• 著者: Gronberg BH, Bremnes RM, Fløtten Ø, Amundsen T, Brunsvig PF, Hjelde HH, Kaasa S, von Plessen C, Stornes I, Tollåli T, Wammer F, Åasebø U, Sundstrøm S
  • Corresponding author: Bjørn H. Grønberg, MD (St. Olavs Hospital, Trondheim, Norway)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-05-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19433683

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次化学療法において、プラチナ製剤と第三世代細胞傷害性薬剤の2剤併用療法が標準治療として確立されている。Schiller et al. NEnglJMed 2002によるECOG E1594試験では、パクリタキセル/カルボプラチン、ドセタキセル/シスプラチン、ゲムシタビン/シスプラチン、ビノレルビン/シスプラチンの4つのレジメンが比較され、全生存期間 (OS) および奏効率 (ORR) において同等の効果が示され、特定のレジメンの優越性は否定された。

シスプラチンは歴史的にゴールドスタンダードとされてきたが、その強い催吐性、腎毒性、神経毒性のため、緩和目的の実臨床ではカルボプラチンへの代替が広く行われていた。2つのメタ解析では、シスプラチンがカルボプラチンと比較してわずかな奏効率および生存期間の優越性を示すとされたが、Ardizzoni et al. JNatlCancerInst 2007を含む3つ目のメタ解析では差がないと報告されており、解釈が分かれていた。この点において、カルボプラチンベースのレジメンの比較は重要な課題であった。

ペメトレキセドは、チミジル酸合成酵素 (TS)、ジヒドロ葉酸還元酵素 (DHFR)、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ (GARFT) などの葉酸依存性酵素を阻害するマルチターゲット抗代謝拮抗薬である。悪性胸膜中皮腫におけるシスプラチン/ペメトレキセド併用療法 (Vogelzang et al. J Clin Oncol 2003) および非扁平上皮NSCLCの二次治療における単剤療法 (Hanna et al. J Clin Oncol 2004) で承認されていた。4つの第II相試験でペメトレキセド/プラチナ併用療法の一次治療としての有効性と忍容性が示されていたが、カルボプラチン/ペメトレキセドとカルボプラチン/ゲムシタビンを直接比較する大規模ランダム化試験はこれまで報告されておらず、この領域には知識のギャップが存在した。特に、カルボプラチンベースのレジメンにおけるペメトレキセドの安全性と有効性を評価するデータが不足していた。

本研究の独自性は、生存期間延長を唯一の評価指標とせず、健康関連QOL (HRQoL) を主要評価項目に設定した点にある。これは、進行NSCLC患者の治療において、生存期間だけでなく患者の生活の質も重視するという臨床的意義を反映している。また、ノルウェー全土のNSCLC患者の約20%を登録した大規模な国民的試験であり、実臨床を代表する患者集団を対象としている点も重要である。ペメトレキセドの有効性が組織型 (チミジル酸合成酵素発現レベル:扁平上皮癌 > 非扁平上皮癌) や性別と関連する可能性が先行研究で示唆されており、本試験では事前規定のサブグループ解析として性別、組織型、PS別の解析が計画された。これにより、特定の患者集団におけるペメトレキセドの潜在的な優位性を探索することが可能となる。本研究は、カルボプラチンベースの一次治療におけるペメトレキセドの役割を明確にする上で、重要なエビデンスを提供するものであり、この点が従来の研究では十分に検討されておらず、未解明な領域として残されていた。

目的

本研究の目的は、未治療の進行NSCLC (Stage IIIB/IV) 患者を対象として、カルボプラチン/ペメトレキセド (PC) 療法とカルボプラチン/ゲムシタビン (GC) 療法の一次治療としての効果と安全性を比較することである。具体的には、主要評価項目として治療開始後20週間における健康関連QOL (HRQoL) の変化を評価し、PCレジメンがGCレジメンと比較して、患者の自覚症状に対する有益性または有害性をどのように変化させるかを明らかにすることを目指した。HRQoLの評価は、全般的QOL、悪心/嘔吐、疲労、呼吸困難の4つの事前規定ドメインに焦点を当てて実施された。

