- 著者: Clément-Duchêne C, Krupitskaya Y, Ganjoo K, Wakelee HA
- Corresponding author: Heather A. Wakelee, MD (Division of Oncology, Stanford University, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 20881641
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は米国における癌関連死の主要な原因であり、2009年には推定219,440例の新規症例と159,390例の関連死が報告された Jemal et al. CA Cancer J Clin 2009。進行期NSCLC患者に対する緩和的化学療法は、支持療法単独と比較して生存期間を改善することがメタアナリシスにより明確に示されている NSCLC et al. JClinOncol 2008。現在、プラチナ併用療法が進行NSCLCの一次治療の標準治療である。2006年以降、ベバシズマブ (Bevacizumab, BEV) は、ECOG 4599試験の結果に基づき、非扁平上皮NSCLCに対するパクリタキセル (PTX) /カルボプラチン (CBDCA) 併用療法への追加薬として米国FDAに承認された Sandler et al. NEnglJMed 2006。この試験では、BEVの追加により奏効率 (RR) が15%から35%に、無増悪生存期間 (PFS) が4.5ヶ月から6.2ヶ月に、全生存期間 (OS) が10.3ヶ月から12.3ヶ月に有意に改善することが示された。
ゲムシタビン (GEM) はNSCLCに対して単剤で約20%のRRと7〜9ヶ月のOS中央値を示す活性のある薬剤であり、プラチナ製剤との併用療法における有効性も確立されている。例えば、Schiller et al. (2002) の研究では、シスプラチンとゲムシタビンの併用療法が他のプラチナ併用療法と同等の有効性を示すことが報告された Schiller et al. NEnglJMed 2002。特に、CBDCAとGEMの併用は、PTXとCBDCAの併用と比較して、過敏症反応、神経障害、脱毛のリスクが低い一方で、骨髄抑制が増加するという異なる毒性プロファイルを有することが知られている。ECOG 4599試験でBEV+PTX+CBDCA併用療法においてGrade 3以上の好中球減少症や末梢神経障害が問題となったことを踏まえ、PTXをGEMに置換することでPTX特有の毒性を回避できる可能性が考えられた。
しかし、CBDCA+GEM+BEVの3剤併用療法における有効性、安全性、および毒性プロファイルに関するデータは不足しており、特にBEV追加による骨髄抑制や出血リスクの増大が懸念された。この併用療法の詳細な評価が残された課題であり、その安全性と有効性のバランスが未解明であった。これまでの研究では、BEVと異なる化学療法レジメンとの併用が検討されてきたが、GEMとCBDCAとの組み合わせにおける包括的なデータは限られていた。例えば、AVAiL試験ではシスプラチン+ゲムシタビンとBEVの併用が検討されたが、カルボプラチンベースのレジメンとは異なる毒性プロファイルを持つ可能性がある Reck et al. JClinOncol 2009。また、ペメトレキセド+カルボプラチン+BEVの併用療法に関する第II相試験も報告されているが、ゲムシタビンベースのレジメンとは薬剤特有の毒性が異なるため、直接比較は困難であった Patel et al. JClinOncol 2009。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。
目的
本第II相試験は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者に対するカルボプラチン (AUC5) +ゲムシタビン (1000mg/m² d1,8) +ベバシズマブ (15mg/kg) の3剤併用一次治療の有効性および安全性を評価することを目的とした。主要評価項目 (primary endpoint) はPFSであり、ECOG 4599試験と比較してPFSが2.5ヶ月改善することを検出する検出力80%、有意水準片側5%で設計された。具体的には、ECOG 4599試験のPFS中央値6.2ヶ月に対し、本試験でPFS中央値8.7ヶ月を達成することを目標とした。副次評価項目としてOS、奏効率 (RR)、および有害事象の特定が設定された。これにより、この併用療法の臨床的有用性と忍容性を総合的に評価することを目指した。また、この併用療法における出血リスクや骨髄抑制のプロファイルを詳細に特徴付け、実臨床での適用可能性を検討することも重要な目的であった。
結果
