• 著者: Aredo JV, Mambetsariev I, Hellyer JA, Amini A, Neal JW, Padda SK, McCoach CE, Riess JW, Cabebe EC, Naidoo J, Abuali T, Salgia R, Loo BW Jr., Diehn M, Han SS, Wakelee HA
  • Corresponding author: Heather A. Wakelee, MD (Division of Oncology, Department of Medicine, Stanford Cancer Institute, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33588109

背景

切除不能なStage III非小細胞肺がん (NSCLC) 患者に対する標準治療は、プラチナ製剤を用いた同時化学放射線療法 (cCRT) 後、1年間のデュルバルマブ (抗PD-L1免疫療法) 維持療法である。これはPACIFIC試験の結果に基づき、2018年に米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得た治療法である Antonia et al. NEnglJMed 2017。歴史的に、cCRT単独後の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は9〜12ヶ月と低く、治癒的意図にもかかわらず改善が求められていた。特にEGFR変異陽性NSCLC患者では、後方視的解析においてcCRT単独後のPFSが6〜9ヶ月とさらに短いことが報告されており Tanaka et al. JThoracOncol 2015、遠隔転移による再発率が高いことも指摘されている。

PACIFIC試験は、cCRTを完了した切除不能Stage III NSCLC患者713名を対象に、デュルバルマブ維持療法とプラセボを比較した第III相臨床試験であり、デュルバルマブ群がプラセボ群と比較して再発リスクを45%低減し、全死亡リスクを29%低減するという主要評価項目を達成した Antonia et al. NEnglJMed 2018。しかし、PACIFIC試験の対象患者のうち、EGFR変異が確認されたのはわずか43例 (6%) であり、このサブグループにおけるPFS (ハザード比 [HR] 0.84, 95%信頼区間 [CI] 0.40〜1.75) および全生存期間 (OS) (HR 0.97, 95% CI 0.40〜2.33) の解析結果は不確定的であった Faivre-Finn et al. JThoracOncol 2021。このため、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるデュルバルマブの有効性は依然として未解明であった。

EGFR変異陽性NSCLCは、PD-L1発現が低く、CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) が少なく、腫瘍変異負荷 (TMB) が低いなど、抗PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬に対する応答性が低いことが複数の研究で示されている Gainor et al. ClinCancerRes 2016 Dong et al. OncoImmunology 2017。このため、Stage III EGFR変異陽性NSCLC患者におけるデュルバルマブの有効性は依然として未確立であり、この知識ギャップを埋めるための実臨床データが不足していた。

さらに、最近のデータでは、免疫療法後にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) を投与する際の安全性に関する懸念が浮上している。第Ib相TATTON試験では、オシメルチニブとデュルバルマブの同時投与が評価されたが、間質性肺疾患の発生率が高かったため中止された (全グレード38%、グレード3/4が15%)。また、進行EGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした後方視的レビューでは、免疫療法後にオシメルチニブを連続投与された患者の15%で重篤な免疫関連有害事象 (irAEs) が発生し、特に免疫療法から3ヶ月以内にオシメルチニブが開始された場合に頻度が高かったことが報告されている。Stage III EGFR変異陽性NSCLC患者は根治的治療後も再発リスクが高く、デュルバルマブ後に早期にEGFR TKIの投与が必要となる可能性があるため、これらの患者におけるデュルバルマブの長期的な安全性と有効性を明確にする必要があった。本研究は、実臨床におけるEGFR変異陽性Stage III NSCLC患者に対するデュルバルマブ使用の実態と成績を明らかにし、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、根治的同時化学放射線療法 (cCRT) を完了した切除不能Stage III EGFR変異陽性NSCLC患者を対象に、多施設後ろ向き解析を実施することである。具体的には、cCRT後にデュルバルマブ維持療法を受けた群、cCRT単独群、およびcCRTとEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) を併用した群の間で、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性を比較評価する。これにより、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるデュルバルマブ維持療法の臨床的有用性を評価し、最適な治療戦略を特定するためのエビデンスを提供することを目指す。特に、デュルバルマブ後のEGFR TKI投与における免疫関連有害事象 (irAEs) の発生リスクについても検討し、この患者集団に対する治療選択の指針を確立することを目的とする。

