• 著者: Passaro A, Lamberti G, Manfredi F, Cavalieri S, Pavan A, Attili I, Callari AC, Pisapia P, Troncone G, de Marinis F
  • Corresponding author: Antonio Passaro, MD, PhD (Division of Thoracic Oncology, European Institute of Oncology IRCCS, Milan, Italy)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-17
  • Article種別: Commentary / Perspective
  • PMID: 30995172

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、ECOG Performance Status (PS) 2の患者は、PS 0-1の患者と比較して予後が不良である。主要な免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の第III相臨床試験(例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015など)では、PS 2の患者はほとんど除外されるか、過小に代表されてきた。しかし、PS 2の患者はNSCLC患者全体の約15%から20%を占める重要な集団であり、彼らに対する有効かつ安全な治療オプションの確立は喫緊の課題である。標準化学療法(白金製剤ベースの2剤併用療法)では、PS 2患者におけるGrade 3/4の毒性リスクが高く、治療耐容性が低いことが報告されている。ICIは化学療法と比較してGrade 3/4の有害事象発生率が低い傾向にあるため、PS 2患者においても良好な安全性プロファイルを示す可能性が示唆されてきた。しかし、PS 2患者におけるICIの有効性に関するデータは、これまで観察研究、小規模な前向き研究、または第III相試験のサブグループ解析から限定的にしか得られておらず、エビデンスが不足している状況であった。特に、PS 2 NSCLC患者を対象とした初のペムブロリズマブ (Pembrolizumab) の前向き試験であるPePS2試験の結果が注目されていた。PS 2の定義は、患者が歩行可能で身の回りのことはできるが、仕事ができず、起きている時間の50%以上を活動できない状態とされているが、年齢、腫瘍量、併存疾患、多剤併用療法などを考慮しておらず、主観的な分類になりがちである。患者報告のPSと医師報告のPSが異なることも報告されており、PS 2の患者群は非常に不均一な集団であると考えられている。このような背景から、PS 2患者に対するICIの適切な臨床的意思決定は未解明な点が多かった。

目的

本解説の目的は、ECOG PS 2の進行NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の既存のエビデンスを包括的にレビューすることである。特に、PS 2患者を対象とした初のペムブロリズマブ前向き試験であるPePS2試験のデータを中心に、PS 2患者へのICI適用における臨床的意思決定に関する現状と課題について考察し、今後の研究方向性に関する視点を提供することを目指す。本研究は、PS 2患者におけるICIの有効性と安全性のギャップを埋め、個別化された治療戦略の確立に貢献することを意図している。

結果

PS 2患者におけるニボルマブ (Nivolumab) の実臨床データ: CheckMate-153試験は、前治療歴のある扁平上皮および非扁平上皮転移性NSCLC患者を対象とした第III/IV相安全性評価試験であり、米国およびカナダで実施された。総計 n=1,375名の患者が登録され、そのうち n=123名 (8.9%) がPS 2であった。PS 2サブグループにおける全生存期間 (OS) 中央値は3.9ヶ月であり、PS 0-1サブグループの10.5ヶ月と比較して著しく不良であった。6ヶ月および1年OS率はそれぞれ17%および44%であった。しかし、PS 2患者においても、ほとんどの時点で症状負担の有意な改善が観察され、生活の質 (QOL) スコアも6週目から改善を示した。Grade 3/4の有害事象 (AE) 発生率はPS 0-1患者で12%であったのに対し、PS 2患者では10%と、忍容性は良好であった。死亡率はPS 0-1患者で1%未満、PS 2患者で2%であった。

ニボルマブの拡大アクセスプログラムとCheckMate-171試験の結果: CheckMate-171試験は、転移性扁平上皮NSCLC患者を対象としたニボルマブの第II相単群試験であり、高齢患者 (70歳以上) およびECOG PS 2患者 (n=98; 12.1%) を含む n=809名が登録された。PS 2患者集団におけるOS中央値は5.4ヶ月であり、全試験集団の9.9ヶ月と比較して短かった。PS 2患者の安全性プロファイルは、治療関連AE (TRAE) およびTRAEによる治療中止率において、全体集団と同程度であった。カナダ、フランス、イタリアで実施された3つの拡大アクセスプログラム (EAP) においても、前治療歴のあるPS 2患者におけるニボルマブの安全性プロファイルは全体集団と同等であったが、OS中央値はPS 2患者で不良であった (カナダEAP: 5.9 vs 9.1ヶ月)。イタリアEAPではPS 2がPFSおよびOSの予測因子であったことが報告された。これらの研究は、PS 2患者の予後がPS 0-1患者よりも不良であることを再確認するものであった (Table 1)。