患者背景と治療実施状況: 2006年7月から2008年12月までに48例の患者が登録され、1例は治療を受けなかったため、47例が解析対象となった。患者の年齢中央値は59歳 (35-81歳) であった。男性22例 (46.8%)、女性25例 (53.2%) であり、非喫煙者は19例 (40.4%) と高割合を占めた (Table 1)。これは、登録施設の患者集団を反映していると考えられる。組織型は腺癌が30例 (63.8%)、BAC (細気管支肺胞上皮癌) が4例 (8.5%)、NSCLC-NOS (特定不能型非小細胞肺癌) が13例 (27.7%) であった。病期はIIIB期が8例 (17.0%)、IV期が39例 (83.0%) であった。 治療サイクル数の中央値は8サイクル (1-42サイクル) であり、37例 (78.7%) が3剤併用療法を4サイクル以上完遂した。用量調整は34例 (72.3%) で行われ、主に血液毒性が原因であった (Table 2)。34例 (72.3%) の患者が4サイクルまたは6サイクルの併用療法完了後、単剤ベバシズマブ維持療法に移行した。2名の患者は8ヶ月および11ヶ月の治療後に同意を撤回した。
有効性 (ORR・PFS・OS): 評価可能な47例中、部分奏効 (PR) は7例 (14.9%)、病勢安定 (SD) は34例 (72.3%) であった。したがって、病勢制御率 (DCR) は87.2%であった。 PFS中央値は8.7ヶ月 (95% CI: 7.8-17.9ヶ月) であった (Figure 1)。最初のイベント (病勢進行/死亡/毒性による治療中止) までの期間中央値は6.4ヶ月 (95% CI: 4.8-7.9ヶ月) であった。 OS中央値は12.8ヶ月 (95% CI: 10.0-16.5ヶ月) であった (Figure 2)。1年OS率は57%、2年OS率は10%であった。このOS中央値は、過去のプラチナ+ゲムシタビン単独療法と比較して良好な傾向を示した。例えば、Sederholm et al. (2005) の研究では、ゲムシタビン単独療法と比較してゲムシタビン+カルボプラチン併用療法でOS中央値が10.0ヶ月であったと報告されている Sederholm et al. J Clin Oncol 2005。本試験のOS中央値12.8ヶ月は、ECOG 4599試験におけるパクリタキセル+カルボプラチン+ベバシズマブ併用療法のOS中央値12.3ヶ月 (HR 0.80, 95% CI 0.68-0.94, p=0.003) と比較して同等かやや良好な結果であった。
安全性 (主要毒性): 最も頻度の高かったGrade 3/4の有害事象は、好中球減少症 (Grade 3: 47%、Grade 4: 15%)、血小板減少症 (Grade 3: 11%、Grade 4: 15%)、貧血 (Grade 3: 6%、Grade 4: 0%) であった (Table 3)。発熱性好中球減少症は認められなかった。 出血関連の有害事象としては、1例が喀血により死亡した。剖検により、未治療で未診断の侵襲性肺アスペルギルス症が血管を侵食していたことが判明した。その他、Grade 3の鼻出血が1例 (2.0%)、Grade 3の痔出血が1例 (2.0%)、Grade 3の斑状出血が1例 (2.0%) 報告された。Grade 3の創傷離開が1例、Grade 4の心筋梗塞が1例発生した。 治療中止に至った毒性は7例 (感染症と好中球減少症、喀血、心不全、肝機能障害、制御不能な高血圧、好中球減少症による3回連続の用量減量、血栓) であった (Table 2)。全体として、ベバシズマブ関連の出血や感染症の過剰な発生は認められず、血小板減少症の発生率も予想より低かった。例えば、Gronberg et al. (2009) のカルボプラチン+ゲムシタビン併用療法を用いた研究では、Grade 3/4の血小板減少症が56%と報告されており Gronberg et al. JClinOncol 2009、本研究の15%と比較して高かった。
非喫煙者および女性患者の割合: 本研究の患者集団は、非喫煙者が19例 (40%)、女性が25例 (52%) と、一般的なNSCLC患者集団と比較して高い割合を占めていた。これらの患者群は、EGFR変異陽性率が高い傾向があり、治療効果が過大評価されている可能性が指摘されている。しかし、本試験ではEGFR変異のスクリーニングは行われていない。
考察/結論
本第II相試験は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者に対するカルボプラチン、ゲムシタビン、ベバシズマブの3剤併用療法が、PFS中央値8.7ヶ月、OS中央値12.8ヶ月という有望な有効性を示す一方で、高い骨髄毒性プロファイルを有することを明らかにした。
先行研究との違い: 本研究のORR 14.9%は、ECOG 4599試験におけるパクリタキセル+カルボプラチン+ベバシズマブ併用療法のORR 35%と比較して低かった Sandler et al. NEnglJMed 2006。しかし、本研究のPFS中央値8.7ヶ月は、ECOG 4599試験の6.2ヶ月と比較して数値上は良好であった。これは、本試験の患者集団に非喫煙者や女性の割合が高かったことによる影響が考えられる。また、AVAiL試験におけるシスプラチン+ゲムシタビン+ベバシズマブ併用療法では、PFSが6.5ヶ月 (95% CI: 6.1-6.7ヶ月)、OSが13ヶ月超であった Reck et al. JClinOncol 2009 Reck et al. AnnOncol 2010。本試験のOS中央値12.8ヶ月 (95% CI: 10.0-16.5ヶ月) は、これらの大規模第III相試験の結果と概ね同等であり、ベバシズマブとゲムシタビンを含むレジメンの有効性を示唆する。本研究では、パクリタキセルではなくゲムシタビンを使用することで、パクリタキセル特有の神経障害や脱毛といった毒性を回避し、異なる毒性プロファイルを示した点が、これまでの報告と対照的である。
