• 著者: Johnson DH, Fehrenbacher L, Novotny WF, Herbst RS, Nemunaitis JJ, Jablons DM, Langer CJ, DeVore RF 3rd, Gaudreault J, Damico LA, Holmgren E, Kabbinavar F
  • Corresponding author: David H. Johnson, MD (Vanderbilt-Ingram Cancer Center, Nashville, TN, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2004
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15169807

背景

血管内皮増殖因子 (VEGF) は、非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む固形腫瘍における血管新生の主要な促進因子である。VEGFの高発現はNSCLC患者の予後不良と関連することが複数の研究で示されている (Yuan et al. 2001, Volm et al. 1997)。VEGFは1980年代に発見され、血管内皮細胞に特異的な有糸分裂促進因子として機能するホモ二量体ヘパリン結合糖タンパク質である (Senger et al. 1983, Ferrara et al. 1989, Leung et al. 1989)。VEGFはVEGF受容体-1 (Flt-1) およびVEGF受容体-2 (KDR, flk-1) と相互作用することでその効果を発揮し、正常な血管形成および血管新生に不可欠であると考えられている (Ferrara et al. NatMed 2003)。形質転換細胞株はしばしばVEGF mRNAを発現し、VEGFを分泌することが知られており、VEGFをコードする発現ベクターをチャイニーズハムスター卵巣細胞にトランスフェクトすると、ヌードマウスで腫瘍を形成することが報告されている (Ferrara et al. 1993)。さらに、VEGFに対する抗体が単独または化学療法との併用でin vivoでの腫瘍増殖を抑制できるという観察結果から、VEGFが腫瘍血管新生において重要な役割を果たすという証拠が示されている (Kim et al. 1993, Kabbinavar et al. 1995, Borgstrom et al. 1999)。これらの知見から、VEGFは上皮癌における主要な腫瘍血管新生因子であり、治療標的として合理的であると考えられた。

Bevacizumab (Avastin) は、VEGFを中和する組換えヒト化モノクローナル抗体であり、マウス抗ヒトVEGF抗体A4.6.1のヒト化型である (Presta et al. 1997)。Phase 1試験では、bevacizumab単剤の安全性は概ね良好であり、用量制限毒性は認められなかった (Gordon et al. 2001)。古典的な細胞傷害性化学療法剤との併用においても、予想される毒性の悪化は観察されなかった (Margolin et al. 2001)。前臨床試験では、carboplatin/paclitaxelとの組み合わせで相乗的な抗腫瘍効果が示されていた (Herbst et al. 1998)。NSCLCはVEGFを高発現しやすく、抗血管新生療法の標的として合理的であると考えられたが、肺腫瘍の大血管への近接や浸潤から、出血リスクが懸念されていた。特に、bevacizumabの作用機序が腫瘍壊死を誘導する可能性があり、これが中枢型扁平上皮癌において致命的な出血を引き起こす可能性があるという懸念があった。

本試験は、未治療の局所進行または転移性NSCLC患者を対象に、bevacizumabの最適用量 (7.5 mg/kg vs 15 mg/kg) の決定と、大規模なPhase 3試験 (ECOG E4599) に向けた患者適格基準の確立を目的として設計された。当時の標準治療であるcarboplatinとpaclitaxelの併用療法は、有効性が高く、他の標準レジメンと比較して毒性が低いとされていた (Schiller et al. NEnglJMed 2002, Kelly et al. JClinOncol 2001)。しかし、抗血管新生療法と化学療法の併用における安全性プロファイル、特に肺癌における出血リスクについては未解明な点が多かった。このギャップを埋めることが本研究の重要な目的の一つであった。抗血管新生療法はNSCLCにおいて有望な治療戦略であると考えられたが、その安全性、特に喀血のリスクに関するデータが不足しており、適切な患者選択基準を確立する必要があった。

目的

本研究の目的は、未治療の局所進行または転移性NSCLC患者を対象に、標準的なcarboplatinとpaclitaxel (CP) 併用療法にbevacizumab (低用量7.5 mg/kgまたは高用量15 mg/kg) を追加した場合の有効性と安全性を評価することであった。主要評価項目は病勢進行までの期間 (TTP) および客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目は全生存期間 (OS) および奏効期間であった。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. CP単独療法と比較して、bevacizumab追加療法がTTP、ORR、OSを改善するかどうか。
  2. bevacizumabの最適な用量 (7.5 mg/kg vs 15 mg/kg) を特定すること。
  3. bevacizumab併用療法の安全性プロファイルを詳細に評価し、特に肺癌患者における出血イベントのリスク因子を特定すること。
  4. 将来の大規模Phase 3試験 (ECOG E4599) の設計に資する患者適格基準を確立すること。

