサスレポートでさえ「術後化学療法は効果未証明で実験的とみなすべき」と結論するほど不確実であった。

50を超えるランダム化比較試験 (RCT) がおよそ10,000例を対象に化学療法の効果を検討してきたが、400例超の試験はわずか4件、約半数の試験は各100例未満であり、個々の試験では中等度の治療効果を検出する統計的検出力が不足していた。このため、一部の試験で有意な結果(化学療法に有利な方向および不利な方向の両方)が報告されたものの、大多数の試験は結論を出せず、治療効果に関するエビデンスのギャップは埋まらないままであった。代表的な先行試験として、進行 NSCLC において支持療法との比較で生存改善を初めて示した Rapp et al. JClinOncol 1988 (n=150)、局所進行 NSCLC への導入化学療法+放射線療法を比較した Dillman ら (1990) (n=155)、シスプラチン同時投与放射線療法を検討した Schaake-Koning ら (1992) (n=331) などが報告されたが、いずれも個別試験としては化学療法の有効性を確定するには統計的検出力が不足しており、治療の標準的位置づけを確立するには至らなかった。Peto らによれば、個別患者データ (individual patient data, IPD) を用いた系統的メタ解析こそが治療効果の最も信頼性が高く偏りのない評価方法であると主張されており、この手法の有効性は早期乳癌試験グループの研究等で実証されていた。

このような状況において、化学療法レジメンの種類(特にシスプラチン含有かどうか)による効果の差、治療設定(手術後補助・根治的放射線療法との併用・支持療法との併用)ごとの効果量の定量化という点が最も手薄であった。本研究は、英国医学研究評議会 (MRC) 癌試験事務局、フランスのギュスターヴ・ルシー研究所、イタリアのマリオ・ネグリ研究所が共同で主導し、Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group として実施された大規模 IPD メタ解析である。

目的

非小細胞肺癌に対する細胞傷害性化学療法の生存への効果を、以下の4つの主要な治療設定で定量的に評価することを主な目的とした。(1) 早期疾患:手術単独 vs 手術+化学療法、(2) 早期疾患:手術+放射線療法 vs 手術+放射線療法+化学療法、(3) 局所進行疾患:根治的放射線療法単独 vs 根治的放射線療法+化学療法、(4) 進行期疾患:最良の支持療法 (best supportive care, BSC) 単独 vs BSC+化学療法。副次的目的として、化学療法の効果が患者サブグループ(性別・年齢・組織型・病期・パフォーマンスステータス)間で一貫しているかどうかを評価すること、およびシスプラチン含有レジメンと非シスプラチンレジメン間の効果差を明確にすることとした。

結果

術後補助化学療法:シスプラチンベースで生存改善傾向、長期アルキル化剤は有害:

手術単独 vs 手術+化学療法を比較した14試験(n=4357, 2574死亡)を解析した (Table I)。長期アルキル化剤レジメン(主にシクロホスファミド・ニトロソウレア)を用いた5試験(n=2145, 1670死亡)では HR 1.15 (95% CI 1.04-1.27, p=0.005) と化学療法群で生存が有意に悪化し、2年生存率で4%、5年生存率で5%の絶対的有害差を示した。これに対し、シスプラチンベース併用化学療法を用いた8試験(n=1394, 614死亡)では HR 0.87 (95% CI 0.74-1.02, p=0.08) と死亡リスクを13%減少させる傾向を示し、2年生存率で3%、5年生存率で5%の絶対的利益に相当した (Fig 1, Fig 2)。その他レジメン(テガフール・UFT (tegafur-uracil) 主体)の3試験では HR 0.89 (p=0.30) であり結論不能であった。化学療法カテゴリー間に統計的に有意な交互作用が認められた(交互作用検定 p=0.004)(Table II)。

術後放射線療法への化学療法追加:効果は限定的:

手術+放射線療法 vs 手術+放射線療法+化学療法を比較した7試験(n=807, 619死亡)を解析した。全体 HR 0.98 (95% CI 0.83-1.16, p=0.76) と統計的有意差は認められなかった (Fig 3)。シスプラチンベースレジメンの6試験に限定した解析でも HR 0.94 (95% CI 0.79-1.11, p=0.46) であり、2年および5年生存率での絶対的利益はそれぞれ2%にとどまった (Fig 4)。試験間の統計的異質性は認められなかった (p=0.73)(Table II)。

根治的放射線療法+シスプラチンベース化学療法:局所進行例で有意な生存改善:

根治的放射線療法単独 vs 根治的放射線療法+化学療法を比較した22試験(n=3033, 2814死亡)を解析した (Table IV)。シスプラチン含有化学療法を用いた11試験(n=1780, 1696死亡)において HR 0.87 (95% CI 0.79-0.96, p=0.005) と有意な死亡リスク減少が示された (Fig 5, Fig 6)。これは2年生存率で4% (95% CI 1%-7%)、5年生存率で2% (95% CI 1%-4%) の絶対的生存ベネフィットに相当した。ビンカアルカロイド/エトポシドを含むが非シスプラチンの3試験では HR 0.87 (p=0.23) と傾向を示したが、信頼区間が広く確定的な結論には至らなかった。長期アルキル化剤使用の5試験では HR 0.98 (p=0.81) と効果なし(Table II)。カテゴリー間の交互作用は非有意 (p=0.59)。放射線療法+シスプラチンベース化学療法11試験における試験間の統計的異質性は低く (χ² p=0.89)、各試験の HR 点推定値はおおむね1.0未満で方向性は一貫していた。放射線量(中央値 55 Gy, 範囲 35-66 Gy)や化学療法レジメン(MVP、CAP 等)の多様性にもかかわらず一貫した効果が認められ、シスプラチンの全身療法としての貢献が示唆された。2年生存率4% (95% CI 1%-7%)・5年生存率2% (95% CI 1%-4%) の絶対的利益は、n=1780例を対象としたこの解析において、例えばベースライン2年生存率20%の局所進行 NSCLC 患者では化学療法追加後に約24%(絶対改善4%)となることを意味した。

進行期:シスプラチンベース化学療法の支持療法への追加で最大の生存改善:

BSC 単独 vs BSC+化学療法を比較した11試験(n=1190, 1144死亡)を解析した (Table V)。シスプラチンベース化学療法を用いた8試験(n=778, 761死亡)において HR 0.73 (95% CI 0.63-0.85, p<0.0001) と最も大きく有意な生存ベネフィットが示された (Fig 7, Fig 8)。これは1年生存率で10% (95% CI 5%-15%) の絶対的改善、または中央生存期間で1.5ヶ月 (median survival 1 month から2.5 months の幅) の延長に相当した。長期アルキル化剤の2試験では HR 1.26 (95% CI 0.96-1.66, p=0.095) と化学療法の有害傾向を示したが有意差なし。極端な効果を示したCEP-85試験を除外した感度解析でも HR 0.77 (95% CI 0.63-0.85, p=0.001) と有意性が維持された(Table II)。1年生存率はシスプラチンベース化学療法追加群が BSC 単独群より約10%高く (95% CI 5%-15%)、また6ヵ月生存率においても化学療法群で一定の絶対改善が認められた。n=778例(シスプラチンベース8試験)の解析では、中央生存期間延長は約1.5ヵ月にとどまるが、長期生存への影響として1年生存率での絶対差が最大であり、NSCLCの急速な疾患進行に伴って3年以降では差が縮小することが生存曲線から読み取れる。なお、化学療法による毒性(嘔気・脱毛・骨髄抑制等)や生活の質 (quality of life, QOL) への影響の定量的評価は本メタ解析の主要エンドポイントではないが、生存改善と毒性のバランスは個々の患者の意思決定において重要であることが本論文でも明記されている。

サブグループ解析:効果は患者背景によらず一貫:

シスプラチンベース試験を対象に、年齢・性別・組織型(腺癌/扁平上皮癌/その他)・パフォーマンスステータス(良好/不良)・病期(Stage I-II vs III、非転移性 vs 転移性)別の事前規定サブグループ解析を実施した (Fig 9)。いずれのサブグループにおいても化学療法効果の大きさに統計的に有意な差は認められなかった。病期データは全患者の92%、パフォーマンスステータスは94%、年齢・性別・組織型は99%以上で取得されており、サブグループ解析の信頼性は高い。相対的効果(ハザード比)は全サブグループで一貫していたが、ベースライン生存率が異なることにより絶対的利益は患者によって異なることが示された(例:術後補助療法での HR 0.87 は、2年ベースライン生存率80%の患者では2%の絶対利益にとどまるが、40%の患者では5%の絶対利益をもたらす)。年齢(≤60 vs >60歳)・性別・組織型(腺癌 vs 扁平上皮癌 vs 大細胞癌)・PS (performance status, 0-1 vs 2+)・病期(Stage I-II vs Stage III vs 転移性)の各サブグループ間で、シスプラチンベース化学療法の相対的効果量(HR)に統計的有意な交互作用は認められなかった(全 p>0.1, Fig 9)。この一貫性は、NSCLCにおける化学療法の効果が特定サブグループに限定されないことを示し、後続の大規模補助化学療法試験(IALT、JBR.10、ANITA 試験など)の対象選択設計に直接的な根拠を提供した。

考察/結論

これまでの研究と対照的な結果:

本メタ解析は、個々の小規模試験では到底達成できない統計的検出力をもって、シスプラチンベース化学療法がNSCLCの全主要治療設定で生存を改善することを実証した。既報の個別試験では化学療法の有無に関する結論が混在し、「化学療法は無益またはむしろ有害」という悲観論が支配的であった。本研究は、古い長期アルキル化剤レジメンが術後補助療法で有意に有害(HR 1.15, p=0.005)であったのに対し、シスプラチンベースの現代的レジメンは全設定で生存に有利であるという明確な区別を示した。この化学療法カテゴリーによる効果の質的差異は、これまで報告されておらず、今後の試験設計に直接的な影響を与える知見である。さらに、サブグループ間で効果の大きさが一貫していることも、これまでの研究では明確化されていなかった重要な発見である。

新規性と意義:

本研究で新規に実証された点は以下の3点である。第1に、シスプラチンベース化学療法が手術後補助療法(HR 0.87, p=0.08)・根治的放射線療法との同時または逐次併用(HR 0.87, p=0.005)・支持療法への追加(HR 0.73, p<0.0001)という全ての主要設定で生存を改善するという包括的エビデンスを、novel な IPD アプローチで初めて提供したことである。第2に、長期アルキル化剤が術後補助療法で有害であることを統計的有意水準で示したことであり、これはその後の補助化学療法研究の方向性を根本的に変えた。第3に、化学療法の相対的効果が年齢・性別・組織型・病期・パフォーマンスステータスを問わず一貫していることを95%以上のデータカバレッジで示した点であり、シスプラチンダブレットの普遍的適応可能性の根拠となった。

臨床応用:

本研究の知見は、NSCLCの治療戦略に直接的な臨床的含意を持つ。進行期NSCLCに対するシスプラチンベース化学療法の BSC への追加(HR 0.73, 1年生存率絶対改善+10%)は、その後の大規模試験(例:Rapp et al. JClinOncol 1988の NCIC CTG BR5 (bronchogenic cancer trial No.5) 試験など)によって裏付けられ、プラチナダブレット化学療法の標準治療確立に貢献した。術後補助療法における HR 0.87(5年生存率+5%)という推定値は、その後の IALT や JBR.10 などの大規模補助化学療法試験の仮説設定に用いられ、Arriagada et al. NEnglJMed 2004Douillard et al. JClinOncol 2006 による術後シスプラチン補助化学療法の標準化へと直結した。また、根治的放射線療法との化学療法の同時投与が局所進行NSCLCの標準治療として定着した理論的根拠を本メタ解析が提供した点でも臨床的意義は大きい。なお、本解析はレジメン全体の効果を捉えており、シスプラチン自体とその併用薬(ビンカアルカロイド・エトポシド等)それぞれの寄与の分離、および最適なシスプラチンダブレットの同定には至っていない点に留意が必要である。