結果

患者背景と治療群間の比較: 本研究には合計37名の患者が組み入れられた (Table 1)。cCRT完了時の平均年齢は68.1歳 (SD 9.6) であり、女性が78.4% (n=29)、非喫煙者が73.0% (n=27) を占めた。肺がんの組織型は腺癌が91.9% (n=34) と大半を占め、cCRT開始時の病期はStage IIIAが43.2% (n=16)、Stage IIIBが45.9% (n=17) であった。cCRT完了時のECOGパフォーマンスステータスは、ほとんどの患者 (86.5%, n=32) で0〜1であった。CRT単独群と比較して、CRT+デュルバルマブ群では白人患者の割合が低く (38.5% vs 70.8%)、女性患者の割合も低かった (61.5% vs 87.5%) が、その他のベースライン特性に大きな差は認められなかった。EGFR変異の内訳は、L858R変異が48.6% (n=18)、exon 19欠失が37.8% (n=14) であり、治療群間でEGFR変異サブタイプに有意な差はなかった (p=0.484)。PD-L1発現が利用可能であった患者 (N=24) のうち、高発現 (TPS≧50%) が37.5% (n=9)、低発現 (TPS 1〜49%) が33.3% (n=8)、陰性 (TPS 0%) が29.2% (n=7) であった。デュルバルマブ群では全例でPD-L1検査が実施されていたのに対し、非デュルバルマブ群では半数以上でPD-L1検査が実施されていなかったため、PD-L1発現の全体的な分布には有意差が認められた (p=0.002)。

CRT後デュルバルマブ群のPFSと治療完遂率: cCRT完了後、デュルバルマブ維持療法を開始した患者は13名であった。デュルバルマブ開始までの中央期間は20日 (IQR: 17〜49) であった (Figure 2A)。患者はデュルバルマブを中央値6サイクル (IQR: 4〜14) 投与され、12ヶ月間のデュルバルマブ治療を完遂したのはわずか2名 (15.4%) であった (Figure 2B)。デュルバルマブ中止の主な理由は、重篤な免疫関連有害事象 (irAEs) が5名 (38.5%)、疾患進行が5名 (38.5%) であった。 CRT+デュルバルマブ群 (n=13) のPFS中央値は10.3ヶ月であった。一方、CRT単独群 (n=10) のPFS中央値は6.9ヶ月であり、両群間でPFSに有意な差は認められなかった (ログランクp=0.993; HR 1.06, 95% CI 0.44〜2.52)。さらに、CRT+デュルバルマブ群とCRT without durvalumab (全非デュルバルマブ群、n=24) を比較した場合、PFS中央値はそれぞれ10.3ヶ月 vs 22.8ヶ月であり、デュルバルマブ群でPFSが短い傾向が認められたが、統計的有意差はなかった (HR 1.78, 95% CI 0.76〜4.16, p=0.180) (Figure 3A)。全体として、患者の62.2% (n=23) がcCRT後に再発を経験した。デュルバルマブ群では脳転移による再発が38.5% (n=5) と高頻度であった。

CRT+EGFR TKI群のPFS優越性: CRTとEGFR TKIを併用した群 (n=8) のPFS中央値は26.1ヶ月と、他の2つの治療群と比較して有意に長かった (ログランクp=0.023) (Figure 3B)。Cox解析では、CRT+EGFR TKI群はCRT単独群と比較して再発リスクが有意に低く (HR 0.16, 95% CI 0.03〜0.73)、CRT+デュルバルマブ群と比較しても再発リスクが有意に低かった (HR 0.15, 95% CI 0.03〜0.72)。この結果は、EGFR変異陽性患者において、免疫療法よりも標的療法との組み合わせ戦略がより有効である可能性を示唆している。