本試験は、bevacizumabが腫瘍血管新生を阻害することで抗腫瘍効果を発揮し、化学療法の効果を増強するという仮説に基づき、その臨床的有用性を検証することを意図した。特に、肺癌におけるbevacizumabの安全性、特に喀血のリスクに関する懸念を解消し、適切な患者選択基準を確立することが重要な目的であった。本研究は、抗血管新生療法がNSCLCの初回治療において新たな選択肢となる可能性を探るための重要なステップと位置づけられた。

結果

TTP (主要評価項目) の改善: Bevacizumab 15 mg/kg + CP群 (Bev15+CP群) のTTP中央値は 7.4ヶ月 であり、CP単独群のTTP中央値 4.2ヶ月 と比較して有意な延長を示した (Coxモデル、ハザード比 HR 0.54, 95% CI 0.32-0.91, P=0.023) (Figure 1)。これは、病勢進行または死亡のリスクが約46%減少したことを意味する。独立判定施設 (IRF) の評価でも、Bev15+CP群のTTP中央値は7.0ヶ月、CP群は5.9ヶ月であったが、統計的有意差は認められなかった (P=0.185)。Bevacizumab 7.5 mg/kg + CP群 (Bev7.5+CP群) のTTP中央値は 4.3ヶ月 であり、CP群との間に有意な差は認められなかった。最長観察期間は最大12.5〜12.9ヶ月であった。

OS (副次評価項目) の傾向とクロスオーバーの影響: Bev15+CP群のOS中央値は 17.7ヶ月、CP群のOS中央値は 14.9ヶ月 であった (P=0.63) (Figure 2)。統計的有意差は認められなかったものの、数値的にはBev15+CP群で良好な傾向が示された。Bev7.5+CP群のOS中央値は 11.6ヶ月 であり、CP群と比較して低い傾向がみられた。CP群のOS中央値14.9ヶ月は、同時期の他の試験 (通常8ヶ月前後) と比較して特筆すべき高さであった。これは、CP群の患者19名が病勢進行後にbevacizumab単剤へのクロスオーバーを選択したことが影響している可能性が示唆された。クロスオーバー後のbevacizumab単剤治療を受けた患者の1年OSは 47% であり、5例で安定維持が認められた。

ORR (客観的奏効率) の改善: 担当医師の評価に基づく客観的奏効率は、Bev15+CP群で 31.5%、CP群で 18.8% であり、Bev15+CP群で数値的な改善が認められた (Table 2)。Bev7.5+CP群のORRは 28.1% であった。IRFの評価では、Bev15+CP群のORRは 40.0%、CP群は 31.3% であった。

非扁平上皮癌サブセット解析における有効性: 扁平上皮癌患者を除外した非扁平上皮癌患者のサブセット解析では、bevacizumabの有効性がより明確に示された (Table 4)。Bev15+CP群のOS中央値は 17.8ヶ月、ORRは 50%、TTP中央値は 7.1ヶ月 (P=0.01) であった。これに対し、CP群ではOS中央値 12.2ヶ月、ORR 20%、TTP中央値 4.0ヶ月 であった。このサブセットでは、致死的な出血リスクも約4%に低減された。

重大喀血 (安全性の核心的シグナル): Bevacizumab投与群において、Grade 3〜5の重大な喀血が全試験で 6例 発生した (Bev15+CP群2例、Bev7.5+CP群4例)。これらのうち 4例が致死的 (Grade 5) であった。重大喀血を経験した6例全てに共通する特徴として、中枢側に位置する腫瘍 (大血管近傍) が挙げられた。また、5例で治療前または治療中に腫瘍壊死や空洞形成が認められた (Figure 3)。組織型別では、6例中5例が扁平上皮癌であった (扁平上皮癌患者13例中4例、31%)。非扁平上皮癌患者では、54例中2例 (4%) であった。CP群では重大な喀血は1例も発生しなかった。

その他の安全性プロファイル: Bevacizumabの追加により、高血圧、無症候性タンパク尿、出血などのbevacizumab関連有害事象が増加する傾向が認められた (Table 3)。高血圧はBev15+CP群で17.6% (Grade 3: 2例)、Bev7.5+CP群で15.6% (Grade 3: 0例)、CP群で3.1% (Grade 3: 1例) であった。無症候性タンパク尿はbevacizumab群で21例 (Bev7.5+CP群7例、Bev15+CP群14例) に認められたのに対し、CP群では2例であった。血栓塞栓事象はBev15+CP群で17.6% (Grade 3: 5例)、Bev7.5+CP群で12.5% (Grade 3: 2例)、CP群で9.4% (全例Grade 3) であった。白血球減少 (Grade 3/4) はBev15+CP群で55.9%、Bev7.5+CP群で46.9%、CP群で31.3%と、bevacizumab群で高頻度であった。軽度の粘膜皮膚出血として、鼻出血がBev15+CP群で44.1%、Bev7.5+CP群で31.3%、CP群で6.3%に報告された。治療中断に至った有害事象としては、重大出血事象 (3例)、Aspergillus肺膿瘍 (1例)、誤嚥性肺炎 (1例)、血栓性脳卒中 (1例) などがあった。治療関連死はbevacizumab各群で4例ずつ、CP群で1例であった。

