- 著者: Langer CJ, O’Byrne KJ, Socinski MA, Mikhailov SM, Leśniewski-Kmak K, Smakal M, Ciuleanu TE, Orlov SV, Dediu M, Heigener D, Eisenberg PD, Sandalic L, Zorsky PE, Bonomi P
- Corresponding author: Corey J. Langer, MD, FACP (Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2007
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 17264337
背景
Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) 2の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者は、新規診断例の少なくとも30%を占める重要な集団であるにもかかわらず、長らく臨床試験から系統的に除外されてきた。PS 2は「疾患症状を有するが日中の50%以上は起きている状態」と定義され、PS 0から1と比較して有意に予後不良であることが知られている。1986年のECOGの4レジメン比較試験では、PS 2患者の全生存期間中央値 (mOS) がわずか10週、治療関連死が10%という深刻な成績が報告された。この結果を受け、PS 2患者は以降のECOG NSCLC試験から除外されることとなった。
1990年代後半に入り、支持療法の改善 (G-CSFや第2世代制吐薬の導入) と、ゲムシタビン (gemcitabine) やパクリタキセル (paclitaxel) といった活性の高い第3世代化学療法の登場により、PS 2患者に対する治療の再評価が促された。ECOG 1594試験 (Schiller et al. NEnglJMed 2002) では、当初68例のPS 2患者が登録されたが、高い有害事象頻度 (5例の死亡、うち2例が明確な治療関連) のため、PS 2患者の追加登録が中断された。この試験の事後解析では、PS 2患者の客観的奏効率 (ORR) は14%、mOSは4.1ヶ月、1年全生存率 (OS) は19%と不良な結果であったが、最も毒性が少ないカルボプラチン/パクリタキセル (CbP) レジメンの安全性と有効性の再評価が求められた。また、ECOG 1594の事後解析では、ゲムシタビン/シスプラチン (CG) 群がPS 2患者においてmOS 7.9ヶ月、1年OS 38.5%と最も良好な成績を示したが、同時に毒性プロファイルも最も重篤であったことが判明した (Sweeney et al. Cancer 2001)。
これらの背景から、PS 2患者に特化した前向き試験の必要性が認識された。しかし、PS 2患者の治療に関するエビデンスは依然として不足しており、特に米国における大規模な共同グループ試験は未開拓の領域であった。PS 2患者は進行NSCLC患者の約30%を占めるにもかかわらず、その治療戦略は未解明な点が多かった。本研究であるECOG 1599は、これらの課題に対応するため、減量版のCbPおよびCGレジメンを用いてPS 2の進行NSCLC患者を対象とした、米国初のPS 2 NSCLC専用多施設前向きランダム化試験として計画された。この試験は、PS 2患者に対するプラチナ併用化学療法の実施可能性、安全性、および有効性を評価し、今後の治療戦略の基盤を確立することを目的とした。これまでの研究では、PS 2患者におけるプラチナ併用療法の毒性と有効性のバランスに関するデータが不足しており、特に大規模な共同グループ試験での前向きな評価が求められていた。
目的
ECOG PS 2の未治療進行NSCLC患者を対象に、減量版ゲムシタビン/シスプラチン (CG群) および減量版パクリタキセル/カルボプラチン (CbP群) の有効性 (主要エンドポイントとしての1年全生存率 [OS])、安全性、および生活の質 (QOL) を評価すること。主要エンドポイントである1年OSについては、各アームで20%以上の達成を「有望性基準」とし、これを満たしたアームを将来のPhase 3試験移行の候補とすることを目的とした。この設定は、ECOG 1594試験におけるPS 2患者の1年OS 19%という歴史的対照を上回ることを意図したものである。副次エンドポイントとして、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、病勢進行までの期間 (TTP)、および毒性プロファイルの比較評価も行った。本研究は、この脆弱な患者集団に対するプラチナ併用化学療法の実施可能性と有望な活性を確立することを意図した。特に、PS 2患者におけるプラチナ併用療法の有効性と安全性のバランスを前向きに評価し、将来の治療ガイドラインの基盤となるデータを提供することが重要な目的であった。
結果
