- 著者: Faivre-Finn C, Vicente D, Kurata T, Planchard D, Paz-Ares L, Vansteenkiste JF, Spigel DR, Garassino MC, Reck M, Senan S, Naidoo J, Rimner A, Wu YL, Gray JE, Ozguroglu M, Lee KH, Cho BC, Kato T, de Wit M, Newton M, Wang L, Thiyagarajah P, Antonia SJ
- Corresponding author: Corinne Faivre-Finn, MD, PhD (The Christie NHS Foundation Trust, Manchester, UK)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 33476803
背景
切除不能なIII期非小細胞肺がん (NSCLC) は、進行が早く予後不良な疾患であり、標準治療としてプラチナ製剤ベースの同時化学放射線療法 (cCRT) が確立されている。しかし、cCRT後の5年生存率は約15%から32%と低く、その後の治療選択肢は限られていた。これまでの研究では、cCRT後に化学療法を継続したり、放射線量を増量したりしても生存率の改善は認められなかった (Yoon et al. 2017, Bradley et al. 2020, Senan et al. 2016, Hanna et al. 2008)。このような背景から、cCRT後の新たな治療戦略が強く求められていた。
デュルバルマブ (durvalumab) は、PD-L1 (programmed death-ligand 1) とPD-1 (programmed cell death protein 1) およびCD80との相互作用を阻害するヒトIgG1モノクローナル抗体であり、T細胞が腫瘍細胞を認識し排除する能力を回復させる (Stewart et al. 2015)。PACIFIC試験は、切除不能なIII期NSCLC患者を対象に、cCRT後に疾患進行が認められなかった場合にデュルバルマブ維持療法をプラセボと比較する第III相二重盲検試験としてデザインされた。本試験の主要解析では、デュルバルマブが全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することが示され、cCRT後の標準維持療法としてデュルバルマブが確立された (Antonia et al. NEnglJMed 2017, Antonia et al. NEnglJMed 2018)。
これまでのPACIFIC試験の更新解析では、1年、2年、3年時点でのOSおよびPFSの持続的なベネフィットが報告されてきた (Antonia et al. NEnglJMed 2018, Gray et al. JThoracOncol 2020)。しかし、デュルバルマブ群のOS中央値はこれまでの解析では到達しておらず、より長期的な追跡データが不足していた。また、PD-L1発現レベルやEGFR変異状態といったバイオマーカーに基づくサブグループにおけるデュルバルマブの有効性については、さらなる詳細な検討が未解明な点として残されていた。特に、PD-L1発現が1%未満の患者群におけるデュルバルマブのOSベネフィットについては、これまでの解析で明確な利益が示されておらず、この集団に対するデュルバルマブの有効性に関する知識ギャップが存在する。本報告は、PACIFIC試験の最長追跡期間である約4年時点でのOSおよびPFSの更新解析であり、デュルバルマブの長期的な持続的有効性、安全性プロファイル、およびPD-L1発現やEGFR変異などのバイオマーカーサブグループにおける詳細な結果を提供することを目的とする。
目的
本研究の目的は、PACIFIC試験の約4年間の追跡データを用いて、切除不能なIII期NSCLC患者に対するcCRT後のデュルバルマブ維持療法における全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の長期成績を評価することである。具体的には、デュルバルマブ群のOS中央値を初めて推定し、4年時点でのOS率およびPFS率を算出する。さらに、PD-L1腫瘍細胞 (TC) 発現レベル (<1%, 1-24%, ≥25%) およびEGFR変異状態 (陽性 vs 陰性) に基づくサブグループにおけるデュルバルマブの有効性を詳細に解析し、長期的な安全性プロファイルを評価することも目的とする。これらの解析を通じて、デュルバルマブが広範な患者集団において標準治療としての位置づけを維持できるか、また特定のバイオマーカーサブグループにおいてその有効性がどのように異なるかを明らかにすることを目指す。