投与状況とクロスオーバー患者の経過: Bevacizumabの中央値投与数は、Bev15+CP群で10回、Bev7.5+CP群で8回 (範囲1〜18回) であった。両bevacizumab群の相対的用量強度 (実際の投与量/計画投与量) はそれぞれ93%と95%と高かった。化学療法は全3群で中央値6サイクルが投与され、相対的用量強度は全群で80〜100%の範囲内であった。CP群からbevacizumab単剤へのクロスオーバーは19例 (32例中) であり、そのうち5例で病勢安定が維持され、1例ではクロスオーバー治療後の病勢増悪までの期間が対照治療よりも有意に延長した (120日 vs 60日)。このクロスオーバー患者の12ヶ月生存率は47%であり、単剤bevacizumabの維持的活性が示唆された。

考察/結論

本Phase 2試験は、未治療の局所進行または転移性NSCLC患者において、bevacizumab 15 mg/kgをcarboplatin/paclitaxelに加えることでTTPが有意に延長すること (7.4 vs 4.2ヶ月、HR 0.54, 95% CI 0.32-0.91, P=0.023) を示した最初の無作為化試験であり、抗VEGF療法がNSCLC治療において有効であるという概念実証 (proof-of-concept) となった。OSの有意差は得られなかったが (17.7 vs 14.9ヶ月、P=0.63)、コントロール群のmOS 14.9ヶ月は、同時期の他の試験 (例: Schiller et al. NEnglJMed 2002の約8ヶ月) と比較して約2倍と高い値を示しており、これはCP群からbevacizumab単剤へのクロスオーバー (19例) が影響した可能性が示唆される。この結果は、bevacizumabが単剤でも一定の抗腫瘍活性を持つことを示唆しており、その後の維持療法の概念にも繋がる知見である。

先行研究との違い: 本研究の最大の臨床的貢献は、これまでの抗血管新生療法の安全性プロファイルに関する知見と異なり、bevacizumab併用療法における致死的喀血のリスク因子を明確に記述したことである。重大な喀血を経験した6例中5例が扁平上皮癌であり、さらに中枢側腫瘍、腫瘍空洞化、大血管近接といった患者特性が共通して認められた。これは、bevacizumabの作用機序である腫瘍壊死の誘導が、中枢型扁平上皮癌では致命的な出血を引き起こす可能性があることを示唆する新規の知見であった。

新規性: この安全性シグナルは、本研究で初めて明確に示されたものであり、その後の大規模Phase 3試験であるECOG E4599試験 (Sandler et al. 2006) の設計に直接反映された。ECOG E4599では、扁平上皮癌、大血管浸潤、脳転移などの患者が除外された上でbevacizumab+CP vs CPが比較された。その結果、非扁平上皮NSCLCにおいてOSが有意に改善されること (12.3 vs 10.3ヶ月、HR 0.79, 95% CI 0.67-0.92, P=0.003) が確認された。この「扁平上皮癌除外」という適格基準は、bevacizumabのFDA承認ラベルに今日まで反映されており、20年以上経た現在でも臨床実践を規定し続けている点で、本研究の臨床的意義は極めて大きい。

臨床応用: 7.5 mg/kgと15 mg/kgのbevacizumab用量比較では、TTPおよびORRともに15 mg/kg群が数値的に優れており、この用量が以降の開発で標準化された。非扁平上皮癌サブセット解析でのORR 50%は、bevacizumabが適切な患者群において強力な抗腫瘍活性を持つことを示している。現代的視点では、ramucirumab (VEGFR-2阻害) やnintedanibなど、後継の抗血管新生療法においても扁平上皮癌でより高い出血リスクが観察されており、本試験で得られた安全性シグナルは、抗血管新生療法の組織型依存的安全性管理の普遍的原則として臨床現場で継承されている。