副次評価項目としては、全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (ORR)、および治療に関連する毒性プロファイルを比較した。特に、血液毒性および非血液毒性の発生率、輸血の必要性、および治療完遂率の違いを詳細に評価することを目的とした。さらに、性別、組織型、パフォーマンスステータス (PS)、年齢などの患者背景因子に基づく事前規定サブグループ解析を実施し、特定の患者集団における治療効果の差異を探索することも重要な目的の一つであった。これらの評価を通じて、進行NSCLC患者に対する一次治療としてのPCレジメンの臨床的位置づけを明確にすることを目指した。

結果

患者背景: 2005年5月から2006年7月にかけて446例が登録され、10例が不適格として除外された。最終的に436例がOS解析に、427例がHRQoL解析に、423例が毒性解析に組み入れられた。両治療群間でベースラインの患者特性に有意な差は認められなかった (Table 1)。中央値年齢は64歳、PS 0-1の患者が約78%、Stage IVが約71%を占めた。

治療完遂率と用量調整: PC群では平均3.3サイクル、GC群では3.1サイクルが投与された (p=0.037)。4サイクルを完遂した患者の割合はPC群で72%、GC群で62%であり、PC群で有意に高かった (p=0.030)。また、遅延なく4サイクルを完遂した患者はPC群58% vs GC群44% (p=0.004)、用量減量なく4サイクルを完遂した患者はPC群50% vs GC群20% (p<0.001) であり、PC群で治療の完遂度が高かった (Table 2)。ゲムシタビンDay 8の省略は、GC群の675サイクル中79件 (12%) で発生した。毒性による治療中止は両群で同程度であった (PC群4% vs GC群6%, p=0.51)。

HRQoL (主要評価項目): 両群で差なし: 治療開始後20週間におけるHRQoL問診票のコンプライアンスは87%と高かった。事前規定された4つの主要HRQoLドメイン (全般的QOL、悪心/嘔吐、疲労、呼吸困難) のいずれにおいても、治療群間の平均スコアの差は臨床的有意差の最小値である10ポイントを超えなかった (Figure 2)。また、各ドメインの曲線下面積 (AUC) にも統計的に有意な差は認められなかった (全般的QOL p=0.72、悪心/嘔吐 p=0.55、疲労 p=0.55、呼吸困難 p=0.48)。感度分析でも同様の結果が得られた。他のHRQoLドメインにおいても臨床的または統計的に有意な差はなかったが、身体機能と脱毛においてPC群で改善傾向が認められた。

OS (副次評価項目): 全体では同等: 全患者集団 (n=436) における中央値OSは、PC群で7.3ヶ月、GC群で7.0ヶ月であり、統計的に有意な差は認められなかった (p=0.63) (Figure 3A)。1年生存率はPC群34%、GC群31%であった。非扁平上皮癌サブグループ (腺癌および大細胞癌、n=248) においても、PC群7.8ヶ月 vs GC群7.5ヶ月であり、有意差はなかった (p=0.77) (Figure 3B)。多変量解析では、PS (0-1 vs 2: HR=0.59, 95% CI 0.46-0.75, p<0.001)、病期 (IIIB vs IV: HR=0.78, 95% CI 0.62-0.995, p=0.046)、性別 (女性 vs 男性: HR=0.77, 95% CI 0.62-0.95, p=0.014) が有意な予後因子として同定された。

性別サブグループ解析: 女性患者でPC群のOS延長: 女性患者 (n=185) においては、PC群の中央値OSが11.0ヶ月、GC群が7.5ヶ月であり、PC群で有意な生存期間延長が認められた (HR=1.43, 95% CI 1.03-1.99, p=0.022) (Figure 3C)。この生存ベネフィットは、PSおよび病期で調整した多変量解析においても統計的有意性を維持した (HR=1.43, 95% CI 1.03-1.99, p=0.034)。一方、男性患者 (n=251) では、PC群6.1ヶ月 vs GC群6.6ヶ月であり、有意差はなかった (p=0.16) (Figure 3D)。PS 0-1の患者 (n=340) ではPC群8.7ヶ月 vs GC群7.7ヶ月 (p=0.51) (Figure 3E)、PS 2の患者 (n=96) ではPC群4.3ヶ月 vs GC群5.1ヶ月 (p=0.54) (Figure 3F) であり、いずれも有意差は認められなかった。高齢患者 (≥75歳、n=78) においても、PC群7.1ヶ月 vs GC群7.3ヶ月であり、有意差はなかった (p=0.96)。