PePS2試験 (Pembrolizumab in PS 2 NSCLC) の結果とPD-L1発現との関連: PePS2試験は、ECOG PS 2のNSCLC患者を対象としたペムブロリズマブの第II相前向き試験であり、一次治療または二次治療の患者が登録された。全体で n=60名の患者が登録され、ペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに投与された。全体集団における奏効率 (ORR) は28.3%であり、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は5.4ヶ月、OS中央値は11.7ヶ月であった。Grade 3/4の治療関連有害事象 (TRAE) 発生率は11.7%であり、PS 2患者においても忍容性が確認された。 特に注目すべきは、PD-L1発現レベルによるサブグループ解析結果である (Table 1)。PD-L1腫瘍細胞陽性率 (TPS) が50%以上のサブグループ (n=15) では、ORRが47%、PFS中央値が8.5ヶ月、OS中央値が16.6ヶ月と、非常に良好な結果を示した。一方、PD-L1 TPSが1%未満のサブグループ (n=27) では、ORRが19%、PFS中央値が3.3ヶ月、OS中央値が9.8ヶ月であった。PD-L1 TPSが1%から49%のサブグループ (n=15) では、ORRが33%、PFS中央値が6.8ヶ月、OS中央値は未到達であった。これらの結果は、PePS2試験におけるペムブロリズマブの有効性が、CheckMate-171やCheckMate-153のPS 2患者における成績 (OS中央値3.9〜5.4ヶ月) と比較して顕著に良好であることを示している。

PS 2患者におけるICI成績に影響する因子: PD-L1発現は、PS 2患者におけるICIの最も強力な予測因子であることが示された。特にPD-L1 TPSが50%以上の患者では、PS 2であっても高い有効性 (ORR 47%, OS中央値16.6ヶ月) が期待できる。また、PS 2の原因 (腫瘍関連 vs 合併症関連) がICIへの応答性に影響する可能性が示唆された。腫瘍関連のPS低下 (癌性疼痛、栄養不良など) の場合、ICIが奏効すれば急速なPS改善が期待できる一方、合併症関連のPS低下 (COPDなど) の場合、ICIの効果が制限される可能性がある。ベースラインでのステロイド使用 (プレドニゾン換算10mg/日以上) は、ICI治療患者におけるORR、PFS、OSの低下と関連することが報告されており、PS 2患者ではステロイド使用頻度が高い傾向にあるため、これもICI効果に影響を及ぼす可能性がある。さらに、抗生物質の使用が腸内細菌叢を変化させ、ICIの治療成績に悪影響を与える可能性も指摘されている。

PS 2患者への推奨と課題: PePS2試験のデータに基づくと、PD-L1 TPSが50%以上のPS 2 NSCLC患者は、少なくとも観察データからペムブロリズマブ単剤療法の最も適切な適応であると考えられる。しかし、PS 2かつPD-L1 TPSが1%未満の患者では、有効な治療オプションが限定的であり、化学療法、ICI、または最善支持療法 (BSC) の選択がより困難となる。PS 2 NSCLC患者を対象とした前向き無作為化比較試験 (RCT) の実施が喫緊の課題として強調されている。これらのRCTは、標準化学療法との比較を含め、PS 2患者におけるICIの真のベネフィットとリスクを評価するために不可欠である。

考察/結論

ECOG PS 2のNSCLC患者は、主要なICI第III相試験から除外されてきたため、エビデンスが乏しく、臨床現場での治療判断が困難な集団である。本解説は、PePS2試験のデータ(ORR 28.3%、OS中央値11.7ヶ月、特にPD-L1 TPS 50%以上でORR 47%、OS中央値16.6ヶ月)が示す通り、特にPD-L1高発現のPS 2患者においてペムブロリズマブ単剤が有効かつ忍容可能な治療オプションであることを支持する。この知見は、PS 2患者に対するICIの臨床応用における重要な一歩である。

しかし、CheckMate-153およびCheckMate-171における実臨床データ(PS 2患者のOS中央値3.9〜5.4ヶ月)とPePS2試験の結果との乖離は、試験デザイン、患者選択基準、PS 2の定義の不均一性、および治療ラインの違いを反映している可能性があり、慎重に解釈する必要がある。PePS2試験は前向き試験であり、より厳格な患者選択が行われた可能性がある。