残された課題: 本試験がPhase 2試験であり、OSの有意差が認められなかったこと、またCP群からのクロスオーバーがOS評価に影響を与えた可能性がある点が残された課題として挙げられる。今後の検討課題として、抗血管新生療法における最適な併用化学療法レジメンや、バイオマーカーを用いた出血リスクの層別化、さらにはbevacizumab耐性メカニズムの解明と克服が挙げられる。また、本研究ではbevacizumabの長期維持投与の有効性も示唆されたが、その最適な期間や対象患者についてはさらなる研究が必要である。本研究のlimitationとしては、オープンラベルデザインであったため、担当医師の評価にバイアスが生じる可能性があった点が挙げられる。しかし、独立判定施設 (IRF) による盲検化評価も実施されたことで、このバイアスは一部軽減されたと考えられる。

方法

本研究は、北米の12施設で実施された多施設前向きランダム化Phase 2試験 (NCT00003927) である。対象患者は、組織学的に確認されたStage IIIB (胸水あり)、Stage IV、または再発NSCLC患者で、小細胞肺癌または混合組織型は除外された。その他の適格基準として、年齢18歳以上、二次元的に測定可能な病変、ECOG Performance Status (PS) 0〜2、余命3ヶ月以上、定期的な追跡調査が可能であることなどが含まれた。過去に化学療法、生物学的療法、測定可能病変への放射線療法を受けた患者、または治療開始前2週間以内に放射線療法を受けた患者は除外された。また、中枢神経系転移、活動性の二次悪性腫瘍 (皮膚基底細胞癌を除く)、活動性感染症、妊娠中の患者も除外された。出血リスクを考慮し、非治癒性創傷、潰瘍、骨折、重度の心血管疾患 (例: 制御不能な高血圧、6ヶ月以内の心筋梗塞)、臨床的に有意な末梢血管疾患、および最近の主要な手術や生検、抗凝固剤の使用 (低用量ワルファリンを除く) も除外基準とされた。

合計99名の患者が、インタラクティブ音声応答システムを用いて以下の3つの治療群にランダムに割り付けられた。

  1. CP群: Carboplatin (AUC 6) + Paclitaxel (200 mg/m²) を3週ごとに投与 (n=32)。
  2. Bevacizumab 7.5 mg/kg + CP群 (Bev7.5+CP群): Bevacizumab 7.5 mg/kg + Carboplatin (AUC 6) + Paclitaxel (200 mg/m²) を3週ごとに投与 (n=32)。
  3. Bevacizumab 15 mg/kg + CP群 (Bev15+CP群): Bevacizumab 15 mg/kg + Carboplatin (AUC 6) + Paclitaxel (200 mg/m²) を3週ごとに投与 (n=35)。ただし、1名の患者は治療開始直前に中枢神経系転移が判明したため、プロトコル治療を受けなかった。

化学療法は最大6サイクルまで投与され、bevacizumabは病勢進行が認められない患者では、化学療法終了後も最大18回まで維持投与が継続された。CP群で病勢進行が認められた患者は、bevacizumab単剤 (15 mg/kg) へのクロスオーバーを選択することが可能であり、19名の患者がクロスオーバーした。

主要評価項目はTTP (腫瘍増悪までの時間) と客観的奏効率であった。副次評価項目はOS (全生存期間) と奏効期間であった。ランダム化はECOG PS (0/1 vs 2) で層別化された。腫瘍評価は、標準的なECOG基準に基づき、サイクル3、6、10、14、18後に実施された。奏効は初回確認後4週間以上経過して再確認された。腫瘍奏効は、担当医師と治療割り付けを盲検化された独立判定施設 (IRF) の両方によって評価された。安全性評価は、身体診察、臨床検査、バイタルサインモニタリングをbevacizumab投与前、中、後に実施された。

統計解析は、intention-to-treat解析に基づき実施された。生存解析にはKaplan-Meier法が用いられ、治療群間の差の統計的評価にはログランク検定 (log-rank test) が使用された。ハザード比の推定にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が用いられた。腫瘍奏効率の比較には両側カイ二乗検定 (chi-square test) が使用された。探索的解析として、Coxモデルを用いたTTPの多変量調整解析や、ベースライン因子がTTPおよび生存に対する治療効果の推定に与える影響の評価が行われた。本試験は、bevacizumab併用群 (プール) において奏効率が25% (27%から52%へ) 増加することを検出するために約80%の検出力を持つように設計された。単一のbevacizumab群と対照群の比較では、30%の改善を検出する80%の検出力があった。TTPの中央値については、対照群とbevacizumab併用群 (プール) の間で100%の改善、または対照群と単一のbevacizumab群の間で150%の改善を検出する80%の検出力があった。安全性を評価するための中間解析が1回計画されたが、中間解析での有意水準はp値が0.0001未満でない限り有意とはみなされなかった。