- 著者: Sandler A, Yi J, Dahlberg S, Kolb MM, Wang L, Hambleton J, Schiller J, Johnson DH
- Corresponding author: Alan Sandler, MD (Oregon Health & Science University, Portland, OR, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 20686429
背景
Bevacizumab (B; 抗VEGF抗体) は、進行非扁平上皮非小細胞肺癌 (non-squamous NSCLC) 患者において、paclitaxel/carboplatin (PC) 療法にBを追加する併用療法 (PCB; paclitaxel/carboplatin/bevacizumab) が全生存期間 (OS) を延長することを示したECOG E4599 Phase III試験の結果に基づき、FDAによって承認された。この試験では、PCB群のOS中央値が12.3ヶ月であったのに対し、PC単独群では10.3ヶ月であり、ハザード比 (HR) は0.80 (95% CI: 0.69-0.93, p=0.003) であったとSandler et al. NEnglJMed 2006が報告している。この結果は、以前のPhase II試験であるECOG 4599でも示唆されていたものであるとJohnson et al. JClinOncol 2004が報告している。しかし、E4599試験では、扁平上皮癌、脳転移、喀血歴のある患者は除外されており、試験参加者は非扁平上皮NSCLCに限定されていた。非扁平上皮NSCLCは、腺癌、大細胞癌、および「特定不能型 (NOS; not otherwise specified)」などの複数の組織型を含む異質な疾患群である。これらの組織型間でのBに対する感受性や治療効果の違いは未解明であった。VEGFシグナル伝達経路の腫瘍生物学的役割は組織型によって異なる可能性があり、特にVEGF発現が高い傾向にある腺癌において、Bによる治療利益がより大きい可能性が示唆されていた。先行研究では、組織型が治療効果に影響を与える可能性が示されており、例えばScagliotti et al. JClinOncol 2008は、シスプラチン/ペメトレキセドとシスプラチン/ゲムシタビンを比較した試験において、腺癌または大細胞癌患者でペメトレキセドの生存利益がより大きいことを報告している。しかし、B治療における組織型別の効果に関する詳細な解析は不足していた。本研究は、B治療の適格性をより正確に判断するための重要な情報を提供するものとなる。
目的
ECOG E4599試験 (NCT00051519) のintent-to-treat (ITT) 集団 (n=878) において、腺癌、NOS、大細胞癌、およびその他の組織型サブグループ別に、B併用療法 (PCB) がOSおよび無増悪生存期間 (PFS) に与える効果を後向きに評価すること。本解析の主要目的は、Bの治療効果が特定の組織型に集中しているかどうかを特定することである。
結果
全体OSの改善と腺癌サブグループにおける顕著な生存利益: ECOG E4599試験のITT集団全体において、PCB併用療法はPC単独療法と比較してOSを有意に改善した。OS中央値はPCB群で12.3ヶ月、PC群で10.3ヶ月であり、HRは0.80 (95% CI: 0.69-0.93, p=0.003) であった。これは、Bの追加による全体の生存利益を再確認する結果である。最も大きなサブグループである腺癌患者 (n=602, 全体の68.8%) において、PCB群のOS中央値は14.2ヶ月であり、PC群の10.3ヶ月と比較して有意な延長が認められた (HR 0.69, 95% CI: 0.58-0.83) (Figure 1A)。これは、腺癌患者において死亡リスクが31%減少したことを示している。また、PFS中央値もPCB群で6.6ヶ月、PC群で5.0ヶ月と有意に延長し (HR 0.65, 95% CI: 0.54-0.78) (Figure 1C)、腺癌がB治療の主要な受益者であることを明確に示した。1年生存率はPCB群で0.565 (95% CI: 0.508-0.621)、2年生存率は0.271 (95% CI: 0.216-0.326) であった (Figure 1B)。
NOS組織型における生存利益の欠如とPFSの傾向: NOS組織型患者 (n=165, 全体の18.9%) においては、PCB群とPC群の間でOSに統計的に有意な差は認められなかった。OSのHRは1.16 (95% CI: 0.84-1.61) であり、信頼区間がHR 1を跨ぐため、Bの利益は確認されなかった (Figure 1A)。PFSに関しては、HR 0.78 (95% CI: 0.55-1.09) と改善傾向が見られたものの、統計的有意性には達しなかった (Figure 1C)。これは、NOS組織型がBに対する感受性が低いか、あるいは異質な腫瘍群が混在している可能性を示唆している。NOS患者におけるグレード5の出血イベントは3件 (3.8%) 発生し、他の組織型と比較して高い発生率であった (Table 3)。
その他の組織型における結論の限界: 大細胞癌 (n=48) およびその他の非扁平上皮型 (n=34) のサブグループでは、患者数が少なく、OSおよびPFSに関する決定的な結論を得ることは困難であった。大細胞癌のOSのHRは1.15 (95% CI: 0.60-2.24) であり、Bronchoalveolar carcinoma (n=23) のOSのHRは1.48 (95% CI: 0.57-3.89) であった (Figure 1A)。これらのサブグループでは、統計的検出力が不十分であったことが主な理由である。特に、非腺癌組織型をプールした場合のOS中央値は、PC群で10.2ヶ月、PCB群で9.6ヶ月であり、HRは1.14 (95% CI: 0.88-1.47) であった。