デュルバルマブ群の安全性とirAEs: デュルバルマブ群で評価可能であった12名中、全例で有害事象が認められた (Supplementary Table 2)。最も一般的な全グレードの有害事象は、疲労 (58.3%, n=7)、咳 (50.0%, n=6)、呼吸困難 (25.0%, n=3)、肺臓炎 (25.0%, n=3) であった。重篤なirAEs (グレード3/4) は、デュルバルマブ群の6名 (46.2%) で発生した (Table 2)。内訳は、肺臓炎3例 (グレード2が1例、グレード3が2例)、心筋炎1例 (グレード3)、肝炎1例 (グレード2)、大腸炎1例 (グレード3) であった。デュルバルマブ開始から重篤なirAEs発現までの中央期間は95日 (IQR: 33〜151) であった (Figure 2C)。重篤なirAEsを発症した患者は全員入院を要し、経口コルチコステロイドによる治療を開始した。デュルバルマブ中止の理由として、重篤なirAEsが38.5% (n=5)、疾患進行が38.5% (n=5) を占めた。12ヶ月間のデュルバルマブ治療を完遂できたのは、わずか15.4% (n=2) であった。

デュルバルマブ後のEGFR TKI投与とirAEs: CRT+デュルバルマブ群で疾患進行後にEGFR TKIを開始した6名のうち、1名 (16.7%) でグレード4の肺臓炎がオシメルチニブ開始から17日後に発生した。この患者は、デュルバルマブ投与中にグレード3の肺臓炎を経験しており、デュルバルマブ最終投与からオシメルチニブ開始まで約20ヶ月の治療フリー期間があったにもかかわらず、重篤なirAEを再発した。デュルバルマブ最終投与からEGFR TKI開始までの中央期間は71日 (IQR: 51〜168) であった (Figure 2D)。CRT単独群で疾患進行後にEGFR TKIを開始した11名では、irAEの発生は報告されなかった。

考察/結論

本多施設後ろ向き解析は、切除不能Stage III EGFR変異陽性NSCLC患者において、根治的同時化学放射線療法 (cCRT) 後のデュルバルマブ維持療法がPFSの改善をもたらさず、むしろ非デュルバルマブ群と比較してPFSが短い傾向を示した (HR 1.78, 95% CI 0.76〜4.16, p=0.180)。これは、PACIFIC試験のEGFR変異陽性サブグループ解析で示された不確実な結果と一致する。本研究のデュルバルマブ群におけるPFS中央値10.3ヶ月は、PACIFIC試験のデュルバルマブ群全体のPFS中央値17.2ヶ月を大幅に下回るものであり、EGFR変異陽性患者がPACIFIC試験の恩恵を受ける集団ではない可能性を強く示唆する。

先行研究との違い: これまでのPACIFIC試験ではEGFR変異陽性患者のデータが限定的であったのに対し、本研究はEGFR変異陽性患者に特化してデュルバルマブの有効性と安全性を評価した点で、先行研究とは異なる知見を提供する。特に、EGFR変異陽性患者におけるデュルバルマブのPFSがPACIFIC試験の全体結果よりも大幅に短いという点は、このサブグループにおける免疫療法の有効性に対する懸念を裏付けるものである。また、PACIFIC試験ではEGFR変異陽性患者のirAEs発生率に関する詳細な報告がこれまで****報告されていないのに対し、本研究では高頻度のirAEs発生を明らかにした点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、cCRTとEGFR TKIを導入療法または維持療法として併用した群のPFS中央値が26.1ヶ月と、デュルバルマブ群やCRT単独群と比較して有意に良好であったことを示した。この結果は、EGFR変異陽性Stage III NSCLC患者に対する新規の治療戦略として、免疫療法よりもEGFR TKIとの組み合わせがより有望である可能性を提示する。さらに、デュルバルマブ後のEGFR TKI投与における重篤なirAEsの再発リスクを示唆する単一症例を報告した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性Stage III NSCLC患者に対するcCRT後の治療選択において、デュルバルマブ維持療法に慎重なアプローチが必要であることを臨床現場に示唆する。高頻度の重篤な免疫関連有害事象 (irAEs) (46.2%) とPFS改善の欠如を考慮すると、この患者集団に対するデュルバルマブの投与は慎重に検討すべきである。代わりに、EGFR TKIを導入または維持療法としてcCRTと組み合わせる戦略が、より効果的な臨床応用の選択肢となる可能性があり、今後の臨床応用が期待される。