全生存期間の改善: CG群 (n=47) の全生存期間中央値 (mOS) は6.9ヶ月であった。主要エンドポイントである1年OS率は25.5% (95% CI 13.1-38.0) であり、事前に設定された有望性基準である20%を超え、有望と判定された。2年OS率は13% (95% CI 3.3-22.0) であった。CbP群 (n=51) のmOSは6.2ヶ月であった。1年OS率は19.6% (95% CI 8.7-30.5) であり、有望性基準の20%をわずかに下回ったものの、近似する結果であった。2年OS率は7.8% (95% CI 0.5-15.2) であった。全生存期間のハザード比について、CG群 vs CbP群の比較では HR 0.91 (95% CI 0.60-1.38, p=0.66) であり、両群間に統計学的有意差は認められなかった。報告時点 (2005年5月) での生存患者は、CbP群で2例 (4%)、CG群で3例 (6%) であった。本試験はPhase 2であり、2群間の直接的なOS比較を目的としたものではなく、検出力は20%のみであった。しかし、いずれのアームもECOG 1594の歴史的対照 (mOS 4.1ヶ月、1年OS 19%) を数値的に改善した結果であった (Figure 2)。
客観的奏効率および無増悪生存期間: 客観的奏効率 (ORR) は、CG群で23% (90% CI 13.1-34.4、CR 1例を含む) であったのに対し、CbP群では14% (90% CI 6.4-23.4) であった。病勢コントロール率 (OR+SD) は、CG群で53%、CbP群で55%と両群で同程度であった。病勢進行までの期間中央値 (mTTP) は、CG群で4.8ヶ月、CbP群で4.2ヶ月であった。応答期間中央値は、CbP群で5.3ヶ月、CG群で6.5ヶ月であった。無増悪生存期間 (PFS) のKaplan-Meier中央値は、CbP群で3.5 vs CG群で3.0 months であり、ハザード比は HR 0.99 (95% CI 0.66-1.48, p=0.96) と、両群で極めて類似した結果を示した (Figure 1)。
毒性プロファイルと忍容性: 血液毒性では、Grade 3以上の好中球減少がCbP群で59% (Grade 3 25%、Grade 4 34%) と、CG群の33% (Grade 3 23%、Grade 4 10%) に比べて著明に高率であった。一方、Grade 3以上の血小板減少はCG群で38% (Grade 3 33%、Grade 4 5%) と、CbP群の12% (Grade 3 12%、Grade 4 0%) に比べてCG群で顕著に高率であった。Grade 3貧血はCG群13%、CbP群10%と類似していた (Table 2)。 非血液毒性では、Grade 3感覚神経障害がCbP群で10%であったのに対し、CG群では0%であった (Grade 2ではCbP群16% vs CG群2%)。これはパクリタキセルによる末梢神経毒性がCbP群で問題となることを示唆する。Grade 3悪心/嘔吐はCG群で23%と、CbP群の6%に比べて高率であり、シスプラチンによる強度悪心がCG群で顕著であった。Grade 3疲労はCG群で22%、CbP群で12%であった。特に注目すべきは、Grade 1以上のクレアチニン上昇がCG群で43%と、CbP群の6%に比べて著明に高率であったことであり、シスプラチンによる腎毒性がCG群で問題となることが示された (Table 2)。Grade 3腎毒性は数例に限定された。治療関連死 (Grade 5) は、CbP群で1例 (発熱性好中球減少症) のみ発生し、CG群では0例であった。全体のGrade 5毒性率は1%であり、多施設共同治験として許容範囲内と判断された。
治療完遂率および中断理由: 6サイクル完遂率はCbP群で27%、CG群で31%であった。4サイクル以上投与された患者はCbP群で49%、CG群で46%であった。投与コース数中央値は両群ともに3サイクルであった。毒性による治療中断はCbP群で16%、CG群で15%と類似していた。その他の理由 (患者の意思、合併症など) による中断はCG群でやや多く (患者の意思13% vs CbP群4%、合併症9% vs CbP群4%)、これはCG群の毒性プロファイルが患者の離脱に影響した可能性を示唆する (Table 3)。
考察/結論
ECOG 1599は、米国初のPS 2 NSCLC専用Phase 2前向きランダム化試験として、PS 2患者に対する減量版プラチナ双剤併用療法の実施可能性と有望な活性を実証した先駆的研究である。最も重要な結果は、両レジメンともにECOG 1994/1594の歴史的対照 (mOS 4.1ヶ月) を数値的に上回るmOS (CG群6.9ヶ月、CbP群6.2ヶ月) を達成したことであり、適切な用量調整と支持療法のもとでPS 2患者にもプラチナ合剤が安全に投与できることを示した。
先行研究との違い: 本研究は、高い毒性頻度と低い生存率が報告され、プラチナ併用化学療法は困難であると考えられていたこれまでの先行研究と異なり、用量減弱と改善された支持療法により、PS 2患者においてもプラチナ併用療法が許容可能な毒性プロファイルで実施可能であり、6ヶ月を超える生存期間を達成できることを示した。特に、Albain et al. JClinOncol 1991 や Cullen et al. JClinOncol 1999 などの先行研究で示されたPS 2患者の予後不良な結果とは対照的に、本試験ではより良好な生存期間が観察された。
新規性: 本研究で初めて、PS 2 NSCLC患者に特化した前向きランダム化試験として、2種類の減量版プラチナ併用レジメンの安全性と有効性を比較評価した。特に、CG群が1年OS 25.5%を達成し、事前に設定された有望性基準 (20%) を満たしたことは、この患者集団におけるプラチナ併用療法の有望な活性を新規に示したものである。