奏効率 (ORR) の比較: ORRは、腺癌サブグループにおいてPCB群で31.5%、PC群で21.3%と、PCB群で高い傾向が認められた。NOSサブグループでは、PCB群で26.3%、PC群で22.9%と、差は小さかった。
安全性プロファイルと治療曝露期間: 組織型別の安全性プロファイルは、全体集団の安全性プロファイルと概ね一貫しており、予期せぬ有害事象の傾向は認められなかった (Table 3)。ただし、グレード3以上の高血圧、静脈血栓塞栓症、蛋白尿の発生率は、PCB治療を受けた腺癌患者で高い傾向が見られた。これは、腺癌患者がPCB治療をより長く継続したことと関連している可能性がある (Table 2)。PC群では、全ての組織型で治療サイクル中央値が4-5サイクル、治療期間中央値が2.2-3ヶ月であった。一方、PCB群では、腺癌患者で治療サイクル中央値が8.0サイクル (範囲: 1-47)、治療期間中央値が4.9ヶ月 (範囲: 0.03-33.54) であった。NOSおよびその他の組織型におけるPCB群では、治療サイクル中央値がそれぞれ6.0サイクルと5.5サイクル、治療期間中央値がそれぞれ3.6ヶ月と3.5ヶ月であった (Table 2)。
考察/結論
本後向き解析は、ECOG E4599試験において、B併用療法によるOS利益が主に腺癌サブグループに集中していることを明確に示した。腺癌患者では、OS中央値が14.2ヶ月 (HR 0.69, 95% CI: 0.58-0.83) と、PC単独群と比較して有意な延長が認められた。これは、非扁平上皮NSCLCという包括的なカテゴリがBの適応選択基準として不十分であり、腺癌組織型においてより明確な治療利益が期待できることを示唆する。
先行研究との違い: これまでの研究では非扁平上皮NSCLC全体としてBの有効性が評価されてきたが、本研究は非扁平上皮NSCLC内での組織型、特に腺癌がB治療の主要な受益者であるという点で、これまでの知見をより詳細に掘り下げた。特に、Scagliotti et al. JClinOncol 2008がペメトレキセドにおいて腺癌患者の生存利益を示したのと対照的に、本研究は抗VEGF抗体であるBにおいても組織型が治療効果に影響を与えることを示している。
新規性: 本研究で初めて、進行非扁平上皮NSCLCにおけるBの生存利益が腺癌組織型に強く関連していることを統計的に示し、VEGF/VEGFR経路への依存性が腺癌で高いという仮説を支持する新規データを提供した。この知見は、非扁平上皮NSCLCのサブタイプにおけるBの作用機序に関する理解を深めるものである。
臨床応用: 本知見は、Bの適応選択において組織型確認 (腺癌か否か) の重要性を強調する。臨床現場において、非扁平上皮NSCLC患者にBを投与する際、腺癌組織型であるかどうかが治療効果を予測する上で重要な因子となり得ることを示唆する。これにより、治療の個別化が進み、不必要な治療曝露や有害事象を避けることが可能になる。
残された課題: NOS組織型におけるBの利益が認められなかったこと (HR 1.16) は、この組織型が異質な腫瘍群を含んでいる可能性や、実際には扁平上皮成分が混在している可能性を反映している。これは今後の検討課題であり、NOS組織型の詳細な病理学的再分類や分子生物学的特徴付けが必要である。また、本解析は後向き研究であり、交絡因子の完全な制御にはlimitationがある。他の組織型における患者数が少なく、統計的検出力が不十分であったことも残された課題である。これらのサブグループにおけるBの真の治療効果を評価するためには、より大規模な前向き研究または組織型に基づく層別化された試験が必要である。
方法
本研究は、ECOG E4599 Phase III無作為化比較試験 (NCT00051519) のITT集団を対象とした後向き組織型別サブグループ解析である。患者はPC単独群 (n=444) またはPCB併用群 (n=434) に無作為に割り付けられた。組織型は、腺癌 (adenocarcinoma)、大細胞癌 (large cell carcinoma)、NOS (Not Otherwise Specified)、およびその他の非扁平上皮型に分類された。患者の適格基準は、組織学的または細胞学的に確認された転移性非扁平上皮NSCLC、ECOGパフォーマンスステータス0または1、十分な骨髄、肝臓、腎臓機能、およびインフォームドコンセントであった。主要評価項目はOSであり、副次評価項目はPFSであった。OSは無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義され、PFSは無作為化から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。各組織型サブグループにおけるOSおよびPFSの評価には、Kaplan-Meier法、log-rank検定、およびCox比例ハザードモデルを用いてハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) を算出した。ベースラインの患者特性は、組織型別に記述的に要約され、カテゴリカルデータ間の差の検定にはFisherの正確検定が用いられた。治療効果の組織型による交互作用は、非層別化多変量Cox回帰モデルを用いて評価された。本解析の統計的検出力は、特に非腺癌サブグループにおいて、30%の生存改善を検出するのに十分ではないことが示唆された。安全性プロファイルも組織型別に記述的に評価された。