毒性プロファイル: 血液毒性でGC群が顕著に多い: グレード3/4の血液毒性はGC群で有意に多く発生した (Table 3)。特に、白血球減少 (GC群46% vs PC群23%, p<0.001)、好中球減少 (GC群51% vs PC群40%, p=0.024)、血小板減少 (GC群56% vs PC群24%, p<0.001) でGC群の発生率が顕著に高かった。輸血の必要性もGC群で有意に高かった (赤血球輸血: GC群43% vs PC群29%, p=0.003; 血小板輸血: GC群9% vs PC群3%, p=0.007)。しかし、好中球減少性感染症 (PC群8% vs GC群9%, p=0.85) や血小板減少性出血 (PC群2% vs GC群4%, p=0.27) の発生率には有意差がなかった (Table 4)。グレード3/4の非血液毒性 (感染症9%・悪心3-4%など) は両群間で統計的有意差は認められなかったが、少なくとも1つのグレード3/4有害事象の発生率はGC群28% vs PC群19%であり、GC群で有意に高かった (p=0.037)。

考察/結論

本ノルウェー多施設第III相試験 (n=436) の主要な結論は、進行NSCLCの一次治療において、カルボプラチン/ペメトレキセド (PC) とカルボプラチン/ゲムシタビン (GC) が同等のHRQoLおよび全生存期間 (OS) を示す一方で、PCレジメンが有意に少ない血液毒性を示し、より安全に4サイクルを完遂できるというものである。HRQoLを主要評価項目として設定し、87%という高い問診票コンプライアンス率で評価したことは、本試験の重要な強みであり、患者中心の治療評価の重要性を示している。

先行研究との違い: 本研究のOS中央値 (PC群7.3ヶ月) は、シスプラチン/ペメトレキセドを用いたJMDB試験 (10.3ヶ月) と比較して短い。これは、本試験にPS 2の患者が22%含まれていたこと、カルボプラチンAUC5という低用量設定、およびノルウェーでのエリスロポエチン非使用による輸血増加などが寄与していると考えられる。しかし、本研究はカルボプラチンベースのレジメンにおいて、ペメトレキセドがゲムシタビンと同等の有効性を持ち、より良好な毒性プロファイルを提供することを初めて示した点で新規性がある。

新規性: 最も臨床的に重要な探索的知見は、女性患者においてPC群で有意なOS延長が認められたことである (mOS 11.0ヶ月 vs 7.5ヶ月, HR=1.43, 95% CI 1.03-1.99, p=0.022)。この性差は、Scagliotti et al. JClinOncol 2008によるJMDB試験 (シスプラチンベース) での組織型解析 (シスプラチン/ペメトレキセドが腺癌・大細胞癌でシスプラチン/ゲムシタビンより良好) との整合性を示す。女性に腺癌が多いことに加え、ペメトレキセドの標的であるチミジル酸合成酵素 (TS) の腫瘍内発現量が扁平上皮癌で高く、非扁平上皮癌で低いという仮説が、組織型および性差を通じた一貫したメカニズムとして提唱されている。TS発現が低いほどペメトレキセドが有効である可能性が考えられる。

臨床応用: 本試験の結果は、(1) カルボプラチン/ペメトレキセドとカルボプラチン/ゲムシタビンが同等の有効性を有すること、(2) PCレジメンが血液毒性プロファイルおよび治療完遂率の観点からより安全であること、(3) 女性患者および非扁平上皮癌患者においてペメトレキセドの優越性がカルボプラチンベースのレジメンでも確認されること、の3点を明らかにした。これらは、非扁平上皮NSCLCの一次化学療法としてのカルボプラチン/ペメトレキセドの臨床的位置づけを支持する重要なエビデンスとなった。現代では免疫チェックポイント阻害薬とプラチナベース化学療法の併用が主流となっているが、化学療法バックボーンの選択においてペメトレキセドの優位性 (非扁平上皮癌、女性) は依然として臨床的判断の参照点となる。