臨床応用: 本知見は、PS 2の進行NSCLC患者に対するプラチナ併用化学療法の実施可能性と有効性を示し、この患者集団への治療介入の臨床的意義を裏付けるものである。適切な患者選択と支持療法のもとで、PS 2患者も標準的な化学療法の恩恵を受けられる可能性があり、臨床現場での治療方針決定に影響を与える。特に、カルボプラチン/パクリタキセルは、現在の免疫療法時代において、ペムブロリズマブとの併用療法 (ECOG 1599のCbP減量版 ± 免疫療法) の基盤エビデンスの一つとして位置づけられる。
残された課題: 今後の検討課題として、PS 2という概念の限界が挙げられる。PS 2は「疾患起因のPS低下」と「合併症起因のPS低下」の2つの異質な集団を含んでおり、前者は腫瘍縮小により大きな恩恵を受ける可能性があるが、後者では化学療法が状態をさらに悪化させるリスクがある。ECOG 1599では事前のcomorbidity indexやPS低下原因の記録がなく、この重要な不均質性の分析が困難であった。Frasci et al. (J Clin Oncol 2000) の高齢者試験ではCharlson comorbidity scoreが治療完遂率とOSと強く相関し (score >2でmOS 3.7ヶ月 vs score 0でmOS 6.5ヶ月)、PS 2患者の層別化にcomorbidity評価が有用であることが示唆されている。また、QOL評価が実施されなかったこともlimitationである。免疫療法時代のPS 2患者への最適治療 (免疫単剤 vs 化免療 vs 免疫療法適応の患者選択) は未解決課題であり、PS 2患者を明示的に組み込んだ現代的なPhase 3試験の結果が待たれる。しかし、ECOG 1599は「PS 2患者も組織的な臨床試験の対象として扱うべき」というパラダイム転換をもたらした試験として歴史的意義が高い。
方法
本研究は、多施設前向きランダム化Phase 2試験 (ECOG/国際多施設、RCT) として実施された。登録期間は2000年5月31日から2002年11月20日までであった。本試験は NCT00004077 として登録された。適格基準は、未治療の進行NSCLC (Stage IIIB胸水/心嚢水/胸膜播種、Stage IV、または再発)、ECOG PS 2、年齢18歳以上、好中球数 (ANC) 2,000/μL以上、血小板数100,000/μL以上、クレアチニン1.5mg/dL以下、ビリルビン1.5mg/dL以下、およびインフォームドコンセントの取得であった。除外基準には、評価可能病変への既往放射線照射 (増悪確認なしの場合)、Grade 2以上の感覚神経障害、活動性増大する中枢神経系 (CNS) 転移、他の活動性悪性腫瘍、polyoxyethylated castor oilアレルギー、および重大な合併症 (心不全、最近の心筋梗塞など) が含まれた。
合計103例が登録され、100例が適格と判定された (CG群n=49、CbP群n=51)。実際に治療を受けたのはCG群47例、CbP群51例であった。患者背景は両群間でバランスが取れており、年齢中央値は66歳 (CG群67歳、CbP群65歳)、男性65%、Stage IV/再発88%、体重減少5%以上が46%であった。
治療プロトコルは以下の通りである。
- CbP群 (Arm A): パクリタキセル200mg/m²を3時間かけて静脈内投与 (Day1)、続いてカルボプラチンAUC6を30分かけて静脈内投与 (Day1)。3週間ごとに繰り返された。標準的な前投薬 (デキサメタゾン、ジフェンヒドラミン、シメチジンなど) が行われた。
- CG群 (Arm B): ゲムシタビン1,000mg/m²を30分かけて静脈内投与 (Day1, 8)、シスプラチン60mg/m²を1時間かけて静脈内投与 (Day1)。3週間ごとに繰り返された。積極的な制吐薬と腎保護のための前処置がシスプラチン投与前に行われた。
両群とも、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、または病勢安定 (SD) の患者は最大6サイクルまで治療を継続可能であった (疾患進行、毒性、または患者の意思により中止)。
主要エンドポイントである primary endpoint は1年OSであった。Simonの2段階選択基準 (Simon et al. 1995) を用い、一方のアームの1年OSが他方より10%以上上回れば選択される設計であった。有望性の判断基準は1年OSが20%以上と設定された。この設計では、1年OSが30%を達成した場合、歴史的対照の20%より10%高い差を86%の確率で選択できるとされた。各アーム45例 (不適格10%を見込み合計99例) が最小必要例数 (sample size calculation) として計画された。安全性に関するtwo-stage designが各アームに独立して適用され、最初の20例中に症候性Grade 4/5毒性 (一過性無症候性血液毒性を除く) が8例を超えた場合、そのアームは中断されることになっていた。この強制的な安全性中間評価のため、試験は2001年5月8日から同年11月27日まで一時中断され、その後再開された。統計解析には Kaplan-Meier 法、log-rank test、および Cox proportional hazards モデルが用いられ、毒性率の信頼区間はexact binomial CIで推定された。すべてのP値は両側検定に関連付けられた。