結果
全体OS (4年追跡): 2020年3月20日のデータカットオフ時点 (中央値追跡期間34.2ヶ月) で、デュルバルマブ群のOS中央値は47.5ヶ月に達し、プラセボ群の29.1ヶ月と比較して有意な延長を示した (HR 0.71, 95% CI 0.57-0.88)。4年OS率はデュルバルマブ群で49.6%であったのに対し、プラセボ群では36.3%であった (Figure 1A)。このOSのベネフィットは、主要解析 (HR 0.68) および3年時更新解析 (HR 0.69) から一貫して維持されていることが確認された。デュルバルマブ群ではn=247/476 (51.9%)、プラセボ群ではn=149/237 (62.9%) の患者が死亡した。
全体PFS (4年追跡): デュルバルマブ群のPFS中央値は17.2ヶ月であり、プラセボ群の5.6ヶ月と比較して有意な延長が認められた (HR 0.55, 95% CI 0.44-0.67)。4年PFS率はデュルバルマブ群で35.3%であったのに対し、プラセボ群では19.5%であった (Figure 1B, Table 1)。PFSの利益もOSと同様に長期にわたって持続することが示された。デュルバルマブ群ではn=266/476 (55.9%)、プラセボ群ではn=174/237 (73.4%) の患者がPFSイベントを経験した。
PD-L1発現別サブグループ解析: PD-L1発現レベルに基づくOSのサブグループ解析では、PD-L1 TC ≥25%の患者群で最も明確なOSの有益性が認められた (HR 0.53, 95% CI 0.33-0.85)。PD-L1 TC 1-24%の患者群でもOSの利益が示された (HR 0.69, 95% CI 0.43-1.10)。しかし、PD-L1 TC <1%の患者群ではOSの有益性は認められなかった (HR 1.05, 95% CI 0.69-1.62) (Figure 2)。この結果は、3年時解析の所見と整合するものであった。PFSに関しては、PD-L1 TC <1%の患者群でもデュルバルマブ群でPFSの改善傾向が認められた (HR 0.79, 95% CI 0.53-1.19) (Figure 3)。PD-L1 TC ≥1%の患者群全体では、OSのハザード比は0.60 (95% CI 0.43-0.84) であり、PFSのハザード比は0.49 (95% CI 0.36-0.66) であった。
EGFR変異状態別サブグループ解析: EGFR変異陽性患者 (n=43) におけるOSのハザード比は0.97 (95% CI 0.40-2.33) であり、デュルバルマブによるOSの有益性は認められなかった (Figure 2)。ただし、このサブグループの患者数は少なく、結果の解釈には限界がある。一方、EGFR変異陰性患者 (n=482) では、デュルバルマブ群で明確なOSの生存利益が示された (HR 0.64, 95% CI 0.50-0.83)。PFSに関しても同様に、EGFR変異陽性群ではHR 0.84 (95% CI 0.40-1.75) と有益性が不明確であったが、EGFR変異陰性群ではHR 0.51 (95% CI 0.40-0.65) と明確なPFSの延長が認められた (Figure 3)。
治療中止後の後続治療: デュルバルマブ群では47.3%の患者が、プラセボ群では58.2%の患者が試験治療中止後に後続の疾患関連抗がん治療を受けた。後続の免疫療法を受けた患者の割合は、デュルバルマブ群で11.6%であったのに対し、プラセボ群では28.3%であった。デュルバルマブ群では、初回後続治療または死亡までの期間 (HR 0.62, 95% CI 0.51-0.76) および2回目後続治療または死亡までの期間 (HR 0.62, 95% CI 0.51-0.77) がプラセボ群と比較して有意に長かった。
安全性プロファイル: 今回のデータカットオフでは新たな安全性データは収集されなかったが、これまでの報告と一致して、デュルバルマブの安全性プロファイルは管理可能であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。グレード3/4の治療関連有害事象の発生率は、以前の解析から変化がなかった。特に、グレード3/4の肺臓炎の発生率はデュルバルマブ群で3.4%、プラセボ群で2.6%であり、これも以前の報告と一致するものであった。
考察/結論
PACIFIC試験の4年更新解析は、切除不能なIII期NSCLC患者に対するcCRT後のデュルバルマブ維持療法が、長期にわたる持続的な生存ベネフィットをもたらすことを明確に示した。デュルバルマブ群のOS中央値が47.5ヶ月に達し、4年OS率が49.6%であったことは、この疾患における画期的な成果である。これは、これまでのcCRT後の標準治療であった経過観察と比較して、患者の予後を大幅に改善するものであり、デュルバルマブがこの疾患の標準治療としての位置づけをさらに強固にする結果である。