新規性: 本研究は、カルボプラチン、ゲムシタビン、ベバシズマブの3剤併用療法における詳細な毒性プロファイルを評価した点で新規性がある。特に、Grade 3/4の好中球減少症が62%と高頻度で発生したことは、ゲムシタビンとベバシズマブの併用における骨髄抑制の程度を明確に示した。また、1例の治療関連死が侵襲性肺アスペルギルス症による喀血であったことは、ベバシズマブ使用下での免疫抑制と血管新生阻害の相互作用を示唆する重要な安全性シグナルであり、これまで報告されていない知見である。この特定の死因は、ベバシズマブ併用療法の潜在的なリスクとして新規に認識されるべきである。
臨床応用: 本併用療法は、ORRは低いものの、DCRが87.2%と高く、PFSおよびOSが有望な結果を示した。このことは、ペメトレキセドやパクリタキセルが好ましくない患者において、カルボプラチン、ゲムシタビン、ベバシズマブの併用療法が非扁平上皮NSCLCの一次治療の選択肢となり得ることを示唆する。臨床現場では、患者の併存疾患や既往歴、薬剤の毒性プロファイルを考慮した個別化治療が重要であり、本レジメンはその選択肢の一つとして臨床的有用性を持つ可能性がある。しかし、72.3%の患者で用量調整が必要であったこと、特に血液毒性が高頻度であったことから、実臨床での忍容性には注意が必要である。
残された課題: 本試験の主なlimitationは、非喫煙者 (40%) や女性 (52%) の割合が高いという患者背景の偏りである。これらの集団は、EGFR変異陽性率が高い可能性があり、治療効果が過大評価されている可能性がある。本試験ではEGFR変異の検索は行われておらず、均一な集団での評価とは言えない。今後の検討課題として、バイオマーカーに基づく層別化解析や、より大規模な無作為化比較試験による有効性と安全性の検証が残されている。特に、EGFR変異の有無による効果の違いを評価することは、このレジメンの最適な患者集団を特定するために不可欠である。また、ベバシズマブ関連の出血リスクや感染症リスクに対するさらなる詳細な評価も必要である。
方法
本研究は、2006年7月から2008年12月にかけて実施された第II相、非盲検、単群、多施設共同試験である (NCT00388226)。対象患者は、未治療の進行非扁平上皮NSCLC患者で、脳転移の証拠がなく、抗凝固療法を受けていない者であった。ECOGパフォーマンスステータスは0または1、年齢は18歳以上、主要臓器機能が正常であることが求められた。具体的には、白血球数 ≥ 3000/µl、好中球絶対数 ≥ 1500/µl、血小板数 ≥ 100,000/µl、総ビリルビン正常範囲内、AST/ALT ≤ 2.5倍、クレアチニン ≤ 2.0またはクレアチニンクリアランス ≥ 30 ml/min/1.73 m² が基準とされた。既知の脳転移、過去のBEV治療、出血性素因、抗凝固剤の使用、重篤な併存疾患 (高血圧、心疾患、脳卒中の既往など) は除外基準とされた。
治療レジメンは、ゲムシタビン 1000mg/m² (day 1, 8)、カルボプラチン AUC5 (day 1)、ベバシズマブ 15mg/kg (day 1) を21日サイクルで最大6サイクル投与した。カルボプラチンはゲムシタビン注入前に、ベバシズマブは化学療法注入の1時間後に投与された。ベバシズマブはその後、病勢進行または許容できない毒性が発生するまで維持療法として継続された。ベバシズマブの初回投与は90分間で行われ、忍容性が良好であれば2回目以降は60分、その後は30分に短縮された。
主要評価項目であるPFSは、治療開始から病勢進行または死亡までの期間と定義された。副次評価項目としてRECIST基準に基づくRR、OS、および安全性プロファイルが設定された。毒性評価はNCI-CTCAE v3.0に従って実施された。治療効果の評価のため、2サイクルごとにCTスキャンによる画像診断が行われた。血液検査は最初の6週間は毎週、その後は3週間ごとに治療時に実施された。
用量調整に関しては、ベバシズマブの減量は許容されなかった。重篤な有害事象 (出血、蛋白尿) が発生した場合は投与を中断し、解決後に同用量で再開された。カルボプラチンとゲムシタビンは、血液毒性などの基準に基づき標準的な用量調整が許可された。各サイクル開始前には、好中球絶対数 ≥ 1500/µl、血小板数 ≥ 100,000/µl が必要であった。好中球絶対数が1000〜1500/µl、血小板数が75,000〜100,000/µlの場合、治療を1週間遅延させ、ゲムシタビンを20%減量した。好中球絶対数 < 1000/µl、血小板数 < 75,000/µlの場合、治療を1週間遅延させ、カルボプラチンとゲムシタビンを20%減量した。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) の使用は好中球減少症が確認された後に許可された。
統計解析では、PFSおよびOSの推定にKaplan-Meier法が用いられた。PFSは治療開始から病勢進行または死亡までの期間と定義された。安全性解析には、少なくとも1サイクル以上の治療を受けた全患者が含まれた。本試験は、ECOG 4599試験と比較してPFSが2.5ヶ月改善することを検出するために、50例の患者登録を計画した。検出力は80%、有意水準は片側5%に設定された。患者が進行しなかった場合、PFS解析では打ち切り、死亡または追跡不能の場合、OS解析では打ち切りとした。