残された課題と limitation:

本メタ解析のlimitationとして、(1) 効果をもたらした必須薬剤の同定が不可能であること(シスプラチンとその他の薬剤の相対的寄与が不明)、(2) 術後補助療法のシスプラチンベース結果が p=0.08 と従来の有意水準には達しておらず確定的エビデンスではないこと、(3) 手術+放射線療法設定では試験数・患者数が限られ(n=807)結論が得られなかったこと が挙げられる。今後の課題として、最適なシスプラチンベースレジメンの決定、治療毒性と生存改善のバランス、患者の治療選好・生活の質 (quality of life) および医療経済的コストを考慮した意思決定モデルの構築が必要であることが本論文でも指摘されており、更なる検討が求められた。実際に本メタ解析の結果を受けてヨーロッパでは大規模な公衆衛生的試験が開始されており、エビデンスの継続的な蓄積が重要である。future research として、特定の患者集団における化学療法の有益性や有害性を個別化医療の観点から評価することが求められる。

方法

事前に規定された臨床プロトコル・解析プロトコルに基づき、データ収集と検証を Cancer Trials Office (英国) および Institut Gustave Roussy (フランス) の2センターで実施した。交差チェック後に共通データベースを構築した。

適格基準と試験同定: 1965年1月以降に登録開始、1991年12月までに登録完了の RCT を対象とした。無作為化前に化学療法を受けた患者を含む試験、オルソボルテージ放射線療法や総線量30 Gy未満の試験、放射線増感を目的とした薬剤使用試験は除外した。出版バイアスを回避するため、Medline・CancerCD の文献検索に加え、学会抄録の手動検索、NCI の PDQ (Physician Data Query)・ClinProt・Union Internationale Contre le Cancer の試験登録照会、専門家および製薬企業への問い合わせを実施した。

データ収集: 生存状況・最終追跡日・割付治療・無作為化日・年齢・性別・組織型・病期・パフォーマンスステータスを収集した。研究者解析から除外された患者の情報も収集し、内部一貫性チェックおよび試験プロトコルとの照合を行った。各試験を個別解析し、結果を試験担当者に送付して検証を得た。

化学療法レジメン分類: シスプラチン使用の有無を主たる客観的基準として、(a) シスプラチン含有レジメン、(b) 1年超の長期アルキル化剤レジメン(主に経口投与のシクロホスファミド・ニトロソウレア)、(c) エトポシドまたはビンカアルカロイド含有・シスプラチン非含有レジメン、(d) その他レジメン の4カテゴリーに分類した。各試験はいずれか1カテゴリーにのみ属するものとした。

統計解析: 全解析は intention-to-treat 原則に基づき実施した。生存解析は試験ごとに層別化し、ログランク (log-rank) 検定による観測死亡数と期待死亡数を用いた固定効果モデルで個々および統合ハザード比 (HR) を算出した。絶対生存差はプロポーショナルハザードを仮定し、各比較におけるシスプラチンベース試験の対照群ベースライン生存率を用いて計算した(絶対利益 = exp(HR × ln(ベースライン生存率)) - ベースライン生存率)。統計的異質性は χ² 異質性検定 (χ² HetT, HetB, HetW) で評価し、全体的異質性 (χ² HetT) はカテゴリー間 (HetB) とカテゴリー内 (HetW) に分解した。生存曲線は非層別 Kaplan-Meier 法で提示した。全 p 値は両側検定。

合計91試験を同定し、33試験が不適格、6試験がデータ取得不能(うち4試験は局所進行疾患設定)のため除外し、最終的に52件のランダム化試験・n=9387例・7151死亡例が解析対象となった。