先行研究との違い: これまでの多くのICI試験がPS 0-1患者を対象としてきたのに対し、PePS2試験はPS 2患者に特化してICIの有効性を評価した点で、これまでの報告とは異なる重要な知見を提供した。特に、PS 2患者におけるICIの有効性に関する前向きデータはこれまで不足しており、本研究は大きなギャップを埋めるものである。

新規性: 本研究で初めて、PS 2 NSCLC患者におけるPD-L1発現レベルがICIの奏効に強く関連すること、特にPD-L1高発現患者で良好な転帰が得られることを前向きデータで示したことは新規性がある。これは、PS 2患者に対する個別化医療の可能性を示唆するものである。

臨床応用: 本知見は、PS 2 NSCLC患者、特にPD-L1高発現患者に対するペムブロリズマブ単剤療法の臨床的有用性を示唆する。これにより、これまで治療選択肢が限られていたPS 2患者に対する個別化された治療戦略の確立に貢献する可能性がある。臨床現場では、PD-L1発現レベルを考慮した上で、患者のPS低下の原因(腫瘍関連か合併症関連か)を評価し、慎重な意思決定を行うことが重要である。

残された課題: 今後の検討課題として、PS 2 NSCLC患者におけるICIと標準化学療法との比較を含む前向き無作為化比較試験 (RCT) の実施が不可欠である。特にPD-L1 TPS 1%未満のPS 2患者では、有効な治療オプションが依然として限定的であり、BSCとの比較も含めた専用のRCTが必要である。PS 2患者の試験参加コンプライアンスの低さや試験設計上の困難さがRCT実施の障壁となっているが、ASCOやFDAが提唱する高齢患者のRCT参加促進と同様に、PS 2患者の組み入れを奨励するステップが求められる。また、ICIの費用対効果や、いわゆる「絶望的腫瘍学 (desperation oncology)」と呼ばれる、エビデンスに基づかないICI使用が患者や社会に与える経済的負担も考慮すべき重要な課題である。

方法

本稿は、ECOG PS 2の非小細胞肺がん (NSCLC) 患者における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の使用に関する臨床的視点を提供する解説記事であるため、特定の研究デザインや統計解析方法は適用されない。既存の文献レビューに基づき、主に以下の情報源からデータを収集し、考察した。

  1. 主要なICI第III相臨床試験: Reck et al. NEnglJMed 2016Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015など、PS 0-1患者を対象とした試験の概要。これらの試験は、PS 2患者をほとんど除外していたため、本集団への外挿可能性が限定的である。
  2. PS 2患者を含む観察研究および実臨床データ: CheckMate-153、CheckMate-171、およびカナダ、フランス、イタリアでの拡大アクセスプログラム (EAP) のデータなど、PS 2患者のサブグループ解析結果。これらのデータは、PS 2患者におけるICIの安全性プロファイルと予後に関する実臨床での情報を提供した。
  3. PePS2試験: PS 2 NSCLC患者を対象としたペムブロリズマブの第II相前向き試験の予備データ。この試験は、一次治療または二次治療のPS 2患者 n=60 にペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに投与し、奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルを評価した。PD-L1発現レベルによるサブグループ解析も実施された。
  4. 関連するメタアナリシスおよびレビュー: PSとICI効果の関連性に関する既存のメタアナリシスなど。これらの研究は、PS 2患者のICI治療における課題を浮き彫りにした。
  5. PS 2患者の特性に関する考察: PS 2の定義の不均一性、併存疾患、ステロイド使用、抗生物質使用、腸内細菌叢、ICI関連肺炎のリスクなど、ICIの有効性および安全性に影響を及ぼしうる因子について議論した。特に、ベースラインでのステロイド使用 (プレドニゾン換算10mg/日以上) がICI治療患者におけるORR、PFS、OSの低下と関連することが報告されている。

これらの情報源から得られたデータを統合し、PS 2 NSCLC患者におけるICIの有効性、安全性、および臨床的意思決定における課題を分析した。特に、PD-L1発現レベルがICIの奏効に与える影響に焦点を当てた。本稿は、既存のエビデンスを批判的に評価し、今後の研究の方向性について提言を行うことを目的とした。統計解析は行われていないが、各研究の報告されたp値や95% CIを参考に、臨床的意義を考察した。