残された課題: デュルバルマブ投与後にEGFR TKI (特にオシメルチニブ) を開始した患者で重篤な肺臓炎が再発した1例は、免疫系の過活性化リスクを示唆し、この連続投与の危険性を警告する。これは、デュルバルマブによる免疫系の「プライミング」が、その後のEGFR TKI投与時のirAEs発生に寄与する可能性を示唆する残された課題である。本研究はn=37という小規模な後ろ向き研究であり、選択バイアスや交絡因子の影響を完全に排除できないというlimitationがある。特に、PD-L1発現データがデュルバルマブ群では全例で利用可能であったのに対し、非デュルバルマブ群では半数以上で欠落していた点は、結果の解釈に影響を与える可能性がある。今後の検討課題として、EGFR変異陽性Stage III NSCLC患者に対するcCRT後の最適な治療戦略 (EGFR TKI統合療法やデュルバルマブ回避など) を、より大規模な前向き臨床試験で検証することの重要性が強調される。

方法

本研究は、2017年1月から2020年11月にかけて、スタンフォードがん研究所、シティ・オブ・ホープ、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、カリフォルニア大学デービス校の4つの学術医療センターで実施された多施設後ろ向きコホート解析である。対象患者は、切除不能なStage III EGFR変異陽性NSCLCと診断され、プラチナ製剤ベースの同時化学放射線療法 (cCRT) を完了した患者37名である。本研究は、各施設でInstitutional Review Board (IRB) の承認を得て実施された。

患者は以下の3つの治療群に分類された:

  1. CRT+デュルバルマブ群: cCRT完了後に少なくとも1サイクル以上のデュルバルマブ維持療法を受けた患者 (n=13)。
  2. CRT単独群: cCRTを完了し、デュルバルマブまたはEGFR TKIのいずれも受けなかった患者 (n=10)。
  3. CRT+EGFR TKI群: cCRTとEGFR TKIを導入療法または維持療法として併用した患者 (n=8)。これには、導入療法としてEGFR TKIを受けた患者4名と、cCRT後の維持療法としてEGFR TKIを受けた患者4名が含まれる。残りの6名はCRT+デュルバルマブ+EGFR TKI等の複合治療群であった。

ベースラインの人口統計学的データ、臨床データ、病理学的データは、患者の電子カルテから抽出された。NSCLCの組織型は世界保健機関 (WHO) の基準 Travis et al. JThoracOncol 2015 に基づいて分類され、病期分類は第8版米国癌合同委員会 (AJCC) および国際対がん連合 (UICC) のTNM分類に従った。EGFR変異は、次世代シーケンシングパネルまたは標的遺伝子アッセイによる標準的な評価で確認された (Supplementary Table 1)。PD-L1腫瘍細胞陽性率 (TPS) は、抗PD-L1免疫組織化学検査が実施された患者において、病理学的または分子シーケンシング報告書から取得された。

主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であり、cCRT完了日から再発、あらゆる原因による死亡、または最終追跡調査日のいずれか早い方までと定義された。再発は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、病理学的または放射線学的に評価された。副次評価項目は全生存期間 (OS) であり、cCRT完了日からあらゆる原因による死亡または最終追跡調査日までと定義された。デュルバルマブによる有害事象 (AEs) は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 5.0に従って分類された。重篤な免疫関連有害事象 (irAEs) は、担当医によってデュルバルマブに起因すると判断され、免疫抑制療法 (経口コルチコステロイドなど) を必要とし、標準的な腫瘍学的ガイドラインに従ってirAEsとして治療されたAEsと定義された。高用量コルチコステロイドは経口プレドニゾン20mg/日超と定義された。

統計解析には、Kaplan-Meier生存曲線を用いてPFSおよびOSを評価し、ログランク検定 (log-rank test) を用いてサブグループ間の比較を行った。生存解析はCox比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) によって補完され、治療群間のPFSのハザード比 (HR) を推定した。比例ハザード仮定は全てのCoxモデルで確認された。患者特性は、Fisherの正確検定 (Fisher’s exact test) をカテゴリ変数に、t検定またはWilcoxon順位和検定を連続変数に用いて治療群間で評価された。統計的有意性は両側p値0.05未満と定義された。全ての統計解析はR version 4.0.2 (Vienna, Austria) を用いて実施された。本研究は後ろ向き研究であり、事前にサンプルサイズ計算は実施されていない。