残された課題: 本試験はサブグループ解析のためにデザインされたものではなく、これらの結果は慎重に解釈する必要があるというlimitationがある。今後の検討課題として、バイオマーカー (例: TS発現レベル) を用いてペメトレキセド治療から最も利益を得る患者を特定する研究が残されている。また、高齢患者における最適な用量設定と毒性管理についてもさらなる研究が必要である。

方法

本研究は、ノルウェー国内の35施設で実施されたオープンラベル、ランダム化、多施設共同第III相試験である。患者登録は2005年5月から2006年7月にかけて行われた。本試験はNCT番号を持たないが、ノルウェーの地域医療研究倫理委員会、ノルウェー医薬品庁、ノルウェー社会科学データサービス、ノルウェー保健社会局の承認を得て実施された。

対象患者: 18歳以上の未治療のStage IIIB (根治的放射線療法非適応) またはStage IV NSCLC患者が対象とされた。WHOパフォーマンスステータス (PS) は0-2、クレアチニンクリアランスは45 mL/min以上 (Cockcroft-Gault式)、骨髄機能および肝機能が良好であることが条件とされた。書面によるインフォームドコンセントが得られた患者が登録された。

ランダム化: 患者は、PS (0-1 vs 2)、病期 (IIIB vs IV)、年齢 (<75歳 vs ≥75歳) で層別化され、電話によるブロックランダム化により、PC群またはGC群に1:1で割り付けられた。75歳以上の患者には、試験治療薬の用量が25%減量された。

治療レジメン:

  • PC群: ペメトレキセド 500 mg/m² (Day 1) + カルボプラチン AUC5 (Calvert式) (Day 1) を3週間ごとに投与。
  • GC群: ゲムシタビン 1,000 mg/m² (Day 1, 8) + カルボプラチン AUC5 (Day 1) を3週間ごとに投与。 両群ともに最大4サイクルまで投与された。ペメトレキセド群の患者には、葉酸およびビタミンB12の補充が必須とされた。

投与基準と用量調整: 各サイクル開始前には、好中球数 ≥ 1.0 × 10⁹/L、血小板数 ≥ 75 × 10⁹/L、クレアチニンクリアランス ≥ 45 mL/min、グレード3/4の毒性の消失が求められた。これらの基準を満たさない場合、治療は1週間遅延された。用量減量は、Day 22での血球数低下、ナディア好中球数 < 0.5 × 10⁹/L、ナディア血小板数 < 50 × 10⁹/L、またはグレード3/4の毒性発生時に25-50%減量された。3回目の用量減量が必要な場合、またはサイクル遅延が21日を超えた場合は、試験治療は中止された。

主要評価項目: HRQoL (健康関連QOL) が主要評価項目とされた。EORTC QLQ-C30および肺癌特異的モジュールLC13を用いて評価され、事前規定された4つのドメイン (全般的QOL、悪心/嘔吐、疲労、呼吸困難) に焦点を当てた。HRQoLスコアはEORTCの標準スコアリングマニュアルに従って算出され、0-100のスケールで評価された。臨床的有意差の最小値は10ポイントと定義された。治療開始後20週間における各ドメインの曲線下面積 (AUC) を算出し、ベースラインスコアで調整した線形回帰モデルを用いて治療群間で比較された。問診票のコンプライアンスは87%であった。

副次評価項目: OS (ランダム化から死亡までの期間、Kaplan-Meier法およびログランク検定)、毒性 (CTCAE v3.0、Pearsonのカイ二乗検定またはFisherの正確検定)、PFS、ORRが評価された。

サンプルサイズ: HRQoLスコアで15ポイント以上の差、または1年OS率で11%以上の差を検出するために、各群190例 (検出力80%、両側有意水準5%) が必要とされ、脱落率15%を見込み各群222例の登録が計画された。最終的に446例が登録され、10例が不適格として除外された結果、OS解析には436例 (PC群219例、GC群217例)、HRQoL解析には427例、毒性解析には423例が組み入れられた。観察終了日は2007年7月28日で、中央値追跡期間は18.7ヶ月であった。