先行研究との違い: 本研究のOS中央値47.5ヶ月という結果は、これまでのPACIFIC試験の更新解析でOS中央値が未到達であった点と異なり、デュルバルマブの長期的な生存効果を定量的に示した点で重要である。また、PD-L1発現1%未満の患者群でOSのベネフィットが認められなかったという所見は、先行研究である3年時解析と整合するものの、この集団におけるデュルバルマブの有効性に関する議論をさらに深めるものである。
新規性: 本研究で初めてデュルバルマブ群のOS中央値が推定されたことは、デュルバルマブの長期的な生存効果をより具体的に示す新規の知見である。また、4年時点でのOS率およびPFS率が示されたことで、デュルバルマブの持続的な有効性が長期的な視点から評価された点も新規性がある。
臨床応用: これらの知見は、切除不能なIII期NSCLC患者に対するデュルバルマブ維持療法の臨床応用をさらに裏付けるものである。特に、PD-L1発現が1%以上の患者群では明確なOSのベネフィットが示されており、この集団に対するデュルバルマブの使用を強く支持する。しかし、PD-L1発現1%未満の患者群ではOSの利益が認められなかったため、この集団における治療選択には慎重な検討が必要である。欧州の規制当局がPD-L1 TC ≥1%に適応を限定していることからも、バイオマーカーに基づく層別化治療の重要性が示唆される。EGFR変異陽性例での利益欠如は、他の免疫チェックポイント阻害薬試験のデータと整合しており、cCRT後もEGFR変異陽性患者ではデュルバルマブの恩恵が限定的である可能性を示唆する。
残された課題: 本研究のサブグループ解析は、サンプルサイズが小さく、統計的に有効性を評価するようにはデザインされていないため、結果の解釈には限界がある。特に、PD-L1発現1%未満の患者群やEGFR変異陽性患者群におけるデュルバルマブの有効性については、さらなる大規模な検証が必要である。また、PD-L1発現の評価にcCRT前の腫瘍組織が用いられている点や、PD-L1評価可能検体が全患者の63%に留まった点もlimitationとして挙げられる。今後の検討課題として、これらのサブグループにおけるデュルバルマブ以外の治療戦略や、より正確なバイオマーカーに基づく層別化の確立が挙げられる。
方法
本研究は、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であるPACIFIC試験 (NCT02125461) の事前計画外更新解析である。対象患者は、WHOパフォーマンスステータスが0または1の切除不能なIII期NSCLC患者で、プラチナ製剤ベースの根治的同時化学放射線療法 (cCRT) を少なくとも2サイクル受け、cCRT後1〜42日以内に疾患進行が認められなかった者である。放射線療法は通常60〜66 Gyを30〜33分割で実施された。グレード2を超える未解決の毒性(またはグレード2以上の肺臓炎/放射線肺臓炎)を有する患者は除外された。腫瘍組織の採取は必須ではなく、PD-L1発現レベルやドライバー遺伝子変異状態による登録制限はなかった。
患者はデュルバルマブ群 (10 mg/kg 静脈内投与、2週ごと、最大12ヶ月) とプラセボ群に2:1の比率で無作為に割り付けられた。層別化因子は年齢 (<65歳 vs ≥65歳)、性別、喫煙歴 (現在または過去の喫煙者 vs 非喫煙者) であった。本解析のデータカットオフ日は2020年3月20日であり、中央値追跡期間は34.2ヶ月 (範囲: 0.2〜64.9ヶ月) であった。
主要評価項目はOSとPFSであり、ITT (intent-to-treat) 集団において層別ログランク検定を用いて解析された。OSおよびPFSの中央値と4年時点でのイベント発生率は、カプラン・マイヤー法を用いて推定された。PFSは盲検化された独立中央判定委員会 (BICR) によってRECIST v1.1に基づいて評価された。
バイオマーカーサブグループ解析として、PD-L1 TC発現レベル (<1%, 1-24%, ≥25%) およびEGFR変異状態 (陽性 vs 陰性) が評価された。PD-L1発現は、cCRT前のアーカイブされた腫瘍組織を用いてVentana SP263免疫組織化学アッセイで測定された。サブグループ解析における治療効果は、非層別Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。多重比較の調整は行われなかった。安全性データは今回のデータカットオフでは収集されていないが、以前の報告との整合性が確認された。